SEVEN TRIGGER

匿名BB

文字の大きさ
295 / 361
神々に魅入られし淑女《タイムレス ラヴ》

ネモフェラのお告げ6

しおりを挟む
「神器と言うのは二つある。コイツが持っているような予言者の杖プロフェクトウォンドや、おたくのセイナ嬢が持っているような生粋元来の本物モノホンの神器。そしてもう一つが、それら力を併用して作った『人工神機』。あのヨトゥンヘイムはなぁ、バカ親父が作り上げた神器の力を利用してぶ箱舟なんだ」

 人工神機。
 言葉は知らなかったが、それらに覚えはある。
 セイナが東京タワーの先端を吹き飛ばした密輸された弾薬。
 電気でも魔力でも油圧でもない、未知の動力源で稼働していた戦闘騎兵グリーズ。
 ベトナムで見た神器を利用した研究工場。
『神の力を動力とした兵器』。チャップリンがグリーズに乗り込んだ時の妄言と思っていた言葉が記憶の片隅で再生される。

「じゃあ、神器を集めていたのはそのためか?あれを飛ばし続けるための」

「いや、それはないだろう」

 きっぱりとした否定に、俺のみならずロナも片眉をピクリと動かす。

「いいか、両者の決定的違いは力が尽きるか尽きないかにある。前者は永続的に、後者は蓄蔵的に神の力を振るうことができる。つまり、あれほど巨大な飛空戦艦じんこうぶつを飛ばすための動力源は既に内部構造として取り組まれているのだろう」

 バカ親父ならその辺りの欠陥など幾らでも改善できる。
 呼称こそ忌嫌うものだが、その腕には誰よりも信用している彼女だからこその言葉である。

「『ならどうして?』といったかおだな。それまでは私には分からないさ。どうしてセイナ嬢を連れ去ったのか。内部構成員であったそこの田舎魔女ですら知らなかったことだ。もしかするとそれらに起因するのやもしれないが……」

 それ以上はこの鬼才を以てしても計り知れないことらしい。
 まぁいい。相手が誰であろうと関係は無い。
 セイナを取り戻す。今の俺にとって必要なのはそれだけだ。

「結果……出た」

 首筋にゾクリッと来るような冷気を纏った声が投げかけられる。
 再びブツブツと考察を始めるベッキーを横目に、いつの間にか魔力の煌めきを収めたアルシェが傍に立っていた。

「その表情は、大凶か?」

 再び座席に腰掛ける俺を、機内照明を遮る魔女帽子から覗く淡い水色ベビーブルー
 物悲しく揺れるそれを見て、今日の運勢は外れと肩を竦めてしまう。

「いいや、さっきも言った通り今回はそういった類いの占いではなくお告げだ。曖昧な運気を出すものではなく、この先君の君の将来を左右する助言のようなものだ」

 それは元来、人々が不幸な出来事に巻き込まれないためのおまじないであり、靴紐が切れて転ぶ、大雨に振られる、そういった些細な事故から身を護るための術を教えてくれるものという。
 しかし時としてそれは、雷に打たれるような、毒蛇に噛まれるような事象を引き当ててしまうことがあるらしい。

「今回は、その最たるものを引き当ててしまった」

「死……か」

 キーボードを叩くロナの手が止まる。
 アメリカの時と同じでアルシェは二度目の死刑宣告を言い渡す。
 それら原理こそさっぱりだが、この少女がつまらない嘘を吐かないことは、ここまでのやり取りから見てまず間違いない。
 何より、言葉に詰まるこの小さな魔女の姿から、質の悪い冗談でないことは明白だろうな。

「それで?」

「え?」

 気落ちしていない俺の言葉にようやく彼女がこちらに焦点を合わせた。

「お告げだよ。死という過程はまあ置いておいて、それを回避する手段も同時に聴けたんだろ?ならそっちを教えてくれよ」

「君は……怖くないのか?どうしてそんな、そんな表情かおでいれるんだ。あの時、私を救ってくれた時と同じような……」

 指摘されるまで気づかなかった。
 まさか死を告げられて笑っているなんて……
 その理由わけがよく分からず、吟味するように俺自身という思考に訴えかける。
 深く悩むと思っていた思考それは、いとも容易く言語化できてしまう。

「死んでも良いと思える仲間達を見つけたことかな……」

 満足気に語る俺とは別、この場に居た全員がその言葉に凍り付いた。
 きっと、その言葉もまた冗談などではない、俺の本心であると判ってしまったから。

「あーでも、別に死ぬ気があるって訳じゃない。昔は正しいと思っていた自己犠牲も今はあまり好かないし、人より永く生きて来たけど、死だけは一度も経験したことないから……正直怖い」

 栄枯転変、どんなものにも始まりがあって終わりがある以上、死というのは必ず訪れる。
 それは皆が平等に受ける権利であり、同時に二度と体験することのない経験。
 怖くないはずなんてない。

