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悠馬
※episodeー5
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「でね、先輩がねーー」
「ああ」
「しかも私だけにそういうこと言ってきて。しかもーー」
「うん」
「ねえ、ちゃんと聞いてる!?酷いと思わない!?」
「え、ああ、まあ。かすみの言うことが全部本当ならな」
「……何それ。私が嘘ついてるって言ってるの?」
「そーじゃなくて。かすみの話しか聞いてないと実際どうかは別として、どうしてもかすみ寄りになっちゃうじゃん?相手の話も聞かないでかすみの味方すんのはフェアじゃないから、俺は何とも言えないかな」
「……」
「俺の言ってる事間違ってる?」
「でも、他の子と私への態度が明らかに違うし。私にだけ言い方きついし、新人にはやらせないような仕事振ってくるし」
「それは俺にはわかんないけど、かすみがそう思ってるだけでその先輩は私情を挟んでない可能性だってあるわけだろ?振られた仕事だって、ちゃんとした理由があってかすみに任せたのかもしれない」
「……でも」
「それを全部が全部かすみのことを良く思ってないからだってするのは、安直なんじゃないのか?」
「……悠馬は、知らないから。見てないから、そんなこと言えるんだよ」
「だから、実際に見てない俺に意見を求めるのが、そもそも間違ってるんだって」
「意見なんて求めてないよ」
「はあ?」
「私はただ、そういうことをされて辛くて、きつくて。自分では頑張ってるつもりなのに、理不尽でたまらなくって。そういうのをわかってほしかっただけなのに」
「かすみが大変だっていうのは分かる。でも、最初はみんなそういうもんだろ?」
「……」
「もうちょっと我慢すれば大丈夫になるって。かすみだし」
「……悠馬は仕事楽しそうだよね。最初は人付き合いなんて面倒臭いって言ってたのに、飲み会にも毎回参加するし、会社の人と休みの日なのに集まってバーベキューとかボウリングとか。とっても充実してるよね、私と違って。だから軽く言えるんだよ。本当に辛かったらそんなこと言えない」
「何だよその言い方。誘われたから仕方なく行ってるだけで、何で楽しそうとか言われなきゃなんないの?断れるなら俺だって断りてえよ」
「ちょっと用事があるんでって言えばいいだけじゃん。なのに毎回行くなんて。口では面倒くさいなんて言いながら、本当は楽しんでるんでしょ?良かったね、仲いい人がいっぱいできて」
「おい、かすみ」
「愚痴を言える同僚もいて?面倒見てくれる先輩もいて?仕事も楽しくて?私にはないものばっかり」
「本当にそんな風に思ってんのか?俺だって嫌なこといっぱいあるよ。ムカつくやつだっている。でも、そういうのかすみに説明したって上手く伝わらないだろうし、せっかく時間見つけて会ってるのに仕事の話とかしたくないからしないだけだ」
「ただ私に説明するのが面倒だからでしょ?私は理解できなくても言って欲しい。悠馬の会社にどんな人がいるのか、どんな仕事を今してて、どんな風に思ってるのか。愚痴だって全然いい。全部私に隠さず言ってほしい」
「言う必要がないから言わないだけ。わざわざ言いたくないから言わないだけ。それを言えって強要するのは、どうかと思う」
「私には愚痴ったり相談したりする価値がないってこと?」
「そうじゃない。かすみとのプライベートの時間に仕事を持ち込みたくないって言ってんの」
「私は……悠馬にただ、そうだねって言って欲しかっただけなの。仕事のこととか人間関係とか、全部わかってくれなくていいから、私の気持ちを知って、同調して欲しかったの」
「……わかったよ、俺が悪かった」
「……」
「……はあ、仕事の話するとこういう雰囲気になんじゃん。だから嫌なんだよ」
「私のせいだって言いたいの?」
「そうじゃなくて、もうこの話はやめようって言ってんの。お互い疲れてんのにわざわざ会いに来てこれじゃあさ、生産的じゃねーよ」
「生産的って何?わざわざって、本当は会いたくなかったって言いたいの?疲れてるとか、生産的とか、そんなんじゃないじゃん。私は悠馬が好きだから、会いたいから会うだけだよ。そう思うってことは、悠馬は私のことが好きじゃないんだよ。好きだったら会いたくなるのが当たり前じゃん」
「言葉の揚げ足取るなって……俺の言い方が悪かったよ。ただ、お互い無理して会ってー」
「だから私は無理してないって言ってるじゃん!悠馬がそう思ってるだけで、悠馬は私と……本当は会いたくないのに、無理して会いにきてくれてるんだね……はは、何それ」
「違うよ」
「違くない。もういい、わかった。ごめんね、無理してこさせちゃって。本当は今日も会社の人と予定があった?私なんかの為にキャンセルさせちゃって、もう次からは悠馬の来たい時だけ来てくれればいいから」
「かすみ」
「そしたらいつかな?来週?再来週?一か月後?」
「かすみ!!」
「……ごめん」
「かすみも、疲れてんだよ。気分転換がてら何か美味しいもんでも食いに行く?ほら、かすみ前行ってみたいって言ってたとこあんじゃん」
「……ううん、いい」
「何か腹に入れて満たされると、ちょっとは楽んなるだろ。で、寝よーぜ。ほら、行くぞ」
「いい、行かない」
「……かすみ」
「……どっか行くんじゃなくて、悠馬の作ったご飯がいい」
「……いーよ、つくろっか。何が食いたい?」
「悠馬のくっさい炒飯」
「ははっ、おっけ」
※ ※ ※
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