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赤き羽毛の復讐者《スリーピングスナイパー》
バンゾック・フォールズ15
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「これは……!」
横からケースの中身を覗き見たセイナが、その武器に思わず声を上げる。
ケースに入っていたのは、レンミントンM700、狩猟、競技、法執行機関と様々な分野で活躍するボルトアクション式ライフルで、アメリカ軍の使うM24の従来機だ。見たところ長距離での野戦を想定したタイプにカスタムされているらしく、銃本体だけではなく、ロングバレル、バイポット、高倍率スコープなどのアタッチメント全てに迷彩柄の塗装が施されていた。新品とは違い、表面についた細かい傷や、使用者の好みに合わせて銃床、付属のパーツなどが数回に渡って修正された跡があり、油や火薬の嗅ぎなれた匂いが染みついていた……収納していたケースと同じで、だいぶ年季が入っているみたいだな。まるで、使い古された野球のグローブを見た時の感覚と近かった。普通の人では扱うことのできない、その人専用の道具……なんてレベルではない。四肢と同格と言っても過言ではないだろうな。
「ボクに狙撃を教えてくれた銃。この羽根と同じ、父の形見だ」
白き羽根の狙撃手と呼ばれた父のトレードマークであった羽根。かつては雪のように白かったはずのそれは、撃たれた父の血液で真っ赤に染まり、アイリスが赤き羽毛の復讐者へと成り果てるきっかけを作った代物だ。そのマフラーの胸元に挿された鮮紅色の羽根を握ったアイリスは、考え深くそう告げる。
「リボルバーライフルは銃弾が外に露出している分、風を外部から掛けやすいんだけど、どうしても普通のライフルだと全体が被膜されているから、魔術が掛けにくいんだ」
「てことは、狙撃の精度が落ちるのか?」
昨日のアイリスの話しでは確か、撃った銃弾に風の魔術で回転力を上げ、さらに銃弾の通り道に風の道を作ることで、他の影響を受け付けない、真っすぐな銃弾を遠方まで撃つことができると言っていた。その風が掛けれないということは、ただの普通のライフルに戻ったという認識が正しいのかもしれない。
ただのライフルでは、昨日見たようなアクロバティックな撃ち方や、精度は望めないだろうと勝手に思っていると、アイリスは自信たっぷりに首を横に振った。
「ボクはあくまで他の妨害でも簡単に負けない、かつ威力を高めて飛距離を伸ばすために魔術を使っているだけであって、別に使わなくても当てることはできるよ……ただし、火薬の量は調整できないから、その分の飛距離はどうしても、二キロ前後まで短くなるのと、タングステン合金弾は魔術が安定しない分、上手く扱えなくなってしまうけどね……」
まじかよ……あんなセオリーからかけ離れた乱暴な撃ち方、正直……魔術の力で無理矢理やっているのだと俺は思っていたのだが……狙撃に関してはアイリスも、あの魔術弾使いと同じ、超一流で間違いないだろう。
「じゃあ、あの魔術弾使いのスナイパーは、アイリスに任せて良いんだな?」
アイリスは小さく、それでもって力強く頷いた。よし、とりあえずスナイパーについてはアイリスに任せるとして、後決めなきゃいけないのは────
「あとは、工場のどっから潜入するかよね……」
横でずっと話を聞いていたセイナが、俺の気持ちを代弁してくれたかのようにそう呟く。
そう、囚われのロナを救うためには、工場にどうにかして侵入する必要性があるのだ。
「昨日の俺達の件で、周辺はきっと警戒が強まっているから、搬入する荷物にでも紛れて潜入できれば一番楽なんだがな……」
見取り図も無い、警備体制も分からない、そもそも何の工場なのかすら未だに分かってない建物に潜入なんて、ゲームの世界でしか聞いたことが無い。そんな情弱な俺達が唯一潜入できる方法は、ヨルムンガンドの彩芽が使っていた瞬間移動系の魔術を除けば、やはり荷に紛れて侵入するくらいしか方法は無い。
