SEVEN TRIGGER

匿名BB

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神々に魅入られし淑女《タイムレス ラヴ》

夏の音(ヴァケーションフェスティバル)1

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 ────昔々、あるところに、一人の少年が居ました。
 下級武士の末っ子に生まれた心優しき少年は、決して裕福な環境とは言えませんでしたが、尊敬すべき両親と、心優しき兄や姉達と共に幸せな生活を送っていました。
 しかし、そんな幸福は長くは続きませんでした。
 鬼が────少年の村を襲ったのです。
 優れた武具と人間離れした力を携えた、です。
 村の人達は必死に抵抗しましたが、それでも敵うはずもなく、最後には少年の家族だけが取り残されました。
 父と母は息子達のため囮になります。
 兄や姉達も、家宝である太刀を少年に渡しては家の奥へと連れていきます。
 しかし、その背後から父や母の悲鳴が追いかけてきます。
 両親の声は気が付くと兄へと変わり、長女、次女へと形を変えて、最後には誰のものも少年の耳には届かなくなっていました。
 ずっと手を引いていた末女が家の再奥地で立ち止まります。
 誰も入ることを許さなかった厳格な父の部屋の前です。
 もしもの時は貴方だけでもと父上から言われた。
 これからは一人でも頑張って生きていくのよ。
 末女の言葉を少年は理解できなかった。
 友達や近所の知人、家族を殺されている状況下では決して理解できるはずが無かった。
 それでも少年は頷いた。
 ただ力いっぱい頷いた。
 末女の最期の笑顔を曇らせたくなかったから。
 少年は部屋へと押し込まれた。
 閉ざされた扉の向こうで、刀を手にした末女の断末魔が微かに聞こえた……気がした。
 溢れた涙を堪えようと、部屋の中央で握りしめた家宝の太刀の下。
 少年は床に刻まれた円形模様の上、薄暮の光と共に姿を消した。






「ハァァッ!!」

 自宅前の平原。
 真夏の暑苦しい陽気にしては、随分と気勢の入った掛け声。
 そこから繰り出される斬撃に反して、その立ち姿は可憐な一凛花。
 イギリス王室の貴族にして、SASの隊員でもある少女、セイナ・A・アシュライズは、その犯しがたい、清廉潔白を体現する槍捌きで、無数の斬撃を繰り出す。

「ッ!」

 洗練された斬撃の数々を俺は躱す。
 元アメリカ特殊部隊『S.Tセブントリガー』にして、今はFBIによる国際指名手配犯という複雑な立場ながら、目の前の少女の神器及び父親捜しに協力している俺ことフォルテ・S・エルフィーは、斬撃を躱すごとに、羽織っていた黒衣を鴉の両翼のようにひらめかせる。
 空を切る斬撃には何の感情も抱かず、ただ虎視眈々と反撃する機を伺う。
 ここだ!
 双頭槍グングニルから繰り出される連撃の隙間。
 突き出した小太刀の切っ先が炎天下で鋭く煌めいた。

「甘いわ!」

 躱すことも防ぐことも難儀な一撃を、双頭槍グングニルの中央に位置する柄でセイナは難なくいなして見せる。
 懐を苦手とする槍をここまで自在に操れるのは、彼女自身が今もこうして毎日の鍛錬を怠らないからだ……ということは誰もが認める事実であり、それは犬猿の仲であるあのロナでさえも否定しない。
 何より、こうして毎日鍛錬に付き合わされている俺がそれを一番理解している。
 互いの手を知り尽くしている俺達は、癖や傾向を見極め、誘いやカウンターなどを交えながら何度も何度も刃を切り結ぶ。
 火花と一緒に散る汗が気持ちいい。
 手に汗握るとはこういうことを言うんだろうな。
 そんな、専心する意識下で独り言ちた頃だった。

「二人とも!そろそろご飯だよ!!」

 目覚まし時計のようなけたたましい叫びを聞いて、俺達二人の切っ先が同時に止まる。
 声をした自宅の方を見れば、入り口から顔を覗かせる少女が一人、やや不満顔を浮かべていた。

「もぅ……早くしないとアイリスが全部食べちゃうよ!?」

 感情と共に銀髪のツインテールをビシッと跳ね上げた少女。
 S.T時代の元部下でありながら、現CIAの副所長でもあるロナ・バーナードは、今日が料理当番ということもあって、普段のラフなキャミソールとショートパンツに併せて、フリフリのピンクエプロンとおたまを振りかざしていた。

