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初めての家庭料理 3
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すると数分たたずに家の電話が鳴った。多分、高梨だろうと予想して電話に出る。
『夕食は、一緒に食べに出かけようと思ってたんだ』
といきなり相手が喋りだす。やはり高梨だった。彼の背後がうるさい。仕事場からかけてきたらしい。
「俺、作りましょうか? 冷蔵庫のもの使っていいなら」
『本当に?』
弾んだ声がする。
『君の手作りが食べられるのなら、僕は嬉しくて地球一周しちゃうよ?』
「なら、一周してから帰ってきてください。適当に作っていいですか? セレブ向けの料理じゃないけど」
『いいよ。家庭料理は生まれてから一度も食べたことがない。任せる。――あ、じゃあ、七時には絶対に帰るから』
周囲を気にする気配で、高梨はすぐに電話を切った。
「家庭料理は食べたことがないって……」
そうか。母親がいなくて、家族も父親だけだとしたらそうなってしまうか。金は唸るほどあるのだろうから、毎日だってレストランや料亭にはいけるだろうが誰かの手料理には無縁になるかもしれない。
「家政婦とかもいなさそうだしな、この家」
陽斗は冷蔵庫や棚を見て、使えそうなものを探し出した。
「うわ。めっちゃ高いコメじゃん。こっちの外国製の缶詰は何が入ってるんだ? ラベルも英語じゃないみたいだし。ネットで調べなきゃわかんないよ」
ストックしてあるものも、凪野家の台所とはまったく違う。陽斗はなじみのない食材に頭をひねりながら、午後の大半を使って夕食の準備をした。
午後七時五分前、玄関の方角から扉をしめる音がして、高梨の帰宅をしらせる。陽斗はキッチンから廊下へと出た。
「おかえりなさいー」
いつも光斗を出迎えるように声をかける。すると廊下を歩いてきた高梨が目をみはった。
「自分の家じゃないみたいだ」
「何で」
「家族のような人がいる」
「意味不」
「しかも嗅いだことのない匂いがするよ」
「適当に作ったんですけど。まあ、食えるものだと思うから。心配しないで」
陽斗は肩を小さくすくめて、ダイニングへと向かった。その後をついてきた高梨が、八人がけのダイニングテーブルの端に用意されたふたり分の夕食を見つけて、顔をほころばせる。
「素晴らしいな」
「手洗ってうがいしてくださいね」
「何もかもが、感動的だ」
「その間に準備しときます」
胸に手をあててウットリとしている高梨をおいて、陽斗は台所に戻り、料理の仕あげをした。
今夜のメニューは、高級牛ヒレ肉ステーキのバルサミコソースがけ、オニオンスープ、コーンとビーンズとオリーブのサラダにライス。牛肉は冷凍室にあったものを使わせてもらった。おかげで豪華なメニューとなった。
ダイニングに戻ると、高梨がワインをあけてくれる。それでふたりで乾杯した。
「じゃあ、いただきます」
中々お目にかかれない高級肉にワクワクしつつ、向かい席の高梨が先に食べるのを待ってから陽斗も手をつけた。
「どうですか?」
自分的にはうまく作れたつもりだ。牛肉は素晴らしく口あたりがよく、ソースの味も丁度いい。
高梨は料理を一口食べて、しかし急に、顔を曇らせて「まずい」と言った。
『夕食は、一緒に食べに出かけようと思ってたんだ』
といきなり相手が喋りだす。やはり高梨だった。彼の背後がうるさい。仕事場からかけてきたらしい。
「俺、作りましょうか? 冷蔵庫のもの使っていいなら」
『本当に?』
弾んだ声がする。
『君の手作りが食べられるのなら、僕は嬉しくて地球一周しちゃうよ?』
「なら、一周してから帰ってきてください。適当に作っていいですか? セレブ向けの料理じゃないけど」
『いいよ。家庭料理は生まれてから一度も食べたことがない。任せる。――あ、じゃあ、七時には絶対に帰るから』
周囲を気にする気配で、高梨はすぐに電話を切った。
「家庭料理は食べたことがないって……」
そうか。母親がいなくて、家族も父親だけだとしたらそうなってしまうか。金は唸るほどあるのだろうから、毎日だってレストランや料亭にはいけるだろうが誰かの手料理には無縁になるかもしれない。
「家政婦とかもいなさそうだしな、この家」
陽斗は冷蔵庫や棚を見て、使えそうなものを探し出した。
「うわ。めっちゃ高いコメじゃん。こっちの外国製の缶詰は何が入ってるんだ? ラベルも英語じゃないみたいだし。ネットで調べなきゃわかんないよ」
ストックしてあるものも、凪野家の台所とはまったく違う。陽斗はなじみのない食材に頭をひねりながら、午後の大半を使って夕食の準備をした。
午後七時五分前、玄関の方角から扉をしめる音がして、高梨の帰宅をしらせる。陽斗はキッチンから廊下へと出た。
「おかえりなさいー」
いつも光斗を出迎えるように声をかける。すると廊下を歩いてきた高梨が目をみはった。
「自分の家じゃないみたいだ」
「何で」
「家族のような人がいる」
「意味不」
「しかも嗅いだことのない匂いがするよ」
「適当に作ったんですけど。まあ、食えるものだと思うから。心配しないで」
陽斗は肩を小さくすくめて、ダイニングへと向かった。その後をついてきた高梨が、八人がけのダイニングテーブルの端に用意されたふたり分の夕食を見つけて、顔をほころばせる。
「素晴らしいな」
「手洗ってうがいしてくださいね」
「何もかもが、感動的だ」
「その間に準備しときます」
胸に手をあててウットリとしている高梨をおいて、陽斗は台所に戻り、料理の仕あげをした。
今夜のメニューは、高級牛ヒレ肉ステーキのバルサミコソースがけ、オニオンスープ、コーンとビーンズとオリーブのサラダにライス。牛肉は冷凍室にあったものを使わせてもらった。おかげで豪華なメニューとなった。
ダイニングに戻ると、高梨がワインをあけてくれる。それでふたりで乾杯した。
「じゃあ、いただきます」
中々お目にかかれない高級肉にワクワクしつつ、向かい席の高梨が先に食べるのを待ってから陽斗も手をつけた。
「どうですか?」
自分的にはうまく作れたつもりだ。牛肉は素晴らしく口あたりがよく、ソースの味も丁度いい。
高梨は料理を一口食べて、しかし急に、顔を曇らせて「まずい」と言った。
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