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そこに愛はない

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 肩から脚を降ろされ、窮屈な体勢から解放されると、途端に冷房の風が冷たすぎるように感じた。
 狭い位の六畳のワンルームが、すごく広い。
 疲れすぎてベッドに横たわったままぼーっとしていると、ガサガサと後始末を終えた安田に覗きこまれた。

「……何?」

「まだだな」

「…は?」

「なあ、キスしていい?」

 安田がまた楽しそうに目を細める。安田の戯れに付き合う義理はもうないので、近付いてきた顔を押しのけようと手を伸ばせば、指と指を絡めるように手を取られる。何のつもりだと睨みつければ、ニヤニヤと笑う安田と目が合った。

「絶対嫌」

「えーいいじゃん」

 ケラケラ笑いながら軽口を叩く安田にイラっとした。馬鹿にされてると思った。

「そういうのは好きな人にしなさいよ」

「だからしたいんだけど」

「…………は?」

「なあ、キスさせろよ」

 相も変わらず安田はニヤけた笑みを張り付けて、冗談の様に軽く言う。なのに絡みついた手には痛い位の力を籠められていて、そのことが私の頭を混乱させた。

 ーーそれに、私を見つめる安田の目。
 燻った熱を奥底に押し込めたその瞳が、私を捕らえて離さなかった。

 そこに愛はない。
 だけど、言い様のない何かが確かにあった。

「……あんた、ナミにフラれたって、自分で言ってたじゃない」

「うん、そう。フラれたよ」

 そう肯定しながら、安田は何てことないという風にカラッと笑った。それが失恋した男の態度だろうか。
 私だったら、そんな笑いながら口にはできない。
 認めることだってまだできないのに。

「ならーー」

「俺そもそもマシュマロ好きじゃねーし。どっちかって言うと、どっしり重くて中身がいっぱい詰まった大福の方が好きだし」

「はあ?あっ、ううん!」

 急に甘い物の好みの話に切り替わり、訳が分からないうちにピンと胸の尖りを人差し指で弾かれた。親指でぐりぐり捏ねて、摘まんで、また捏ねる。

「んあっ!ちょっ、まって。もうー」

 終わったはずじゃあ!

 その後の言葉を全て飲み込むかのように、唇を唇で塞がれた。
 大きく口を開け、私の唇をばくりと食べる。強引に舌をねじ込まれ、縦横無尽に私の口内を貪りつくす。呼吸することも苦しくなって逃げようと身体を捩るも、上から体重をかけられて動けない。

「……んっ、ふう!」

「……豆大福でも、いいな」

 深いキスの合間に安田が呟く。胸の尖りを弾かれ、身体が跳ねた。あっという間にさっきまでの熱の余韻が再燃し、お腹の奥がじんじんと疼く。

「……ちょ、まって。もう、私は、やらない!」

「だめ」

 身体で拒否して、口でも拒否して。嫌だとこんなにもはっきりと示しているのに安田は止めてくれない。
 どうすればいいのかと一瞬途方に暮れ、泣きそうになる。安田はそんな私を見て一回目をみはり、また私の唇を塞ぐ。

 ーー今度は私の唇をむようなキスだった。
 角度を変えて何回も深いキスを繰り返す。不思議なことに、濃厚すぎると思われたさっきの行為と同じくらい、いやそれ以上に、安田とのキスは気持ち良かった。

「っふ、は」

 自分でも身体の強張りが解け、力が抜けていくのが分かった。絡め合った指は時折愛撫するかのように私の手を優しくなぞり、その微々たる刺激だけでイってしまいそうなくらい私の膣口はびくびくとひくついていた。

 こんなの、どうかしてる。
 溢れ出てくる蜜が安田にバレない様にと内ももをすり合わせれば、充血して膨れ上がった花芽が擦れて、思わず高い声が漏れた。
 まずい、と安田から逃げようとするもそれが叶うはずなく。安田は身体を離して私の脚を大きく広げた。

