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蠍の一矢
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俺は暗い路地裏で、息を潜めていた。
ここは上層街と下層街の境界、かつて俺が情報屋として暗躍していた場所だ。
今や俺はローレン家の顧問という立場にあるが、この街の闇を決して忘れてはいない。
「黄金の鍵」―― その名を耳にしたのは、つい先日のことだった。
ローレン家の古参執事が、酒に酔った勢いで漏らしたのだ。
「貴族どもが踊らされているだけさ……本当の力を持っているのは『黄金の鍵』だ……」
その言葉が、俺の心に火をつけた。
もし本当に帝国を裏から操る存在があるのなら、それこそが俺の目指すべき場所。
今宵、俺はその存在を確かめるためにここにいる。
「待たせたな、ファラント」
闇の中から現れたのは、かつての仲間の一人。
下層街随一の盗賊組織『ジャッカル』の頭目だ。
「よう、カイン。久しぶりだな。上層の空気は、どうだ?」
俺は軽く肩をすくめてみせた。
「悪くないよ。だが本当の空気はここにある。それより、例の件は?」
ファラントは辺りを警戒するように見回してから、小声で話し始めた。
「どこまでが本当かわからんが、この国ができる前から続く秘密結社……なんて、馬鹿げた話まであるぜ」
俺の心臓が高鳴った。
やはり、存在するのか――?
「で、もちろん、それだけじゃないんだろ?」
「まあな、だが簡単には教えられねぇな」ファラントは意味ありげに笑った。
「対価は十分に支払う用意がある、ローレン家持ちだがな」
俺が冗談交じりに返すと、ファラントはくっくと笑い、
「俺が聞いた話じゃあ、イデア地区の地下に、奴らの集会所があるらしい」と場所の書かれたメモを手渡してきた。
イデア地区―― 上層街の中でも特に格式高い場所だ。
そこに秘密結社の拠点があるとは、なんという皮肉だろうか。
「感謝する」
「おう、気をつけろよ。あんまり深入りすると、命がねえぜ」
俺は軽く手を振り、闇の中へと消えていった。
* * *
数日後、俺はイデア地区の地下に潜入していた。
ファラントから得た情報を元に、俺は慎重に行動を続けた。
地下迷路のような通路を進んでいくと、やがて大きな扉が現れた。
扉には黄金の鍵の紋章が刻まれている。
間違いない、ここが「黄金の鍵」の集会所だ……。
俺は耳を扉に当て、中の様子を窺った。
かすかに声が聞こえる。どうやら会合が行われているようだ。
「……次の標的は、ガリウス家当主だ」
「了解した。毒を使うか?」
「いや、事故に見せかけろ。疑われてはならん」
俺の背筋が凍りついた。
彼らは、まるで人の命を弄ぶかのように話している。
それはすでに決定事項かのように。
これが「黄金の鍵」の本質か……。
突然、背後で物音がした。
「誰だ!」
俺は咄嗟に身を翻したが、遅かった。
何者かに後頭部を強打され、意識が遠のいていく。
気がつくと、俺は椅子に縛り付けられていた。
目の前には、黒衣の男たちが立っている。
「よく来たな、カイン」
中央の男が冷ややかに言った。
「我々の存在に気づくとは、さすがローレン家に取り入っただけはある」
俺は平静を装った。
「へえ、俺のことを知ってくれているとはね」
「もちろんだ」男は薄く笑った。
