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神々に魅入られし淑女《タイムレス ラヴ》
神々の領域《ヨトゥンヘイム》5
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「ベルゼか!?」
特徴的な紫髪をオールバックにした長身の男は、掛けていたティアドロップのサングラスを押し上げ、にぃっと笑みを覗かせた。久々に出会った友人に向けるような、はたまた獲物を屠らんとする猛獣の如き鋭さを持った瞳は髪と同じ紫色。
「おうよ、てめぇと戦えるからってここで待ってたが、まさかあんな方法で乗り込んできやがるたぁなぁ!」
両手を叩いてはしゃぐベルゼはまるで子供のようで、敵が攻めて来たという緊張感は皆無に等しい。
「居るとは思っていたが、まさか一人で来るとはな。自慢の子分達はどうした?」
「ここにゃ居ねぇよ。今は別件で扱き使ってる。それに……好物はやっぱり独り占めしたいからなぁ」
舌なめずりしながら両手を構えると、腕に装着された籠手。神器『ケルベルスクロー』から三本の鉤爪を表出させる。
「これも先導者の差し金か?」
「なんだ、もう知ってんのかよ」
つまらねえな。そう言ってベルゼはタネ明かしされた手品師みたいに肩を竦めた。
会話の合間に、背後で援護しようとしていたロナ達へ『早く行け』とハンドサインで指示を出す。
ここで二人が負傷なんてしたら、俺が代わりを務めなければならない、そうなれば本来の目的が全ておじゃんになりかねないからな。
しかし、コイツが居ることは当然予想していたが、まさかこんな序盤とはな……。
もちろん敗けることなど微塵も考えていない。だがこのさき連戦が予想される以上、身体の消耗を抑えつつこの強敵を倒さなければならない。
「魔術や体術をとっても世界トップクラスの超人。俺なんかよりもよっぽど好物なんじゃないか?」
「はぁ?お前は馬鹿か」
時間を稼ぐついでにあわよくばこっちに寝返らないかと挑発をかけてみると、ベルゼは心底呆れたように溜息をついた。
「んなもん、最初に手ぇ出したに決まってんだろ?」
「あぁー……なるほど」
アルシェが話していた先導者に突っかかった人物。その正体に偉く納得してしまった。
「だったらなおのこと、その先導者の強さは知っているんだろ?なら俺なんかよりもそっちの方に喧嘩売れよ」
「分かってねぇなあ。奴の強さは別物だ。スポーツ選手で例えるなら野球とサッカーぐらい違う。俺がやりたい戦闘ってのはああ言うことを指しているんじゃねえ」
どんな例えだよ。
おそらく無い頭で絞り出したのであろう例えに俺は片眉を顰めた。
ベルゼとの因縁は俺がまだ師匠と共に復讐へと身を委ねていたころ、コイツが勝負を挑んできたことが始まりだった。
当時、一度も喧嘩に敗けたことが無いと言っていたソイツは俺と同じ眼を持っていた。しかし、その結果は惨敗。力に溺れたこの男は悪魔に魂を売った鬼に目も当てられないような敗北を喫したのだ。はっきり言ってその時の俺はまだ、それを道端の小石程度にしか捉えておらず、もちろん名前など憶えているはずも無かった。
しかしソイツは決して挫けることなく、数多の闘争に身を委ねることによって己が肉体を騒乱渦中で鍛え上げた。ギャングのボスとして神格化されたのもあくまでその過程であり、その果てにこの男が手にした物こそ、魔眼を支配する強靭な精神だ。
何度目かの再戦。初めて会った時から数十年が経過した彼の瞳からは、人の心が失くなっていた。
そんな彼はいつも言うのだ。
「それに、てめぇと殺り合うことの方が世界で一番楽しいからなぁっ!」
興奮したように漏らすアメリカギャング『H.A』の頭領は、裸の上半身につっかけただけのライダースジャケットの内側から、一本のシリンダーを取り出し。
「お前それは……っ」
ブスリ────!
息をするように動脈へそれを刺した。
「ふぅぅぅぅぅぅ……へへへhhhh」
バキバキバキッ!!!!
