SEVEN TRIGGER

匿名BB

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赤き羽毛の復讐者《スリーピングスナイパー》

暁に染まる巨人《ダイド イン ザ ダウン》3

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「ごめんなさい!」

「えっ?」

 しゃべろうとしたタイミングが、セイナと被ってしまった。
 しかも、顔を背けたままだったセイナからは想像できないその言葉に、てっきり怒っていると思っていた俺は、ドライスーツを着脱していた手が止まる。

「あ、ご、ごめん……先にいいわよ……」

 話しの腰を折ってしまったことに謝りつつ、セイナがぎこちない様子で譲ってくれた。

「いや、こっちこそごめん……俺の話しはその……別に大したことないから……そっちからで大丈夫だけど、急にどうしたんだ?謝ることなんて何も……」

 セイナの様子に感化されて、俺もしどろもどろに何とかそう返した。正直、セイナのどこか気恥ずかしそうにしている今の姿が可愛すぎて、自分がなんて言おうとしたかなんて忘れてしまっていた。

「いや、その……ドライスーツのことを勘違いしていたアタシが、フォルテに色々怒鳴ったでしょ……それにさっきもアタシが手間取っていたせいで危うく遅れかけたり……なんか、迷惑ばっか掛けちゃってるなって……」

 セイナは俺に背を向けたまま……どこか自信なさげにそう呟いた。
 なんでも基本的にはそつなくこなすセイナにとって、ここ数日は失敗の連続だった。東京タワーから始まり、ロナが捕まったり、ドライスーツで手間取ったり……上手くいかないことに、少しナイーブになっているのかもしれない……
 だから俺は────

「別に、セイナが謝ることはないさ……お前はよくやってくれているし、俺だって……色々その、迷惑かけることがある……でも、だからこそのパートナーじゃないか?」

 人間は失敗から学ぶ生き物だって言っていた師匠の受け売りに近かったが、俺の本心でもあるその思いに、セイナが、暗いコンテナでも目立つくらい顔をかぁ……と赤くした。地上に上がって体温が上昇した紅潮こうちょうではない、彼女が嬉しい時に見せる癖……それが分かるくらい、セイナとは数多くの修羅場を潜り抜けてきた。最初は全く乗り気でなかったパートナーも、さっきのように咄嗟にカバーできるくらい、今ではすっかり板についている。

「だからそんなこと気にすんな、お前の失敗は俺がいくらでもカバーしてやる。その代わり、後ろは任せるぜ相棒……」

 ちょっとクサイ気もするセリフではあったが、かつての相棒と同じでセイナに対しても自然な思いを伝えることができた。その殺し文句にセイナは無言のまま小さく頷き、シャン────と揺れる長いポニーテール。メンタル面はこれでもう心配なさそうだな……
 顔を背けたまま、機材の取り外しをしていたセイナにバレないよう、俺が内心でふぅ……と安堵のため息をつく。作戦前になんとか関係を修繕できて良かった────

「……フォルテはさっきなんて言おうとしていたの……?」

「へっ?」

 思いがけないその問いに、俺は素っ頓狂な声を漏らしてしまう。

「さっき「お前……」から聞き取れなかったのよね……なんて言おうとしていたの?」

「いや、その~……」

 こっちに振り返ったセイナに、今度は俺が背を向けた状態で口籠くちごもる。
 ────このいい雰囲気の中、実は気まずくて何も考えていませんでしたーなんて、口が裂けても言えんぞ……
 返答に迷う俺に、セイナはくりくりした可愛い瞳のまま、小さく小首を傾げる。
 こ、これ以上黙っていると、流石にバレるッ!そう思った俺はつい────

「お前、香水変えたんだな……って……」

「……」

 お、俺は一体何の話しているんだ……!??

「ご、ごめん!い、今話す内容じゃないよな!ははっ!はははっ!!」

「お前」からつなげようとして、さっきふんわりと感じた香水のことを言ってしまった俺は、振り返りながら無言のセイナにバタバタと両手を振って弁明するが────

「っ~~~!」

 何故か振り向いた先にいたセイナが、両手で口元を抑えて目を丸くしていた。しかも、無言だったのではなく、声にならない歓喜の悲鳴を上げている様子だった。どういうこと?

