鈍感なオメガは3兄弟に溺愛される

キルキ

文字の大きさ
14 / 15

14

しおりを挟む
話が一区切りすると姉は自室に戻り、母は買い物に出かけていった。一人でリビングに残り、なんとなく昔の写真を見たくなって、家のアルバムを取り出した。さっき母が見せてくれたやつだ。姉や俺の写真はもちろん、井原の3兄弟が写っているものもたくさんある。今はもう写真を撮る機会はぐんと減ったのでアルバムが増えることはないが、常に部屋の見える場所に置いてある。

彼らとはどこにでも行った気がする。海もプールも遊園地も動物園も。

初詣の時の写真が目に入り、ふと思い出したことがある。




幼い頃は、井原家とうちの家族が一緒になって出かけることが多かった。
幼い俺は知らない人間相手だとすぐに人見知りをしてしまい、積極的に構ってくる紘一以外の兄弟とは、あまり言葉を交わせずにいた。

ある年の正月、初詣で神社に行った。
いつものように、井原のお父さんが家まで迎えに来てくれる。この人はとても羽振りがよく、海外のお菓子や見たことのない置物をよく持ってきてくれた。知らないものに興味津々だった俺は、贈り物をもらうたびに大げさにはしゃいでて。そんな俺の反応が嬉しいらしく、度々お土産を持ってくるようになっていた。

ただ、その日の俺はきれいな外国なお菓子や見慣れないおもちゃを貰っても、テンションが上がらなかった。神社に着いてからは、どうにも落ち着かなくなった。
神社が苦手だったのだ。正確に言えば、神社そのものではなく、境内に響く鐘の音が。

音が大きいのが嫌いだった。
それだけじゃなく、聞いていると胸の奥がぐらっとして、気持ちが悪くなる。

一定の調子で鐘が鳴り続けていた。行列に並び、順番を待つ。人混みの中で、俺はこっそりと耳を塞ぐ。
音が嫌だと言えば、このお出かけ自体が中止になってしまうかもしれない。そんなことを考えてしまって、子供なりに気を使っていた俺は、何も言えずにいた。

紘一が何度か心配そうに声をかけてくれていたのは覚えている。でも、俺が耳を塞いでいることにはっきり気づいたのは、和馬だった。

「ねえ」

当時はそこまで会話を重ねたことがなかった和馬が、不意に声をかけてきたのだ。
彼が話しかけてくるのは稀なことで、その時の俺は戸惑っていた。和馬の表情は少し堅かった。きっと彼も、幼い俺に話しかけるのに緊張していたのだろう。和馬は少し顔を上げて鐘楼の方を眺めていた。

「この鐘さ、なんでこんなにうるさいか、知ってる?」

突然の問いだった。頭をハテナにしながら、俺は首を横に振った。耳はまだ塞いだままだけど、視線だけは和馬に向ける。それだけでも鐘の音が遠くに行った気がした。

「音が大きいってのもあるけどな、同時にすごく低いんだ。低い音は、空気を揺らす距離が長い。だから耳だけじゃなくて、腹とか骨にも来る」

ごおん、と、また鐘が鳴る。空気が震えるような感覚に、思わず肩が揺れた。

「ほら。今、胸の奥、動いただろ」

和馬が俺を見下ろしている。どこか得意げな表情だった。言われて、俺は自分の胸に手を当てる。そっか。俺がこの音が嫌いなのは、この感覚が気持ち悪いからなのかもしれない。

「……ほんとだ」
「だろ。だから耳を塞いでも、完全には防げてないでしょ。そんなことしても無駄ってこと。ここから離れない限りは聞こえてくるよ」

和馬は一拍置いてから、少し声の調子を変えた。

「気分悪いなら、あっちで休もう。俺、人が多いところ嫌いなんだ」

そう言って、境内から少し離れた広場の方を指さす。出店や拝殿の前に人が集まっていて、その一角だけが、ぽっかりと空いていた。

そのとき、俺は気づいたのだ。俺が耳を塞いでいた理由を察した上で、わざと別の理由をつけて、ここから連れ出そうとしてくれているのだと。

井原のお父さんに一言断ってから、俺と和馬は広場へ向かった。途中でたこ焼きを買ってもらって、「さっき、食べたそうに見てたから」なんて、何でもないことみたいに言われたけれど、その時の和馬がとても優しく微笑んでいたので、胸の奥がぽかぽかした。

