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揺れる二つの銀尾《ダブルパーソナリティー》
揺れる二つの銀尾《ダブルパーソナリティー》7
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「……」
アタシは目を細めた渋い表情で隣に立った人物を凝視していた。
別に空港のガラス窓から差し込んできた正午の日差しが眩しいからとかそう言うわけじゃない。
「なんだよその顔?なんか文句でもあるのか?」
腰が直角に曲がった片腕で杖をついた老爺が、首を傾けてアタシの表情を覗き込むようにして聞いてくる。
シワだらけの顔に混じった細い眼、白髪頭の髪に被せられたクリーム色のアルペンハットと紺色チェックのTシャツと灰色のスウェットを履いた一見どこにでもいるような東洋系の老人に見えなくもないが、その声は見た目とは裏腹に青年の声をしていて違和感しか感じなかった。
「しーッ!その声でしゃべらないでッ……!他の人にバレたらどうするの……!」
アタシは小声で老爺に言ってから辺りをキョロキョロと見渡して、今の会話を誰かに聞かれていなかったかを確認する。
「ちゃんと周りの人間や監視カメラには常に注意を払っているから大丈夫だって、それに俺はこれで何度もアメリカに入国しているから問題ないって日本を出る前に言っただろ?」
老爺はしわくちゃの顔をさらにしわだらけにしながらそう言って笑って見せた。
「それにしてもフォルテ、アンタその……もうちょっとマシな変装は無かったの……?」
アタシは辺りを警戒したまま老爺、もとい、老爺に変装したフォルテの耳元に顔を近づけて小声でそう聞いた。
「何言ってるんだ?完璧だろ?一体誰が気づくって言うんだ?現に羽田ではバレなかっただろ?」
「むしろバレなかったのが奇跡だわ。それか羽田の警備がザルだったのかどっちかよ……」
「だから俺の変装が完璧────」
「まあ確かに年相応とは言える恰好けどね……」
「誰がジジイッ~~~~ッ……!」
「分かったからッ……その見た目で若い声出すのは止めてッ!」
アタシはフォルテの口を押えながらきつくそう言い放てから大きなため息をついた。
全く、ハタから見れば完全に老人虐待という図でアタシが悪いみたいな格好に見えるのが心底不愉快なんですけど……
港町から東京の羽田空港に向かい、フォルテの言っていたそのS・Tの元メンバーの「トリガー3」が居るというアメリカ合衆国ワシントンD.Cに行くために、12時発のワシントン・ダレス空港直行便にアタシたちは搭乗し、無事に空港に着くことができた。
最低でもファーストクラス以上しか乗ったことなかったアタシは初めてのエコノミークラスということで若干の不安があったが、別にそこまで悪いものでもなく、寧《むし》ろジャングルなどでの野営に比べれば全然|良いくらいなのでフライト中はそこまでストレスは感じなかったのだが、別の問題がアタシを襲ったのだ。
「全く、セイナ嬢はおっかないのう~」
口内に仕組んだ超小型変声機を使って声を老爺に切り替えたフォルテが嘲笑うようにそう言ってきた。
イラッ
アタシの額に怒りマークが浮かんだような気がした。
今すぐぶん殴ってやりたいところだったが、これ以上暴力を振るうと流石に目立つので、なんとかその握りこぶしを引っ込める。
そう、問題というのは飛行機に乗るために老爺に変装したフォルテがずっとこんな調子で緊張感が無いのだ。
フォルテ自身は変装に多少は慣れているらしく、一般人の目を騙すくらいの腕はあるようなのだがアタシは違う。
どうも昔から何かを演じるというのが向いていないらしく、変装も訓練で身に着けてはいたけど自分と他者のスイッチの切り替えが上手くできないのだ。だから今のフォルテのように平気で素を出す姿は、アタシからしたら綱渡りをしている人を見ているような落ち着かない気分になってすごくストレスが溜まるのだ。
ていうか変装しているそもそもの理由は、フォルテがアメリカ合衆国から国際指名手配されていることが理由で、本来変装する必要のないアタシがこうまで気を張らなければいけないということ自体が納得がいかなくてさらにイラッとする。
そこらにいる空港警備員の前に思いっきり突き出してやろうかしら?
