霊感頼みの貴族家末男、追放先で出会った大悪霊と領地運営で成り上がる

準備と予期せぬ来訪者

レイモンド・ブラックソーンとの会談から1週間が過ぎた。僕は毎日、霧の力の管理計画の策定に没頭していた。執務室の机の上には、山のように積まれた資料や地図が広がっている。

「ふぅ...」

深いため息をつきながら、僕は椅子に深く腰掛けた。窓の外を見ると、夕日が沈みかけていた。

「まだまだ課題が山積みだな...」

その時、ノックの音が聞こえた。

「失礼します、領主様」

リリーが部屋に入ってきた。

「どうしたの、リリー？」

「お客様がいらっしゃいました。急な来訪で申し訳ありませんが...」

僕は眉をひそめた。こんな時間に誰が...？

「分かった。すぐに行くよ」

大広間に向かう途中、ヴァルデマールの霊が現れた。

「気をつけるのじゃ、若き領主よ。予期せぬ来訪者は、時として危険をもたらすこともある」

僕は静かに頷いた。「分かっています。用心します」

大広間のドアを開けると、そこには見覚えのある顔があった。

「エドガー兄さん...！」

僕の長兄、エドガーが立っていた。その表情は複雑で、少し疲れているようにも見えた。

「久しぶりだな、アリストン」

「どうして...ここに？」

エドガーは少し言いにくそうに口を開いた。

「父上の命令でな。お前の...様子を見に来たんだ」

僕は一瞬、言葉を失った。父上が...僕のことを？

「そうか...。でも、どうしてこのタイミングで？」

エドガーは深いため息をついた。

「実は...シャドウクリフ王国の動きが、我が国にも伝わっているんだ。お前がどう対応しているのか、父上も心配しているようでな」

僕は複雑な思いに駆られた。追放した息子を、今更心配する...？

「分かりました。では、現状を説明させてください」

僕はエドガーに、これまでの経緯と今後の計画について詳しく話した。霧の真の力、シャドウクリフとの交渉、そして各国との協力体制の構築について。

話し終えると、エドガーは驚きの表情を浮かべていた。

「まさか...お前がそこまで...」

「どういう意味ですか、兄さん？」

エドガーは少し言葉を選びながら話し始めた。

「正直に言うと、父上も私も、お前がこの地で上手くやっていけるとは思っていなかった。だが...」

彼は僕の目をまっすぐ見て続けた。

「お前は我々の予想をはるかに超えている。この複雑な状況を、よくここまで...」

その言葉に、胸が熱くなるのを感じた。

「ありがとうございます、兄さん。でも、まだ何も成し遂げていません。これからが本当の勝負です」

エドガーは微笑んだ。

「そうだな。だが、お前なら大丈夫だ。...父上にも、そう伝えよう」

その夜、僕とエドガーは夕食を共にしながら、様々な話をした。幼い頃の思い出、家族のこと、そして今のヴァンガード家の状況について。

「アリストン、正直に言うと...お前がいなくなってから、家の雰囲気が変わったんだ」

「え...？」

「父上も、お前のことを口には出さないが、時々物思いに沈んでいるんだ」

僕は複雑な思いに駆られた。追放された時の痛みは、まだ心の奥底に残っている。でも...。

「兄さん、僕は...」

エドガーは僕の言葉を遮るように、優しく微笑んだ。

「分かっている。お前には、お前の道がある。それを歩むんだ」

翌朝、エドガーは城を去る準備をしていた。

「父上に何と伝えればいい？」

僕は少し考え、そして言った。

「...心配しないでと伝えてください。僕は、自分の道を見つけました。そして、それを全うする覚悟もできています」

エドガーは満足げに頷いた。

「分かった。必ず伝えよう」

エドガーが去った後、僕は再び執務室に戻った。机の上には、まだ完成していない計画書が広がっている。

「さて、続きをやろう」

その時、ヴァルデマールの声が聞こえた。

「若き領主よ、お主の成長を感じる。だが、油断は禁物じゃ」

「はい、分かっています。これからが本当の勝負です」

僕は窓の外を見た。ヴェイルミストの風景が、いつもより美しく感じられた。

「守らなきゃ...この景色を、みんなの笑顔を、そしてこの地の未来を」

決意を新たに、僕は計画書に向き合った。レイモンドの再訪まで、あと1週間。その時までに、完璧な提案を用意しなければならない。

夜遅くまで作業を続ける中、ふとオリヴィアの姿が見えた気がした。

「頑張って、アリストン。あなたならきっと...」

その言葉に背中を押されるように、僕は筆を走らせ続けた。

明日からは、村人たちとの対話も始めなければならない。彼らの意見や不安を聞き、計画に反映させる。そして、周辺国との交渉の準備も...。

やるべきことは山積みだ。でも、もう後戻りはできない。
この1週間で、全てを形にしなければ。

「必ず成し遂げてみせる」

僕は静かに誓った。窓の外では、満月が優しく輝いていた。その光に照らされたヴェイルミストの姿が、希望に満ちているように見えた。

これからの1週間、そしてその先に待つ未知の挑戦。全てを乗り越え、この地に真の平和をもたらす。それが、今の僕の使命なのだから。

深呼吸をして、僕は再び計画書に向かった。明日という新たな日の始まりを、心待ちにしながら。