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発情も収まり、足取りがしっかりしてきたので自室に戻ることにした。水を持ってきた紘一はまだ心配そうな顔をしていたが、いつものことだからと言えば納得してくれた。
「今日くらいは俺の部屋にいてほしいんだけどな」
「すぐ隣の部屋にいるんだから大丈夫だって」
「もー……春斗のヒートが短いのは知ってるけど、心配だったから休みは明日も取ってるからね。いつでも呼んで」
紘一がいつものように髪を手で撫でてくる。薬を飲んだはずなのに、触れられたところが熱くなってきた。
また発情してしまっては薬を飲んだ意味がない。これはまずいとそそくさと部屋を出る。
体液を流すために浴室に入る。シャワーを浴びながら、ふと、自分の後ろに手をやった。まだ潤みが残るそこを指の腹で押してみて、ぞっと肌が鳥肌立つ。発情時に後が疼くのはいつもの事だが、なんだか怖くて自分でも中に何かをいれたことがない。越えてはいけない一線のように感じて、紘一が触れる時も思わず緊張してしまうのだ。
情欲がぶり返しそうなので早々に指を離して、シャワーの水の勢いを強めた。
「あのさ……兄貴といちゃついた後に、この部屋に来るのやめてくれる?」
黒縁眼鏡をかけた男が、デスクチェアにだらしなく腰掛けたまま、呆れたように言った。
首元の伸びたTシャツに、色の褪せたスウェットパンツ。色白で、腕は細く、いかにも外に出ていませんといった風貌。井原家の三男である、和馬だ。
和馬は俺より1つ年上で、第二の性はベータ。
井原家の兄弟の中で、彼だけが唯一のベータなのだ。兄である双子は二人ともアルファで、そのせいで幼い頃から劣等感を感じているようだった。
シャワーを浴びた足でそのまま和馬の部屋に押しかけ、今は二人でゲームをしている最中だ。ソファベッドに転がり、慣れ親しんだコントローラーを握って、画面のキャラを操作する。長い間二人で遊んでいる対戦ゲームだが、俺は一向に負けっぱなしだった。それでも楽しくて、何度もこの部屋に通っている。対戦ゲームをしたり、RPGゲームで一緒に考察しながら攻略したりするのが楽しくて、ゲームをするのが幼い頃からの習慣みたいになっていた。
「まだ顔、赤いよ。自室で休んでた方がいいんじゃないの」
頬に手のひらが触れた。気がつくと和馬が椅子から立ち上がり、俺を見下ろしていた。温度を確かめるように頬を撫でられ、皮膚が冷たくて気持ちいい。
「んー……別にもう平気だし」
「薬でどうにかしてるだけなんでしょ?完全に収まってるかどうかはわかんないじゃん」
「大丈夫だって。今の俺には息抜きの時間が必要なの!」
「息抜きって、ゲームすること?俺は楽しいけどさ、お前はボコされてるだけじゃん。楽しいわけ?」
「ボコされてないって!小さい頃と一緒にしないで……あ!」
画面の中で自分のキャラがふっ飛ばされる。和馬がよそ見をしてる隙に……と思っていたのに負けてしまった。悔しすぎる。
「はい勝ち~。お前さ、突っ込みすぎなんだよ。このキャラは性能的には待ちが強いんだから。無理に前出る必要ないの。相変わらず雑魚だな」
「煽らないでよ。性格悪いぞ。それに俺だって一応、性能と状況を考えたうえで操作してるし。少しは成長してるし、雑魚じゃねえし」
「はいはい、怒るなって。じゃ、ガキはもう部屋に戻りな。満足したでしょ」
和馬がけらけらと笑い声をあげた。くたっとした部屋着を着てる男に馬鹿にされてるが、彼とは本気で喧嘩になったことはない。
「俺の事情、知ってるの、和馬さんだけなんだしさ。もう少し遊んでよ」
「……いいよ。でも後一戦だけね。こっちだってお前に無理をさせたくないからさ」
仕方ないなぁと言いながら再びコントローラーを握ってくれる。こういう、何だかんだで面倒がいいところが好きだ。
初対面の頃はやたら偉そうな小学生だった。まだ幼児だった俺にさん付けを強要するような人で、最初は怖い印象を持っていた。
けれど今思えば、あれは彼なりに緊張していたせいなのだと分かる。何気にプライドが高いところや照れ屋なところも含めて、人付き合いが不器用であることも今では知り尽くしている。
そして、そんな和馬さんに、俺は密かに恋心を抱いていた。
物心がついた頃から、俺はやたらと探究心が強い子どもだった。
わからない言葉や文字を知りたがったり、本をたくさん読みたがったり、おもちゃをすぐに分解してしまったり、星はどうして光るのか、なんてことも。
井原家の三兄弟とよく遊んでいたあの頃、双子のアルファたちに聞いても、春斗にはまだ難しいんじゃないかな?とか、それより外で遊んだほうが楽しいよ、とか。そもそも話を無視されたりとか。
でも、和馬さんだけは違った。
面倒くさそうな顔をしながらも、俺の質問を遮らず、分かるところまできちんと噛み砕いて説明してくれた。
本の話も、ゲームの設定も、宇宙の仕組みも。
俺が知りたいと言えば、彼は仕方ないなと言いながら、必ず付き合ってくれた。度々、彼も知らないような質問をしてしまって困らせたこともあるけど、その度に図書館に行って調べてくれていた。