もしそれをやるにしても、どちらにしろ荷の搬入と搬出のタイミングを調べるために工場に近づく必要があるのだが、やはりそうなると、例のスナイパーに見つかるリスクが高く、かといって慎重になって時間をかけ過ぎれば、ロナはが拷問等に耐え切れず、殺されてしまう可能性も出てくる。迅速かつ、一度も失敗の許されない、今までやってきた作戦の中でも一位二位を争うくらいキツイものかもしれないな……
「あーそのことで一つ提案なんだけど……いいかい?」
色々知恵を絞りながら悩む俺とセイナに、アイリスが右手を上げて発言権を求めてきた。
「なにかいいアイデアがあるのか……?」
「うん、さっき寝てた時に聞いた、セイナのコンテナの話しで一つ、ボクが知っている情報を話すと、連中は、工場の搬入と搬出をほとんど行っていないんだ……」
「じゃあ、荷に紛れて工場へ侵入するのは不可能ってこと?」
八方塞がりな状況に、悲嘆にくれたような声を上げるセイナ。俺もそれに呼応するように唸り声をあげると、アイリスそれを否定気味に「いや……」と一呼吸置いてから話しを続ける。
「その代わり、セイナの言っていたコンテナを、どういう訳か工場で回収しているんだ。中身は分からないけど、それに上手く紛れることさえできれば、侵入できるかもしれないよ……」
「でも、そのコンテナって確か川から流れてくるんだろう?そんなものに、一体どうやって取り付けばいいんだ?」
水中で息をずっと止めることなんてできないぞ……
するとアイリスが急に、運転席から外に飛び出して、「ついてきて」と短く告げてきた。俺とセイナは一瞬だけ顔を見合わせてから、後部座席を降りてアイリスの後について行く。
案内されたのは、どでかいスペアのオフロードタイヤのついた、ジープの荷室の扉前だ。丁度いま俺達が座っていた座席の裏に当たる場所、アイリスがそのジープの荷室の扉を開けると、そこには様々な場面を想定した装備がぎっしり詰まっていた。
「選り取り見取りだな」
「ジープとは思えない、物騒な装備ね……」
俺とセイナが眉を寄せる。電子機器や応急キット、ギリースーツに野戦服といった普通の装備から、術式が刻まれた防魔防弾ベスト、他にもパラシュートに折り畳み式スキー板などなど、数えきれない装備が山のように収納されていた。
「ちょっと待っててくれ……えーと確かこの辺に……」
片膝を荷室に乗せ、紺色のハーフパンツの尻をこっちに向けたアイリスが、ごそごそと何かを探している。
小ぶりな尻だな……俺も割と男の体型にしては細めな方だけど……
近年では同性でもセクハラになるケースがあるのと、余計なこと言って、またセイナが機嫌を損ねても嫌なので、口には出さずに待っていると「お、あったあった……」とアイリスが荷室から、黒い大きなメッシュバッグを取り出した。
「これ、使ってくれ」
そう言って差し出されたメッシュバッグを開けると、中にはドライスーツが二着入っていた。
「これは……?」
本来ドライスーツは、身体のサイズとぴったり合っていないと、密着の具合が変化する関係で着ることができないはずだが……バッグから取り出した二着は、片方が俺、もう片方がセイナの体型にドンピシャで合致していた。
「父とボクの物だ、最も……一回も使ってない新品だけどね……」
再びゴソゴソと、荷室から鈍色の空気ボンベを取り出していたアイリスが、振り返らずにそう告げた。
「空気ボンベは二本、だからチャンスは一回……ふぁぁはぁぁ……これで、コンテナに近づくことができるだろ……」
喋っている最中に大きな欠伸を挟みつつ、眠そうな様子でそう答えたアイリス。さっき運転席で眠っていた時間が短かったせいか、まだ寝足りないのかもしれないな。
「協力してくれてありがとう……アイリス、眠そうなとこ悪いけど、サイズ確かめるの手伝ってもらっていいかしら?」
また頭を下げて、お礼を言うセイナ。雪どころか槍でも降ってくるんじゃないか?
