SEVEN TRIGGER

匿名BB

文字の大きさ
89 / 361
揺れる二つの銀尾《ダブルパーソナリティー》

揺れる二つの銀尾《ダブルパーソナリティー》41

しおりを挟む
「ハァ……ハァ……クソ……」
 俺は建物の壁に背を向けてそう呟く。
 ここはさっき爆弾が爆発した場所から少し離れた小さな広場。
 俺はその一角で荒れた呼吸を整えようとしていた。HK45ハンドガンを持ったまま膝に手を置き、地面を見ると履いていたジーンズの両側が真っ赤に染まっていた。さらにそこからポタポタと、地面に生えていた天然芝に赤い雫を垂らしていた。
 痛みは感じない。何故なら────
「ぅ……」
 背中に背負っていた人物。CIA職員の牧師パスターが、傷が痛むのか、額に玉のような汗を掻きながら呻き声を漏す。
「おい、しっかりしろッ……!」
 傷が痛まないように軽く揺すって声を掛けたが返事は帰ってこない……
 ────まずいな……
 一応俺が撃ち抜いた二つの足の傷は、牧師パスター本人が持っていた応急処置セットファーストエイドで止まった……が、どうやら少々乱暴に俺が担いでいたせいでまた傷が開いてしまったらしい……
 早く病院に連れて行ってやりたいが、それも難しい……
 というのも────
「いたぞッ!散開して囲え!」
 小さいテニスコート程のサイズの広場を囲うように生えていた街路樹の向こう側から、若い男の声が聞こえた。
「へッ……」
 その光景を前に、思わず苦笑が漏れた。
 若い男の声の後、街路樹の隙間から銃などで武装した屈強な男たちが出るわ出るわ……何人いるんだよ、おい。
 建物の壁を背にした俺を囲うようにして、三方向が巨大な男たちで埋め尽くされた。その数ざっと30人以上。
 ────逃げ場ねぇ……
 どこかに隙は無いかと膝に手を置いたまま辺りを見渡したが、人どころかアリ一匹すら逃さないって感じだな……
 と思っていると、俺の真正面のマッチョ達が人一人分のスペースを開けた。
 その奥から一人の中年男性がやってくる。
「ようやく追い詰めたぞ、大罪人フォルテ」
 鼻にかかる高い声、屈強な男たちとは二回り以上も小さい、小太りな体型をした男。
 黒く短い髪は脂っぽくべたつき、鼻下にチョビ髭、着ていた紺の高級スーツがダボダボで全く似合っていない。ダサいのフルコースを決めた間抜け面の男が俺に声を掛けてきた。
 この声は確か……空港の時と、それとさっきの爆弾を爆破した時にスピーカーで怒鳴ってたやつか。
「誰だお前……?こんな小さな広場にぞろぞろ男集めて……ここはラグビー場じゃねーぞ?」
 いかにもこの男たちのリーダーっぽく登場したその中年男に俺が吐き捨てる。
「ふん、ラグビーね……それなら私は差し詰め、南アフリカ代表を率いたフランソワ・ピナールマッド・デイモンとでも言ったところか……罪人でも見る目があるじゃないか」
「はぁ?何処がだよ?精々お前はコメディ映画のチャップリンだろう」
「な、なんだとッ……!?」
 セイナよりも低い身長の小太りの男は、耳障りな高い声で大袈裟に怒って見せる。
 よく見ると、周りの巨漢たちはチャップリンと聞いて全員冷や汗のようなものを垂らしていた。
「周りを見ろ、みんなお前のことをチャップリンだと思っているらしいぞ?」
「本当か?貴様たち……私を、この高貴な私をチャップリンだと思っているのか!?」
 キョロキョロと周りの巨漢たちに金切り声を上げたチャップリンに、全員が「思っていません」と口々に答える。
 珍竹林な見た目の上司に首を振る部下の図は、まさに坊ちゃまと世話役のやり取りそのものだった。
「誰一人そう思ってないと言っているぞ?さては貴様私を騙そうとしたな?」
「してねーよ。思ったからそう言ったんだよチャップリン。で?俺に何の用だよチャップリン?」
「チャップリンではないッ!!私には、ボブ・スミスという高貴な名前があるのだ!」
 高貴どころかモブみたいな名前だな……
「そして貴様には、数々の凶悪な犯罪についての容儀が掛かっている。殺人、強盗、放火、脅迫、住居侵入、公務執行妨害、爆破テロなどなど……そして、かの偉大なFBI長官殿を毒牙にかけるだけでなく、私というFBI副長官に対しての名誉棄損という最も凶悪な犯罪を犯している!今すぐその背に背負った男共々大人しく投降しろ!さもなくば────」
 俺を囲んでいた屈強な男たちが一斉に銃を構えた。
「ここで死ぬがいい!」