長い永い深呼吸と壊れた人形のような笑み。
膨張した筋肉から丸太を折るような歓喜が轟く。
放り捨てられるシリンダー。含まれていたのはブースタードラッグだ。
肉体も精神も戦闘に特化させるための合成薬物。
それは一人の男を一匹の猛獣へと変化させていく。
「へへへッ、ヒャァァアアハッハッハッハッ!!!!さぁ始めようぜ、フォルテ・S・エルフィィィィィ!!!!」
特徴的な紫髪をオールバックにした長身の男は、掛けていたティアドロップのサングラスを押し上げ、にぃっと笑みを覗かせた。久々に出会った友人に向けるような、はたまた獲物を屠らんとする猛獣の如き鋭さを持った瞳は髪と同じ紫色。
「おうよ、てめぇと戦えるからってここで待ってたが、まさかあんな方法で乗り込んできやがるたぁなぁ!」
両手を叩いてはしゃぐベルゼはまるで子供のようで、敵が攻めて来たという緊張感は皆無に等しい。
「居るとは思っていたが、まさか一人で来るとはな。自慢の子分達はどうした?」
「ここにゃ居ねぇよ。今は別件で扱き使ってる。それに……好物はやっぱり独り占めしたいからなぁ」
舌なめずりしながら両手を構えると、腕に装着された籠手。神器『ケルベルスクロー』から三本の鉤爪を表出させる。
「これも先導者の差し金か?」
「なんだ、もう知ってんのかよ」
つまらねえな。そう言ってベルゼはタネ明かしされた手品師みたいに肩を竦めた。
会話の合間に、背後で援護しようとしていたロナ達へ『早く行け』とハンドサインで指示を出す。
ここで二人が負傷なんてしたら、俺が代わりを務めなければならない、そうなれば本来の目的が全ておじゃんになりかねないからな。
しかし、コイツが居ることは当然予想していたが、まさかこんな序盤とはな……。
もちろん敗けることなど微塵も考えていない。だがこのさき連戦が予想される以上、身体の消耗を抑えつつこの強敵を倒さなければならない。
「魔術や体術をとっても世界トップクラスの超人。俺なんかよりもよっぽど好物なんじゃないか?」
「はぁ?お前は馬鹿か」
時間を稼ぐついでにあわよくばこっちに寝返らないかと挑発をかけてみると、ベルゼは心底呆れたように溜息をついた。
「んなもん、最初に手ぇ出したに決まってんだろ?」
「あぁー……なるほど」
アルシェが話していた先導者に突っかかった人物。その正体に偉く納得してしまった。
「だったらなおのこと、その先導者の強さは知っているんだろ?なら俺なんかよりもそっちの方に喧嘩売れよ」
「分かってねぇなあ。奴の強さは別物だ。スポーツ選手で例えるなら野球とサッカーぐらい違う。俺がやりたい戦闘ってのはああ言うことを指しているんじゃねえ」
どんな例えだよ。
おそらく無い頭で絞り出したのであろう例えに俺は片眉を顰めた。
ベルゼとの因縁は俺がまだ師匠と共に復讐へと身を委ねていたころ、コイツが勝負を挑んできたことが始まりだった。
当時、一度も喧嘩に敗けたことが無いと言っていたソイツは俺と同じ眼を持っていた。しかし、その結果は惨敗。力に溺れたこの男は悪魔に魂を売った鬼に目も当てられないような敗北を喫したのだ。はっきり言ってその時の俺はまだ、それを道端の小石程度にしか捉えておらず、もちろん名前など憶えているはずも無かった。
しかしソイツは決して挫けることなく、数多の闘争に身を委ねることによって己が肉体を騒乱渦中で鍛え上げた。ギャングのボスとして神格化されたのもあくまでその過程であり、その果てにこの男が手にした物こそ、魔眼を支配する強靭な精神だ。
何度目かの再戦。初めて会った時から数十年が経過した彼の瞳からは、人の心が失くなっていた。
そんな彼はいつも言うのだ。
「それに、てめぇと殺り合うことの方が世界で一番楽しいからなぁっ!」
興奮したように漏らすアメリカギャング『H.A』の頭領は、裸の上半身につっかけただけのライダースジャケットの内側から、一本のシリンダーを取り出し。
「お前それは……っ」
ブスリ────!
息をするように動脈へそれを刺した。
「ふぅぅぅぅぅぅ……へへへhhhh」
バキバキバキッ!!!!
長い永い深呼吸と壊れた人形のような笑み。
膨張した筋肉から丸太を折るような歓喜が轟く。
放り捨てられるシリンダー。含まれていたのはブースタードラッグだ。
肉体も精神も戦闘に特化させるための合成薬物。
それは一人の男を一匹の猛獣へと変化させていく。
「へへへッ、ヒャァァアアハッハッハッハッ!!!!さぁ始めようぜ、フォルテ・S・エルフィィィィィ!!!!」
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