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揺れる二つの銀尾《ダブルパーソナリティー》
揺れる二つの銀尾《ダブルパーソナリティー》50
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ワシントンメトロでの激戦の後、アメリカ全土を騒がせていたミサイル攻撃は音もなく消えた。
結局、アメリカを狙っていたミサイルの場所や国については一切分からず、表向きのマスコミには、ミサイル攻撃警報システムの誤作動と言った報道がなされ、市民からは不満の声が上がるなど問題が生じた。それでも、混乱による死傷者が出なかったことは不幸中の幸いと言うべきか……
だが、市民の一部ではこんな声も上がっていた。
────今回の出来事は、何者かによる陰謀ではないのか?
スミソニアン博物館の爆発、爆弾を持った男、軍のヘリが墜落、ワシントンメトロの電車ジャック。
色んな所から情報が寄せられ、ネットや新聞の一部で騒がれているが、アメリカイチのハッカー軍団のリーダーは「ロナの責任はロナがどうにかする」と言って、ホワイトハウスの自室にこもって火消し活動に勤しんでいた。
その結果……いや、それも含めてと言うべきか、電車から脱出し、人質保護と尋問のためにアルシェをCIAに引き渡した後、俺とセイナは一度もロナと顔を合わせる機会を得ることできず、何度か心配で部屋を訪ねようと試みたが、「今はちょっと一人にして欲しいの」と言って部屋から出てくることは無かった。
「アイツがあんなに泣いてるとこ見たのは久しぶりだったな……」
俺は大統領に用意してもらった日本行のプライベートジェットの個室の窓から、遠くなっていく昼のアメリカを眼下に呟いた。
────多分、相当ロアのことが精神的にきているのだろう……
二日前の激戦から、ロアは突然ロナとの接続を断ち切っている。その辺の感覚は俺もよく分かっていないが、人格を入れ替えようとしてもできず、いつも脳内に響いていたその声も聞こえなくなっているらしい……
「それくらいショックだったんでしょ……?自分自身の片割を失ったようなものだから……」
隣の座席に座って話しをしていたセイナが呟く。
セイナ自身は二重人格ではないが、双子の妹、リリー王女がいる。多分それと照らし合わせたのだろう、その声にはやや同情が混じっていた。
「そうだな……今回はそれに加えて命令違反もあった。そのことでジェイクからもかなりきつく言われてることを考えると、やっぱり少し心配だな……」
「そんなに気になるなら、もっとここに滞在すれば良かったのに、別にアタシは構わないわよ?」
横から俺の顔を覗き込んでくるセイナ、首を傾けたことで後ろの長い金髪ポニーテールがシャラン────と肩から垂れさがる。
「意外だなお前がそんなこと言うなんて……」
「何がよ?」
振り返る俺にキョトンとするセイナ。
パチパチと瞳を動かす仕草は小動物のようで愛くるしい。
────自然な仕草でこんなに可愛いのずるいよな……
「あんなに嫌ってたロナのこと気にするなんてな、セイナだったら、「あんな馬鹿ほっとけは良いのよ!」とでも言うかと思ったぜ」
「そのアタシの真似全然似てないから止めて。あとアンタ、アタシをなんだと思っているのよ?」
セイナ風に言ってみたが、二つの意味で本人には不満だったらしく、セイナはにっこり笑う表情を作りながら青筋を立てるという離れ業を披露する。なにそれちょー怖い。
だが、俺がそう言うのも仕方ない。だってコイツは────
「怪我人に容赦なくニードロップを叩き込む凶悪女」
「その……悪かったわよ。まさか、完全に傷が完治してないなんて思ってなかったから……だから何度も謝ったでしょ?」
バツが悪そうに顔を背け、ポニーテールの先を指先で弄るセイナ。
ワシントンメトロの電車内で最後、話しを聞かずにマジ切れしたセイナのニードロップを食らった俺。丁度そこは以前ベルゼとやりあった時に折れていたところで、まだ完全に治っておらず、結果二本の肋骨をまた折ることになった。
謝って骨折っていいなら警察要らないぞ?セイナさん。
