11 / 11
ヴィクトル
6
しおりを挟む
エウリーカは何て答えていいのかわからず立ち尽くす僕を待つことなく(鼻から僕がすぐ答えるとは思っていなかったのかもしれないが)、すくっとベッドから起き上がり、んーっと一回大きく伸びた。
そして、妙にスッキリとした顔でニカリと笑った。
「なんでアンタが男で私が女なのか、わかった気がする」
そして、ゆっくりと僕に歩み寄る。
「私が男だったら、ヴィクトルと一緒にいれたのに。連れてってもらえたのに。同じものを見て、感じて。一緒に戦って一緒に死ねたのにって、ずっと思ってた。でも、違った。ヴィクトルが男で私が女だから、繋がることができた。それだけじゃない。ヴィクトルを繋ぎ止めることだってできる。命を繋げることだって、一緒に生きることだってできる」
「……エウリーカ」
「ヴィクトルだって気持ち良かったんでしょ?ねえ、もっとしたいと思わない?もっと色んなことしたいって」
「それは、でも」
「一回抱けたらもう満足?私の身体にまた触りたいって思わない?」
「エウリーカ」
「昨日の一回でもう未練はない?」
未練なんて……
あるに決まっている。未練だらけだ。未練しかない。
セックスに。エウリーカとのセックスに。エウリーカの身体に。エウリーカと過ごす時間に。
一回したからもう十分だなんてどうして思えるのだろう。一回で足りるわけがない。一回経験してしまったからこそもっともっとと強欲にになる。執着が増す。手放し難くなる。でも、たがらこそ──
「ねえ、私のことも気持ちよくさせてよ。気持ちいいってどんな感じなのか私にも教えてよ」
懇願するような瞳で射抜かれ、ぐっと言葉を呑み込む。
「……エウリーカ、もう行かなきゃ」
「私を置いていくの?」
「君の為だから」
「私の?」
「君を巻き込むわけにはいかないんだ」
「もう巻き込まれてるよ」
「そう、かもしれない。ごめん。だから追手が君の所に来る前に早く出ないと─」
「私も連れてってよ」
飛び出しそうになるものを堪えるように、ぎゅっと強く拳を握る。
それができるなら、とっくにやっているさ。
僕だって君といたい。もっと君を見たい。君に触れたい。君と生きたい!もっともっと!!
死にたくなんて、ない。
「…それは無理だよ。君には、幸せになってほしいんだ」
「私の幸せって何?」
「誰かいい人と結婚して、家庭を築いて」
「誰かって誰よ。誰でもいいならヴィクトルでいいじゃない。私のことお嫁さんにしてくれるって言ってたじゃない」
やめてくれ。聞きたくない。せっかく我慢してるのに。そんなこと言われたら、心が揺らいでしまう。せっかく覚悟を決めたのに、最後の最後になって揺さぶらないでくれ。
「……僕じゃ無理だよ。お願いだ、エウリーカ。君にはこれからも生きていてほしいんだ。僕はもう近いうちに」
「私だって!!ヴィクトルに生きていてほしいんだよ!!」
「エウリーカ…」
「私の幸せは、私が決める。どっかの誰かと結婚しても私は絶対に幸せになんてなれない。ヴィクトルと一緒にいたいの。例え一緒に生きれなくても、一緒にいたいの」
強い意志を宿したエウリーカの瞳に、心が引っ張られる。満天の星空のように美しいエウリーカの瞳が、僕だけを映して、僕をこんなにも欲している。
「お願い。側にいさせて。ううん、絶対についてく。だめだって言われたって絶対に聞いてやんない」
「で、でも。僕と来たら、エウリーカだって」
「いいの。ヴィクトルと一緒なら、生きるも死ぬもどっちだっていいの」
「僕はエウリーカに生きていてほしい」
「私だってヴィクトルに生きてほしい」
「僕だって死にたくはないさ。でも無理なんだ」
「じゃあ私も一緒に死ぬ」
「エウリーカ!」
駄々をこねる子供を叱り付けるように名前を呼ぶも、エウリーカの瞳は揺らがない。
