SEVEN TRIGGER

匿名BB

文字の大きさ
143 / 361
赤き羽毛の復讐者《スリーピングスナイパー》

暁に染まる巨人《ダイド イン ザ ダウン》4

しおりを挟む
「マジかよッ!?」

 焼けるような熱風に晒された俺は目を剥く。
 どうやらここあった鉄屑は、製鉄に使用されるものだったらしく、急にコンテナの向きが変わったのは、中に含まれる材料を溶解炉に投下するために、ピットクレーンが吊り上げていたからだったらしい。
 焦熱地獄しょうねつじごくを思わせる、ボコ……ボコ……と空気が弾ける溶解炉ようかいろ。距離は十メートル以上離れてはいるが、火花を散らして煮え立つ鉄の融解温度は約千六百度以上……ここからでも肌が焼けるように熱いってのに、そんなところに落下すれば人間なんて一溜まりもない。
 こんなところでターミネータ―ごっこをするつもりがない俺は、装備の入った防水性バッグの持ち手に空中で腕を突っ込んでから、開放されたコンテナの扉、ウェスタン扉のようにパカパカしていたそれに左手で捕まった。

「きゃっ……!?」

 着ていたドライスーツやダイビングの機材が鉄屑と流されていく中、もう片方の手で横に居たセイナの左手をギリギリで掴む。
 UFOキャッチャーの景品のように、不安定な状態のままグラグラとコンテナごと振り回される俺達。触感のない義手でなんとか捕まってはいるが、腕と義手はベルトで固定してあるのみ。スポーンと抜けないように腕を曲げた状態で耐えてはいるが……落ちるのは時間の問題だった。

「フォルテッ!アタシのことは────」

「離せとか言うんじゃねーぞ!!ちょっとでも気い抜いたら……落ちる……!!」

 もし余計なことを考えて、間違った脳波を義手が受け取れば、誤動作で手を離してしまう可能性もあり、それに加え、抜け落ちないように腕や胸の筋肉に意識を集中する必要がある。
辛い、熱いといった感情すら捨てて、奥歯を噛み締めた表情でただひたすらに耐えていると、数秒経ってようやくピットクレーンが溶解炉の外に向かって動き始めた。
 ほっと俺とセイナが胸を撫で下ろした。作業が完了したのか、鉄屑の投下地点から遠ざかっていくピットクレーン。気は抜けない状況に変わりはないが、このまま行けばすぐに溶解炉ようかいろから脱出できそうだった。
 セイナの左手を掴んでいた汗ばむ右手を握り直し、溶解炉の外まで数メートル切ったタイミングで、ぴたり……と何かを思い出したようにピットクレーンが動きを止めた。

 ガゴンッ!!

「「あっ」」

 刹那の出来事に、思わず漏れた間抜けな俺達の声。まさにUFOキャッチャーと同じ、掴んだ景品を受け取り口に落とすが如く、のコンテナをピットクレーンが手放した!

「っざけんなぁぁ!!」

 文字通り、安堵から奈落に突き落とされたかのような気分に陥った俺が、右眼を三角目にしてぶちぎれた。
 二十フィートの巨大なコンテナが上空を覆い、溶湯ようとうとサンドウィッチにされて完全に逃げ道を失った。マジでI`llアイル be backビーバックする五秒前……と、その時、何かに気づいたセイナが大声で叫んだ。

「フォルテ!あれ!」

 ただでさえ薄暗い工場で、さらに溶湯ようとうから滲み出る陽炎と煙で視界が悪い中、セイナが右手で指さした先────溶解炉の外、数メートルの位置に工場を支える鉄柱が一本見えた。

「クッ……」

 セイナの呼びかけの意味を察した俺は、言われなければ気づかなかったそれに向け、コンテナ扉から離した左手を突き出し……バシュウッ……!!と空圧音を立てながら、手首から先が勢いよく射出された!