「はいはーいおじいちゃん、おっかないのが分かったらあまりアタシを怒らせないでちょーだい」
もの凄い笑顔のまま老爺が腰を抜かしそうなドスの聞いた声でそう威圧すると、流石のフォルテもアタシの静かにキレている態度に肝を冷やしたのか、静かに「す、すいません」と垂れた頭をさらに下げてそう言うのだった。
「次の方」
そんなやり取りをしているうちに入国審査官に呼ばれたアタシたちはゆっくりとカウンターの前まで進んで質問を受ける。
「パスポートを見せてもらえますか?」
30代くらいの筋肉質で頭を丸刈りにし、はち切れそうなピチピチの白いYシャツと黒いスーツズボン姿のマッチョな黒人男性そう告げてきた。
「どうぞ」
アタシは自分のパスポートとフォルテおじいちゃんのものを合わせて一緒に出す。
パスポートを出した手が少しだけ手が震えていた気がした。
最近では直接顔を合わせなくても機械を通して入国できるシステムもあるけど、フォルテが「流石に電子的なEパスポートは偽造できない」といった理由で対面式の入国審査を受けることになったのだけど、正直アタシはこれが人生の中で一番緊張する入国審査だと思っていた。
初めてやる違法入国。手が震えるのも仕方ないわ……
「緊張するとボロが出るぞ」とフォルテにさっき言われたことを思い出してアタシは、その入国審査官の男性のことをチップスだと思いながら凝視した。
「入国の目的は?」
パラパラとパスポートを捲りながら特に怪しむ様子もなくその黒人は質問してきた。
どうやらパスポート自体は問題なかったらしい。
良かった……とりあえず第一関門は突破ね。
「観光です。祖父と一緒に」
アメリカ系日本人というかなり無理がありそうだなと感じていた設定をアタシが言うと、黒人男性はパスポートから視線を一瞬外してアタシたちを一瞥したあとに────
「滞在期間は?」
と疑う様子もなくすんなりそう言ってきたのでアタシは少し拍子抜けしたような気分に陥った。
流石は多種多様文化の国アメリカというだけあって、どうやらアタシたちのような家族はそこまで珍しいものでもないらしい。
「三日間です」
「滞在先は?」
「祖父の友人の家です。この観光の目的もその祖父の友人に会うためのものなのでそこで泊めてもらいます」
「その友人はどこに住んでいるのですか?」
「ワシントンD.C.のジョージタウン3252ストリートノースウェストの一角にある建物に住んでいるそうです」
住所はあらかじめフォルテと決めていた適当なものをすらすらと話したアタシの言葉に、黒人男性はさらに突っ込んだ質問をしてきた。
「その御祖父様と友人の関係は?」
「昔、祖父が仕事でお世話になったという人です。今は隠居生活をしているそうですが」
「なるほど、さっきから気になっていたのですが、御祖父様のその左腕、普段は義手などはつけていらっしゃらないのですか?」
「うッ……」
ヤバい、思いのほかしつこいこの黒人の質問にアタシは思わず一瞬言葉が詰まってしまった。
それに気づいたのか黒人男性はさらに質問してきた。
「流石に超高級な医療魔術を使って左腕を再生とまではできないかもしれませんが、普通義手くらいは付けているじゃないですか?それにさっきから御祖父様は一言もしゃべっていないですが?どこか体調でも優れないのですか?」
「えーと、その……」
ヤバい、まだバレては無いはずだけど早く何か答えないと流石に怪しまれる。
だがそう思えば思うほど、二つの質問に対する答えが見つからずに頭の中がさっき考えていたチップスでいっぱいになってしまう。
いっそのこと「腕のないことを聞くなんて失礼だ」と言って突っぱねてしまえば良かったのに……
黒人男性はそんなアタシのことをだんだんと訝しむような表情で見てきている。
早く、早く何か答えないと……