「あっ、や、やめて!」

「……………おいおい、びしょびしょにも程があるだろ。お漏らしでもしたみたいになってるぞ」

 嗤われる、揶揄われると思ったのに、安田は単純に驚いたように、むしろ呆れたような目でそこを見つめ、小さく舌打ちをした。
 羞恥で一気に顔が真っ赤に染まる。
 安田も呆れるくらいの痴態を晒してしまった自分が恥ずかしくて情けなくて、もう死にたい。頭が爆発しそうだった。

 違う違うと頭を振るも、説得力はまるでない。事実、私のそこはあり得ない位濡れていて、お尻の方まで垂れ流れているのが自分でも分かる程だった。

 どうかしている。もう、嫌だ。
 もう私の負けでも何でもいいから、ここから逃げ出したかった。

「……どんだけ、好きなんだよ」

 チッとまた舌打ちをして、安田が顔をしかめる。
 自分の痴態が不快感を与えるくらい酷いものだと言われたようで、胸が締め付けられた。

「……クソ」

 いつものにやけた笑みを消し、珍しく余裕なく苛立った安田が硬く勃ち上がったものを膣口に宛がい、乱暴に割り入ってくる。

「あ、あああっ!!」

 最初からラストスパートかと思うくらいの激しい抽送に身体を思いきり揺さぶられ、一気に快楽の渦に突き落とされる。頭が追い付かなくて、前後左右が訳わからなくなって、振り落とされない様に目の前の安田にしがみつけば、耳元で安田がまた舌打ちをする。
 そして、その苛立ちをぶつけるかのように耳をかじられ、ねぶられる。

「っひやっ!ああっやっめ!」

「……気持ちよすぎて頭空っぽんなって何も考えらんなくなって。あんあんひーひー訳わかんない位よがらせてやる」

 恨み節の様にぼそぼそっと何かを呟かれたけど、快楽でぐるぐるのぐちゃぐちゃになった頭では何も理解できなかった。

「……お前の中のオサムが消えるまで」

「あああああっ!!」

 腰を奥深くに打ち付けながら、痛い位に胸の尖りをつままれ、一瞬意識が飛んだ。

「お前の瞳に、俺が、ちゃんと映るまで、な」

 荒い呼吸の合間にまたしても何かを呟かれ、閉じかけた目を開ければ、睨みつけるように私を見つめる安田と目が合う。
 それは私のことを心底恨んで憎んで、殺したいと思っている様な瞳だった。

 ………なんで、私がそんな目で見られなきゃならないんだ。
 さっきまで完全に安田に良いように弄ばれ、屈服しかけていたが、胸の奥底からふつふつと闘争心が湧いてくる。消えかけていた負けず嫌いでプライドの高い私が目を覚ます。

 ーー冗談じゃない。
 安田に負けない位きつく睨み返せば、安田は一瞬驚いたように目を瞠り、そして笑った。

 それは真綿のように優しく全てを包み込んで、そして慈悲もなく全てを奪っていくような。

 ーーそんな、悪い悪い悪魔のような深い笑みだった。

「はっ、いいね。もっと、もっと俺を見ろ」

「あっ!ああっ、うっんー!」

 そしてまた、私を全てを食べつくすかのような、深くて荒いキスをする。
 口の周りどころか顔中、首までも涎が垂れ流され、全身は汗と愛液でべとべとに塗れている。

 ぐちゅぐちゅ、パンパン、はあはあ、あんあん。

 部屋の中に響くのははしたない水音に身体がぶつかる乾いた音、安田の荒い呼吸に延々と喘ぐ私の声。
 それに、一向に身体の熱を冷ましてくれない役立たずの冷房の音。

 人生史上最悪のオーケストラだ。

 最悪で最悪で、なのに最高に気持ちよくって止められない。

 ーーそんな私が、一番最低で最悪だ。

 犯されて、侵されて、可笑しくなって。

 安田に身体を激しく揺さぶられながら、私は声を上げて心の底から嗤った。



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