「大体、最近のお前少し変だぞ?あの時は電車の急停車でああなっちまったが、別に俺が他の女といちゃつこうがお前には関係ないだろ?一か月前のお前ならこんなことで取り乱したりしなかったはずだ」
と、ちょっと立場が上なことを良いことにさらにそう言ってやると────
「か、関係あるわよ!!」
セイナが食い気味にそう言う。
おお……結構必死に反論してきたな……
「何処が関係あるんだよ……?」
「そ、それは……アンタは少し見境が無さすぎるというか、可愛い女の子を見るとすぐに手を出そうとする癖がある!アタシには……そ、その……ふ、お風呂を覗いたり!ロナとはイチャイチャして、そ、それにあのアルシェや彩芽のパンツまで見ようとしてまさかあんな技を出すとか考えられないわ!アタシとコンビを組むならもっとTPOってものをわきまえなさい!」
そんなに恥ずかしいなら言うなよ……
白桃のように白い頬を赤く染めてビシィ!と人差し指を向け、暴論を宣言するセイナ。お兄さん、思わず涙が出そうだよ。悲しくて……
あとその言い分だと、TPOさえわきまえればやってもOKって捕らえ方されるぞ?
「あれはツララを撃ち落とすために放った技だって、ここ二日間ずっと言ってただろ?それに、あの時はロナが────」
「言い訳は聞かないわ!どんな理由があるにしてもやってることは事実!今後はそれらの礼儀についてアタシがみっちり指導していくから覚悟しなさい!」
なんで俺が説教されているみたいになっているんだ?それに……コイツがここまでこだわる理由も全く分からん……
「あーハイハイ「ハイは一回!」気を付けますよ」
さっそくセイナから指導が入ったのを無視しながら俺は座席に寄りかかる。
「で?結局どうすんのよ?」
「何が?」
「戻るか戻らないかの話しよ」
やけにそのことについてこだわるセイナ。
ははーん。分かっちゃったぞ。
「さてはお前、アイツのことが少し気に入ったのか?」
「なッ!?」
ブルーサファイアの瞳が泳ぐ。分かりやす。
「べ、別にそんなんじゃないわよ!た、確かにその……同年代で接しやすかったとか……思ったりしたかもしれないけど……あ、あんなぶりっ子で自分勝手でだらしない体型の奴なんて気に入るわけないじゃない!」
「あっそ……」
白桃から熟れたリンゴ並みに顔を真っ赤にしたセイナが、マシンガンのような速度で言葉を発する。
────同年代か……
その言葉が俺の中で少し引っかかる。多分幼いころから軍隊育ちのセイナにとって同年代の女の子と接する機会はかなり少なかったのだろう……そんな中で妹とは別の初めてかもしれない同年代の女の子。もう少し時間があればもっと仲良くなっていたかもしれないな。
「まあもう少し残っても良かったかもしれないが、今の政府関係者は事後処理で忙しい……本当ならすぐにでも帰国したかったが、骨折で二日も多く滞在させて貰ってたんだ。お願いした電子機器のデータ収集も俺達が直接手伝えることはなにも無いから、あそこに居たところで結局アイツらの邪魔になっちまう……それに、日本に戻ってやりたいこともできたからな……」
「……」
「ロナは……アイツは大丈夫だって、こんなことでメンタルがやられるような軟な鍛え方はしてないし、今回の件はアイツ自身の問題だ。俺達がとやかく言ったところでどうにもならないさ」
「でも、ロナはアンタのことを必要としていたわ。最初に戦闘した時も寂しかったって言ってたじゃない?」
「……」
────それは分かっている……一番俺がそれを分かってるんだよセイナ。
でも、そうしてはならないことも俺が一番分かっている。
「やっぱり、今からでも遅くはないわ。この飛行機を引き返させてでも会いに行くべきよ」
「それは、ダメだ……」
「どうして!?」
俺の逸らした視線を逃がさないようセイナが座席から立ち上がり、さらに正面に立って顔を覗き込んでくる。
────コイツは本当に優しいヤツなんだな。
座席に座ったままの俺と大して視線の高さが変わらないくらい小柄な少女、その真剣で真っすぐなブルーサファイアの瞳を前に俺は改めてそう思った。
「アイツの力が、今のアメリカには必要だからだ。セイナも見てただろう?電車内でロナのハッキング能力を」