「我々は常に、才能ある者に目をつけている。お前もその一人だ」
俺は警戒しながらも、興味をそそられた。
「ほう……それで? 俺を拘束する理由は?」
「我々と手を組まないか?」男は真っ直ぐに俺を見た。
「お前の野望を我々は知っている。この帝国を操りたいのだろう? 我々と共に働けば、それも夢ではない」
俺は一瞬、心が揺らいだ。
これほどの力を持つ組織と手を組めば、俺の野望は一気に現実味を帯びる。
だが――。
「断る」俺はきっぱりと言い放った。
男たちの表情が険しくなる。
「なぜだ?」
「俺は、誰にも操られたくないんだよ」俺は冷笑した。
「たとえそれが『黄金の鍵』だろうとな」
男は冷たい目で俺を見つめた。
「……愚かな選択だ。お前のような才能を無駄にするのは惜しいが、仕方あるまい。処刑しろ」
その瞬間、俺は動いた。
縛られた腕を器用にねじり、隠し持っていたナイフを取り出す。
一瞬の隙を突いて、俺は椅子ごと後方に倒れ込んだ。
「なに!?」
男たちが驚いて動揺している間に、俺は縄を切り、部屋の隅に転がっていた煙幕の小瓶を手に取った。
「悪いな。俺は、自分の力で登り詰めたいんでね」
そう言って、小瓶を床に叩きつける。
濃い煙が立ち込める中、俺は一目散に逃走した。
* * *
数時間後、俺は安全な場所にたどり着いていた。
胸の鼓動が、まだ激しく打っている。
あの場所で手に入れた情報は、計り知れない価値があった。
「黄金の鍵」の存在、そしてガリウス家当主暗殺計画……。
俺は静かに笑みを浮かべた。
今回の出来事で、俺の計画は大きく前進した。
まず、ガリウス家当主に接触し、暗殺計画を密かに警告する。
そして見返りに、ガリウス家の機密情報を得る。
次に、その情報を元に三大貴族家を揺さぶる。
彼らの間に不信と混乱の種を蒔くのだ。
そして最後に――。
「黄金の鍵」そのものを、俺の手中に収める。
だが、同時に黄金の鍵も俺を追ってくるだろう。
これからは今まで以上に周囲に気を配らなければ……。
俺は窓の外を見た。
夜明けが近い……。
「さあ、踊れ。この俺のために――」
俺は静かに呟いた。
蠍の毒矢は、既に放たれているのだ。
ここは上層街と下層街の境界、かつて俺が情報屋として暗躍していた場所だ。
今や俺はローレン家の顧問という立場にあるが、この街の闇を決して忘れてはいない。
「黄金の鍵」―― その名を耳にしたのは、つい先日のことだった。
ローレン家の古参執事が、酒に酔った勢いで漏らしたのだ。
「貴族どもが踊らされているだけさ……本当の力を持っているのは『黄金の鍵』だ……」
その言葉が、俺の心に火をつけた。
もし本当に帝国を裏から操る存在があるのなら、それこそが俺の目指すべき場所。
今宵、俺はその存在を確かめるためにここにいる。
「待たせたな、ファラント」
闇の中から現れたのは、かつての仲間の一人。
下層街随一の盗賊組織『ジャッカル』の頭目だ。
「よう、カイン。久しぶりだな。上層の空気は、どうだ?」
俺は軽く肩をすくめてみせた。
「悪くないよ。だが本当の空気はここにある。それより、例の件は?」
ファラントは辺りを警戒するように見回してから、小声で話し始めた。
「どこまでが本当かわからんが、この国ができる前から続く秘密結社……なんて、馬鹿げた話まであるぜ」
俺の心臓が高鳴った。
やはり、存在するのか――?