「へったくそ!全然距離が詰まんねーじゃなーか!」
「うるっさいわね!文句があるなら今すぐ運転変わりなさいよ!」
 黒髪女が運転するオープンカーを追いかけて、ワシントンのビル街を黒いセダンが駆け抜けていく。
 市民のほとんどは、もう既にミサイル関係で避難したのかほとんど姿は見受けられなかった。だが、その代わりに道路にはその市民が乗り捨てた車が散在していた。
 その車を躱しながら追いかけているせいでオープンカーとは一向に距離が詰まらず、それどころか寧ろ差が開いているように感じて助手席に乗ったロアがさっきから文句を言ってくるのがうざい……
「そこ左曲がったぞ!」
「分かってるわよ!」
 ビル街の先、ワシントンの道がぶつかり合った円形の環状交差点を左折したオープンカーを追いかけ、アタシ達もセダンを左折させると────
「あれ────?」
 オープンカーが止まっていた。
 しかも無人────誰も乗っていない。
 こんなところで車の捨てたの?
「一体どこに……?」
 アルシェはさっき倒れた衝撃で気絶していた。その姿が車に無いということは、おそらくあの黒髪女が背負っている可能性が高い。ということはまだ遠くに行っていないはずなのにその姿はどこにも見えなかった。
「セイナ!地下鉄だ!連中はおそらくそこの地下鉄に下って行ったんだ!」
 ロアが指さす先、クリーム色のオープンカーの横に、地下へと続くエスカレーターがあった。
 よく見ると、エスカレーター上部の屋根に付いていた看板に「Dupontデュポン Circleサークル Station」と書かれていた。
「早く追いかけましょう!」
「待て!」
 車を降りようとしたアタシの手を掴んで、ロアが静止してきた。
「何よ!?早くしないと入り組んだ地下道の方に逃げられちゃうわよ!」
 焦るアタシがロアの手を振り払って降りようとした瞬間────ロアが何も言わずに左足を上げ、車のセンターコンソールに跨ぐような態勢を取った。そして────

 ブゥゥゥゥゥゥゥゥン!!

「ちょ!?なにしてんのロア!?」
 アタシの右足ごと左座席のアクセル踏み込んだ!
 セダンは急発進して地下鉄の入り口に突っ込んでいく。
「こっちの方がはえーよ!!」
 セダンが三本あるエスカレータにぶつかる前に、ロアはハンドルに付いていた赤い長方形のスイッチ押し込んだ。すると、セダンは急加速と同時にその車体が────
 ────浮いた!?
 前輪がバイクのウィリーのように宙に浮き、エスカレーターの手すり二本にセダンのタイヤが乗った。
「ッ……!」
 そのままクラクションを響かせたセダンがエスカレーターを急下降していく。
 以前任務でやったパラシュート降下よりも怖いと感じたアタシは思わず顔や身体が硬直した。
 隣のロアは「ヒャッホ~!」と声を上げて楽しんでいる様子……コイツ、やっぱ狂っているわ……
 ガシャンッ!と45度の角度から地面に顔をぶつけたセダンのバンパーが外れた。
 ミサイル警報で地下に避難していた市民たちが暴走するアタシ達を見て、慌てて改札口の脇に避けていく。
 そんな中、未だにアクセル全開のセダンが、改札口の横の鉄柵を吹っ飛ばし、ホームの上、丁度線路上の歩道橋までやってきた。
「ぅぅ……」
 衝撃や、めちゃくちゃな運転で目が回る。
「いた!あそこだ!」
 座席で上下に揺れて目をぐるぐるとさせていたアタシの足から、ようやく左足を離してくれたロアがホームから丁度走り出した三両編成の電車を指さした。最後尾に薄い水色ベビーブルーの髪の少女を背負った黒髪女が一瞬だけ見える。
「こっから走っても間に合わない!コイツで飛ぶぞセイナ!」
「飛ぶって……どういう────て、ウソでしょ!?」
 混乱したアタシが質問するよりも先に、ロアが行動でそれを示した。
 さっきの押したハンドルの赤いボタンを押し込み、急加速!
 歩道橋の柵を突き破り、黒いセダンが宙を舞う。
 10m程の高さから飛んだセダンの中で、束の間の浮遊感を感じていたアタシは、一瞬、そう……ほんの一瞬だけ、ロアの言った飛ぶという言葉を信用し、アメリカの科学力なら空飛ぶ車もあるんだわ、きっと。と思ったが、残念ながらそこまでの技術力はまだアメリカにも無いらしい……急に真下の地面に向かってグイグイとセダンは引っ張られていき────