あとから聞いた話しだが、ロナが電車の電子制御盤をデバイス一つで書き換えていた技術。あれを一般の業者にお願いすると、三人で作業しても2~3時間は掛かるとのことらしい。また、外部から操作できないようにロックも厳重にかけている。
ロナはあの土壇場で電子ロックとデータの書き換えを並行して行い、僅か三分足らずでその作業を終えてしまったということになる。それを聞いた時は流石だなと思う反面、かなりゾッとした。セイナの神の加護だけではあの電車は止まらなかった。もしあの場面でロナがいなかったら今ごろ俺達はこうして会話することすらできていなかっただろう……
「アメリカの情報機関にロナの力は不可欠だ。その仕事を俺が邪魔して効率でも落としたりしたら、それこそアメリカ全土の人間に迷惑が掛かる」
「そうかもしれないけど……」
「本当だったら今回の情報収集を頼むのも結構悩んだんだ。これ以上の迷惑はやっぱりかけれない……あと、こっちにはセイナ、お前の神器捜索と皇帝陛下探しの件もある。アイツのことを思う気持ちはよく分かるが、俺達は俺達のやるべきことを優先させるべきだ」
セイナの右手に装着された神器、回収した赤銅色に光るヤールングレイプルに目をやる。
一応今は大統領から借りているという形でセイナが所持している。
「……そう、ね……確かにフォルテの言う通り、アタシはアナタを無理矢理突き合わせている立場。寄り道してる場合じゃないものね……」
セイナはヤーレングレイプルを反対の手で抑え、暗い表情のまま少し俯き加減でそう答える。
「ああ、アルシェの情報やデータ解析の結果によっては、またすぐに動かないと行けないかもしれない、それにそろそろエリザベス三世の方に頼んでおいた。テロ事件に使用された武器の製造場所についても情報がくるかもしれないしな……やることはたくさんある」
「うん……」
頷くセイナ、だがやはりまだ不安が残っているような返事だった。
「一応、ロナについてジェイクや大統領には俺からお願いもしてきたからそんな顔するなよ、折角の可愛い顔が台無しだぞ?」
「……バカ」
少し重くなった空気を払拭しようとしてそう言っては見たが、セイナはプイッと顔を背けて個室の扉に歩いていく。
「自分の個室に戻るわ。まだ時間もあるから少し休む」
「そうか……」
セイナは短くそう言って扉に手をかけ────
「……全然分かってないわよ……あの子の、家族としてのアンタへの気持ちを……」
ポツリ────と何か呟いた気がしたが、そのままセイナは出ていったきり帰ってくることは無かった。
「ん……」
電気を消した暗い個室のベッドで俺は目が覚めた。
暇なので、まだ傷が痛む俺は寝ていたのだが────どうやら中途半端に目が覚めちまったらしいな……
外を見ると眼下には広大な太平洋とそれを覆うモクモクとした雲が所々に見え、それらを神秘的な月明かりが飛行機も合わせて明るく照らし出していた。
どこか幻想的な光景だった。
上半身だけをベッドから起こし、俺が眠い目を擦っていると……
「ん……?」
丁度一か月前に女王陛下側近のセバスチャンが用意してくれたプライベートジェットとほぼ同じで、六畳ほどの部屋にはベッドの他にも、ここで一人暮らし出来そうなくらいの高級家具や電化製品が揃っていた。
その一つ、窓際のベットの近くにあった二人用のソファー。その端に月明かりを浴びて白銀に輝くタスキの
ようなものが見えた。
「んん……?」
もう一度目を擦ってみると、そこには何もなかった。
────どうやら、まだ寝ぼけているらしいな……
そう思って俺は再びベッドに寝転んだ。
確かに、この時の俺は寝ぼけていたかもしれない……
深く考えずに目を閉じた俺は再び眠りへと落ちていった。
結局、アメリカを狙っていたミサイルの場所や国については一切分からず、表向きのマスコミには、ミサイル攻撃警報システムの誤作動と言った報道がなされ、市民からは不満の声が上がるなど問題が生じた。それでも、混乱による死傷者が出なかったことは不幸中の幸いと言うべきか……
だが、市民の一部ではこんな声も上がっていた。
────今回の出来事は、何者かによる陰謀ではないのか?