「で、もちろん、それだけじゃないんだろ?」
「まあな、だが簡単には教えられねぇな」ファラントは意味ありげに笑った。
「対価は十分に支払う用意がある、ローレン家持ちだがな」
俺が冗談交じりに返すと、ファラントはくっくと笑い、
「俺が聞いた話じゃあ、イデア地区の地下に、奴らの集会所があるらしい」と場所の書かれたメモを手渡してきた。
イデア地区―― 上層街の中でも特に格式高い場所だ。
そこに秘密結社の拠点があるとは、なんという皮肉だろうか。
「感謝する」
「おう、気をつけろよ。あんまり深入りすると、命がねえぜ」
俺は軽く手を振り、闇の中へと消えていった。
* * *
数日後、俺はイデア地区の地下に潜入していた。
ファラントから得た情報を元に、俺は慎重に行動を続けた。
地下迷路のような通路を進んでいくと、やがて大きな扉が現れた。
扉には黄金の鍵の紋章が刻まれている。
間違いない、ここが「黄金の鍵」の集会所だ……。
俺は耳を扉に当て、中の様子を窺った。
かすかに声が聞こえる。どうやら会合が行われているようだ。
「……次の標的は、ガリウス家当主だ」
「了解した。毒を使うか?」
「いや、事故に見せかけろ。疑われてはならん」
俺の背筋が凍りついた。
彼らは、まるで人の命を弄ぶかのように話している。
それはすでに決定事項かのように。
これが「黄金の鍵」の本質か……。
突然、背後で物音がした。
「誰だ!」
俺は咄嗟に身を翻したが、遅かった。
何者かに後頭部を強打され、意識が遠のいていく。
気がつくと、俺は椅子に縛り付けられていた。
目の前には、黒衣の男たちが立っている。
「よく来たな、カイン」
中央の男が冷ややかに言った。
「我々の存在に気づくとは、さすがローレン家に取り入っただけはある」
俺は平静を装った。
「へえ、俺のことを知ってくれているとはね」
「もちろんだ」男は薄く笑った。
「我々は常に、才能ある者に目をつけている。お前もその一人だ」
俺は警戒しながらも、興味をそそられた。
「ほう……それで? 俺を拘束する理由は?」
「我々と手を組まないか?」男は真っ直ぐに俺を見た。
「お前の野望を我々は知っている。この帝国を操りたいのだろう? 我々と共に働けば、それも夢ではない」
俺は一瞬、心が揺らいだ。
これほどの力を持つ組織と手を組めば、俺の野望は一気に現実味を帯びる。
だが――。
「断る」俺はきっぱりと言い放った。
男たちの表情が険しくなる。
「なぜだ?」
「俺は、誰にも操られたくないんだよ」俺は冷笑した。
「たとえそれが『黄金の鍵』だろうとな」
男は冷たい目で俺を見つめた。
「……愚かな選択だ。お前のような才能を無駄にするのは惜しいが、仕方あるまい。処刑しろ」
その瞬間、俺は動いた。
縛られた腕を器用にねじり、隠し持っていたナイフを取り出す。
一瞬の隙を突いて、俺は椅子ごと後方に倒れ込んだ。
「なに!?」
男たちが驚いて動揺している間に、俺は縄を切り、部屋の隅に転がっていた煙幕の小瓶を手に取った。
「悪いな。俺は、自分の力で登り詰めたいんでね」
そう言って、小瓶を床に叩きつける。
濃い煙が立ち込める中、俺は一目散に逃走した。
* * *
数時間後、俺は安全な場所にたどり着いていた。
胸の鼓動が、まだ激しく打っている。
あの場所で手に入れた情報は、計り知れない価値があった。
「黄金の鍵」の存在、そしてガリウス家当主暗殺計画……。
俺は静かに笑みを浮かべた。
今回の出来事で、俺の計画は大きく前進した。
まず、ガリウス家当主に接触し、暗殺計画を密かに警告する。
そして見返りに、ガリウス家の機密情報を得る。
次に、その情報を元に三大貴族家を揺さぶる。
彼らの間に不信と混乱の種を蒔くのだ。
そして最後に――。
「黄金の鍵」そのものを、俺の手中に収める。
だが、同時に黄金の鍵も俺を追ってくるだろう。
これからは今まで以上に周囲に気を配らなければ……。
俺は窓の外を見た。
夜明けが近い……。
「さあ、踊れ。この俺のために――」
俺は静かに呟いた。
蠍の毒矢は、既に放たれているのだ。
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