「セ、セイナさん……?」

 グーパンは覚悟していたのだが、ハリウッドスターでも見るかのようなそのキラキラとした瞳に、俺はつい敬語になってしまう。見たことのない反応に、探りを入れるようにいぶかる視線を俺が向けていると────

「……き、気づいてたんだ……」

 喜悦きえつ驚嘆きょうたんぜしたような声を漏らすセイナ、ちょっと不気味に感じるくらいの変化だったが、どうやら怒っているというわけでは無いようだ。

「す、数日前の港区の時にな……水仙すいせんからローズの香りに変えたんだな……」

「……ど、どうかな……?」

 若干、内股気味になったセイナがもじもじした様子で聞いてくる。さっきよりも真っ赤な顔に気恥ずかしそうな態度に、見ているこっちまで恥ずかしくなってくる……

「い、いいんじゃないか?俺は前のも好きだけど……今の匂いも似合っていると思うぞ……」

 状況を理解しきれていない俺が当り障りのない答えを述べると、セイナはついにキュンッ!と聞こえそうなほどに小さく跳ねてから、にへーとだらしなく口元歪ませた。嬉しいってことでいいのか?その態度は……?
 よく分からないが、セイナが嬉しいならそれで構わないけど……鉄拳制裁をくらうよりかはよっぽどマシだしな……

 ガクンッ!

「「!?」」

 突然、コンテナが大きく揺れて、俺達はバランスを崩した。
 水面でコンテナがひっくり返ったのではない、これは……何かに運ばれているのか?

『────あー聞こえる?二人とも……』

 耳に付けていた小型無線に、生気を感じない声が響いてくる。
 十時間ほど睡眠を取って、工場上の山で待機中のアイリスの声だ。
 バックアップ要因として、俺達の動向をスコープ越しに観察してもらっていたのだが……

「アイリス、今の衝撃は?」

『……クレーンで二人の乗ったコンテナが吊られたもの……あと三秒で工場内のコンベアに着荷するよ……』

 ────ガコン!

 アイリスの言う通り、足元に衝撃が走る。
 外では何人かの工場職員が、なにやら作業している音が聞こえる中、俺達はバレないように息をひそめる。

『今職員の確認が終わった、これから先はボクにも分からない……健闘を祈るよ……』

「えぇ……何かあったら連絡して、アイリス」

 セイナがそう小声で呟くと、コンテナはゆっくりと工場内に向けて移動を始めた。
 ガタガタと響くベルトコンベアに合わせて運ばれる俺達、この先に一体どんな光景が広がっているのか……そして、ロナはどこにいるのか……一気に緊張感が高まってくるのを感じた。

「ねぇ……そろそろ離してくれないかしら……」

 暗いコンベア内で、セイナの声がもの凄く近くで聞こえてきた。

「……!??」

 胸元に収まった小さな身体……それを抱きしめていた俺……
 今の今まで気づいてなかったが、さっき揺れた時の衝撃でこっちに倒れかけたセイナを、俺は無意識に抱きしめていたらしい……

「す、すみません……」

「なんで敬語なのよ……?あと、なんでそんな身構えているのよ……」

 ドライスーツとはまた違った、いつもの私服の感触から手を引っ込め、正当防衛のため、ファイティングポーズを取った俺にセイナはブチギレる……ことはなかった。

「アタシのこと、支えてくれたんでしょ?その……ありがとう……」

 普段ならプロレス技のメドレーに付き合わされるところだが、機嫌がいいのかお礼まで言われてしまったぞ……いや、本当に助けるつもりで抑えていたからそれが普通のはずなんだけど……俺の感覚が普通からかなり麻痺していることがよく分かる。

「……ここはもう敵地よ……このことは……今は集中しなさい……」

 お天道様のように、にっこり笑みを浮かべてポンポンと肩を叩くセイナ……
 訂正……機嫌は良いが、静かにキレているらしい……そんなこと聞いて集中なんてできませんよ?セイナさん……
 作戦終了後の死刑宣告、セイナなりに無事に帰ろうと揶揄やゆしたのかも知れないが、がっくりと肩を落とす俺……そんなこと言われたら集中できねーよ……

 ガガンッ!!

 再びの衝撃、だが今度のはさっきとまた違う。
 地と壁が入れ替わるように、横長のコンテナが何かの力で直立していく。

「クッ……!?」

 ジャラジャラと音を立てて地となった壁に流れる鉄くず。その斜面を這いずって、俺達は何とか生き埋めにならずに済んだ。何かにまた吊られているのか、ブランコのような振り子の動きをするコンテナ、横幅が狭く、高くなった天井を俺達が見つめていると────

 ガシャン!

「「なッ!?」」

 地面となっていた鉄くずの支えが一気に無くなったように軽くなり、下方向に引っ張られていく!足元からは眩い光と灼熱の熱風が同時に流れ込んできた。コンベアの底が解放されて、中身を外に排出しているんだ……!
 落下に備えるため、眼下を確認した俺達は、恐怖で表情が凍り付いた。
 突然入り込んできた眩い光と熱源の正体────巨大なマグマのような溶解炉が、足元一面に広がっていた!
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