「戦争じゃ……」
焦った言葉が出なかったアタシに助け舟を出すようにフォルテがそう呟いた。
「戦争?」
「あぁそうじゃ……むかし、World WarⅡでアメリカのとある部隊のリーダーだったワシはその時にこの左腕と左眼を失ってな……今もこうしてあの時の傷を忘れないようにワシは義手を付けていないのじゃ……」
「そ、そうだったのですか……」
「それと、友人というのはその時の部隊の生き残りでね、ワシはご覧の通りもう長くないから一目だけでも会っておこうと思ってね……」
アタシはフォルテの演技に度肝を抜かれた。
それと同時にアタシは、その話しがどこまでがホントのことなのかを本気で考えている自分がいることに気づいて少し驚いた。
それくらい今の喋りはまるで実体験をしゃべっているかのようにアタシは聞こえたのだ。
もしかしたらそれはアタシの考えすぎで、昔から聞かれた時は必ずそう答えるとフォルテは言うかもしれない。
仮に全部ウソだったとしても、唐突でできないようなその返しにアタシは舌を巻いた。
「これは失礼しました……私の失言をお許しくださいMr.、良い旅を……」
黒人男性もその姿を見てどうやら本物と信じたようで、謝罪しながらパスポートと握手の為に右手を出してきた。
「どうも……」
パスポートを受け取ったあとに、フォルテおじいちゃんは杖を身体傾けてからしっかりとその手を握った。
そのちょっぴり感動的な光景を見たアタシは内心で深く息を吐きだし、胸を撫でおろした。
良かった、これでアメリカに入れ────
ん?……あれ?何か……違和感が……?
握手をしている二人を眺めていたアタシは、その違和感のような何かに気づいて目を細めた。
握手している二人、別にどこにでもいるような────
「あッ────」
「あ」
「え?」
その違和感にアタシは気づいて思わず声が出てしまった。
手だ。
黒人男性と握手しているフォルテの手が老人のようなシワシワなものではなく、いつもの若々しい張りのある若者の手のままなのだ。多分顔ばかりに変装を集中しすぎて忘れたのだろう……明らかな凡ミスだ。
上の顔だけ見ると老人とおじさん同士なのに、手だけを見ると青年とおじさんの握手というアンバランスさがどうやらアタシの中で違和感を生んでいたらしい。と気づいて思わず声が出てしまったのだ。
そして、そのアタシの声でフォルテもその事実に気づいたのか、素っとんきょ地声が漏れてしまっていた。
もちろんその老爺のものでない若者の地声に気づいた入国審査官の黒人が驚きの声を上げていた。
「「「……」」」
一瞬のうちに起きた出来事にアタシ達三人の間に変な空気が流れて場が膠着した。
アタシ達の空間だけ他の世界とは切り離されたような感覚に陥る中、黒人男性が握手する手に力を込めながら────
「とりあえず、ちょっとこっちに────ッ!」
「せいッ!!」
フォルテが黒人男性の右手を掴んだまま、クルッと回転するような形で背負い投げをした。
入国審査官のその男がカウンターから引きずりだすような形で床に叩きつけられて失神していた。
うわー老爺が黒人マッチョをぶん投げるというさっきよりもさらにアンバランスな光景に思わずアタシも失神しそうだわ。
「よしセイナ、ここからは予定通りプランBだ」
倒れた入国審査官の腰のホルスターから銃を奪い、老爺のマスクを脱ぎ捨てながらフォルテは決め顔でこっちを向いてきた。
死ぬほど殴りたいこの笑顔。
「貴様ッ!?何をしているッ!?」
近くにいた別の入国審査官が銃を抜きながらこっちに向けてきた。
「ッたく!プランBなんて聞いてないわよッ!!」
アタシはそう叫びながら銃を向けてきた入国審査官を同じように背負い投げして失神させながら銃を奪った。
「貴様らッ!そこで何をしているッ!」
バリバリバリバリッ!!
