SEVEN TRIGGER

匿名BB

文字の大きさ
134 / 361
赤き羽毛の復讐者《スリーピングスナイパー》

バンゾック・フォールズ10

しおりを挟む
 アイリスはそう言って、あごで示した先────デコボコの道路の脇の茂みで、カモフラージュしてあったジープの辺りに視線を送るが……ここから見えるのは砂や泥で荒れた道と、その脇に生える木々や草花といった植物くらい。人影らしきものなんて見当たらなかった。

「……どの辺にいる?」

 耳打ちするように静かに聞くと、アイリスは小さく首を振った。

「正確な位置は分からない……でも、明らかにジープの辺りの気流が乱れている……」

「気流?」

「うん、ボクは、大気の流れや強弱を、肌身ではなく色覚で捉えることができる……この一本道の右側に隠しているジープ。その近くに一つだけ、人を避けるように流れる風がえるんだ……」

 独特な表現に眉をひそめる俺に、アイリスがジープの隠してある茂みの方を見据えたまま、補足説明してくれる。
 正直それを聞いても完全には理解しきれないのだが、どうやらアイリスは風を、他の物体と同様に色で見ることができるらしい。
 スナイパーは引き金を引く前に、目標までの風を読むとはよく言ったものだが……一体アイリスには、この世界がどのようにえているのだろうか……?と、気になる疑問ではあったが、今はそれを聞いている暇はない。えないその人物について、俺はさらにアイリスにたずねた。

「動物の可能性はないのか?」

「多分ない、鹿しかよりも高く、二足歩行のくまよりも低いし、猿などとも体格が合わない」

 そんなに正確なところまで分かるのか。

「……武器は何も持ってないんだよな?」

 アイリスはこくこくと頷いた。
 俺はそれ見て、左のレッグホルスターからHK45を抜いた。弾倉マガジンは装填してあるので、スライドをずらし、薬室内に銃弾があることを確認する。いつでも撃てる状態だ。

「……」

 愛銃の黒いボディを見た俺は、自分のその考えを本当に実行するべきか逡巡しゅんじゅんしたが、すぐに思い直し、アイリスにハンドガンを差し出した。

「これは……どういうつもりだい?」

 集中しているのか、その琥珀色アンバーの瞳からは、ハイライトがスーと薄くなっていき、次第に人間味を失っていくアイリス。が、昨日の戦闘時にも聞いた抑揚の欠片も無い、AIのような感情を殺した無機質な声でそうたずねてくる。
 ここまで助け合ってきたとはいえ、仮にもアイリスは昨日、俺達をスナイパーのおとりとして使ったことは事実────そんな相手に銃を渡すことなんて普通しないだろう。
 しかし、川に流されていた時、本来なら俺を放っておいてもアイリスには害は無かったはず。だがそれでも、二人を持ち上げるほどの風を使い、魔力切れを起こしてまで俺を滝から救ってくれた。自分の無防備な気絶している状態まで晒して……
 それ以外にも、行動を共にすることでアイリスの人柄について知ることができ、悪いイメージは多少なりとも払拭ふっしょくされた。俺はコイツを、信頼に足りる人物だと判断したのだ。
 その信頼の証として、俺はいま自分の愛銃を、唯一の飛び道具を差し出しているのだ。後ろから撃たれないことを信じて。

「いいか、俺が前に詰めて隠れている奴をあぶり出す。アイリスはコイツで援護してくれ」

 受け取る気配が無かったので、俺はアイリスの右手を強引に取って、無理矢理ハンドガンを握らせた。
 手のひらに乗せられたハンドガンを、無感情な瞳で見つめるアイリスを背に、俺は小太刀「村正改」を腰の鞘から抜刀して、ゆっくりと詰めていく。

 ────カチリ……

 銃の安全装置セーフティーが解除された音が、荒れた道をすり足で進んでいた、俺の背後から聞こえてきた。まとわりつくような暑いベトナムにしては、酷く不気味なほどに冷たい音だった。その音に身体が反応したのか、身震いすら起こしそうな程の冷や汗が、ツーと首筋を一撫ひとなでした。
 アイリスは銃口を前方、俺の背中の方に向けた────が、発砲することは無かった。
 ふぅ……と心の中で嘆息を漏らしたが、安堵するにはまだ早い。寧ろここからが本番、スタート地点に立ったところだ。
 なるべく足音を立てないように荒れた道を進んでいき、逆手に持った小太刀で周囲を警戒する。あんまりキョロキョロし過ぎると、相手の場所を把握してないことがバレてしまうので、顔ではなく、視線だけを動かすようにして敵を探るが……