 ドォォォォン!!ガシャァァァァン!!

「「っっっ~~~~!!」」
 地面へと二バウンドくらいしながら着地、いや、墜落した。
 車の中でアタシ達の身体がロックバンドの首振りように、金と銀の髪が激しく上下する。
 だがそこは流石アメリカの技術力と言うべきか、凄まじい衝撃にもかかわらず、セダンはギリギリ大破を免れ、加速してく電車のすぐ真後ろまで猛追していく。が、しかし……

 ブッブブブブブ……

「げ、減速してる!?」
 エンジンから鈍い、空気が抜けるような音が響き、加速していた速度をみるみる落としていく。
 アタシがアクセルをべた踏みしたままハンドルの赤い加速ボタンを何度か押し直してみたが、車はみるみる速度を落とし、電車から距離を離していく。
「ニトロが切れかかっているんだ!飛ぶぞ!」
 そう言ってロアは素早く助手席から這い出て、セダンのボンネットを経由して電車の最後尾に飛び移る。
「ッ……!!」
 アタシもタイミングを見計らって運転席から素早く飛び出して、ロアと同じように捕まった。
 何とか電車にたどり着くことができたと、ため息一つ漏らそうとしたアタシとロアはすぐにその異変に気付いた。
「ねぇこの電車!?」
「あぁ減速している!多分切り離された!」
 捕まっていた電車が乗り捨てたセダンと一緒に減速していた。
 よく見ると、さっき見た時よりも最後尾の乗客の数が増え、あの黒髪女たちの姿は消えていた。
 多分乗客全てを最後尾の車両に移して切り離したのだろう。
 アタシ達は懸垂の要領で車両の天井まで登り、前の車両を目指して走る。
 やっぱり車両は切り離されていて、二両目の扉が三両目から離れていく最中だった。
「ッ!!」
 ロアが先に車両から飛ぶ。
 空中で懐からクナイ式ナイフを投げて二両目の車体に突き刺し、そこについた隕石の糸ミーティアスレッドを使って二両目後ろに張り付いた。
「ッ!!」
 アタシも同じように飛んだ!
 だけど、最初に飛んだロアを見て分かっていたけど、距離が足りない。
「セイナッ!」
 その足りない分を、ロアが片手を伸ばして稼ぐ。
「ッ……!」
 手を取る一瞬が、スロー再生のようにコマ送りにされていく。
 限界まで伸ばしたアタシとロアの手はギリギリで届く距離にあった。
 ────これならッ!
 そう思って伸ばしたアタシの手がロアの手に触れる瞬間────
 ────え?
 ほんの数センチ……その致命的な数センチ、ロアは伸ばした片手を引っ込めた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】結界守護者の憂鬱なあやかし幻境譚 ~平凡な男子高校生、今日から結界を繕います~

御崎菟翔
キャラ文芸
​【平凡な高校生 × 妖従者たちが紡ぐ、絆と成長の主従現代和風ファンタジー!】 「選ぶのはお前だ」 ――そう言われても、もう引き返せない。 ​ごく普通の高校生・奏太(そうた)は、夏休みのある日、本家から奇妙な呼び出しを受ける。 そこで待っていたのは、人の言葉を話す蝶・汐(うしお)と、大鷲・亘(わたり)。 彼らに告げられたのは、人界と異界を隔てる結界を修復する「守り手」という、一族に伝わる秘密の役目だった。 ​「嫌なら断ってもいい」と言われたものの、放置すれば友人が、家族が、町が危険に晒される。 なし崩し的に役目を引き受けた奏太は、夜な夜な大鷲の背に乗り、廃校や心霊スポットへ「出勤」することに! ​小生意気な妖たちに絡まれ、毒を吐く蛙と戦い、ついには異世界「妖界」での政変にまで巻き込まれていく奏太。 その過程で彼は、一族が隠し続けてきた「残酷な真実」と、従姉・結(ゆい)の悲しい運命を知ることになる―― ​これは、後に「秩序の神」と呼ばれる青年が、まだ「ただの人間」だった頃の、始まりの物語。 ​★新作『蜻蛉商会のヒトガミ様』 この物語から300年後……神様になった奏太の物語も公開中! https://www.alphapolis.co.jp/novel/174241108/158016858

