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しおりを挟む幼馴染で学校が一緒とはいえ、4つも歳が離れているので、小学生の頃は母親の友達付き合いのついでに会う程度だった。俺と紘一の関係が大きく変わったのは、小学6年の秋のことだった。
俺と紘一は図書委員で、学校に二人で居残りすることがあった。その二人きりの状況で、俺のオメガの性がいきなり目覚めてしまったのだ。
この世には6つの種類の人間がいる。第一の性である男と女、そして第二の性というものが存在する。優秀な遺伝子を持つアルファ、男女問わず妊娠可能な体を持つオメガ、そしてどちらにも属さないベータ。第二の性というものは通常、幼少期の検査によって、早い段階から判明する。俺はそれまでの検査ではベータと出ており、もちろん自分の性はベータだと思っていた。
そんなことだから突然オメガの発情を起こしてしまっても、知識もない俺はパニックを起こすだけで何も対処できるはずが無かった。そして、ヒートを起こしてしまった俺の傍に、運が悪いことに、たまたま居合わせた紘一も同様に、無知だった。
ヒートにあてられた紘一は本能のままに俺を押さえつけた。抵抗する力も気力もない俺は、そのままうなじを噛まれた。それだけで俺たちは番という結びつきを一生背負うことになった。
彼と番った経緯はこれだけだ。特別なドラマや恋愛感情があった末のものではなく、ただの事故。
それ以来、紘一は俺に対して責任を感じて、番の務めを一生懸命果たそうとしてくれている。オメガの社会的地位の低さは社会問題になっていたこともあり、俺は被害者として病院でカウンセリングを受けた。俺としては、唐突なオメガの発現と、それに伴う事故はそれなりにショックはあったものの、ゆっくりと現実を受け入れることができた。番になったのが信頼の置ける紘一だったことと、無理やり番にされた行為自体に彼の悪意が一切ないことを理解できたことで、俺は次第に落ち着いていった。
だが、弱者であるオメガに手を出したという事実が、紘一には精神的負荷になったようだ。次に顔を合わせた時、紘一は俺に謝り倒してきた。悲しみと後悔で半泣きになった紘一の表情が忘れられない。
あの事件について紘一を責める思いは一切無い。今ではむしろ、とても申し訳なさを感じていた。元はと言えば俺がいきなりヒートを起こしてしまったのが悪い。オメガの発情に当てられたアルファは、抗いがたい欲情に襲われるという。幼い俺たちが起こしたのは、仕方なく起きた事故なのだ。
紘一のことは信頼している。彼がいい人であることは知っているし、世間的にも優秀で、人から好かれる人間だ。正直、番った時の熱烈な抱擁と、項の痛み、胸から湧き上がる高揚感を、今でも忘れられずにいる。最初こそ、突然できた恋人に戸惑いはあったが、ともに過ごす中で彼への愛情が芽生えるのは時間の問題だった。でも、彼が俺のことを何とも思っていないのは明白だった。
彼は、俺がヒートを起こしていても最後までしてくれない。抑制剤を飲んでいるのか、俺のヒートに当てられている素振りはないし。乳首とかは触ってくれるけど、中に挿れられたことは一度もない。指すら入れてくれない。俺が射精すると、後片付けなどの世話をせっせと焼いているだけだ。
ヒート中もそれ以外の時間でも、常に喉が渇いているような物足りなさがあった。オメガとしての本能が満たされていないのだろう。でも、もっと欲しいと強請ることはできなかった。
意図せず番になった相手にこれだけ世話を焼いてくれることがとても恵まれたことなんだとわかっているからだ。オメガの発情のせいで同意なしに番になってしまう事例はいくつもあるが、そのままアルファに捨てられるオメガも少なくはない。彼らは一時の強烈な本能に流されてしまっただけなのだ。
紘一は俺と番っていること、後悔しているんだろうなぁ……
俺のヒートに付き合わなければならないせいで、定期的に学校や仕事に穴を空けさせてしまうことが、とても後ろめたかった。特に今は昇進で大事な時期であるらしく、忙しそうにしている事が多い。それに、俺と番っているせいで、紘一は他に恋人を作ることができない。普段は俺を番として大切に扱ってくれているが、一向に性行為をしないところを見るに、彼はこの関係を望んでいないのだろう。
そんな彼の姿を見ていたものだから、俺は抑制剤をどんどん強いものに変えていった。薬が効かないと嘘をつき、強い薬をもらった。
全く発情が起こらないと不審に思われるだろうから、ヒートの途中で薬を飲み、なるべく発情時間を短くするようにしている。周囲には普通よりオメガの本能が薄いみたいで、なんて言い訳してる。いずれは発情症状がほぼ出ないくらい強い薬にしたいと考えていた。
強い薬を飲んで、発情を抑えて、紘一がいなくても大丈夫な体になろう。彼が安心できるように独り立ちして、そして、紘一が他の番と添い遂げられるように応援しよう。
俺が不用意にヒートを起こしたのが原因なんだから、これ以上、俺のせいで紘一が悩まずに済むようにしたい。それが長年の願いだった。
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