異変に気付いた武装した空港警備員達がこちらに発砲しながらアタシたちを包囲しようとしてきた。
「行くぞッ!セイナ!」
アタシにそう呼びかけてフォルテは入国審査のゲートを抜けて走っていく。
「ちょっと!待ちなさいよッ!」
あぁ……お父様、お母様ごめんなさい。
どうやらアタシも今日から犯罪者の仲間入りのようです。
と、すでに密入国者を手助けしている時点で犯罪者であることは棚に上げておいて、アタシはそう思うのだった。
アタシは目を細めた渋い表情で隣に立った人物を凝視していた。
別に空港のガラス窓から差し込んできた正午の日差しが眩しいからとかそう言うわけじゃない。
「なんだよその顔?なんか文句でもあるのか?」
腰が直角に曲がった片腕で杖をついた老爺が、首を傾けてアタシの表情を覗き込むようにして聞いてくる。
シワだらけの顔に混じった細い眼、白髪頭の髪に被せられたクリーム色のアルペンハットと紺色チェックのTシャツと灰色のスウェットを履いた一見どこにでもいるような東洋系の老人に見えなくもないが、その声は見た目とは裏腹に青年の声をしていて違和感しか感じなかった。
「しーッ!その声でしゃべらないでッ……!他の人にバレたらどうするの……!」
アタシは小声で老爺に言ってから辺りをキョロキョロと見渡して、今の会話を誰かに聞かれていなかったかを確認する。
「ちゃんと周りの人間や監視カメラには常に注意を払っているから大丈夫だって、それに俺はこれで何度もアメリカに入国しているから問題ないって日本を出る前に言っただろ?」
老爺はしわくちゃの顔をさらにしわだらけにしながらそう言って笑って見せた。
「それにしてもフォルテ、アンタその……もうちょっとマシな変装は無かったの……?」
アタシは辺りを警戒したまま老爺、もとい、老爺に変装したフォルテの耳元に顔を近づけて小声でそう聞いた。
「何言ってるんだ?完璧だろ?一体誰が気づくって言うんだ?現に羽田ではバレなかっただろ?」
「むしろバレなかったのが奇跡だわ。それか羽田の警備がザルだったのかどっちかよ……」
「だから俺の変装が完璧────」
「まあ確かに年相応とは言える恰好けどね……」
「誰がジジイッ~~~~ッ……!」
「分かったからッ……その見た目で若い声出すのは止めてッ!」
アタシはフォルテの口を押えながらきつくそう言い放てから大きなため息をついた。
全く、ハタから見れば完全に老人虐待という図でアタシが悪いみたいな格好に見えるのが心底不愉快なんですけど……
港町から東京の羽田空港に向かい、フォルテの言っていたそのS・Tの元メンバーの「トリガー3」が居るというアメリカ合衆国ワシントンD.Cに行くために、12時発のワシントン・ダレス空港直行便にアタシたちは搭乗し、無事に空港に着くことができた。
最低でもファーストクラス以上しか乗ったことなかったアタシは初めてのエコノミークラスということで若干の不安があったが、別にそこまで悪いものでもなく、寧《むし》ろジャングルなどでの野営に比べれば全然|良いくらいなのでフライト中はそこまでストレスは感じなかったのだが、別の問題がアタシを襲ったのだ。
「全く、セイナ嬢はおっかないのう~」
口内に仕組んだ超小型変声機を使って声を老爺に切り替えたフォルテが嘲笑うようにそう言ってきた。
イラッ
アタシの額に怒りマークが浮かんだような気がした。
今すぐぶん殴ってやりたいところだったが、これ以上暴力を振るうと流石に目立つので、なんとかその握りこぶしを引っ込める。
そう、問題というのは飛行機に乗るために老爺に変装したフォルテがずっとこんな調子で緊張感が無いのだ。
フォルテ自身は変装に多少は慣れているらしく、一般人の目を騙すくらいの腕はあるようなのだがアタシは違う。
どうも昔から何かを演じるというのが向いていないらしく、変装も訓練で身に着けてはいたけど自分と他者のスイッチの切り替えが上手くできないのだ。だから今のフォルテのように平気で素を出す姿は、アタシからしたら綱渡りをしている人を見ているような落ち着かない気分になってすごくストレスが溜まるのだ。
ていうか変装しているそもそもの理由は、フォルテがアメリカ合衆国から国際指名手配されていることが理由で、本来変装する必要のないアタシがこうまで気を張らなければいけないということ自体が納得がいかなくてさらにイラッとする。
そこらにいる空港警備員の前に思いっきり突き出してやろうかしら?