「届けぇ!!」

 落下に伴って、肌をフライパンで焼かれるような感覚から、バーナーで丸焦げにされているような熱さの変化をじかに感じながら、祈るように伸ばしたワイヤー仕込みの左手。義手に内蔵された巻取り用のリールが高速で回転する、キュルキュルと甲高い摩擦音を響かせながらパーにした手が鉄柱に────と、届かねえ……!?

「はぁッ!!」

 数センチ手前で虚空を掴む左手に、絶望で声を失う俺。それをセイナはあろうことか、手を掴んだままの状態で蹴りを一発お見舞いしてきた。さっき貰ったストンピングと同じ三トンキック……いや、象すらほふることのできそうなマジ蹴りで、十トンは軽く超える殺人キックを尻に食らった俺が、奇跡的に数センチ鉄柱に近づいた。お前この仕事辞めて総合格闘家とかになった方が良いんじゃないか?容姿も可愛いから、そっちの方が儲かるぞ。
 まあ何はともあれ、多少(かなり)乱暴ではあったが何とか鉄柱に捕まることのできた俺達は、ターザンのように溶湯ようとうすれすれを通過しながら、引き寄せたワイヤーで溶解炉外の鉄柱に取り付くことに成功。今度こそ、俺達二人は安堵のため息を漏らした。





 工場内に無事に潜入したはいいが、地図も何もない俺達は、監視の目を潜り抜けながらロナの捜索、及び工場についての情報を手当たり次第に探っていた。この工場は、ドローンで撮影した外部写真から分かっていたが意外にでかい。それこそ、以前ベルゼと戦った時の廃工場、その三、四倍くらいはありそうな規模で、社員もざっと数えただけで数百人は所属しているようだった。そんな大規模工場が二十四時間フル稼働で作っていたものは……

「やっぱり銃だな……」

 大型フォークリフトも通れる広い通路、その端に乱雑にまとめてあった資材の陰から俺が呟いた。
 港区でトランクケースに入っていた銃はきっと、ここで密造密売された製品なのだろう……
 上流から運ばれてくるコンテナは全て、銃のフォルムを形成する鉄、ウッドストックなどに使用する木材、銃弾を形成するなまりなど……銃を作成するために必要な材料が積まれていたらしく、俺達はその中でも外れクジの鉄を引いたらしい。木材なら投下しない。鉛だったとしても鉄との混合を防ぐためにコンテナは回収するってのに……いや、ここはプラスに考えて、まさかあんなところから侵入する馬鹿なんていないだろうと、向こうの警戒が薄かったおかげか、今もこうしてバレてはいないのだから良しとするか。

「……それにしては、随分と作りが凝っていないかしら?手際といい、姿勢といい、見た目はともかくとてもコピー品を作っているようには見えないわね……」

 セイナが不振点を口にしながら眉をひそめた。
 確かに、過去に見たフィリピンなどの密造業者は、火薬を扱っているとは思えない気安さで、銃を作成していた。雨ざらしの中、煙草片手にへらへら作業する彼らと違い、目の前の男達……野戦服を着こんだ軍隊兼作業員らしき人達は、皆が真面目な顔つきで作業していた。見た目だけでなく、音や質感も確かめながら、ただひたすらに作業している姿は、まさに職人という言葉がぴったりだった。もしかしたら、旋条痕ライフリングマークが合致したのも、彼らの寸分狂わぬ作業があったおかげかもしれないな。
 だが、何故だろう……ここにいる人達からは、仕事に対する喜びのような感情は一切伝わってこない。まるで、何かの目標に向けて感情を殺し、せかせかと効率と制度だけを求めるロボットや、操り人形マリオネット……そんな印象に近かった。
 勝手に工場見学している俺達は、そのまま作業を観察していくと、下工程に行くにつれて作業環境が良くなっていく中、ロナを見つけることができないまま、最後の梱包こんぽう現場げんばにたどり着いてしまった。