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~

華音 楓
ファンタジー
『ハロ~~~~~~~~!!地球の諸君!!僕は~~~~~~~~~~!!神…………デス!!』 たったこの一言から、すべてが始まった。 ある日突然、自称神の手によって世界に配られたスキルという名の才能。 そして自称神は、さらにダンジョンという名の迷宮を世界各地に出現させた。 それを期に、世界各国で作物は不作が発生し、地下資源などが枯渇。 ついにはダンジョンから齎される資源に依存せざるを得ない状況となってしまったのだった。 スキルとは祝福か、呪いか…… ダンジョン探索に命を懸ける人々の物語が今始まる!! 主人公【中村 剣斗】はそんな大災害に巻き込まれた一人であった。 ダンジョンはケントが勤めていた会社を飲み込み、その日のうちに無職となってしまう。 ケントは就職を諦め、【探索者】と呼ばれるダンジョンの資源回収を生業とする職業に就くことを決心する。 しかしケントに授けられたスキルは、【スキルクリエイター】という謎のスキル。 一応戦えはするものの、戦闘では役に立たづ、ついには訓練の際に組んだパーティーからも追い出されてしまう。 途方に暮れるケントは一人でも【探索者】としてやっていくことにした。 その後明かされる【スキルクリエイター】の秘密。 そして、世界存亡の危機。 全てがケントへと帰結するとき、物語が動き出した…… ※登場する人物・団体・名称はすべて現実世界とは全く関係がありません。この物語はフィクションでありファンタジーです。

転生君主 ~伝説の大魔導師、『最後』の転生物語~【改訂版】

マツヤマユタカ
ファンタジー
「わたしはもうまもなく死ぬ」 静まり返った老人ホームの一室で、老人は青年にそう告げた。励まそうとする青年に老人はさらに告げる。「いや正確に言い直そう。わたしは転生するのだ」 異世界に突如として転生したその男は、海洋国家ヴァレンティン共和国の超名門、シュナイダー家に生を受け、ガイウス・シュナイダーとして転生を果たす。だがそんなガイウスには前世の知識はあるものの、記憶がなかった。混乱するガイウス。だが月日が経つにつれ、次第にそんな環境にも慣れ、すくすくと成長する。そんな時、ガイウスは魔法と出会う。見よう見まねで魔法を繰り出すガイウス。すると、あろうことかとんでもない威力の魔法が―― 数えきれないほど転生をし続けた伝説の大魔導師の最後の転生物語をどうぞお楽しみください! こちらは『小説家になろう』で千五百万PⅤを獲得した作品を各所変更し、再構成して投稿しております。 また『1×∞(ワンバイエイト)経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!』という作品が、アルファポリス社より刊行されています。既刊第四巻まで発売中です。またコミカライズもされており、こちらは第二巻まで発売しています。あわせてよろしくお願いいたします!

「ただの経費削減ですが?」 銀河最弱の補給艦隊が、俺の「在庫管理」で最強になったようです

空木 架
SF
日本の企業で総務として働く星野明日虎(32歳)は、ある日突然、見知らぬ宇宙の帝国へと転移してしまう。彼が配属されたのは、整理整頓もままならない「銀河最弱」の補給艦隊だった! ひょんなことから戦艦の艦長に任命されてしまった明日虎だが、宇宙の戦い方など全く分からない。そこで彼が武器にしたのは、長年の社畜生活で培った「経費削減」と「在庫管理」のスキルだった。 「弾薬の無駄遣い禁止!」「エンジンはこまめに切れ!」――ただ徹底的なコストカットと業務効率化を推し進めただけなのに、それがなぜか「天才的な軍事戦略」として周囲に大勘違いされていく。 個性豊かな仲間たちと共に、最弱だった倉庫部門を最強の組織へと育て上げる、痛快・お仕事&成り上がりSFファンタジー! ※この作品は、「小説家になろう」「カクヨム」でも連載しています

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...