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最悪な出会い 4
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「けがは、ないみたいだね。警察は呼ばなくていい?」
「どうせ呼んでもオメガ絡みだとまともに相手にしてくんねぇから……って、あんたは誰」
不審人物ではないようだが、なぜそこに車をとめているのかという疑問はある。まるで誰かを待っていたかのように思えて、無意識に手のひらを握りしめた。
男は陽斗に近づいてくると、途中で足をとめ道路に落ちていた封書を拾いあげた。先ほど変質者と争った際に道路に落としてしまったものだ。宛名を確認して、整った眉をあげる。そして興味深そうにたずねてきた。
「どうして、君にはこの手紙はきていないの?」
いきなり不躾なことを問われ、羞恥にカッと顔に血がのぼる。それは自分が一番気にしていることだった。
けれどそれよりも。
――こいつ、なんで俺のこと知ってんだ?
陽斗は男につかつかと歩みより、封筒を奪い取った。
「あんたにはカンケーねーだろっ。てか、何なんだよいきなり」
大きな声で怒るが、男は動じることなくやわらかく微笑んでいる。陽斗の反応を楽しんでいるかのようだ。悪びれる素振りもない。男が何者で、なぜそんなことを聞くのかわからなかった陽斗は、相手がただの意地悪な怪しい男にしか見えなくなった。
「ああ、じゃあやはり、君にはまだ発情がきていないんだな」
独り言のように呟き、笑みをさらに深くする。魅惑的な表情に、陽斗は後ずさった。
胸が不穏な鼓動を刻み始める。――この男は……。
「だからどこにも登録されていなかったんだね。おかげで探し出すのに三年もかかってしまった」
「……三年?」
眉根をよせると、男はごく自然な口調で告げた。
「そう。けれどやっと会えた。僕のオメガ」
「……」
一歩近づき、陽斗の手を取って紳士的な仕草で手の甲にキスをする。
すると、心臓がバクンと激しくはねた。同時に、頭の奥で警告音がする。うるさく鳴るサイレンは、陽斗の記憶に深くきざみこまれたトラウマだ。
――ダメよ。絶対に。アルファの誘いに簡単に流されたら。後でつらい思いをするのは、いつもオメガだけなんだから。
頭の中で母の声がする。その警告が、陽斗の興奮を強制的にしずめていく。
冷えた眼差しになった陽斗に、男はおや、というような表情になった。
「君は何も感じないの? 僕を見ても」
美麗な瞳は、蒼い輪郭にいろどられた銀色だ。しかし奥まで澄んだ虹彩は人形めいていて、そのせいで感情がうまく読み取れない。優雅に微笑んでいるけれど、どこか冷たい印象がある。
「そうか。発情がまだだから、番を認識できないのかな。でも大丈夫。心配しないで。いい医者をたくさん知っているから。発情するための相談はいくらでも受けられる」
男が嬉しそうに言うのを聞いて、陽斗は次第に腹が立ってきた。
この男はいったい、ひとりで何を勝手に喋っているのか。
陽斗は男の手を払いのけた。
「やめてくれ。あんたが誰だか知らないけれど、いきなりやってきて変な真似するんだったら、さっきの男と同類だぞ」
陽斗の言葉に、男が目をみはる。そして、同情めいた口調で言った。
「どうして怒るんだい? 発情がないことを恥じる必要なんてないのに」
こちらの事情を慮らない無神経な言い方をされて、さらに頭に血がのぼる。
「帰ってくれ!」
陽斗は男に怒鳴った。
「無礼な野郎だな! レア・アルファだからって、オメガに何言ってもいいと思ってんのか。偉そうに。俺たちはお前らの玩具じゃないんだぞ」
口汚く罵ると、それには男も眉根をよせて困惑した表情になった。
これ以上こんなにオーラの強い男と一緒にいたくない。胸が不穏な鼓動を刻み始めている。そしてアルファの魅力に飲まれそうになって、戸惑っていることを相手に知られたくもない。
それはトラウマ持ちオメガの精一杯の矜持だった。
「帰れ。二度とくんな」
陽斗は踵を返すと玄関に向かい、落ちていた鍵をひろいあげて玄関扉をあけた。
そうして逃げるように家の中に入ると、後ろも見ずに音を立てて引き戸をしめた。
「どうせ呼んでもオメガ絡みだとまともに相手にしてくんねぇから……って、あんたは誰」
不審人物ではないようだが、なぜそこに車をとめているのかという疑問はある。まるで誰かを待っていたかのように思えて、無意識に手のひらを握りしめた。
男は陽斗に近づいてくると、途中で足をとめ道路に落ちていた封書を拾いあげた。先ほど変質者と争った際に道路に落としてしまったものだ。宛名を確認して、整った眉をあげる。そして興味深そうにたずねてきた。
「どうして、君にはこの手紙はきていないの?」
いきなり不躾なことを問われ、羞恥にカッと顔に血がのぼる。それは自分が一番気にしていることだった。
けれどそれよりも。
――こいつ、なんで俺のこと知ってんだ?