「あれ……くまなく探したよな……?」

 工場は大きいと言っても平屋。二階は無かったはずだが、もうこれ以上探せそうなところはなかった。

「隠し部屋でもあるのかしら……」

 ここまでの記憶を辿るように瞳を閉じて考えるセイナを横目に見つつ、俺は梱包の様子を眺めていると────

「五つ完成した、今からそっちに取りに行く」

 十人ほどの作業者の中、無線を持った班リーダーらしきベトナム人の男が短くでそう告げ、持ち場を離れていく。
 そう言えばこいつら、俺達を襲撃した時も英語で最初話しかけて来たよな。そしてこの工場内でも、張り紙、注意書き等も合わせて、皆がネイティブな英語を使いこなしていた。それこそ、ワシントンで聞いてもおかしくないレベルに自然な────

 ちょんちょん。

 考えていた思考がそこでストップされた、横に居たセイナが俺の脇腹を指で突っついたらしい。

「フォルテ、アイツをつけましょう……」

 そう言ってセイナは班リーダーを追うため、作業者に見つからないようタイミングを見計らい、監視カメラの死角つくように飛び出そうとした瞬間────尾行しようとしていた男とすれ違うようにして、別の男が通路から歩いてきた。

「……待てッ……」

 班リーダー格の男との身長差で見えなかったのか、それに気づかず尾行しようとしていたセイナの腕を引き、置いてあった廃材の陰へと強引に隠れる。驚いたセイナを片手で落ち着かせてから、バレないようにゆっくりと顔半分だけ覗かせた俺は、

「……ッ!?」

 その人物に、眼が飛び出そうなほど驚愕し、思わず口に出そうになった声を右手の甲でなんとか抑えた。
 視線の先……中学生がワックスに失敗したのかと思うくらい、脂でべっとりとした髪の毛とダサいチョビ髭。サーカスのピエロのような小太りでチビの中年男。他の作業者と違って野戦服ではなく、だぼだぼの高級イタリアスーツ。作業着の方がまだマシだろうと思う程に残念なあの見た目は、忘れもしないあの男は……

「チャ、チャップリン!?」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る

伽羅
ファンタジー
三つ子で生まれた銀狐の獣人シリル。一人だけ体が小さく人型に変化しても赤ん坊のままだった。 それでも親子で仲良く暮らしていた獣人の里が人間に襲撃される。 兄達を助ける為に囮になったシリルは逃げる途中で崖から川に転落して流されてしまう。 何とか一命を取り留めたシリルは家族を探す旅に出るのだった…。

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。 ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!? 俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。 第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。 「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」 信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。 賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。 様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する! 異世界ざわつき転生譚、ここに開幕! ※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。 ※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。

追放されたS級清掃員、配信切り忘れで伝説になる「ただのゴミ掃除」と言って神話級ドラゴンを消し飛ばしていたら世界中がパニックになってますが?

あとりえむ
ファンタジー
【5話ごとのサクッと読める構成です!】全60話 完結しました。読者の皆様ありがとうございます! 世界を救ったのは、聖剣ではなく「洗剤」でした。 「君のやり方は古いんだよ」 不当な理由でS級クランを追放された、ベテラン清掃員・灰坂ソウジ(38歳)。 職を失った彼だったが、実は彼にはとんでもない秘密があった。 呪いのゴーグルのせいで、あらゆる怪物が「汚れ」にしか見えないのだ。 ・神話級ドラゴン  ⇒ 換気扇の頑固な油汚れ(洗剤で瞬殺) ・深淵の邪神  ⇒ トイレの配管詰まり(スッポンで解決) ・次元の裂け目  ⇒ 天井の雨漏りシミ(洗濯機で丸洗い) 「あー、ここ汚れてるな。チャチャッと落としておくか」 本人はただ業務として掃除をしているだけなのに、その姿は世界中で配信され、人類最強の英雄として崇められていく! 可愛い元ダンジョン・コアや、潔癖症の聖女も入社し、会社は今日も大忙し。 一方、彼を追放した元クランは、汚れ(モンスター)に埋もれて破滅寸前で……? 「地球が汚れてる? じゃあ、一回丸洗いしますか」 最強の清掃員が、モップ片手に世界をピカピカにする、痛快・勘違い無双ファンタジー! 【免責事項】 この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。

処理中です...