「はいはーいおじいちゃん、おっかないのが分かったらあまりアタシを怒らせないでちょーだい」
もの凄い笑顔のまま老爺が腰を抜かしそうなドスの聞いた声でそう威圧すると、流石のフォルテもアタシの静かにキレている態度に肝を冷やしたのか、静かに「す、すいません」と垂れた頭をさらに下げてそう言うのだった。
「次の方」
そんなやり取りをしているうちに入国審査官に呼ばれたアタシたちはゆっくりとカウンターの前まで進んで質問を受ける。
「パスポートを見せてもらえますか?」
30代くらいの筋肉質で頭を丸刈りにし、はち切れそうなピチピチの白いYシャツと黒いスーツズボン姿のマッチョな黒人男性そう告げてきた。
「どうぞ」
アタシは自分のパスポートとフォルテおじいちゃんのものを合わせて一緒に出す。
パスポートを出した手が少しだけ手が震えていた気がした。
最近では直接顔を合わせなくても機械を通して入国できるシステムもあるけど、フォルテが「流石に電子的なEパスポートは偽造できない」といった理由で対面式の入国審査を受けることになったのだけど、正直アタシはこれが人生の中で一番緊張する入国審査だと思っていた。
初めてやる違法入国。手が震えるのも仕方ないわ……
「緊張するとボロが出るぞ」とフォルテにさっき言われたことを思い出してアタシは、その入国審査官の男性のことをチップスだと思いながら凝視した。
「入国の目的は?」
パラパラとパスポートを捲りながら特に怪しむ様子もなくその黒人は質問してきた。
どうやらパスポート自体は問題なかったらしい。
良かった……とりあえず第一関門は突破ね。
「観光です。祖父と一緒に」
アメリカ系日本人というかなり無理がありそうだなと感じていた設定をアタシが言うと、黒人男性はパスポートから視線を一瞬外してアタシたちを一瞥したあとに────
「滞在期間は?」
と疑う様子もなくすんなりそう言ってきたのでアタシは少し拍子抜けしたような気分に陥った。
流石は多種多様文化の国アメリカというだけあって、どうやらアタシたちのような家族はそこまで珍しいものでもないらしい。
「三日間です」
「滞在先は?」
「祖父の友人の家です。この観光の目的もその祖父の友人に会うためのものなのでそこで泊めてもらいます」
「その友人はどこに住んでいるのですか?」
「ワシントンD.C.のジョージタウン3252ストリートノースウェストの一角にある建物に住んでいるそうです」
住所はあらかじめフォルテと決めていた適当なものをすらすらと話したアタシの言葉に、黒人男性はさらに突っ込んだ質問をしてきた。
「その御祖父様と友人の関係は?」
「昔、祖父が仕事でお世話になったという人です。今は隠居生活をしているそうですが」
「なるほど、さっきから気になっていたのですが、御祖父様のその左腕、普段は義手などはつけていらっしゃらないのですか?」
「うッ……」
ヤバい、思いのほかしつこいこの黒人の質問にアタシは思わず一瞬言葉が詰まってしまった。
それに気づいたのか黒人男性はさらに質問してきた。
「流石に超高級な医療魔術を使って左腕を再生とまではできないかもしれませんが、普通義手くらいは付けているじゃないですか?それにさっきから御祖父様は一言もしゃべっていないですが?どこか体調でも優れないのですか?」
「えーと、その……」
ヤバい、まだバレては無いはずだけど早く何か答えないと流石に怪しまれる。
だがそう思えば思うほど、二つの質問に対する答えが見つからずに頭の中がさっき考えていたチップスでいっぱいになってしまう。
いっそのこと「腕のないことを聞くなんて失礼だ」と言って突っぱねてしまえば良かったのに……
黒人男性はそんなアタシのことをだんだんと訝しむような表情で見てきている。
早く、早く何か答えないと……
「戦争じゃ……」
焦った言葉が出なかったアタシに助け舟を出すようにフォルテがそう呟いた。
「戦争?」
「あぁそうじゃ……むかし、World WarⅡでアメリカのとある部隊のリーダーだったワシはその時にこの左腕と左眼を失ってな……今もこうしてあの時の傷を忘れないようにワシは義手を付けていないのじゃ……」
「そ、そうだったのですか……」
「それと、友人というのはその時の部隊の生き残りでね、ワシはご覧の通りもう長くないから一目だけでも会っておこうと思ってね……」
アタシはフォルテの演技に度肝を抜かれた。
それと同時にアタシは、その話しがどこまでがホントのことなのかを本気で考えている自分がいることに気づいて少し驚いた。