その背中がやけに大人びていて――子どもだった俺にはかっこよく見えた。
「今日くらいは俺の部屋にいてほしいんだけどな」
「すぐ隣の部屋にいるんだから大丈夫だって」
「もー……春斗のヒートが短いのは知ってるけど、心配だったから休みは明日も取ってるからね。いつでも呼んで」
紘一がいつものように髪を手で撫でてくる。薬を飲んだはずなのに、触れられたところが熱くなってきた。
また発情してしまっては薬を飲んだ意味がない。これはまずいとそそくさと部屋を出る。
体液を流すために浴室に入る。シャワーを浴びながら、ふと、自分の後ろに手をやった。まだ潤みが残るそこを指の腹で押してみて、ぞっと肌が鳥肌立つ。発情時に後が疼くのはいつもの事だが、なんだか怖くて自分でも中に何かをいれたことがない。越えてはいけない一線のように感じて、紘一が触れる時も思わず緊張してしまうのだ。
情欲がぶり返しそうなので早々に指を離して、シャワーの水の勢いを強めた。
「あのさ……兄貴といちゃついた後に、この部屋に来るのやめてくれる?」
黒縁眼鏡をかけた男が、デスクチェアにだらしなく腰掛けたまま、呆れたように言った。
首元の伸びたTシャツに、色の褪せたスウェットパンツ。色白で、腕は細く、いかにも外に出ていませんといった風貌。井原家の三男である、和馬だ。
和馬は俺より1つ年上で、第二の性はベータ。
井原家の兄弟の中で、彼だけが唯一のベータなのだ。兄である双子は二人ともアルファで、そのせいで幼い頃から劣等感を感じているようだった。
シャワーを浴びた足でそのまま和馬の部屋に押しかけ、今は二人でゲームをしている最中だ。ソファベッドに転がり、慣れ親しんだコントローラーを握って、画面のキャラを操作する。長い間二人で遊んでいる対戦ゲームだが、俺は一向に負けっぱなしだった。それでも楽しくて、何度もこの部屋に通っている。対戦ゲームをしたり、RPGゲームで一緒に考察しながら攻略したりするのが楽しくて、ゲームをするのが幼い頃からの習慣みたいになっていた。
「まだ顔、赤いよ。自室で休んでた方がいいんじゃないの」
頬に手のひらが触れた。気がつくと和馬が椅子から立ち上がり、俺を見下ろしていた。温度を確かめるように頬を撫でられ、皮膚が冷たくて気持ちいい。
「んー……別にもう平気だし」
「薬でどうにかしてるだけなんでしょ?完全に収まってるかどうかはわかんないじゃん」
「大丈夫だって。今の俺には息抜きの時間が必要なの!」
「息抜きって、ゲームすること?俺は楽しいけどさ、お前はボコされてるだけじゃん。楽しいわけ?」
「ボコされてないって!小さい頃と一緒にしないで……あ!」
画面の中で自分のキャラがふっ飛ばされる。和馬がよそ見をしてる隙に……と思っていたのに負けてしまった。悔しすぎる。
「はい勝ち~。お前さ、突っ込みすぎなんだよ。このキャラは性能的には待ちが強いんだから。無理に前出る必要ないの。相変わらず雑魚だな」
「煽らないでよ。性格悪いぞ。それに俺だって一応、性能と状況を考えたうえで操作してるし。少しは成長してるし、雑魚じゃねえし」
「はいはい、怒るなって。じゃ、ガキはもう部屋に戻りな。満足したでしょ」
和馬がけらけらと笑い声をあげた。くたっとした部屋着を着てる男に馬鹿にされてるが、彼とは本気で喧嘩になったことはない。
「俺の事情、知ってるの、和馬さんだけなんだしさ。もう少し遊んでよ」
「……いいよ。でも後一戦だけね。こっちだってお前に無理をさせたくないからさ」
仕方ないなぁと言いながら再びコントローラーを握ってくれる。こういう、何だかんだで面倒がいいところが好きだ。
初対面の頃はやたら偉そうな小学生だった。まだ幼児だった俺にさん付けを強要するような人で、最初は怖い印象を持っていた。
けれど今思えば、あれは彼なりに緊張していたせいなのだと分かる。何気にプライドが高いところや照れ屋なところも含めて、人付き合いが不器用であることも今では知り尽くしている。
そして、そんな和馬さんに、俺は密かに恋心を抱いていた。
物心がついた頃から、俺はやたらと探究心が強い子どもだった。
わからない言葉や文字を知りたがったり、本をたくさん読みたがったり、おもちゃをすぐに分解してしまったり、星はどうして光るのか、なんてことも。
井原家の三兄弟とよく遊んでいたあの頃、双子のアルファたちに聞いても、春斗にはまだ難しいんじゃないかな?とか、それより外で遊んだほうが楽しいよ、とか。そもそも話を無視されたりとか。
でも、和馬さんだけは違った。
面倒くさそうな顔をしながらも、俺の質問を遮らず、分かるところまできちんと噛み砕いて説明してくれた。
本の話も、ゲームの設定も、宇宙の仕組みも。
俺が知りたいと言えば、彼は仕方ないなと言いながら、必ず付き合ってくれた。度々、彼も知らないような質問をしてしまって困らせたこともあるけど、その度に図書館に行って調べてくれていた。
その背中がやけに大人びていて――子どもだった俺にはかっこよく見えた。
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