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熱を使い切ったあとのような、深部がだるくて、思考だけがぼんやり浮いている感覚。いい運動をしたあとの、それに少し似ていた。
浅い微睡みからゆっくりと醒める。ここは、自分の部屋か?
天井を見上げたまま瞬きをする。身体を起こそうとして、鋭い痛みが走った。
「……っ」
「春斗?」
椅子を引く音が聞こえた。ぱたぱたと足音が近づき、声の主が視界に入る。和馬だった。
「ああ、よかった。思ったよりも顔色がいい。ヒートはもうだいぶ抜けたんじゃない」
「和馬さん……えっと、俺はいったい……」
「いやいや、そのまま寝ておきなよ!しんどいでしょ。……ああ、そうだ。薬飲ませないと」
思い出したように和馬さんが机のうえに手を滑らせる。手渡されたのは、緊急用の避妊薬だった。
思わず息が詰まる。その拍子に、低く、耳に残る声が脳裏に蘇った。
蓮の声だ。
熱を帯びた声で囁かれて、何度も、何度も。淫らな行為に耽り、あられもないことを何度も言ってしまった気がする。自分がどんな顔をして、何を言っていたのか。はっきりとは思い出せない。番以外の相手に身体を許してしまったということだけは理解していた。
事の重大さに頭が冷える。俺は紘一の時の過ちを、また繰り返してしまったのだ。
玉子雑炊を啜り、薬を飲んで黙り込む俺に気を使ったのか、和馬はすぐに部屋を出ていった。あの様子では何が起きたのか全部知っているようだし、きっと俺の目が覚めるまで側にいてくれたんだろう。お礼を言いそびれてしまった。
あれからどれくらい時間が経ったのか。紘一はもう帰ってきているのだろうか。身ぎれいになっているが自分で風呂に入った記憶がないので、誰かが代わりにしてくれたんだろう。発情はあらかた収まっているようだが酷く身体は疲れたままで、気を抜けば再び眠ってしまいそうだ。
身体に鞭を打つようにして立ち上がり、壁に手をつきながら部屋を出る。そのときだった。
一階から、怒鳴り声が響いてくる。
「お前、自分が何をしたのかわかってないのか!?」
紘一の声だ。
足音を忍ばせて階段へ向かう。
半分ほど降りたところで、リビングの様子が視界に入った。
紘一が、蓮の胸倉を掴んでいた。
今にも殴りかかりそうな距離で2人が睨み合っている。キッチンでは、「あわわ……」と焦った様子の和馬が2人の攻防を見ている。仲裁に入りたくても入れないのだろう。
掴まれた側である蓮は、平然とドリンクゼリーを飲んでいた。
「そりゃ、目の前で発情されたんだからさぁ」
蓮は掴まれたまま、余裕の笑みを浮かべている。
「襲うにきまってんだろ。それに、あんな状態のあいつを置いて仕事に行ってるお前のほうが悪いんじゃね」
「……お前、悪ふざけにもほどがあるぞ。あいつは俺の番なのに、なぜそんな事を。俺への嫌がらせのつもりか?俺が気に入らないからって、春斗を巻き込むなよ」
蓮がにやにや笑いながらわざとらしく肩をすくめる。双子の彼らは服や髪型、表情や雰囲気は全然似てないけど、顔をよく見れば実はそっくりな造りをしている。
「ずっとよがってたしさ。自分から欲しがってきたんだぜ」
「だからって、あんな無理やり……!」
「大丈夫だろ。むしろ感謝されてもいいくらいじゃね?」
蓮がきらりと目を光らせた。
「紘一だって、春斗の首を無理やり咬んだくせに。お前が怒る権利あんのかよ」
「……っ」
空気が凍る。紘一は言葉を失ったように、唇を噛みしめていた。
違う、紘一のせいじゃない。彼を惑わしてしまったのは俺であって、咬まれたのも事故に過ぎない。
黙っていられなくなってその場から声をかけようとして、その瞬間、蓮の視線がこちらを向いた。
「……っ」
気づかれた。金髪の前髪の奥から、鋭い目が覗いている。
「こいつも欲求不満だったみたいだし?ウィンウィンのかんけーってやつだって」
蓮が階段を登ってくる。手を取られ、強引に階段を降ろされる。散々抱かれた身体はまだ元の調子を取り戻していない。足元が危うくなり、その胸に手をつくと、そのまま肩を抱かれて距離を詰められた。まるで紘一に見せつけているようで、眉をひそめる。
「なぁ~、気持ちよかったよな」
「え、あ」
「俺にしがみついてきて、何度も欲しがってきて。最後は噛んで噛んでって言ってたじゃん」
そんなに繰り返し言った記憶はないが、否定する言葉も見つからなかった。
紘一の顔が、目に見えて歪む。何かを必死に堪えるような表情だった。
それを見てすぐさま震える手で蓮を押しのける。
「こ、紘一……ごめん。その、俺……ヒート起こしちゃって、そしたらたまたまそこに蓮がいて」
「うん、全部聞いたよ」
愛していない番とはいえ、他のアルファに取られたとなればプライドを傷つけてしまっただろう。穏やかだがいつもより冷たい紘一の声に体を縮こませる。
「俺の部屋に来て」
そう短く声を書けた相手は、俺の返事を待つこともなく立ち去っていく。戸惑いながらも、蓮をその場に残して紘一の背中について行った。
浅い微睡みからゆっくりと醒める。ここは、自分の部屋か?
