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本編
対峙(1)
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コンコン
重厚な扉をノックすると、ガチャリと中から扉がゆっくりと開けられた。
伯爵の従者であるアトム少年がヒョコリと顔を出し、私であることを確認してから、中へと促される。
執務室へ入ると、入ってすぐのところに執事長のマイルズと側近のレイフォードが並んで立っていた。扉が閉められ、その前で声がかけられるまで待つ。
奥のテーブルではウィンドバーク伯爵オルレイン様が、黙々と書類のようなものにサインをしていた。
紙を捲る音だけが部屋の中に響く。
私が入室したことにもちろん気付いているんだろうけど、こちらを一瞥することなくその作業は続けられている。
そっちが呼んだから来たのに、放置ってどういうことよ。
ムカムカが膨らんでいく。
暫くするとようやく作業が終わったようで、伯爵はペンを置き、すっと顔を上げた。
「待たせたな。近くへ寄れ」
「はい」
待たせた自覚はあるらしい。謝罪の気持ちはないようだけど。
事実上の最高責任者に逆らうことなく素直に従い、私はテーブルの前まで近づいた。
「アトム、外へ出ていろ」
「かしこまりました」
アトム少年が部屋から退出し、扉が完全に閉まるのを確認してから、伯爵は静かにその口を開いた。
「さて、どうだこちらの世界は。慣れたのか」
「はい。お陰さまでよくしてもらっています」
伯爵の問いに間髪入れずに答える。
私の答えが気に入らなかったのか、伯爵はフッと馬鹿にしたように鼻で笑い、きつく私を睨んだ。
「そんなわけあるか。聖女の話だとお前達の暮らしていた異世界は、こちらの世界よりも遥かに文明が発展しているそうじゃないか。御託はいらん。正直に話せ。不便なことばかりで困っているのだろう」
何を聞き出したいのか分からないが、何故この人はこんな言い方しか出来ないのだろう。喧嘩を売ってるとしか思えない。
不遜な態度にイラッとして、つい口調が荒くなる。
「まあ、以前の生活に比べれば不便ですが、もう慣れました。特に困っていることはありません。あの、何なんですか?一体」
長々と意味のない話を続けたくなくて、率直に聞いてみる。御託はいらん、と言ってたのはこの人だし。
「……お前の暮らしていた世界の話が聞きたい。この国と比べてどのようなものだったのかを」
不遜な笑みを消した伯爵が、両手を組みそこに顎を乗せ、じっと私を見つめてくる。ピリリと、一瞬にして部屋の空気が張り詰めた。
アイスブルーの瞳はひどく冷たく、とても生きてる人間のものとは思えない。
嘘はつくな、と視線で牽制されているようだった。
「……私の客観的な意見になりますが、この国は私の暮らしていた世界の二、三百年前位の文明レベルではないかと思っています。経済格差はありますが、元の国では毎日の食事に困ることはなかったですし、治安も悪くはありませんでした。一昔前に、世界規模で人の命が大量に失われるような戦争があってからは、国同士の武力での争いは少なくなりましたし、明日死ぬかもしれない、という不安を抱くこともありませんでした。交通機関も発達していて、ここから王都までなら二時間もあれば着く手段があります」
「なっ、二時間とは……」
レイフォードが思わず呟いた。
「しかし、それは科学技術の進歩によるもので、魔法というものはありませんでした。全く違う世界へ人を召喚するなんてこと、私の知ってる限りでは不可能です」
別の世界があるなんてことすら、空想上のものだと思っていた。そんなことを本気で信じている人がいたら、頭がおかしいと疑われるだろう。私だって実際にこの身で経験しなければ、絶対に信じなかった。信じられるはずがない。
シンと部屋が静まりかえる。伯爵は何かを考えているようだった。
「……なるほど。まあかなり文明に格差があるようだな。それでは、その格差を埋めるために、お前は何をすべきだと思う?」
急に核心にせまる質問をされ、息を呑む。
「そ、それは」
突然言われて答えられる訳がない。こっちの世界に慣れるのに精一杯で、そんなこと考えたこともない。
しかしアイスブルーの視線は、逃がさないとばかりに私の身体を突き刺してくる。
黙っていることは許されない。
「……生まれた家や容姿で格差が生まれるのは仕方ありません。しかし、それを少しでも小さくする努力をすべきです。人の能力は無限で、誰もが平等に持っています。肌や髪や瞳の色は全く関係ないと、私は思っています。分け隔てなく誰もが小さい頃から学べる環境を整えるべきかと。学ぶ人が増えれば、それだけ暮らしをよくする方法も出てくるはずです」
「他には?」
息つく暇もなく、次を催促される。
チリチリと痛みを伴う位の強い視線に捕らわれ、身動きが取れない。
