黄金の檻 〜高慢な貴族連中を裏から支配するんでよろしく〜

とんでもニャー太

文字の大きさ
7 / 10

蠍の一矢

しおりを挟む
俺は暗い路地裏で、息を潜めていた。
ここは上層街と下層街の境界、かつて俺が情報屋として暗躍していた場所だ。

今や俺はローレン家の顧問という立場にあるが、この街の闇を決して忘れてはいない。

「黄金の鍵」―― その名を耳にしたのは、つい先日のことだった。
ローレン家の古参執事が、酒に酔った勢いで漏らしたのだ。

「貴族どもが踊らされているだけさ……本当の力を持っているのは『黄金の鍵』だ……」

その言葉が、俺の心に火をつけた。
もし本当に帝国を裏から操る存在があるのなら、それこそが俺の目指すべき場所。

今宵、俺はその存在を確かめるためにここにいる。

「待たせたな、ファラント」

闇の中から現れたのは、かつての仲間の一人。
下層街随一の盗賊組織『ジャッカル』の頭目だ。

「よう、カイン。久しぶりだな。上層の空気は、どうだ?」

俺は軽く肩をすくめてみせた。

「悪くないよ。だが本当の空気はここにある。それより、例の件は?」

ファラントは辺りを警戒するように見回してから、小声で話し始めた。

「どこまでが本当かわからんが、この国ができる前から続く秘密結社……なんて、馬鹿げた話まであるぜ」

俺の心臓が高鳴った。
やはり、存在するのか――?