それくらい今の喋りはまるで実体験をしゃべっているかのようにアタシは聞こえたのだ。
もしかしたらそれはアタシの考えすぎで、昔から聞かれた時は必ずそう答えるとフォルテは言うかもしれない。
仮に全部ウソだったとしても、唐突でできないようなその返しにアタシは舌を巻いた。
「これは失礼しました……私の失言をお許しくださいMr.、良い旅を……」
黒人男性もその姿を見てどうやら本物と信じたようで、謝罪しながらパスポートと握手の為に右手を出してきた。
「どうも……」
パスポートを受け取ったあとに、フォルテおじいちゃんは杖を身体傾けてからしっかりとその手を握った。
そのちょっぴり感動的な光景を見たアタシは内心で深く息を吐きだし、胸を撫でおろした。
良かった、これでアメリカに入れ────
ん?……あれ?何か……違和感が……?
握手をしている二人を眺めていたアタシは、その違和感のような何かに気づいて目を細めた。
握手している二人、別にどこにでもいるような────
「あッ────」
「あ」
「え?」
その違和感にアタシは気づいて思わず声が出てしまった。
手だ。
黒人男性と握手しているフォルテの手が老人のようなシワシワなものではなく、いつもの若々しい張りのある若者の手のままなのだ。多分顔ばかりに変装を集中しすぎて忘れたのだろう……明らかな凡ミスだ。
上の顔だけ見ると老人とおじさん同士なのに、手だけを見ると青年とおじさんの握手というアンバランスさがどうやらアタシの中で違和感を生んでいたらしい。と気づいて思わず声が出てしまったのだ。
そして、そのアタシの声でフォルテもその事実に気づいたのか、素っとんきょ地声が漏れてしまっていた。
もちろんその老爺のものでない若者の地声に気づいた入国審査官の黒人が驚きの声を上げていた。
「「「……」」」
一瞬のうちに起きた出来事にアタシ達三人の間に変な空気が流れて場が膠着した。
アタシ達の空間だけ他の世界とは切り離されたような感覚に陥る中、黒人男性が握手する手に力を込めながら────
「とりあえず、ちょっとこっちに────ッ!」
「せいッ!!」
フォルテが黒人男性の右手を掴んだまま、クルッと回転するような形で背負い投げをした。
入国審査官のその男がカウンターから引きずりだすような形で床に叩きつけられて失神していた。
うわー老爺が黒人マッチョをぶん投げるというさっきよりもさらにアンバランスな光景に思わずアタシも失神しそうだわ。
「よしセイナ、ここからは予定通りプランBだ」
倒れた入国審査官の腰のホルスターから銃を奪い、老爺のマスクを脱ぎ捨てながらフォルテは決め顔でこっちを向いてきた。
死ぬほど殴りたいこの笑顔。
「貴様ッ!?何をしているッ!?」
近くにいた別の入国審査官が銃を抜きながらこっちに向けてきた。
「ッたく!プランBなんて聞いてないわよッ!!」
アタシはそう叫びながら銃を向けてきた入国審査官を同じように背負い投げして失神させながら銃を奪った。
「貴様らッ!そこで何をしているッ!」
バリバリバリバリッ!!
異変に気付いた武装した空港警備員達がこちらに発砲しながらアタシたちを包囲しようとしてきた。
「行くぞッ!セイナ!」
アタシにそう呼びかけてフォルテは入国審査のゲートを抜けて走っていく。
「ちょっと!待ちなさいよッ!」
あぁ……お父様、お母様ごめんなさい。
どうやらアタシも今日から犯罪者の仲間入りのようです。
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ハーデス 「……は?」
俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」
ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」
俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」
ハーデス 「……正気……なのか?」
俺 「もちろん」
異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。
たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!
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