アルファ貴公子のあまく意地悪な求婚

伽野せり

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二人で未来へ 3

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「光斗君の将来が決まってよかった」
 高梨は前屈みになって、膝の上に手を組んで言った。

「うん。本当に」
「彼は翻訳家になりたかったんだ?」
「そうなんです。だから、渡米することになるなら、あいつの夢はどうなるんだろうって心配してたから」
「夢を叶えるってことは、素晴らしいことだからね」
「……ところで、話したいことって何ですか?」

 誘われた理由が気になった陽斗は、話題を変えて問いかけた。
 それに相手は口角をあげて、どう伝えたらいいだろうか、というような表情をする。陽斗は続きを待つ瞳を彼に向けた。

「実は、今度ね。この前、君を連れていったホテルに、ね」
「はい」
 高橋は言葉を句切りながら話し始めた。

「ペット同伴の宿泊プランを、取り入れようかと考えているんだ」
「え」
「そういうホテルも全国にいくつかあるし、ペットと一緒に旅行できるのは楽しいだろうから」
「……」
「ペット専用の美容室も地下店舗に入れるつもりなんだ。そちらは宿泊しなくても利用できるようにしたい」

 陽斗は聞いていて、胸がドキドキしてきた。
「美容室には腕のいいトリマーを雇うつもりだ。もうあたりもつけている。コンテストで何度も優勝している、有名な人だよ」
「……そ、そうなんだ」

 心の中で勝手に都合のいいことを期待していた陽斗は、高梨の言葉に気抜けした。しかし一流ホテルが始める美容室なのだ。一流のトリマーを雇うのは当然だろう。

「それでだね」
 組んだ手をかるくむようにしながら高梨が続ける。
「もしよかったらなんだか。その店で、助手として働いてみないか」
「えっ?」
 高梨は陽斗の反応を見つつ、言葉を選んで続けた。

「君が、僕の手助けを欲しがっていないことはよくわかっている。自分で仕事は探すと言ってたしね。けど、僕としては、ほんのわずかだけれど、君の夢を叶えるために、力添えができたらと思ってるんだ」

 どうだろうか、というように小首を傾げてこちらを見てくる。陽斗は大きく目をみはった。
「腕のいいトリマーのもとで修行をすれば、それはきっと君のためになるだろうし、将来、自分で店も持てるようになるだろうし」
「……高梨さん」
「僕としてはうちのホテルのペット宿泊担当になって欲しいかな、とか考えてみたりしてるんだが」

 揉んでいた手をかるく広げて肩をすくめ、内心の煩いを隠すようなおどけた仕草をする。多分、陽斗が断ることになっても、気にしていないという風を装いたいからなのかもしれない。ニコリと笑ってみせた顔は、少し無理をしているようだった。

 そんな気遣いを見せられて、陽斗は今までの自分の我儘だった部分を反省した。こんなに優しい人なのに、自分はオメガのコンプレックスに縛られて、ずいぶんひどい態度を取ってしまっていた。

「……ありがとう、高梨さん」
 この人のおかげで、自分はどれだけ幸せになることができたか。どれだけ大切にしてもらえたか。 
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