スミソニアン博物館の爆発、爆弾を持った男、軍のヘリが墜落、ワシントンメトロの電車ジャック。
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その結果……いや、それも含めてと言うべきか、電車から脱出し、人質保護と尋問のためにアルシェをCIAに引き渡した後、俺とセイナは一度もロナと顔を合わせる機会を得ることできず、何度か心配で部屋を訪ねようと試みたが、「今はちょっと一人にして欲しいの」と言って部屋から出てくることは無かった。
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俺は大統領に用意してもらった日本行のプライベートジェットの個室の窓から、遠くなっていく昼のアメリカを眼下に呟いた。
────多分、相当ロアのことが精神的にきているのだろう……
二日前の激戦から、ロアは突然ロナとの接続を断ち切っている。その辺の感覚は俺もよく分かっていないが、人格を入れ替えようとしてもできず、いつも脳内に響いていたその声も聞こえなくなっているらしい……
「それくらいショックだったんでしょ……?自分自身の片割を失ったようなものだから……」
隣の座席に座って話しをしていたセイナが呟く。
セイナ自身は二重人格ではないが、双子の妹、リリー王女がいる。多分それと照らし合わせたのだろう、その声にはやや同情が混じっていた。
「そうだな……今回はそれに加えて命令違反もあった。そのことでジェイクからもかなりきつく言われてることを考えると、やっぱり少し心配だな……」
「そんなに気になるなら、もっとここに滞在すれば良かったのに、別にアタシは構わないわよ?」
横から俺の顔を覗き込んでくるセイナ、首を傾けたことで後ろの長い金髪ポニーテールがシャラン────と肩から垂れさがる。
「意外だなお前がそんなこと言うなんて……」
「何がよ?」
振り返る俺にキョトンとするセイナ。
パチパチと瞳を動かす仕草は小動物のようで愛くるしい。
────自然な仕草でこんなに可愛いのずるいよな……
「あんなに嫌ってたロナのこと気にするなんてな、セイナだったら、「あんな馬鹿ほっとけは良いのよ!」とでも言うかと思ったぜ」
「そのアタシの真似全然似てないから止めて。あとアンタ、アタシをなんだと思っているのよ?」
セイナ風に言ってみたが、二つの意味で本人には不満だったらしく、セイナはにっこり笑う表情を作りながら青筋を立てるという離れ業を披露する。なにそれちょー怖い。
だが、俺がそう言うのも仕方ない。だってコイツは────
「怪我人に容赦なくニードロップを叩き込む凶悪女」
「その……悪かったわよ。まさか、完全に傷が完治してないなんて思ってなかったから……だから何度も謝ったでしょ?」
バツが悪そうに顔を背け、ポニーテールの先を指先で弄るセイナ。
ワシントンメトロの電車内で最後、話しを聞かずにマジ切れしたセイナのニードロップを食らった俺。丁度そこは以前ベルゼとやりあった時に折れていたところで、まだ完全に治っておらず、結果二本の肋骨をまた折ることになった。
謝って骨折っていいなら警察要らないぞ?セイナさん。
「大体、最近のお前少し変だぞ?あの時は電車の急停車でああなっちまったが、別に俺が他の女といちゃつこうがお前には関係ないだろ?一か月前のお前ならこんなことで取り乱したりしなかったはずだ」
と、ちょっと立場が上なことを良いことにさらにそう言ってやると────
「か、関係あるわよ!!」
セイナが食い気味にそう言う。
おお……結構必死に反論してきたな……
「何処が関係あるんだよ……?」
「そ、それは……アンタは少し見境が無さすぎるというか、可愛い女の子を見るとすぐに手を出そうとする癖がある!アタシには……そ、その……ふ、お風呂を覗いたり!ロナとはイチャイチャして、そ、それにあのアルシェや彩芽のパンツまで見ようとしてまさかあんな技を出すとか考えられないわ!アタシとコンビを組むならもっとTPOってものをわきまえなさい!」
そんなに恥ずかしいなら言うなよ……
白桃のように白い頬を赤く染めてビシィ!と人差し指を向け、暴論を宣言するセイナ。お兄さん、思わず涙が出そうだよ。悲しくて……
あとその言い分だと、TPOさえわきまえればやってもOKって捕らえ方されるぞ?