内心で失礼なことを考えつつ、同じように頭を下げていた俺は、セイナのその言葉に何か小さい引っかかりを覚えた。
「ちょっと待て、なんでわざわざアイリスに頼むんだよ?別に俺でいいだろそこは」
ドライスーツで一緒に潜入するのは俺なんだから、わざわざアイリスに頼む必要ないだろ。眠そうなんだし。
怪訝顔でそう言った俺に、セイナは何故か頬をかぁぁぁと紅潮させて、数歩下がりながらこっちを睨めつけてきた。なにその反応……
「アンタって……ホントサイッッッッテイ!!そこまでしてレディーの着替えが見たいの!?」
辛辣な言葉を浴びせられた俺は、その形相に恐れをなして思わず半歩引きさがってしまった。別に悪いことは何もしていないはずなのに。それにアイリスだって男だろ?俺の何がいけないって言うんだ……
アイリスはそんな俺達の前で余程眠いのか、頭をこっくりこっくりさせながら「べつにぼくはなんでもいいよー」とうわ言のように呟いていた。
「な、なんだよその言いぐさは……別にドライスーツの着替えなんて見ても何とも思わんだろ……」
服を着たまま上から装着するだけで、別に恥ずかしいところなんて……過度な露出もあるわけじゃないんだし。
「何とも、何ともっていったぁぁぁ!?アタシの身体にそんなに魅力が無いって言いたいの!?」
半ギレ状態でうぎーと両腕を逆Vの字のようにさせたセイナが詰め寄ってくる。近づいたり遠のいたり忙しい奴だな……
まあ、でも今の会話で何となく分かったのは、多分セイナは訓練でもドライスーツは着たことが無かったのだろう、たまにいるんだよな、ウェットスーツとドライスーツが同じだと思っている人。
確かにウェットスーツは中に水着を着るのだが、ドライスーツは服を着たまま水に入れる。いわゆる冬用のウェットスーツだ。水圧の関係で金物さえ外していればどんな服でも大体は着ることができる。まぁ、今回は潜る水深はそこまで深くないから、別に金物があっても平気だけどな。
セイナが生着替えしている図が、ふと脳裏に過った。しなやかな裸体をぴっちりとしたラバー素材が包んでいくイメージ……彼女の裸を数回は(不本意ながら)見てしまったことがあるせいで、妙に生々しく感じるその妄想を頭の片隅にしまいつつ、勘違いを正そうと俺が説明しようとした瞬間────
「まぁ……フォルテはバイだから仕方ないよ……」
三十度を超えるベトナムの空気がピキッ────と凍る音がした。
寝ぼけたアイリスの口から耳を疑うようなとんでもない爆弾が、俺とセイナの間に投下されたからだ。
コ、コイツ急に何言ってんの……!?
「バ、バイ……ですって……?」
唖然とした顔で呟くセイナ、いや俺はヘテロ、ストレートだから!
「しかも、ホモよりのバイ……ボクにそう言ってきたから間違いない」
「言ってねーよ!!そんなこと!!」
追加で爆撃してきたアイリスに、俺は否定するが、嘘の情報を信じ切ってしまったセイナが、憐みのような表情でこっちを見ていた。何その顔!?今まで一度も見たことがないやつ!
「ご、ごめんなさいフォルテ……まさかアンタが、その、心の病を抱えていたことに気づかなくて……」
「違う違う!俺はバイでもホモでもないから!ヘテロ!ノンケ!ストレート!女の子ラブだから!そういう言葉は、ホントに苦しんでいる人達に言ってあげて!」
途中────かなりキモイことを言った気がするが、一変したセイナの態度が天使のように慈悲深い、マジでそう思っている様子だったので、俺は誤解を解くために身振り手振りを交えながら、かなり大袈裟に否定する。クソッ!こんな激しい爆撃は初めてだ……!
「……その証拠に……洞窟ではボクには興味ないって……あちこちベタベタ触ってきたし……」
必死に爆撃に耐えていた俺に、抵抗すら許さない核弾頭を投下したアイリス。
いや、乾かすために色々角度を変えるために触ったけど言い方!確かに間違ってないけどさぁ!もうちょっとどうにかならないの!?