「医療技術の発展に力を入れるべきかと。せっかく育てた人材が亡くなって仕舞わないよう。産まれた子供が皆すくすくと成長できるよう。国は人で成り立っています。人を第一に考えれば、自ずと国は発展するはずです」
戦争なんてものはもってのほかだ。ただ生きる、ということがどんなに大変か。日本で当たり前だったことが全然当たり前でないこの世界 に来て、ようやく本当の意味で命の大切さを学んだ。
私が言い切ると、伯爵のきつく強ばった表情がフッと緩んだ。
「…っふ、はっはっはっ!なるほどな!お前はなかなかできる人材のようだな。聖女なんかよりもよっぽど使える。もっと詳しく教えろ。レイ、アトムに酒を持ってこさせろ」
急に笑い出すので、ぎょっとした。
今までの張りつめた空気が一気に和らぎ、部屋の室温が何度か上昇したような気がする。私は自分でも知らないうちに握りしめていた手の力をほどき、ふっと肩の力を抜いた。
「では、私はこの後用事があるので失礼します」
「だめだ。もっと話を聞かせろ」
「いえ、でも本当に約束が」
「こちらの方が優先だ」
私の都合を一切気にとめない態度にムッとする。
「あの、これは仕事の一貫ではないですよね?いくら伯爵様からのご要望でも、今はプライベートの時間ですので。どうしても私の話が聞きたいようでしたら、後日時間を作ってからにしてください」
「っはっはっはっは!聞いたかマイルズ!この俺に逆らったぞ!!」
執事長が苦笑いを浮かべ、私に視線を送ってくる。折れてくれと言われているようだが、そんなものは気付かないふりだ。私はこの後ジョセフと会う約束をしているのだ。絶対に折れてたまるか。
伯爵はえらく上機嫌の様で、さっきから肩を震わせて高笑いをしている。なにそれ、怖いんですけど。
「お前、なかなか気に入ったぞ。よし。やはり俺の妻にしてやろう。決定だ」
「!!ちょっ、オルレイン様!それは、あまりに」
レイフォードが慌てて伯爵を止めるが、伯爵は右手でそれを制止する。
「もう決めた。いいな?」
何を言っているんだコイツは。
何故そういう結論に至るのか全くもって理解不能で、はっきり言って不快である。
「嫌です」
私がバッサリと言い切ると、伯爵は切れ長の目を大きく見開いた。
何故驚くのか。私が断るわけがないと思っていたのなら、そっちの方が驚きだ。
伯爵はすぐにニヤリと凶悪な笑みを浮かべ、私に一歩近づいてきた。
「何故だ。お前はこの世界でも上の地位を目指しているのだろう?以前は部下だった聖女と立場が逆転して、内心腸が煮えくり返る思いをしているのではないか?私の妻になれば同等とまではいわないが、近い所まで地位は上がるぞ?今とは比べ物にならない位の生活をさせてやる。それに、お前が望むのであれば領地運営にも携わらせてやろう。どうだ、これでも断るのか?」
「嫌です」
私がまたもやバッサリ切り捨てると、さっきよりもさらに大きく目が見開いた。うわあ、めっちゃ驚いてる。さっきの言い分も、あの口振りも、今の反応も。伯爵の一挙一動が、いちいち私の神経を逆なでする。
「何を勘違いしているのか知りませんが、私は聖女である新川真菜に対して特に何も思ってません。確かに今ではかなり格差がありますが、それは彼女のせいだとは思いませんし、特に恨んでもいません」
もちろん新川を嫉む気持ちも、面白くないと感じることもあった。だけど、今のこの状況は新川のせいじゃない。むしろ、新川だって私と同じ被害者なのだ。恨むとすれば、私と新川の同意なく勝手にこの世界に呼び寄せた奴らーつまり目の前にいらっしゃる伯爵を含めた、国の中枢のお偉い方様達誘拐犯である。
「私は豪華絢爛な暮らしをしたい訳ではありません。私自身の力で、できる限り高みへと昇り詰めたいのです。領地運営はなかなか素敵なお誘いですが、あなたと結婚してまでやりたいとは思いません。むしろ、私はあなたのことが好きではないので、結婚なんて有り得ません。絶対に嫌です」
最後の一言に、特別力が入ってしまった。本音なので仕方ない。
言いたいことを全部言うと、少し後悔の念が湧いてくる。
やば、ちょっと正直に言いすぎたかも。流石に最高権力者に対して、好きではないは言い過ぎだったか。
背中に冷や汗をかいて、反応を伺うと、急にまた伯爵が声を上げて笑い出した。
「ははははっ!本当にいい根性をしている!よし、結婚だ。レイ、いいな。マイルズ、式の準備を」
「っ!!!ちょっと!」
きっぱり断ったのに、何を言ってるんだこの男は!!
全然話を聞かない男に苛立ち、声を荒げ抗議しようと身を乗り出すと、後ろの扉がいきなり勢いよく開いた。
バァーン!と大きな音にビックリして、後ろを振り返る。
そこには、はあはあと息を切らしたジョセフが、アトム少年に腰を押さえられて立っていた。
「ジョセフ様!だめです。今は立ち入りはお控えください」
アトム少年はジョセフの腰に巻き付きながら必死に制止しようと試みるも、ジョセフは構わず部屋の中をズンズンと進み、私を庇うように伯爵と私の間に立った。
「ふざけるなっ!絶対だめだ!!そんなの許さない!」
え?どうしてジョセフがここに?