「あれはツララを撃ち落とすために放った技だって、ここ二日間ずっと言ってただろ?それに、あの時はロナが────」
「言い訳は聞かないわ!どんな理由があるにしてもやってることは事実!今後はそれらの礼儀についてアタシがみっちり指導していくから覚悟しなさい!」
なんで俺が説教されているみたいになっているんだ?それに……コイツがここまでこだわる理由も全く分からん……
「あーハイハイ「ハイは一回!」気を付けますよ」
さっそくセイナから指導が入ったのを無視しながら俺は座席に寄りかかる。
「で?結局どうすんのよ?」
「何が?」
「戻るか戻らないかの話しよ」
やけにそのことについてこだわるセイナ。
ははーん。分かっちゃったぞ。
「さてはお前、アイツのことが少し気に入ったのか?」
「なッ!?」
ブルーサファイアの瞳が泳ぐ。分かりやす。
「べ、別にそんなんじゃないわよ!た、確かにその……同年代で接しやすかったとか……思ったりしたかもしれないけど……あ、あんなぶりっ子で自分勝手でだらしない体型の奴なんて気に入るわけないじゃない!」
「あっそ……」
白桃から熟れたリンゴ並みに顔を真っ赤にしたセイナが、マシンガンのような速度で言葉を発する。
────同年代か……
その言葉が俺の中で少し引っかかる。多分幼いころから軍隊育ちのセイナにとって同年代の女の子と接する機会はかなり少なかったのだろう……そんな中で妹とは別の初めてかもしれない同年代の女の子。もう少し時間があればもっと仲良くなっていたかもしれないな。
「まあもう少し残っても良かったかもしれないが、今の政府関係者は事後処理で忙しい……本当ならすぐにでも帰国したかったが、骨折で二日も多く滞在させて貰ってたんだ。お願いした電子機器のデータ収集も俺達が直接手伝えることはなにも無いから、あそこに居たところで結局アイツらの邪魔になっちまう……それに、日本に戻ってやりたいこともできたからな……」
「……」
「ロナは……アイツは大丈夫だって、こんなことでメンタルがやられるような軟な鍛え方はしてないし、今回の件はアイツ自身の問題だ。俺達がとやかく言ったところでどうにもならないさ」
「でも、ロナはアンタのことを必要としていたわ。最初に戦闘した時も寂しかったって言ってたじゃない?」
「……」
────それは分かっている……一番俺がそれを分かってるんだよセイナ。
でも、そうしてはならないことも俺が一番分かっている。
「やっぱり、今からでも遅くはないわ。この飛行機を引き返させてでも会いに行くべきよ」
「それは、ダメだ……」
「どうして!?」
俺の逸らした視線を逃がさないようセイナが座席から立ち上がり、さらに正面に立って顔を覗き込んでくる。
────コイツは本当に優しいヤツなんだな。
座席に座ったままの俺と大して視線の高さが変わらないくらい小柄な少女、その真剣で真っすぐなブルーサファイアの瞳を前に俺は改めてそう思った。
「アイツの力が、今のアメリカには必要だからだ。セイナも見てただろう?電車内でロナのハッキング能力を」
あとから聞いた話しだが、ロナが電車の電子制御盤をデバイス一つで書き換えていた技術。あれを一般の業者にお願いすると、三人で作業しても2~3時間は掛かるとのことらしい。また、外部から操作できないようにロックも厳重にかけている。