「で、もちろん、それだけじゃないんだろ?」

「まあな、だが簡単には教えられねぇな」ファラントは意味ありげに笑った。
「対価は十分に支払う用意がある、ローレン家持ちだがな」

俺が冗談交じりに返すと、ファラントはくっくと笑い、
「俺が聞いた話じゃあ、イデア地区の地下に、奴らの集会所があるらしい」と場所の書かれたメモを手渡してきた。

イデア地区―― 上層街の中でも特に格式高い場所だ。
そこに秘密結社の拠点があるとは、なんという皮肉だろうか。

「感謝する」
「おう、気をつけろよ。あんまり深入りすると、命がねえぜ」

俺は軽く手を振り、闇の中へと消えていった。


* * *


数日後、俺はイデア地区の地下に潜入していた。
ファラントから得た情報を元に、俺は慎重に行動を続けた。

地下迷路のような通路を進んでいくと、やがて大きな扉が現れた。
扉には黄金の鍵の紋章が刻まれている。

間違いない、ここが「黄金の鍵」の集会所だ……。

俺は耳を扉に当て、中の様子を窺った。
かすかに声が聞こえる。どうやら会合が行われているようだ。

「……次の標的は、ガリウス家当主だ」
「了解した。毒を使うか?」
「いや、事故に見せかけろ。疑われてはならん」

俺の背筋が凍りついた。
彼らは、まるで人の命を弄ぶかのように話している。
それはすでに決定事項かのように。

これが「黄金の鍵」の本質か……。

突然、背後で物音がした。

「誰だ!」

俺は咄嗟に身を翻したが、遅かった。
何者かに後頭部を強打され、意識が遠のいていく。

気がつくと、俺は椅子に縛り付けられていた。
目の前には、黒衣の男たちが立っている。

「よく来たな、カイン」

中央の男が冷ややかに言った。

「我々の存在に気づくとは、さすがローレン家に取り入っただけはある」

俺は平静を装った。

「へえ、俺のことを知ってくれているとはね」
「もちろんだ」男は薄く笑った。

「我々は常に、才能ある者に目をつけている。お前もその一人だ」

俺は警戒しながらも、興味をそそられた。

「ほう……それで? 俺を拘束する理由は?」
「我々と手を組まないか?」男は真っ直ぐに俺を見た。

「お前の野望を我々は知っている。この帝国を操りたいのだろう? 我々と共に働けば、それも夢ではない」

俺は一瞬、心が揺らいだ。
これほどの力を持つ組織と手を組めば、俺の野望は一気に現実味を帯びる。

だが――。

「断る」俺はきっぱりと言い放った。

男たちの表情が険しくなる。

「なぜだ?」
「俺は、誰にも操られたくないんだよ」俺は冷笑した。

「たとえそれが『黄金の鍵』だろうとな」

男は冷たい目で俺を見つめた。
「……愚かな選択だ。お前のような才能を無駄にするのは惜しいが、仕方あるまい。処刑しろ」

その瞬間、俺は動いた。
縛られた腕を器用にねじり、隠し持っていたナイフを取り出す。
一瞬の隙を突いて、俺は椅子ごと後方に倒れ込んだ。

「なに!?」

男たちが驚いて動揺している間に、俺は縄を切り、部屋の隅に転がっていた煙幕の小瓶を手に取った。

「悪いな。俺は、自分の力で登り詰めたいんでね」

そう言って、小瓶を床に叩きつける。
濃い煙が立ち込める中、俺は一目散に逃走した。


* * *


数時間後、俺は安全な場所にたどり着いていた。
胸の鼓動が、まだ激しく打っている。

あの場所で手に入れた情報は、計り知れない価値があった。

「黄金の鍵」の存在、そしてガリウス家当主暗殺計画……。

俺は静かに笑みを浮かべた。
今回の出来事で、俺の計画は大きく前進した。

まず、ガリウス家当主に接触し、暗殺計画を密かに警告する。
そして見返りに、ガリウス家の機密情報を得る。

次に、その情報を元に三大貴族家を揺さぶる。
彼らの間に不信と混乱の種を蒔くのだ。

そして最後に――。

「黄金の鍵」そのものを、俺の手中に収める。

だが、同時に黄金の鍵も俺を追ってくるだろう。
これからは今まで以上に周囲に気を配らなければ……。

俺は窓の外を見た。
夜明けが近い……。

「さあ、踊れ。この俺のために――」

俺は静かに呟いた。
蠍の毒矢は、既に放たれているのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

キモおじさんの正体は…

クラッベ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生し、ヒロインとなったナディア。 彼女はゲーム通りにいかない悪役令嬢のビビアンに濡れ衣を着せ、断罪イベントの発生を成功させる。 その後の悪役令嬢の末路は、ゲーム通りでは気持ち悪いおっさんに売られていくのを知っているナディアは、ざまぁみろと心の中で嘲笑っていた。 だけどこの時、この幸せが終わりを迎えることになるとは、ナディアは思っても見なかったのだ。

序盤でざまぁされる人望ゼロの無能リーダーに転生したので隠れチート主人公を追放せず可愛がったら、なぜか俺の方が英雄扱いされるようになっていた

砂礫レキ
ファンタジー
35歳独身社会人の灰村タクミ。 彼は実家の母から学生時代夢中で書いていた小説をゴミとして燃やしたと電話で告げられる。 そして落ち込んでいる所を通り魔に襲われ死亡した。 死の間際思い出したタクミの夢、それは「自分の書いた物語の主人公になる」ことだった。 その願いが叶ったのか目覚めたタクミは見覚えのあるファンタジー世界の中にいた。 しかし望んでいた主人公「クロノ・ナイトレイ」の姿ではなく、 主人公を追放し序盤で惨めに死ぬ冒険者パーティーの無能リーダー「アルヴァ・グレイブラッド」として。 自尊心が地の底まで落ちているタクミがチート主人公であるクロノに嫉妬する筈もなく、 寧ろ無能と見下されているクロノの実力を周囲に伝え先輩冒険者として支え始める。 結果、アルヴァを粗野で無能なリーダーだと見下していたパーティーメンバーや、 自警団、街の住民たちの視線が変わり始めて……? 更新は昼頃になります。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

精霊のお仕事

ぼん@ぼおやっじ
ファンタジー
【完結】 オレは前世の記憶を思い出した。 あの世で、ダメじゃん。 でもそこにいたのは地球で慣れ親しんだ神様。神様のおかげで復活がなったが…今世の記憶が飛んでいた。 まあ、オレを拾ってくれたのはいい人達だしオレは彼等と家族になって新しい人生を生きる。 ときどき神様の依頼があったり。 わけのわからん敵が出てきたりする。 たまには人間を蹂躙したりもする。? まあいいか。

処理中です...