アルファ貴公子のあまく意地悪な求婚

伽野せり

文字の大きさ
55 / 78

光斗の相手 5

しおりを挟む
「俺の発情が欲しいと言ったのは、もしかして……俺が、あんたにすがって泣きわめく姿を見たいから?」
 胡乱うろんな目を相手に向ける。

「うん。そうだね」
 即答されて、言葉をなくす。
「発情したオメガに迫られるのは、アルファのロマンだからさ」
 陽斗は思わず手元にあった枕を高梨に投げつけた。

「性格悪っ!」
「君が喘ぎもだえながら、挿れて挿れてと涙目になったら、きっと可愛すぎて僕は失神するかも。それを想像するだけでいくらでも自分で抜けるよ」
「俺はエロAVかっ!」

 さらに暴れようとしたら、両手を掴まれて押し倒された。ドサリと背中がベッドにあたり、相手がのしかかってくる。

「君の中に挿入はいりたい。奥深くまで犯してえぐって、届く限りの場所で果ててみたい。僕はいつもそう思ってる。いつかその首輪を外して、うなじに噛みつきたい。僕もそろそろ限界がきそうだ。けど、手荒なことをして嫌われたくない。ホテルで襲いかかったときみたいに、君の心を置き去りにするような行為はもうしたくないんだ」

「……」
「だから必死にこらえている。そこのところは察して欲しい」

 シーツに固定されて、上から強い眼差しで見つめられる。グルグル思い悩んでいるのは陽斗だけではなさそうで、レア・アルファであるこの人も、こんなひ弱なオメガひとりに振り回されて壊れた洗濯機になっているのだ。

 そう思うと、何だか罪悪感も覚える。
「……ごめん」  

 陽斗が腕から力を抜くと、高梨の瞳からも強さが消えた。そして甘さと切なさがその奥から表れる。

「でも、発情がこなくても、元気で思いやりのある君が好きだよ」
 唇にかるく触れるだけのキスをする。

「……ん」
「僕のこと、十段階でどれくらい好き?」
 何度も聞かれている質問をまたされる。
 陽斗はちょっと考えて、蕩け始めた声で答えた。
「……きゅう」

 最後のひとつが足りないのは、やはりどうしても崩すことのできない心の引っかかりがあるからだ。

 こんなに真っ直ぐな愛を向けてくれる高梨に、本当ならば手を広げて自分も好きだと伝えるべきなのだろう。そうすれば、彼は満足する。
 けれど、どうしてもブレーキがかかってしまう。
 以前は機能不全オメガの矜持からこの人を遠ざけていたが、今はもっと違う理由で、高梨を受け入れるのが怖くなっている。

 自分はこの人に愛情に応える資格があるのか。番になれるほどの価値ある人間なのか――。

 わからなくて、素直になれなくて、だから言葉遊びのようなことをしてはぐらかしてしまうのだ。
 高梨のことを本気で好きになってしまったから、彼が自分に失望する日がくるのが怖い。

「あと一段階だ。頑張ろう」
 そんな陽斗の本心を見透かすように、高梨は苦笑しながら、アタッシュケースを引きよせた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

獣人王と番の寵妃

沖田弥子
BL
オメガの天は舞手として、獣人王の後宮に参内する。だがそれは妃になるためではなく、幼い頃に翡翠の欠片を授けてくれた獣人を捜すためだった。宴で粗相をした天を、エドと名乗るアルファの獣人が庇ってくれた。彼に不埒な真似をされて戸惑うが、後日川辺でふたりは再会を果たす。以来、王以外の獣人と会うことは罪と知りながらも逢瀬を重ねる。エドに灯籠流しの夜に会おうと告げられ、それを最後にしようと決めるが、逢引きが告発されてしまう。天は懲罰として刑務庭送りになり――

オメガ社長は秘書に抱かれたい

須宮りんこ
BL
 芦原奏は二十九歳の若手社長として活躍しているオメガだ。奏の隣には、元同級生であり現在は有能な秘書である高辻理仁がいる。  高校生の時から高辻に恋をしている奏はヒートのたびに高辻に抱いてもらおうとするが、受け入れてもらえたことはない。  ある時、奏は高辻への不毛な恋を諦めようと母から勧められた相手と見合いをする。知り合った女性とデートを重ねる奏だったが――。 ※この作品はエブリスタとムーンライトノベルスにも掲載しています。  

宵の月

古紫汐桜
BL
Ωとして生を受けた鵜森月夜は、村で代々伝わるしきたりにより、幼いうちに相楽家へ召し取られ、相楽家の次期当主であり、αの相楽恭弥と番になる事を決められていた。 愛の無い関係に絶望していた頃、兄弟校から交換学生の日浦太陽に出会う。 日浦太陽は、月夜に「自分が運命の番だ」と猛アタックして来て……。 2人の間で揺れる月夜が出す答えは一体……

メビウスの輪を超えて 【カフェのマスター・アルファ×全てを失った少年・オメガ。 君の心を、私は温めてあげられるんだろうか】

大波小波
BL
 梅ヶ谷 早紀(うめがや さき)は、18歳のオメガ少年だ。  愛らしい抜群のルックスに加え、素直で朗らか。  大人に背伸びしたがる、ちょっぴり生意気な一面も持っている。  裕福な家庭に生まれ、なに不自由なく育った彼は、学園の人気者だった。    ある日、早紀は友人たちと気まぐれに入った『カフェ・メビウス』で、マスターの弓月 衛(ゆづき まもる)と出会う。  32歳と、早紀より一回り以上も年上の衛は、落ち着いた雰囲気を持つ大人のアルファ男性だ。  どこかミステリアスな彼をもっと知りたい早紀は、それから毎日のようにメビウスに通うようになった。    ところが早紀の父・紀明(のりあき)が、重役たちの背信により取締役の座から降ろされてしまう。  高額の借金まで背負わされた父は、借金取りの手から早紀を隠すため、彼を衛に託した。 『私は、早紀を信頼のおける人間に、預けたいのです。隠しておきたいのです』 『再びお会いした時には、早紀くんの淹れたコーヒーが出せるようにしておきます』  あの笑顔を、失くしたくない。  伸びやかなあの心を、壊したくない。  衛は、その一心で覚悟を決めたのだ。  ひとつ屋根の下に住むことになった、アルファの衛とオメガの早紀。  波乱含みの同棲生活が、有無を言わさず始まった……!

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

オメガの香り

みこと
BL
高校の同級生だったベータの樹里とアルファ慎一郎は友人として過ごしていた。 ところがある日、樹里の体に異変が起きて…。 オメガバースです。 ある事件がきっかけで離れ離れになってしまった二人がもう一度出会い、結ばれるまでの話です。 大きなハプニングはありません。 短編です。 視点は章によって樹里と慎一郎とで変わりますが、読めば分かると思いますで記載しません。

処理中です...