ロナはあの土壇場で電子ロックとデータの書き換えを並行して行い、僅か三分足らずでその作業を終えてしまったということになる。それを聞いた時は流石だなと思う反面、かなりゾッとした。セイナの神の加護だけではあの電車は止まらなかった。もしあの場面でロナがいなかったら今ごろ俺達はこうして会話することすらできていなかっただろう……
「アメリカの情報機関にロナの力は不可欠だ。その仕事を俺が邪魔して効率でも落としたりしたら、それこそアメリカ全土の人間に迷惑が掛かる」
「そうかもしれないけど……」
「本当だったら今回の情報収集を頼むのも結構悩んだんだ。これ以上の迷惑はやっぱりかけれない……あと、こっちにはセイナ、お前の神器捜索と皇帝陛下探しの件もある。アイツのことを思う気持ちはよく分かるが、俺達は俺達のやるべきことを優先させるべきだ」
セイナの右手に装着された神器、回収した赤銅色に光るヤールングレイプルに目をやる。
一応今は大統領から借りているという形でセイナが所持している。
「……そう、ね……確かにフォルテの言う通り、アタシはアナタを無理矢理突き合わせている立場。寄り道してる場合じゃないものね……」
セイナはヤーレングレイプルを反対の手で抑え、暗い表情のまま少し俯き加減でそう答える。
「ああ、アルシェの情報やデータ解析の結果によっては、またすぐに動かないと行けないかもしれない、それにそろそろエリザベス三世の方に頼んでおいた。テロ事件に使用された武器の製造場所についても情報がくるかもしれないしな……やることはたくさんある」
「うん……」
頷くセイナ、だがやはりまだ不安が残っているような返事だった。
「一応、ロナについてジェイクや大統領には俺からお願いもしてきたからそんな顔するなよ、折角の可愛い顔が台無しだぞ?」
「……バカ」
少し重くなった空気を払拭しようとしてそう言っては見たが、セイナはプイッと顔を背けて個室の扉に歩いていく。
「自分の個室に戻るわ。まだ時間もあるから少し休む」
「そうか……」
セイナは短くそう言って扉に手をかけ────
「……全然分かってないわよ……あの子の、家族としてのアンタへの気持ちを……」
ポツリ────と何か呟いた気がしたが、そのままセイナは出ていったきり帰ってくることは無かった。
「ん……」
電気を消した暗い個室のベッドで俺は目が覚めた。
暇なので、まだ傷が痛む俺は寝ていたのだが────どうやら中途半端に目が覚めちまったらしいな……
外を見ると眼下には広大な太平洋とそれを覆うモクモクとした雲が所々に見え、それらを神秘的な月明かりが飛行機も合わせて明るく照らし出していた。
どこか幻想的な光景だった。
上半身だけをベッドから起こし、俺が眠い目を擦っていると……
「ん……?」
丁度一か月前に女王陛下側近のセバスチャンが用意してくれたプライベートジェットとほぼ同じで、六畳ほどの部屋にはベッドの他にも、ここで一人暮らし出来そうなくらいの高級家具や電化製品が揃っていた。
その一つ、窓際のベットの近くにあった二人用のソファー。その端に月明かりを浴びて白銀に輝くタスキの
ようなものが見えた。
「んん……?」
もう一度目を擦ってみると、そこには何もなかった。
────どうやら、まだ寝ぼけているらしいな……
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