「……」

 なにも仕掛けてこない……?
 さっきとは別の汗が頬から垂れる。
 殺気なら俺でも感じることができる。だが気配に関しては、動いている人間でないと感じることは流石にできない。
 ────どこからくる?
 いや、そもそも敵なのかどうかすらまだ俺には分からない。
 はやる気持ちを抑え、視覚だけに頼らずに、嗅覚、聴覚を研ぎ澄ましながら道路を進み、ジープの止めてある場所の脇まで来た頃。突如、強い突風が俺達に襲い掛かった。

 バンッ!!バンッ!!

「……ッ!?」

 背後から銃声、聞きなれた.45ACP弾の発射音。
 突風で身を屈めた瞬間を狙った二発の銃弾が、俺の方に向かって飛んでいき────

 キンッ!キンッ!

 誰もいないはずの頭上で鋭い金属音を響き、真っ二つになった鉛玉が、荒れた道路に叩き伏せられる。
 見上げた先には誰もいなかったが、頭上の空間には、何かゆがみのようなものがあった。透明な水、ゼリーが浮かんでいるかのような────
 ────あれは、まさか光学迷彩!?

「クッ!」

 何度も使ったことのあるそのその兵器に一早く気が付いた俺は、アイリスが撃った場所に向け、逆手に持っていたやいばを横なぎで振るう。真上に右フックするように振るわれたやいばから、ガキンッ!と確かな感触が伝わってくる。
 力任せに振るった一撃で、空中にいた何かを弾き飛ばした俺は、その方角、背後にいるアイリスの方に刃を構える。

「……あれ……フォルテ?」

 銃口をこっちに向けていたアイリスと、挟み込むような形でその襲撃者を囲んでいると、.45ACP弾の銃声と同じくらい聞き慣れた、少女の可愛らしい声が光学迷彩のらぎから発せられた。

「……セイナ?」

 俺がやいばを下げながらそうたずねると、空気の歪んでいた部分がヴォン……と機械的な音と共に、少女の姿が浮かび上がった。
 深緑色のポンチョを羽織った可憐な少女は、全身に迷彩が掛かるよう被っていたフードをばさりと取り、綺麗なブルーサファイアの瞳と白い肌、そして、トレードマークの長い黄金色のポニーテールを露出させた。
 やややつれているようだが、凛々しいその姿は間違いない。セイナ・A・アシュライズだ。

「二人とも無事だったのね」

 構えていた双頭槍、グングニルを下げたセイナは、俺とアイリスを交互に見てからそう告げた。

「……よくここが分かったね……」

 セイナだと分かって、いつの間にか殺気を消していたアイリスも、銃口を下げながらこっちに歩いてくる。
 安全装置セーフティーを掛けて、HK45を返してきたその琥珀色アンバーの瞳にも、ハイライトが戻っていた。

「ここに来れば二人と合流できると思っていたの、まぁ、地図はフォルテが持っていたから、ほとんど記憶と勘頼かんだよりだったけど……で、アタシもさっきここに着いたばかりで二人を探そうとしていたら、急に人が来たから……てっきりもう敵に張られていたのかと思って身をひそめていたの」

「そうだったのか……ところで、ロナはどうしたんだ?」

 本来なら、セイナのいま着ている深緑のポンチョことICコートは、もう一人の仲間であるロナの私物だ。セイナが身に着けているのは違和感があるし、そもそも持ち主の姿が見えないことを不審に感じた俺がそうたずねると、セイナは何故か顔を曇らせた。

「ロナは……」

 何か言いにくそうな表情で逸らした視線、俺とアイリスが見つめる先、深緑のポンチョと長いポニーテールが風でなびいた。

「ロナは……敵に捕まったわ……」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

優の異世界ごはん日記

風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。 ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。 未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。 彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。 モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。