天井を見上げたまま瞬きをする。身体を起こそうとして、鋭い痛みが走った。
「……っ」
「春斗?」
椅子を引く音が聞こえた。ぱたぱたと足音が近づき、声の主が視界に入る。和馬だった。
「ああ、よかった。思ったよりも顔色がいい。ヒートはもうだいぶ抜けたんじゃない」
「和馬さん……えっと、俺はいったい……」
「いやいや、そのまま寝ておきなよ!しんどいでしょ。……ああ、そうだ。薬飲ませないと」
思い出したように和馬さんが机のうえに手を滑らせる。手渡されたのは、緊急用の避妊薬だった。
思わず息が詰まる。その拍子に、低く、耳に残る声が脳裏に蘇った。
蓮の声だ。
熱を帯びた声で囁かれて、何度も、何度も。淫らな行為に耽り、あられもないことを何度も言ってしまった気がする。自分がどんな顔をして、何を言っていたのか。はっきりとは思い出せない。番以外の相手に身体を許してしまったということだけは理解していた。
事の重大さに頭が冷える。俺は紘一の時の過ちを、また繰り返してしまったのだ。
玉子雑炊を啜り、薬を飲んで黙り込む俺に気を使ったのか、和馬はすぐに部屋を出ていった。あの様子では何が起きたのか全部知っているようだし、きっと俺の目が覚めるまで側にいてくれたんだろう。お礼を言いそびれてしまった。
あれからどれくらい時間が経ったのか。紘一はもう帰ってきているのだろうか。身ぎれいになっているが自分で風呂に入った記憶がないので、誰かが代わりにしてくれたんだろう。発情はあらかた収まっているようだが酷く身体は疲れたままで、気を抜けば再び眠ってしまいそうだ。
身体に鞭を打つようにして立ち上がり、壁に手をつきながら部屋を出る。そのときだった。
一階から、怒鳴り声が響いてくる。
「お前、自分が何をしたのかわかってないのか!?」
紘一の声だ。
足音を忍ばせて階段へ向かう。
半分ほど降りたところで、リビングの様子が視界に入った。
紘一が、蓮の胸倉を掴んでいた。
今にも殴りかかりそうな距離で2人が睨み合っている。キッチンでは、「あわわ……」と焦った様子の和馬が2人の攻防を見ている。仲裁に入りたくても入れないのだろう。
掴まれた側である蓮は、平然とドリンクゼリーを飲んでいた。
「そりゃ、目の前で発情されたんだからさぁ」
蓮は掴まれたまま、余裕の笑みを浮かべている。
「襲うにきまってんだろ。それに、あんな状態のあいつを置いて仕事に行ってるお前のほうが悪いんじゃね」
「……お前、悪ふざけにもほどがあるぞ。あいつは俺の番なのに、なぜそんな事を。俺への嫌がらせのつもりか?俺が気に入らないからって、春斗を巻き込むなよ」
蓮がにやにや笑いながらわざとらしく肩をすくめる。双子の彼らは服や髪型、表情や雰囲気は全然似てないけど、顔をよく見れば実はそっくりな造りをしている。
「ずっとよがってたしさ。自分から欲しがってきたんだぜ」
「だからって、あんな無理やり……!」
「大丈夫だろ。むしろ感謝されてもいいくらいじゃね?」
蓮がきらりと目を光らせた。
「紘一だって、春斗の首を無理やり咬んだくせに。お前が怒る権利あんのかよ」
「……っ」
空気が凍る。紘一は言葉を失ったように、唇を噛みしめていた。
違う、紘一のせいじゃない。彼を惑わしてしまったのは俺であって、咬まれたのも事故に過ぎない。
黙っていられなくなってその場から声をかけようとして、その瞬間、蓮の視線がこちらを向いた。
「……っ」
気づかれた。金髪の前髪の奥から、鋭い目が覗いている。
「こいつも欲求不満だったみたいだし?ウィンウィンのかんけーってやつだって」
蓮が階段を登ってくる。手を取られ、強引に階段を降ろされる。散々抱かれた身体はまだ元の調子を取り戻していない。足元が危うくなり、その胸に手をつくと、そのまま肩を抱かれて距離を詰められた。まるで紘一に見せつけているようで、眉をひそめる。
「なぁ~、気持ちよかったよな」
「え、あ」
「俺にしがみついてきて、何度も欲しがってきて。最後は噛んで噛んでって言ってたじゃん」
そんなに繰り返し言った記憶はないが、否定する言葉も見つからなかった。
紘一の顔が、目に見えて歪む。何かを必死に堪えるような表情だった。
それを見てすぐさま震える手で蓮を押しのける。
「こ、紘一……ごめん。その、俺……ヒート起こしちゃって、そしたらたまたまそこに蓮がいて」
「うん、全部聞いたよ」
愛していない番とはいえ、他のアルファに取られたとなればプライドを傷つけてしまっただろう。穏やかだがいつもより冷たい紘一の声に体を縮こませる。
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