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26 朝?
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──
白い光が眩しくて、俺は目を覚ました。眠たい目をこすりながらゆっくりと上半身を起こす。真っ先に目に入ったのは、見慣れたデザインの掛け布団。
……これ、俺の部屋にあるやつとそっくりだ。
あの高級そうな掛け布団とマットレスは、我が家の使い古されたものとそっくりそのままになっている。異変に気付いて急いであたりを見渡せば、部屋の中で一番存在感がある大きな姿見がそこにあった。
「……あれ?」
ここ、本当に俺の部屋じゃん。
ベッドサイドに置かれたキャラクターもののデザインの時計からなるかちかちという音が、静かな部屋に響く。
いつもどおりの部屋に、いつもどおりの朝。あの非日常が起きる前の日条がそこにあった。
……え、あれって夢……だったの?
ぽかーんとしていると、時計からアラーム音が鳴り出して飛び上がる。その拍子に、ぴりりとしたむずむずするものが胸に走ってきて、息を呑んだ。
アラームを止めて今の時刻を確かめると、平日いつも俺が起きる時間になっている。これもいつもどおり。だけど、いつもと違うことも見つけた。
よく見たら、普段よりもぴっちりパジャマを着せられている。パジャマのボタンは一番上まで止められているし、中のシャツはピッタリサイズのズボンの中にいれられていた。そもそも俺が使っていたものは、自分の体格より少し大きいくらいだったのだ。
まるで俺の肌が誰かに見られないように、隠されているようだった。
ゆっくり姿見の方を振り返る。ベッドの上からでも、姿見には自分の姿が写っていた。恐る恐る上のパジャマをたくしあげると、───腰やお腹に付けられた"痕跡"が見えた。
「これ……、っ」
生々しい行為の痕がたくさん残っている。
この腰に付いてるやつ……、手の跡かな。あんなに強く掴まれたんだ。……あ、乳首たってる。真っ赤っかになってるし、ちょっと大きくなってる気がするし。
……やっぱりあれは、夢じゃなかったんだ。
───コンコン
ノックと共に、ドアの向こうから俺の名前を呼ぶ母親の声が聞こえてきて、慌てて服を整える。返事をする間もなく、扉は勝手に開かれた。いつもだったら俺の部屋に許可無しで入ってこないのに、どうしたんだろう。
「な、なに、お母さん」
「何じゃないわよ。怪我はもう大丈夫なの?」
……けが?
心配そうな母に言葉を返す余裕もない。疑問符ばかり頭に浮かべていると、母は続けて話しだした。
「あんた、交通事故にあったんでしょう?本当に心配したんだから。通学中に行方不明になったかと思えば、昨日突然あんたの安否の電話が来て……、ああ、本当にびっくりしたわ」
「こ、こうつう……。そ、そうだね。そうだったそうだった」
「軽い調子で言わないでちょうだい。こっちは寿命が縮むくらい心配したんだから。……ああでも、あんたを怪我させた人がなんか偉い人差だったみたいで。色々保証してくれるみたいだから、そこだけは安心ね」
全く心当たりのない話に一瞬驚いたものの、すぐに冷静になる。
これはおそらく……、あの人たちの手回しってこと?
いきなり過ぎて話が見えない。
母さんが運んできてくれた食事を取りながら、慎重に言葉を選びながら母親の話を聞いた。
まず、俺はこの数日間行方不明となっていた。捜索届を出しても行方がつかめず途方に暮れていたところ、昨日突然知らない男から電話がかかってきたらしい。その男いわく、
息子さんは交通事故に逢い、意識不明の怪我を負っている。
学生証や身分証を持っていなかったため、すぐに連絡を取ることができなかった。
息子さんは自分の怪我を家族に見られたくないと言っているため、彼の精神を守るためにも見ないようにしてほしい。
昨晩ようやく目を覚ましたため、身元が判明し家族に連絡を取ることができている。要求があれば直ぐに親御さんのもとに返すが、今後も治療費や医者の手配はこちらでする。
……ということであるらしかった。
帰してくれたということは、俺の要望を聞いてくれたということだろう。随分長いことあそこにいた気がするから、現状に少し現実味が無いように感じてしまう。
「生きていたから良かったものの……。次からは本当に気をつけなさいよ!」
「ごめんなさい……」
本当は怪我でも事故でもなく、誘拐されていただけなんだけど……。でも、本当のことを言う費用もなかったため、俺は素直に頷いた。母親を騙していることに少し心が痛い。
「…………」
「……怪我は大丈夫なの?」
「あ、うん。だいぶ」
「そう。……今日はもう学校休んでおきなさい」
あそこに居るときは前後不覚になっていたけど、実際に母親と再会してみると……。心配をかけさせたことが、申し訳なくなってくる。
帰ってこれてよかったんだな、俺。
───卒業後の約束のことを考えたら、本当の意味で帰ってこれてるのかはちょっとわからないけど。
それにしても、こんな大掛かりな嘘、一般人には用意できないだろう。なんか、水面下で凄いことが起きている気がする……。きっと、僕には想像もつかないようなことだろうけど。
だけど、これであの人たちとのことが終わったわけじゃないことは、身にしみて分かっていた。
母親が部屋を出ていった後、真っ先に自分の荷物を探した。あの場所ではずっと没収されていた鞄は、いつもの場所に鎮座していた。それの中から充電切れを起こしているスマホを探して、充電器に差しながら電源をつけた。
連絡先欄を確認するも、新しく登録された名前は見つからない。
もしかしたら賢か蓮見の連絡先が入っているんじゃないかって思ったんだけどなー……。
きっと彼らは近いうちに俺に会いにきてくれるけど……、その間、俺はどうしていたらいいの。
「はやく俺のところに来てよ」
一人きりの部屋の中で独りごちる。
最後の夜に感じた二人の温度がもうすでに恋しいな。
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ありがとうございます〜!
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