バチバチ……という静電気の上位互換のような音が、アイリスの言動に呆けていた俺の耳に届く。
一か月前、アメリカの事件の後に手に入れた(借物)神器「ヤールングレイプル」を装着したセイナが、力をためている時によく聞く音だ。見なくても分かる。そして、この後の展開もよく知っている。
「変態は一変死ねぇ!!」
天使も切れるとショートアッパーするんだな……知りたくなかったよ……
砕けた顎、散りゆく意識の中、俺はアイリスとは別の永眠に就くのだった。
横からケースの中身を覗き見たセイナが、その武器に思わず声を上げる。
ケースに入っていたのは、レンミントンM700、狩猟、競技、法執行機関と様々な分野で活躍するボルトアクション式ライフルで、アメリカ軍の使うM24の従来機だ。見たところ長距離での野戦を想定したタイプにカスタムされているらしく、銃本体だけではなく、ロングバレル、バイポット、高倍率スコープなどのアタッチメント全てに迷彩柄の塗装が施されていた。新品とは違い、表面についた細かい傷や、使用者の好みに合わせて銃床、付属のパーツなどが数回に渡って修正された跡があり、油や火薬の嗅ぎなれた匂いが染みついていた……収納していたケースと同じで、だいぶ年季が入っているみたいだな。まるで、使い古された野球のグローブを見た時の感覚と近かった。普通の人では扱うことのできない、その人専用の道具……なんてレベルではない。四肢と同格と言っても過言ではないだろうな。
「ボクに狙撃を教えてくれた銃。この羽根と同じ、父の形見だ」
白き羽根の狙撃手と呼ばれた父のトレードマークであった羽根。かつては雪のように白かったはずのそれは、撃たれた父の血液で真っ赤に染まり、アイリスが赤き羽毛の復讐者へと成り果てるきっかけを作った代物だ。そのマフラーの胸元に挿された鮮紅色の羽根を握ったアイリスは、考え深くそう告げる。
「リボルバーライフルは銃弾が外に露出している分、風を外部から掛けやすいんだけど、どうしても普通のライフルだと全体が被膜されているから、魔術が掛けにくいんだ」
「てことは、狙撃の精度が落ちるのか?」
昨日のアイリスの話しでは確か、撃った銃弾に風の魔術で回転力を上げ、さらに銃弾の通り道に風の道を作ることで、他の影響を受け付けない、真っすぐな銃弾を遠方まで撃つことができると言っていた。その風が掛けれないということは、ただの普通のライフルに戻ったという認識が正しいのかもしれない。
ただのライフルでは、昨日見たようなアクロバティックな撃ち方や、精度は望めないだろうと勝手に思っていると、アイリスは自信たっぷりに首を横に振った。
「ボクはあくまで他の妨害でも簡単に負けない、かつ威力を高めて飛距離を伸ばすために魔術を使っているだけであって、別に使わなくても当てることはできるよ……ただし、火薬の量は調整できないから、その分の飛距離はどうしても、二キロ前後まで短くなるのと、タングステン合金弾は魔術が安定しない分、上手く扱えなくなってしまうけどね……」
まじかよ……あんなセオリーからかけ離れた乱暴な撃ち方、正直……魔術の力で無理矢理やっているのだと俺は思っていたのだが……狙撃に関してはアイリスも、あの魔術弾使いと同じ、超一流で間違いないだろう。
「じゃあ、あの魔術弾使いのスナイパーは、アイリスに任せて良いんだな?」
アイリスは小さく、それでもって力強く頷いた。よし、とりあえずスナイパーについてはアイリスに任せるとして、後決めなきゃいけないのは────
「あとは、工場のどっから潜入するかよね……」
横でずっと話を聞いていたセイナが、俺の気持ちを代弁してくれたかのようにそう呟く。
そう、囚われのロナを救うためには、工場にどうにかして侵入する必要性があるのだ。
「昨日の俺達の件で、周辺はきっと警戒が強まっているから、搬入する荷物にでも紛れて潜入できれば一番楽なんだがな……」
見取り図も無い、警備体制も分からない、そもそも何の工場なのかすら未だに分かってない建物に潜入なんて、ゲームの世界でしか聞いたことが無い。そんな情弱な俺達が唯一潜入できる方法は、ヨルムンガンドの彩芽が使っていた瞬間移動系の魔術を除けば、やはり荷に紛れて侵入するくらいしか方法は無い。