「分かった、すぐ行くよ」

 俺は大声でそう返してから、鍛錬の終了を促すように小太刀を鞘へと納刀する。
 それを合図に緊張の糸が切れ、朝食をまだ取っていない空腹感と、約一か月振りに身体を動かしたことへの疲労感が同時に襲い掛かった。
 しかし……

「ちょっと!決着がつくまでってさっき言ったじゃない?」

 ロナに続いてセイナまでもが不満を表すように唇を尖らせる。
 彼女がごねるのは間々あることだが、久しく組み手相手が返ってきたことで、いつもより余計に熱が入ってしまっているらしい。

「十分前にもそれで引き延ばしただろ、いい加減戻らないと本当に朝食全部アイリスに食われちまうぞ?」

 茶髪の長い三つ編みと夏でも巻いているマフラーが特徴で、一か月前からここで面倒を見ている、元部下レクスの弟子であるアメリカスナイパー、アイリス・N・ハスコック。
 朝食が無くなるというのも、彼女は特殊な体質で魔力保有率が高いこと、及びその消耗が激しいこともあって、とてつもなく大食らいだ。
 それは俺が眠っていた先月の食費が普段の五倍にまで跳ね上がっていたことを考えれば嫌でも分かる。
 きっと今頃も、ロナが俺達分の朝食からアイリスをいさめているのは想像に難くない。
 それでもセイナは三度の食事よりも鍛錬を中断したことにご機嫌斜めな様子で、自宅に戻ろうとする俺の背に妙なジト目を向けていた。

「はぁ……分かったよ。飯食った後にもう少し付き合ってやるよ」

「ホントに!?」

 折れた俺の提案に声のトーンが一つ上がる。
 背中越しでも伝わるくらい頬を緩ませたセイナがスキップ気味に俺の隣に並ぶ。
 分かりやすい奴だな……

「それでフォルテ、明日の予定なんだけど……」

「明日の予定?」

 不意にそんなこと聞かれて隣のセイナへと視線を落とす。
 すると彼女は珍しく、どこか落ち着かない様子で両手に持った槍に身をよじらせていた。
 急にどうしたんだ……?

「明日の……その……夜って空いている……かしら?」

 継ぎ接ぎだらけの言葉でそう告げたセイナ。
 その急な話に、俺は顎に手を置いて考える。
 明日の予定……明日の予定。

「悪い……明日は朝から晩まで外せない用事があるんだ」

 明日、というよりも明日からの数日。訳あって外せない仕事があることを思い出して俺はそう返すと……

「え、外せない用事?」

 つい数舜前まで晴れやかだったセイナの表情が、世界の終末でも悟ったかのように影を落とした。

「明日よ明日?明日に限って、一体どんな用事なのよ?」

 普段は俺の予定なんて毛ほども気にしていないセイナの態度にどこか違和感を感じつつも、俺は肩を竦めて見せる。

「仕事の関連でお偉いさんから、行きたくもねえパーティーに誘われているんだ」

 朝の眠気を噛み殺しながら呟く俺は、セイナが物凄い表情をしていることに気づいていない。
 そのやる気のない言い方が余計に癪に障ったのだろう。
 俺の返答にセイナは眼の色を変え、納得するどころか更に詰め寄ってくる。

「行きたくないなら断ればいいじゃない!」

 しまった。
 朝食をまだ取っていなかったせいか、考えなしに告げた自分の言葉に毒づく。
 どうやら彼女の何か見えない地雷を踏み抜いたらしい。
 俺はバツが悪いと顔を顰めた。

「……それでも行かなきゃならない理由があるんだ……」

 大量の借金を抱える身としては、一銭にもならない明日の仕事は憂鬱以外の何物でもないのは事実だが、それでも断ることはできない。
 何故ならそれは、セイナの────

「……はぁ……分かったわよ。仕事でしょ仕事。献身的で大変素晴らしいことですわっ」

 慇懃無礼な態度ですっかりヘソを曲げてしまったセイナが、言葉とは裏腹に肩をがっくりと垂れ下げ、大きな嘆息を交えつつ自宅の方へトボトボ歩き帰っていく。

「お、おい……っ」

 一体何だってんだ?
 小っちゃい背が更に小っちゃくなった後ろ姿を俺が追いかける。
 昇ったばかりの朝焼けが俺達の背をジリジリと焼き、遠くの空ではお祭りの空砲が鳴り響いていた。

 夏が────やってくる。

 熱くて、辛くて、悲しくて、そして……忘れらない、あの夏が────
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