けだるい君

べあ

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けだるい君

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水曜日、私達4人はお昼のチャイムが鳴ると同時に多目的室へと足を急がせる。

「良かった!最前列まだ空いてるよ!」

「やった、これで須田先輩を近くで観られるね!」

いつからか、私達4人にとって水曜日のお昼休みはこれがルーティーンのようになってしまった。
軽音楽部の演奏を聴きながらお弁当を食べられるのが毎週の楽しみでもある。

須田先輩を少しでも目に焼き付けて
置かなければ、午後の授業なんてやってられない。

多目的室は、100人ほど座れる椅子があり後ろに掛けて床が斜めに高くなっている。そのため後ろからでも充分楽しむことができるのだが、やはり須田先輩は近くで見たい。

そう思う人は多いらしく、最前列から5列目ほどまではいつも女子生徒で埋め尽くされている。

「お腹空いたぁ」

「だよね、お昼ご飯食べよ!」

その言葉に反応し、菜々もカバンからお弁当を取り出した。

お母さんが作ってくれたお弁当、今日はどんなおかずが入っているのだろうと
少しワクワクさせながら蓋を開ける。
今日は、朝ごはんにも出てきた定番の卵焼き、ウインナー、ミートボール、プチトマト、茹でたブロッコリー仕切りを挟んでご飯、その上にごま塩が振られている。

「お母さん今日手抜きだ」

独り言が聞こえたのか突然隣に座っている鈴香がお弁当に顔を近づけた。

「菜々のお弁当美味しそうじゃん!」

「お母さん今日は、手抜きだよ笑
昨日と同じおかずだもん」

「いいじゃん、鈴香もお弁当作ってもらいたいよー」

鈴香の手元をふと見るとコンビニで買ったであろう、ツナマヨおにぎりを大切そうに持っていた。

「ねぇねぇ、カスミのお弁当ちょっと分けてよ!いっつも量多いって文句言ってるでしょー?」

鈴香は私を挟んで、カスミにそう問いかけた。
心優しいカスミが断らないことを知って問いかけている。
鈴香は、人の優しさを利用する悪いやつだ。

「まったく。カスミ嫌だったら断りなよー、いつものことなんだから」

カスミの隣でスマホを操作しながら柑奈が注意してくれている。
柑奈は無関心なようでいい子だ。

「大丈夫!ほんとに量多いから笑
おかず半分あげる!」

「え!いいの、やったー!
さすが愛しのカスミだわ!」

「半分もあげちゃうの!?」

「うん、弟と同じおかずの量入れられるから困るんだよね。弟は成長期だし部活してるからいいけど私はダイエット中の華のJKですから。」

「さすがに、弟と同じおかずの量はキツイか…笑」

カスミのお弁当は、2段式で1段目にご飯
2段目には唐揚げや、豚のしょうが焼きなど菜々が食べるにしても少し多いお弁当の量だと思った。

カスミはさっそくおかずを半分ほどお弁当の蓋にのせた。
菜々の目前を充分な程の唐揚げと豚のしょうが焼きなど、茶色いおかずが通り過ぎていった。

「ありがとう!!
いっただきまーす!!」

鈴香の元気な、いただきますコールに菜々もつられて卵焼きをフォークで一刺しし、口へ入れた。
口に入れた途端舌いっぱいに砂糖の甘さと卵の甘さが広がる。

「う~ん、美味しい」

この甘い卵焼きは昔からの大好物だ。

「まだかなぁ」

お弁当も食べず、スマホをずっと触っていた柑奈の方を見た。

「準備に時間かかってんじゃない?
いつも5分くらいに出てきてるしね~」

「そうだよね」

お弁当に夢中になっていたせいか
気がつけば、時計の針はもう10に届きそうだった。

柑奈は、須田先輩の動画を撮ろうと
録画ボタンに指をのせている。

多目的室の中に居る皆も準備万端のようだ。

私は今か今かと、ドキドキ胸を高鳴らせていた。

「ギイイィィィィィィィーン」

会場の皆が、ワイワイと騒ぐ中
ギターの音が多目的室いっぱいに響き渡った。


「キャーーーーーーーッ!!!!」

それと同時、もしくは多目的室中にギターの音が響き渡る前に女子生徒の歓声が多目的室中に響き渡った。

きっとこの歓声は、多目的室前の廊下に何気なく置かれていたバケツの中の水を揺らしたことだろう。

そして、私も心の底から声を出して歓声をあげた。

「キャーー!!」

両耳から、他の歓声と混ざって鈴香とカスミの歓声も少し聞こえる。

柑奈は相変わらず、動画撮影に夢中の様子だった。
スマホの録画画面を見つつも須田先輩もしっかりと見つめている。
スマホはしっかりと手で固定し、安定した撮影ぶり流石としか、言いようがない。

「あ~っやっぱり、須田先輩ってかっこいい。」

ここで演奏している、須田先輩を見ると手の届かない存在だと改めて実感する。
同じ学校に居るのだからチャンスがあればと、思うがライバルも多い。フォークソング部に所属しているため
同じ【音楽】という共通点を持てたと思っていたが私にはまだまだ遠い存在のようだ。
この多目的室にいる人たち100人以上が須田先輩のライバルだと考えるだけで血の気が引きそうだ。

そんなことが分かっていても、やはり須田先輩に目がいってしまう。
お弁当のウインナーとご飯を口に突っ込み、奥歯で噛み締めながら須田先輩の顔をふと見る
少し目にかかった、長い前髪の間から時おり見せるキレイな目、長いまつ毛の奥には、澄んでいるようでどこか暗い須田先輩の瞳が見える。
じっと覗いていたら吸い込まれてしまいそうだ。

演奏中、他のバンドメンバーと目を合わせている時は高い鼻や、シュッとしたフェイスラインが際立っている。
しかし、口や目は笑っているのに瞳だけが暗い菜々はそんな印象をずっと抱いていた。




軽音楽部の演奏を聴きながらお弁当を食べ、いよいよ最後の1曲となった。
時間も12時48分
授業は13時開始のためギリギリだ。
5限目が体育で着替えないと行けないもの、多目的室から遠い人達は曲のつなぎ目でぞろぞろと多目的室を出ていった。

「それでは、いよいよ最後の1曲です。」

「聞いてください」

今まで須田先輩に夢中で気が付かなかったがボーカルの人もなかなか、カッコイイ。
新しく入った人だろうか明らかに先週は居ない、初めて見る人だった。
須田先輩とは違い髪が茶髪で少しちゃらちゃらとした印象を受ける。
同学年でもなさそう、転入生だろうか?

そんなことを頭の中でぐるぐる考えているうちに、爆音が流れ初め心臓まで届いたように感じた。

体全身で軽音楽部の音楽を楽しみ
須田先輩のエネルギーを全身で受け止め

4人揃って午後の授業へと挑んだ。

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