もしそれをやるにしても、どちらにしろ荷の搬入と搬出のタイミングを調べるために工場に近づく必要があるのだが、やはりそうなると、例のスナイパーに見つかるリスクが高く、かといって慎重になって時間をかけ過ぎれば、ロナはが拷問等に耐え切れず、殺されてしまう可能性も出てくる。迅速かつ、一度も失敗の許されない、今までやってきた作戦の中でも一位二位を争うくらいキツイものかもしれないな……
「あーそのことで一つ提案なんだけど……いいかい?」
色々知恵を絞りながら悩む俺とセイナに、アイリスが右手を上げて発言権を求めてきた。
「なにかいいアイデアがあるのか……?」
「うん、さっき寝てた時に聞いた、セイナのコンテナの話しで一つ、ボクが知っている情報を話すと、連中は、工場の搬入と搬出をほとんど行っていないんだ……」
「じゃあ、荷に紛れて工場へ侵入するのは不可能ってこと?」
八方塞がりな状況に、悲嘆にくれたような声を上げるセイナ。俺もそれに呼応するように唸り声をあげると、アイリスそれを否定気味に「いや……」と一呼吸置いてから話しを続ける。
「その代わり、セイナの言っていたコンテナを、どういう訳か工場で回収しているんだ。中身は分からないけど、それに上手く紛れることさえできれば、侵入できるかもしれないよ……」
「でも、そのコンテナって確か川から流れてくるんだろう?そんなものに、一体どうやって取り付けばいいんだ?」
水中で息をずっと止めることなんてできないぞ……
するとアイリスが急に、運転席から外に飛び出して、「ついてきて」と短く告げてきた。俺とセイナは一瞬だけ顔を見合わせてから、後部座席を降りてアイリスの後について行く。
案内されたのは、どでかいスペアのオフロードタイヤのついた、ジープの荷室の扉前だ。丁度いま俺達が座っていた座席の裏に当たる場所、アイリスがそのジープの荷室の扉を開けると、そこには様々な場面を想定した装備がぎっしり詰まっていた。
「選り取り見取りだな」
「ジープとは思えない、物騒な装備ね……」
俺とセイナが眉を寄せる。電子機器や応急キット、ギリースーツに野戦服といった普通の装備から、術式が刻まれた防魔防弾ベスト、他にもパラシュートに折り畳み式スキー板などなど、数えきれない装備が山のように収納されていた。
「ちょっと待っててくれ……えーと確かこの辺に……」
片膝を荷室に乗せ、紺色のハーフパンツの尻をこっちに向けたアイリスが、ごそごそと何かを探している。
小ぶりな尻だな……俺も割と男の体型にしては細めな方だけど……
近年では同性でもセクハラになるケースがあるのと、余計なこと言って、またセイナが機嫌を損ねても嫌なので、口には出さずに待っていると「お、あったあった……」とアイリスが荷室から、黒い大きなメッシュバッグを取り出した。
「これ、使ってくれ」
そう言って差し出されたメッシュバッグを開けると、中にはドライスーツが二着入っていた。
「これは……?」
本来ドライスーツは、身体のサイズとぴったり合っていないと、密着の具合が変化する関係で着ることができないはずだが……バッグから取り出した二着は、片方が俺、もう片方がセイナの体型にドンピシャで合致していた。
「父とボクの物だ、最も……一回も使ってない新品だけどね……」
再びゴソゴソと、荷室から鈍色の空気ボンベを取り出していたアイリスが、振り返らずにそう告げた。
「空気ボンベは二本、だからチャンスは一回……ふぁぁはぁぁ……これで、コンテナに近づくことができるだろ……」
喋っている最中に大きな欠伸を挟みつつ、眠そうな様子でそう答えたアイリス。さっき運転席で眠っていた時間が短かったせいか、まだ寝足りないのかもしれないな。
「協力してくれてありがとう……アイリス、眠そうなとこ悪いけど、サイズ確かめるの手伝ってもらっていいかしら?」
また頭を下げて、お礼を言うセイナ。雪どころか槍でも降ってくるんじゃないか?
