【R18】二人は元恋人、現セフレ

遙くるみ

文字の大きさ
4 / 35
悠馬

類似点と相違点

しおりを挟む
「うわー、やっぱり汚いねえ」

「うるせえな。誰か来るなんて思ってなかったんだから、しょうがねえだろ」

「汚いから汚いって言っただけで、別に悪いなんて言ってないよ。むしろ、悠馬らしくて安心した。っと。それより、漫画漫画!お邪魔しまーす」

 勝手知ったる元カレの家。かすみは迷うことなく道を進み、迷うことなく105号室へと向かい、家主の俺より先に靴を脱いで、迷うことなくリビングではなく寝室のドアを開けた。そして、ベッドと平行して設置された本棚を、勝手に物色し始める。

「あっ、あったあった。じゃあ、私読んでるから悠馬も好きにしててー。お風呂入るでも、テレビ見るでも、お好きにどーぞ」

「俺ん家なんだから、言われなくても好きにするわ」

 自由奔放すぎるかすみの態度に、怒りや呆れを通り越し、笑いがこみ上げる。
 釣られるようにかすみが手に取った漫画から視線を上げ、へへっと笑う。早く漫画が読みたくて期待に胸を膨らませている、少女のような無邪気な笑顔だった。

 かすみは言葉通り、集中して漫画を読んでいた。一度こうなると、話しかけても無駄だ。作品の世界に入り込んで、何も聞こえなくなる。まあ、話すことなんて何も思いつかないのだから困らないのだけど。聞こえてるか分からないけど一応「風呂入ってくるわ」と声をかけてみる。やはり何も反応はない。漫画に読みふけるかすみを部屋に残し、風呂場に向かった。

 シャワーを浴びながら、おかしな事になったなと思う。まさか、元カノと再会して飲みに行って一緒に帰宅することになるとは。朝家を出た時には想像もしていなかった。いや、こんなん想像する方が難しい。

 まさか再会したかすみとこんな何でもないように会話できるとは――

 今のこの状況より何よりも一番、俺はそのことに驚いていた。

 頭の先からつま先まで、全身を泡で洗いシャワーで流す。汗でべたべただった身体が浄化され、それと同時に心までも軽くなったような気がする。
 足取り軽く、寝室へ戻る。いつもの俺の部屋に、いつもはいないはずの誰かがいる。なのにその光景は不思議なくらい溶け込んでいて、違和感なんてものは感じなかった。
 昔、実際にあった光景。頻繁に目にしていた光景。かすみは俺を一瞥することなく、相変わらず同じポーズで漫画を読んでいた。

 思わず、ふっと笑いがこぼれる。
 こういう所は変わらない。それは、俺がかすみに対して抱いていた、好ましい彼女の一面だった。

 ※ ※

「……っはあーーーっ!読んだ!続き!めっちゃ気になるーー!」

 最後のページをめくり、静かに漫画を閉じ、止まっていた時が動き出すようにかすみが大きく伸びをした。両手を伸ばしたままのかすみが俺の存在を確認し、あっという顔をする。その、素のリアクションに思わず吹き出すと、かすみも一緒になってケラケラ笑った。

「面白かった?」

「悠馬の家だってこと忘れるくらい面白かった!はあ、すごいね。この人。なんでこんな話思いつくんだろ。どうしよう、もっと色々感想言いたいのに、すごいしか言葉が出ない。なんか、もう、とにかく最高」

 漫画を胸に抱いたままかすみがベッドに背中を預け、余韻に浸る様に目を閉じる。たっぷり一人分空けてベッドに腰かけると、その反動でかすみの身体が小さく上下した。
 かすみが持つ漫画を取り、ぺらぺらとめくる。読んでいたのは、近未来のような異世界の様な、独特の世界観の中で繰り広げられる人々の日常を描いた漫画だ。主人公の少年の父親が、実は母親を殺した犯人かもしれないと幼馴染の少女に告げられたところで、最新話は終わっている。続きが気になるのは俺も同じだ。

「じゃあ、そろそろ帰ろうかな」

 天井を仰いだ体勢のまま、目だけ俺に向ける。不意を突かれたように、胸が跳ねた。

「……あ、ああ。いや、終電もうないだろ」

「うん、ないねえ」

 スマホの時計は、もう一時過ぎ。バスはもちろん電車もとっくに終わっている。

「ないねえ、ってお前。じゃあどうする気」

「どうするって、帰るつもりだってば。それ以外にある?」

 かすみが今どこに住んでいるのかは知らないが、まさか徒歩で帰れる距離ではないだろう。現実的なのはタクシーだが、一体どれくらいの料金がかかるのか。財布の中身にあといくら入ってたっけと、咄嗟に頭を巡らすが、さっきの五千円でほぼ札は消えた気がする。

「じゃあさ、泊めてくれるの?」

 さらりと発されたかすみの言葉が、胸に深く突き刺さる。
 泊める?かすみを、俺の部屋に?

 何も反応することもできずに呆然と固まる俺を、かすみもまたじっと見つめていた。
 
 かすみが俺の部屋で漫画を読む姿が自然すぎるのがいけない。かすみが過去を過去と完全に割り切って仲の良い友人のように接してくるのがいけない。かすみといる空間が居心地良すぎるのがいけない。
 浮かんでくるのは、誰に対してかわからない言い訳ばかりだ。

 気がつけば俺はこの空気に流されて、飲み込まれていた。かすみに言われて、今それに気づいた。かすみにその言葉を言われなければ、何の疑いもなく当然泊めるそうするものだと思っていた。

 付き合ってた頃のように。
 今はもう、付き合ってないというのに。
 
 そうだ。付き合っていないのだ。付き合っていない異性と二人きりで、さらに泊めるなんて、あり得な過ぎるだろ。

「いや、それはー」
「悠馬はさー、付き合ってる相手がいない時にシタくなったらどうしてるの?」


しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!

satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。 働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。 早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。 そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。 大丈夫なのかなぁ?

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

叱られた冷淡御曹司は甘々御曹司へと成長する

花里 美佐
恋愛
冷淡財閥御曹司VS失業中の華道家 結婚に興味のない財閥御曹司は見合いを断り続けてきた。ある日、祖母の師匠である華道家の孫娘を紹介された。面と向かって彼の失礼な態度を指摘した彼女に興味を抱いた彼は、自分の財閥で花を活ける仕事を紹介する。 愛を知った財閥御曹司は彼女のために冷淡さをかなぐり捨て、甘く変貌していく。

10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました

専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

処理中です...