薬師だからってポイ捨てされました~異世界の薬師なめんなよ。神様の弟子は無双する~

黄色いひよこ
ファンタジー
薬師のロベルト・シルベスタは偉大な師匠(神様)の教えを終えて自領に戻ろうとした所、異世界勇者召喚に巻き込まれて、周りにいた数人の男女と共に、何処とも知れない世界に落とされた。  ─── からの~数年後 ──── 俺が此処に来て幾日が過ぎただろう。  ここは俺が生まれ育った場所とは全く違う、環境が全然違った世界だった。 「ロブ、申し訳無いがお前、明日から来なくていいから。急な事で済まねえが、俺もちっせえパーティーの長だ。より良きパーティーの運営の為、泣く泣くお前を切らなきゃならなくなった。ただ、俺も薄情な奴じゃねぇつもりだ。今日までの給料に、迷惑料としてちと上乗せして払っておくから、穏便に頼む。断れば上乗せは無しでクビにする」  そう言われて俺に何が言えよう、これで何回目か? まぁ、薬師の扱いなどこんなものかもな。  この世界の薬師は、ただポーションを造るだけの職業。  多岐に亘った薬を作るが、僧侶とは違い瞬時に体を癒す事は出来ない。  普通は……。 異世界勇者巻き込まれ召喚から数年、ロベルトはこの異世界で逞しく生きていた。 勇者?そんな物ロベルトには関係無い。 魔王が居ようが居まいが、世界は変わらず巡っている。 とんでもなく普通じゃないお師匠様に薬師の業を仕込まれた弟子ロベルトの、危難、災難、巻き込まれ痛快世直し異世界道中。 はてさて一体どうなるの? と、言う話。ここに開幕! ● ロベルトの独り言の多い作品です。ご了承お願いします。 ● 世界観はひよこの想像力全開の世界です。

「ただの経費削減ですが?」 銀河最弱の補給艦隊が、俺の「在庫管理」で最強になったようです

空木 架
SF
日本の企業で総務として働く星野明日虎(32歳)は、ある日突然、見知らぬ宇宙の帝国へと転移してしまう。彼が配属されたのは、整理整頓もままならない「銀河最弱」の補給艦隊だった! ひょんなことから戦艦の艦長に任命されてしまった明日虎だが、宇宙の戦い方など全く分からない。そこで彼が武器にしたのは、長年の社畜生活で培った「経費削減」と「在庫管理」のスキルだった。 「弾薬の無駄遣い禁止!」「エンジンはこまめに切れ!」――ただ徹底的なコストカットと業務効率化を推し進めただけなのに、それがなぜか「天才的な軍事戦略」として周囲に大勘違いされていく。 個性豊かな仲間たちと共に、最弱だった倉庫部門を最強の組織へと育て上げる、痛快・お仕事&成り上がりSFファンタジー! ※この作品は、「小説家になろう」「カクヨム」でも連載しています

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

時渡りの姫巫女

真麻一花
恋愛
リィナは村の祭りで、主役である「姫巫女」役に選ばれた。舞の相手は騎士として活躍しているヴォルフ。  あこがれの彼との舞を喜んでいたのもつかの間、リィナは本物の姫巫女へと祭り上げられ神殿に囚われる事となる。  嘆く彼女に救いの手を差し伸べたのは、出会ったばかりの騎士、ヴォルフだった。 (表紙絵は、りょおさんからいただきました)

最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~

華音 楓
ファンタジー
『ハロ~~~~~~~~!!地球の諸君!!僕は~~~~~~~~~~!!神…………デス!!』 たったこの一言から、すべてが始まった。 ある日突然、自称神の手によって世界に配られたスキルという名の才能。 そして自称神は、さらにダンジョンという名の迷宮を世界各地に出現させた。 それを期に、世界各国で作物は不作が発生し、地下資源などが枯渇。 ついにはダンジョンから齎される資源に依存せざるを得ない状況となってしまったのだった。 スキルとは祝福か、呪いか…… ダンジョン探索に命を懸ける人々の物語が今始まる!! 主人公【中村 剣斗】はそんな大災害に巻き込まれた一人であった。 ダンジョンはケントが勤めていた会社を飲み込み、その日のうちに無職となってしまう。 ケントは就職を諦め、【探索者】と呼ばれるダンジョンの資源回収を生業とする職業に就くことを決心する。 しかしケントに授けられたスキルは、【スキルクリエイター】という謎のスキル。 一応戦えはするものの、戦闘では役に立たづ、ついには訓練の際に組んだパーティーからも追い出されてしまう。 途方に暮れるケントは一人でも【探索者】としてやっていくことにした。 その後明かされる【スキルクリエイター】の秘密。 そして、世界存亡の危機。 全てがケントへと帰結するとき、物語が動き出した…… ※登場する人物・団体・名称はすべて現実世界とは全く関係がありません。この物語はフィクションでありファンタジーです。

処理中です...