後から聞いた話では、和馬はただ俺に“お兄さんぶりたかった”だけらしい。気の利いたことをしたかった、と笑っていたそうだ。

ベンチに座って、鐘の音が少し遠くなるのを感じながら、俺は和馬の話を聞いていた。神社のこと。祭りの由来。どうして屋台が並ぶのか。どれもが新鮮で、思わずいろんな事を質問した。いつの間にか和馬への緊張は解けて、自然な態度で話せるようになっていて。

俺の知らないことを、面白そうに、分かりやすく話すその横顔を見ながら、俺はいつの間にか、この人みたいになりたい、と思うようになっていた。彼への憧れの始まりはここからだった。



たくさんある写真の中に、あの日の瞬間は残っていない。そのことにどこか寂しさは覚えていたものの、むしろ2人だけの秘密の出来事っぽくてちょっとわくわくする。
あの思い出は俺にとっての宝物になっていた。

スマホの通知がなった。和馬からメッセージが来ていた。俺の身を案じていることと、いつこっちに戻ってくるのかという旨の内容だ。

少しぶっきらぼうだけど、それも和馬らしい。

まだあの家には俺の居場所があるんだ、と思えるのが嬉しかった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

告白を全部ドッキリだと思って振ったら、三人のアイドルが壊れかけたので彼氏役をすることになりました

海野(サブ)
BL
大人気アイドルヘイロー・プリズムのマネージャーである灯也はある日、その担当アイドル 光留 輝 照真 に告白されるが、ドッキリだと思い、振ってしまう。しかし、アイドル達のメンタルに影響が出始めてしまい… 致してるシーンと受けが彼氏役を引き受けるとこしか書いてませんので悪しからず。

こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡

なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。 あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。 ♡♡♡ 恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

幼馴染みのハイスペックαから離れようとしたら、Ωに転化するほどの愛を示されたβの話。

叶崎みお
BL
平凡なβに生まれた千秋には、顔も頭も運動神経もいいハイスペックなαの幼馴染みがいる。 幼馴染みというだけでその隣にいるのがいたたまれなくなり、距離をとろうとするのだが、完璧なαとして周りから期待を集める幼馴染みαは「失敗できないから練習に付き合って」と千秋を頼ってきた。 大事な幼馴染みの願いならと了承すれば、「まずキスの練習がしたい」と言い出して──。 幼馴染みαの執着により、βから転化し後天性Ωになる話です。両片想いのハピエンです。 他サイト様にも投稿しております。

ヤンキーΩに愛の巣を用意した結果

SF
BL
アルファの高校生・雪政にはかわいいかわいい幼馴染がいる。オメガにして学校一のヤンキー・春太郎だ。雪政は猛アタックするもそっけなく対応される。  そこで雪政がひらめいたのは 「めちゃくちゃ居心地のいい巣を作れば俺のとこに居てくれるんじゃない?!」  アルファである雪政が巣作りの為に奮闘するが果たして……⁈  ちゃらんぽらん風紀委員長アルファ×パワー系ヤンキーオメガのハッピーなラブコメ! ※猫宮乾様主催 ●●バースアンソロジー寄稿作品です。

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

お兄ちゃんができた!!

くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。 お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。 「悠くんはえらい子だね。」 「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」 「ふふ、かわいいね。」 律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡ 「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」 ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。

囚われた元王は逃げ出せない

スノウ
BL
異世界からひょっこり召喚されてまさか国王!?でも人柄が良く周りに助けられながら10年もの間、国王に準じていた そうあの日までは 忠誠を誓ったはずの仲間に王位を剥奪され次々と手篭めに なんで俺にこんな事を 「国王でないならもう俺のものだ」 「僕をあなたの側にずっといさせて」 「君のいない人生は生きられない」 「私の国の王妃にならないか」 いやいや、みんな何いってんの?

処理中です...