わかってた。わかってたさ、そんなこと。最初から。
エウリーカには敵わない。身体は僕の方が大きくなったかもしれないけど、エウリーカに勝てたことなんて一度もない。
互いに譲ることなく見つめ合うこと数秒。根負けしたのは、やっぱり僕だった。
視線を外し俯く僕の頬にエウリーカの手が当てられ、覗き込むように無理矢理視線を合わされる。そして、エウリーカがふわりと笑った。
「もう一人は嫌なの。ヴィクトルがいないと、私は幸せにはなれないの」
いいよ、なんて一言も言っていないのに、エウリーカの中ではもう決定事項のようだ。こうなるともう、僕が何を言おうと絶対に聞き入れてくれない。こうなったエウリーカを説得できたことなんてない。
だから、諦めてしまった。
これ以上エウリーカを説得することを。自分の気持ちに嘘をつくことを。エウリーカを残して一人で死ぬことを。
何も言葉にしていないのに僕の考えている事が分かったのだろう。エウリーカはにかっと歯を見せて、勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
それが、トドメ。
どちらともなく顔を近づけ、そっと唇を触れ合わせる。
昨日したものとは違う。じんわりと胸が温かくなる春の陽だまりのような口づけだった。
※ ※
僕らは二人で家を出た。きつく、互いに手を握り合って。
白み始めた世界はそんな僕らをどう映していたのだろう。僕らにそれを知る術はない。それに、他の誰かの目にどう映っていようとも、僕らには関係ない。
エウリーカと二人、生きている。それだけで十分だった。
「団長、いました」
「……ああ、わかってる。ダメな子達だな」
僕らは幸せだった。この上なく幸せだった。
最期、目を閉じて世界が闇に包まれるその瞬間まで。
僕らはきつく手を繋いでいた。
そして、妙にスッキリとした顔でニカリと笑った。
「なんでアンタが男で私が女なのか、わかった気がする」
そして、ゆっくりと僕に歩み寄る。
「私が男だったら、ヴィクトルと一緒にいれたのに。連れてってもらえたのに。同じものを見て、感じて。一緒に戦って一緒に死ねたのにって、ずっと思ってた。でも、違った。ヴィクトルが男で私が女だから、繋がることができた。それだけじゃない。ヴィクトルを繋ぎ止めることだってできる。命を繋げることだって、一緒に生きることだってできる」
「……エウリーカ」
「ヴィクトルだって気持ち良かったんでしょ?ねえ、もっとしたいと思わない?もっと色んなことしたいって」
「それは、でも」
「一回抱けたらもう満足?私の身体にまた触りたいって思わない?」
「エウリーカ」
「昨日の一回でもう未練はない?」
未練なんて……
あるに決まっている。未練だらけだ。未練しかない。
セックスに。エウリーカとのセックスに。エウリーカの身体に。エウリーカと過ごす時間に。
一回したからもう十分だなんてどうして思えるのだろう。一回で足りるわけがない。一回経験してしまったからこそもっともっとと強欲にになる。執着が増す。手放し難くなる。でも、たがらこそ──
「ねえ、私のことも気持ちよくさせてよ。気持ちいいってどんな感じなのか私にも教えてよ」
懇願するような瞳で射抜かれ、ぐっと言葉を呑み込む。
「……エウリーカ、もう行かなきゃ」
「私を置いていくの?」
「君の為だから」
「私の?」
「君を巻き込むわけにはいかないんだ」
「もう巻き込まれてるよ」
「そう、かもしれない。ごめん。だから追手が君の所に来る前に早く出ないと─」
「私も連れてってよ」
飛び出しそうになるものを堪えるように、ぎゅっと強く拳を握る。
それができるなら、とっくにやっているさ。
僕だって君といたい。もっと君を見たい。君に触れたい。君と生きたい!もっともっと!!
