アルファ貴公子のあまく意地悪な求婚

伽野せり

文字の大きさ
47 / 78

真夜中のおうちごはん 5

「まだ寝てたほうがいいです。全然睡眠足りてないんでしょう」
 肩に手をおくと、男はその手の上に、自分の手のひらを重ねた。

「大丈夫。僕はショートスリーパーだと言っただろう。そういう風に作られているんだ。よく働けるように。だからもう眠りは足りてる」
「……そんな」

 作られている、という言葉に胸が痛む。自分のことをそんな風にあらわして欲しくなかった。
 眉尻をさげた陽斗に、高梨が穏やかな口調できいてくる。

「それより、お腹すいたな。今は何時なんだろう」
 壁にかかったシンプルな時計は、午前一時をさしていた。
「今からでも夕食にします? 一応作ってあるけど」 
「ホント? なら食べるよ」

 高梨は短い睡眠で元気を取り戻したようで、身軽な様子でベッドからおりた。     
 そうして部屋を出る陽斗の後をついて、台所までやってくる。

「すごい。これ、君が作ったの?」
 大皿に盛られたいなり寿司を見て驚きの声をあげた。
「ん」

 陽斗は褒められたのが嬉しいのと気恥ずかしいのとで、短く返事をした。        
「芸術品だな」
「さあ、テーブルに持っていきます。あと、俺は湯豆腐とすまし汁を仕あげますから」

 ふたりで協力して、深夜に夕食の準備をする。窓の外は真っ暗で、世間の人々は皆眠っているというのに、自分たちだけは起きて活動をしている。それが何だか隠された秘密の、そして大切な時間のような気がして、陽斗の心は知らず弾んでいた。

 セッティングされた料理を、いつものように高梨がスマホで写真を何枚も撮る。
「いただきます」
 それからふたりで手をあわせた。

「君は本当に手先が器用なんだなあ。こんなに手のこんだ料理を作れるなんて」
 いなりの一番上には、型でくりぬいた小さな人参ものっている。可愛い飾りを眺めながら高梨がしみじみと言った。

「俺、こういう細かい仕事、好きなんです。きれいに丁寧に作りあげていくのが楽しくて。だからトリミングの腕も誰にも負けないつもりなんだけど」
 陽斗もいなりを頬張りながら話す。実際、専門学校時代も陽斗はクラスで一番優秀な生徒だった。

「どうしてもトリマーがいいのかい? 美容師や、他の技巧的な仕事じゃなくて」
「うん。犬や猫もすごく好きだし」
「そうか」
「動物は裏切らないでしょう。特に犬は、素直で可愛いところが好きなんです」

 陽斗がアサリの貝殻を取っていると、ふと、目の前の相手が黙りこくっているのに気がついた。

「……何か?」
「いや」
 高梨がじっとこちらを見つめている。陽斗もきょとんと相手を見返した。

「君に飼われる犬は幸せだろうと思ってね」
 その言葉に、昔自宅で飼っていた犬のことを思い出す。

「……以前は、柴のミックス犬を飼ってました。けど、老衰で死んでからは飼ってないんです。何か、可哀想で」
「そうか」

 高梨は視線をテーブルに一度落とし、それからまた目をあげて言った。
感想 0

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

【完結済】俺のモノだと言わない彼氏

竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?! ■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。 完結しました!ありがとうございました。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

【完結】恋人になりたかった

ivy
BL
初めてのキスは、 すべてが始まった合図だと思っていた。 優しい大地と過ごす時間は、 律にとって特別で、 手放したくないものになっていく。 けれど……

Endless Summer Night ~終わらない夏~

樹木緑
BL
ボーイズラブ・オメガバース "愛し合ったあの日々は、終わりのない夏の夜の様だった” 長谷川陽向は “お見合い大学” と呼ばれる大学費用を稼ぐために、 ひと夏の契約でリゾートにやってきた。 最初は反りが合わず、すれ違いが多かったはずなのに、 気が付けば同じように東京から来ていた同じ年の矢野光に恋をしていた。 そして彼は自分の事を “ポンコツのα” と呼んだ。 ***前作品とは完全に切り離したお話ですが、 世界が被っていますので、所々に前作品の登場人物の名前が出てきます。***

ヤンキーDKの献身

ナムラケイ
BL
スパダリ高校生×こじらせ公務員のBLです。 ケンカ上等、金髪ヤンキー高校生の三沢空乃は、築51年のオンボロアパートで一人暮らしを始めることに。隣人の近間行人は、お堅い公務員かと思いきや、夜な夜な違う男と寝ているビッチ系ネコで…。 性描写があるものには、タイトルに★をつけています。 行人の兄が主人公の「戦闘機乗りの劣情」(完結済み)も掲載しています。