内心で失礼なことを考えつつ、同じように頭を下げていた俺は、セイナのその言葉に何か小さい引っかかりを覚えた。
「ちょっと待て、なんでわざわざアイリスに頼むんだよ?別に俺でいいだろそこは」
ドライスーツで一緒に潜入するのは俺なんだから、わざわざアイリスに頼む必要ないだろ。眠そうなんだし。
怪訝顔でそう言った俺に、セイナは何故か頬をかぁぁぁと紅潮させて、数歩下がりながらこっちを睨めつけてきた。なにその反応……
「アンタって……ホントサイッッッッテイ!!そこまでしてレディーの着替えが見たいの!?」
辛辣な言葉を浴びせられた俺は、その形相に恐れをなして思わず半歩引きさがってしまった。別に悪いことは何もしていないはずなのに。それにアイリスだって男だろ?俺の何がいけないって言うんだ……
アイリスはそんな俺達の前で余程眠いのか、頭をこっくりこっくりさせながら「べつにぼくはなんでもいいよー」とうわ言のように呟いていた。
「な、なんだよその言いぐさは……別にドライスーツの着替えなんて見ても何とも思わんだろ……」
服を着たまま上から装着するだけで、別に恥ずかしいところなんて……過度な露出もあるわけじゃないんだし。
「何とも、何ともっていったぁぁぁ!?アタシの身体にそんなに魅力が無いって言いたいの!?」
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まあ、でも今の会話で何となく分かったのは、多分セイナは訓練でもドライスーツは着たことが無かったのだろう、たまにいるんだよな、ウェットスーツとドライスーツが同じだと思っている人。
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三十度を超えるベトナムの空気がピキッ────と凍る音がした。
寝ぼけたアイリスの口から耳を疑うようなとんでもない爆弾が、俺とセイナの間に投下されたからだ。
コ、コイツ急に何言ってんの……!?
「バ、バイ……ですって……?」
唖然とした顔で呟くセイナ、いや俺はヘテロ、ストレートだから!
「しかも、ホモよりのバイ……ボクにそう言ってきたから間違いない」
「言ってねーよ!!そんなこと!!」
追加で爆撃してきたアイリスに、俺は否定するが、嘘の情報を信じ切ってしまったセイナが、憐みのような表情でこっちを見ていた。何その顔!?今まで一度も見たことがないやつ!
「ご、ごめんなさいフォルテ……まさかアンタが、その、心の病を抱えていたことに気づかなくて……」
「違う違う!俺はバイでもホモでもないから!ヘテロ!ノンケ!ストレート!女の子ラブだから!そういう言葉は、ホントに苦しんでいる人達に言ってあげて!」
途中────かなりキモイことを言った気がするが、一変したセイナの態度が天使のように慈悲深い、マジでそう思っている様子だったので、俺は誤解を解くために身振り手振りを交えながら、かなり大袈裟に否定する。クソッ!こんな激しい爆撃は初めてだ……!
「……その証拠に……洞窟ではボクには興味ないって……あちこちベタベタ触ってきたし……」
必死に爆撃に耐えていた俺に、抵抗すら許さない核弾頭を投下したアイリス。
いや、乾かすために色々角度を変えるために触ったけど言い方!確かに間違ってないけどさぁ!もうちょっとどうにかならないの!?
バチバチ……という静電気の上位互換のような音が、アイリスの言動に呆けていた俺の耳に届く。
一か月前、アメリカの事件の後に手に入れた(借物)神器「ヤールングレイプル」を装着したセイナが、力をためている時によく聞く音だ。見なくても分かる。そして、この後の展開もよく知っている。
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やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
児童書・童話
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
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