死にたくなんて、ない。
「…それは無理だよ。君には、幸せになってほしいんだ」
「私の幸せって何?」
「誰かいい人と結婚して、家庭を築いて」
「誰かって誰よ。誰でもいいならヴィクトルでいいじゃない。私のことお嫁さんにしてくれるって言ってたじゃない」
やめてくれ。聞きたくない。せっかく我慢してるのに。そんなこと言われたら、心が揺らいでしまう。せっかく覚悟を決めたのに、最後の最後になって揺さぶらないでくれ。
「……僕じゃ無理だよ。お願いだ、エウリーカ。君にはこれからも生きていてほしいんだ。僕はもう近いうちに」
「私だって!!ヴィクトルに生きていてほしいんだよ!!」
「エウリーカ…」
「私の幸せは、私が決める。どっかの誰かと結婚しても私は絶対に幸せになんてなれない。ヴィクトルと一緒にいたいの。例え一緒に生きれなくても、一緒にいたいの」
強い意志を宿したエウリーカの瞳に、心が引っ張られる。満天の星空のように美しいエウリーカの瞳が、僕だけを映して、僕をこんなにも欲している。
「お願い。側にいさせて。ううん、絶対についてく。だめだって言われたって絶対に聞いてやんない」
「で、でも。僕と来たら、エウリーカだって」
「いいの。ヴィクトルと一緒なら、生きるも死ぬもどっちだっていいの」
「僕はエウリーカに生きていてほしい」
「私だってヴィクトルに生きてほしい」
「僕だって死にたくはないさ。でも無理なんだ」
「じゃあ私も一緒に死ぬ」
「エウリーカ!」
駄々をこねる子供を叱り付けるように名前を呼ぶも、エウリーカの瞳は揺らがない。
わかってた。わかってたさ、そんなこと。最初から。
エウリーカには敵わない。身体は僕の方が大きくなったかもしれないけど、エウリーカに勝てたことなんて一度もない。
互いに譲ることなく見つめ合うこと数秒。根負けしたのは、やっぱり僕だった。
視線を外し俯く僕の頬にエウリーカの手が当てられ、覗き込むように無理矢理視線を合わされる。そして、エウリーカがふわりと笑った。
「もう一人は嫌なの。ヴィクトルがいないと、私は幸せにはなれないの」
いいよ、なんて一言も言っていないのに、エウリーカの中ではもう決定事項のようだ。こうなるともう、僕が何を言おうと絶対に聞き入れてくれない。こうなったエウリーカを説得できたことなんてない。
だから、諦めてしまった。
これ以上エウリーカを説得することを。自分の気持ちに嘘をつくことを。エウリーカを残して一人で死ぬことを。
何も言葉にしていないのに僕の考えている事が分かったのだろう。エウリーカはにかっと歯を見せて、勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
それが、トドメ。
どちらともなく顔を近づけ、そっと唇を触れ合わせる。
昨日したものとは違う。じんわりと胸が温かくなる春の陽だまりのような口づけだった。
※ ※
僕らは二人で家を出た。きつく、互いに手を握り合って。
白み始めた世界はそんな僕らをどう映していたのだろう。僕らにそれを知る術はない。それに、他の誰かの目にどう映っていようとも、僕らには関係ない。
エウリーカと二人、生きている。それだけで十分だった。
「団長、いました」
「……ああ、わかってる。ダメな子達だな」
僕らは幸せだった。この上なく幸せだった。
最期、目を閉じて世界が闇に包まれるその瞬間まで。
僕らはきつく手を繋いでいた。
0
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(4件)
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
退会済ユーザのコメントです
Dust様、感想ありがとうございます^ ^
こちらこそ読んでいただき感謝です!
この一瞬を生きる!みたいな青春っぽいやつを書きたかったんです。少しでも伝われば嬉しいっす!
感想ありがとうございます!
タグにハッピーエンドはつけれなかったけど、私的にはハッピーエンドですね^ ^もやもやしたものを書きたかったんですww
お読みいただきありがとうございました!
小出しに一つ一つ「何!?何!?」って、既になってる(笑)
深く考えないで!雰囲気で読んで!w