陽斗は男につかつかと歩みより、封筒を奪い取った。
「あんたにはカンケーねーだろっ。てか、何なんだよいきなり」
大きな声で怒るが、男は動じることなくやわらかく微笑んでいる。陽斗の反応を楽しんでいるかのようだ。悪びれる素振りもない。男が何者で、なぜそんなことを聞くのかわからなかった陽斗は、相手がただの意地悪な怪しい男にしか見えなくなった。
「ああ、じゃあやはり、君にはまだ発情がきていないんだな」
独り言のように呟き、笑みをさらに深くする。魅惑的な表情に、陽斗は後ずさった。
胸が不穏な鼓動を刻み始める。――この男は……。
「だからどこにも登録されていなかったんだね。おかげで探し出すのに三年もかかってしまった」
「……三年?」
眉根をよせると、男はごく自然な口調で告げた。
「そう。けれどやっと会えた。僕のオメガ」
「……」
一歩近づき、陽斗の手を取って紳士的な仕草で手の甲にキスをする。
すると、心臓がバクンと激しくはねた。同時に、頭の奥で警告音がする。うるさく鳴るサイレンは、陽斗の記憶に深くきざみこまれたトラウマだ。
――ダメよ。絶対に。アルファの誘いに簡単に流されたら。後でつらい思いをするのは、いつもオメガだけなんだから。
頭の中で母の声がする。その警告が、陽斗の興奮を強制的にしずめていく。
冷えた眼差しになった陽斗に、男はおや、というような表情になった。
「君は何も感じないの? 僕を見ても」
美麗な瞳は、蒼い輪郭にいろどられた銀色だ。しかし奥まで澄んだ虹彩は人形めいていて、そのせいで感情がうまく読み取れない。優雅に微笑んでいるけれど、どこか冷たい印象がある。
「そうか。発情がまだだから、番を認識できないのかな。でも大丈夫。心配しないで。いい医者をたくさん知っているから。発情するための相談はいくらでも受けられる」
男が嬉しそうに言うのを聞いて、陽斗は次第に腹が立ってきた。
この男はいったい、ひとりで何を勝手に喋っているのか。
陽斗は男の手を払いのけた。
「やめてくれ。あんたが誰だか知らないけれど、いきなりやってきて変な真似するんだったら、さっきの男と同類だぞ」
陽斗の言葉に、男が目をみはる。そして、同情めいた口調で言った。
「どうして怒るんだい? 発情がないことを恥じる必要なんてないのに」
こちらの事情を慮らない無神経な言い方をされて、さらに頭に血がのぼる。
「帰ってくれ!」
陽斗は男に怒鳴った。
「無礼な野郎だな! レア・アルファだからって、オメガに何言ってもいいと思ってんのか。偉そうに。俺たちはお前らの玩具じゃないんだぞ」
口汚く罵ると、それには男も眉根をよせて困惑した表情になった。
これ以上こんなにオーラの強い男と一緒にいたくない。胸が不穏な鼓動を刻み始めている。そしてアルファの魅力に飲まれそうになって、戸惑っていることを相手に知られたくもない。
それはトラウマ持ちオメガの精一杯の矜持だった。
「帰れ。二度とくんな」
陽斗は踵を返すと玄関に向かい、落ちていた鍵をひろいあげて玄関扉をあけた。
そうして逃げるように家の中に入ると、後ろも見ずに音を立てて引き戸をしめた。
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