「でも、そのたった一つしかないその命を俺のために張ってくれる人達が居た。皆が俺のことを信じて……だから俺も……」

 皆のためにこの命を張りたい。
 投げ捨てるのではなく、誰かのために振るう。
 その為の力も、居場所も、そして……仲間も。俺は手に入れることができたのだから。

「分かった」

 決意を読み取ったアルシェが瞳をキュッと一度絞り、決意した慧眼を見開いた。
 そこに動揺は無く、告げられた神のお導きをありのまま口にする。

「近い未来、君の死は『必定』。回避したくば絶対に意志を曲げないことと、多くを求めないことだ」

「多くを……?」

 最初は良い、だが後に続いたそれはいまいち具体性に欠ける。
 一体何に対し、俺は多くを求めてはならないのか……

「残念だけどここまでだ。これ以上の助言はあるべき未来を曲げる行為。即ち自然の摂理への反逆と捉えかねない。そうなれば私はおろか、ここに居る全員が死ぬことになりかねない」

 アルシェはそれ以上、多くを語ることは無かった。
 胸の内で何度も何度もその言葉を反芻させては収めようと努力するが、結局、その瞬間が訪れるまで俺には分からなかった。


 それから数分、戦闘区域に突入した機内は重苦しい沈黙に包まれていた。
 作戦前とはいえ、俺が所属していた、もとい、指揮していた部隊は大抵、作戦開始間際まで騒がしい連中が多かった。しかし今は、遠来する爆撃の音が響くばかりで、あとは各々自分の世界に閉じこもっていた。

「ねぇ……フォルテ」

 そんな静寂を破ったのは、隣に腰掛けていたロナだった。
 ハニーゴールドの瞳に落ち着きは無く、指は物寂しく銀髪の先を弄っている。
 いつもならセイナが居ないことを良いことにベタベタと寄り添ってくる彼女だが、珍しく今は適切な距離に身を置いていた。
 機体に乗るくらいからどこか様子がおかしかったが、それは何か仕事をしているからだと勝手に思い込んでいた。
 だが、いつからかそのキーボードを叩いていた手は鳴りを潜め、このような静寂を作り上げていたことに、俺は声を掛けれてようやく気付かされる。

「どうした、不安か?」

「……っ」

 握ろうとした手を反射的に引っ込めるロナ。
 拒絶とも取れる態度に、俺はよりもやった本人が一番驚いている様子だ。

「ご、ごめん……その……」

 モジモジと、さらにバツ悪くなった様子で口籠る少女の姿には、不安ではなく迷いが視えた。
 もしかすると、この大きな作戦を前に思うところがあるのかもしれない。
 怯える小動物に無理な圧を掛けて警戒されないように、咎めるわけでもなく、俺はただじっと、彼女が口にするのを待つことにした。
 心臓の鼓動が無言の機内の時間はりを進める。
 ちくり、ちくり、彼女の呼吸おとだけが過ぎ去った時間と共に早まっていく。
 そこで呑気に大欠伸をかましている科学会の鬼才と同じ稀代の天才は、その胸の内で何を思うか。
 その回転率は凡人の俺には想像もつかない。
 スーパーコンピューターを以てしても数分は掛かる難問に、彼女はようやく答えを得たりと大きく呼吸を吐く。

「実はその……アタシ今まで────」


 ピーピーピーピー!!!!!!!!


 彼女の想いの端くれを遮るように、鳴り響いたのは警告アラートだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
 女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!  HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。  跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。 「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」  最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!

【完結】小さな元大賢者の幸せ騎士団大作戦〜ひとりは寂しいからみんなで幸せ目指します〜

るあか
ファンタジー
 僕はフィル・ガーネット5歳。田舎のガーネット領の領主の息子だ。  でも、ただの5歳児ではない。前世は別の世界で“大賢者”という称号を持つ大魔道士。そのまた前世は日本という島国で“独身貴族”の称号を持つ者だった。  どちらも決して不自由な生活ではなかったのだが、特に大賢者はその力が強すぎたために側に寄る者は誰もおらず、寂しく孤独死をした。  そんな僕はメイドのレベッカと近所の森を散歩中に“根無し草の鬼族のおじさん”を拾う。彼との出会いをきっかけに、ガーネット領にはなかった“騎士団”の結成を目指す事に。  家族や領民のみんなで幸せになる事を夢見て、元大賢者の5歳の僕の幸せ騎士団大作戦が幕を開ける。

異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀
ファンタジー
 図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。  その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。

《完》わたしの刺繍が必要?無能は要らないって追い出したのは貴方達でしょう?

桐生桜月姫
恋愛
『無能はいらない』 魔力を持っていないという理由で婚約破棄されて従姉妹に婚約者を取られたアイーシャは、実は特別な力を持っていた!? 大好きな刺繍でわたしを愛してくれる国と国民を守ります。 無能はいらないのでしょう?わたしを捨てた貴方達を救う義理はわたしにはございません!! ******************* 毎朝7時更新です。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る

伽羅
ファンタジー
三つ子で生まれた銀狐の獣人シリル。一人だけ体が小さく人型に変化しても赤ん坊のままだった。 それでも親子で仲良く暮らしていた獣人の里が人間に襲撃される。 兄達を助ける為に囮になったシリルは逃げる途中で崖から川に転落して流されてしまう。 何とか一命を取り留めたシリルは家族を探す旅に出るのだった…。

処理中です...