ジョセフの大きな背中をポカンと見つめながら、一体何が起こっているのか私の頭は大混乱だった。
しかし、ジョセフが来てくれたことに思いの外安堵する自分がいて、知らないうちにかなり緊張していたことに気付く。
ジョセフの肩越しに伯爵の様子を伺うと、それはそれは恐ろしい、子供が見たら泣き出しそうな顔で笑っていた。
重厚な扉をノックすると、ガチャリと中から扉がゆっくりと開けられた。
伯爵の従者であるアトム少年がヒョコリと顔を出し、私であることを確認してから、中へと促される。
執務室へ入ると、入ってすぐのところに執事長のマイルズと側近のレイフォードが並んで立っていた。扉が閉められ、その前で声がかけられるまで待つ。
奥のテーブルではウィンドバーク伯爵オルレイン様が、黙々と書類のようなものにサインをしていた。
紙を捲る音だけが部屋の中に響く。
私が入室したことにもちろん気付いているんだろうけど、こちらを一瞥することなくその作業は続けられている。
そっちが呼んだから来たのに、放置ってどういうことよ。
ムカムカが膨らんでいく。
暫くするとようやく作業が終わったようで、伯爵はペンを置き、すっと顔を上げた。
「待たせたな。近くへ寄れ」
「はい」
待たせた自覚はあるらしい。謝罪の気持ちはないようだけど。
事実上の最高責任者に逆らうことなく素直に従い、私はテーブルの前まで近づいた。
「アトム、外へ出ていろ」
「かしこまりました」
アトム少年が部屋から退出し、扉が完全に閉まるのを確認してから、伯爵は静かにその口を開いた。
「さて、どうだこちらの世界は。慣れたのか」
「はい。お陰さまでよくしてもらっています」
伯爵の問いに間髪入れずに答える。
私の答えが気に入らなかったのか、伯爵はフッと馬鹿にしたように鼻で笑い、きつく私を睨んだ。
「そんなわけあるか。聖女の話だとお前達の暮らしていた異世界は、こちらの世界よりも遥かに文明が発展しているそうじゃないか。御託はいらん。正直に話せ。不便なことばかりで困っているのだろう」
何を聞き出したいのか分からないが、何故この人はこんな言い方しか出来ないのだろう。喧嘩を売ってるとしか思えない。
不遜な態度にイラッとして、つい口調が荒くなる。
「まあ、以前の生活に比べれば不便ですが、もう慣れました。特に困っていることはありません。あの、何なんですか?一体」
長々と意味のない話を続けたくなくて、率直に聞いてみる。御託はいらん、と言ってたのはこの人だし。
「……お前の暮らしていた世界の話が聞きたい。この国と比べてどのようなものだったのかを」
不遜な笑みを消した伯爵が、両手を組みそこに顎を乗せ、じっと私を見つめてくる。ピリリと、一瞬にして部屋の空気が張り詰めた。
アイスブルーの瞳はひどく冷たく、とても生きてる人間のものとは思えない。
嘘はつくな、と視線で牽制されているようだった。
「……私の客観的な意見になりますが、この国は私の暮らしていた世界の二、三百年前位の文明レベルではないかと思っています。経済格差はありますが、元の国では毎日の食事に困ることはなかったですし、治安も悪くはありませんでした。一昔前に、世界規模で人の命が大量に失われるような戦争があってからは、国同士の武力での争いは少なくなりましたし、明日死ぬかもしれない、という不安を抱くこともありませんでした。交通機関も発達していて、ここから王都までなら二時間もあれば着く手段があります」
「なっ、二時間とは……」
レイフォードが思わず呟いた。
「しかし、それは科学技術の進歩によるもので、魔法というものはありませんでした。全く違う世界へ人を召喚するなんてこと、私の知ってる限りでは不可能です」
別の世界があるなんてことすら、空想上のものだと思っていた。そんなことを本気で信じている人がいたら、頭がおかしいと疑われるだろう。私だって実際にこの身で経験しなければ、絶対に信じなかった。信じられるはずがない。
シンと部屋が静まりかえる。伯爵は何かを考えているようだった。
「……なるほど。まあかなり文明に格差があるようだな。それでは、その格差を埋めるために、お前は何をすべきだと思う?」
急に核心にせまる質問をされ、息を呑む。
「そ、それは」
突然言われて答えられる訳がない。こっちの世界に慣れるのに精一杯で、そんなこと考えたこともない。
しかしアイスブルーの視線は、逃がさないとばかりに私の身体を突き刺してくる。
黙っていることは許されない。
「……生まれた家や容姿で格差が生まれるのは仕方ありません。しかし、それを少しでも小さくする努力をすべきです。人の能力は無限で、誰もが平等に持っています。肌や髪や瞳の色は全く関係ないと、私は思っています。分け隔てなく誰もが小さい頃から学べる環境を整えるべきかと。学ぶ人が増えれば、それだけ暮らしをよくする方法も出てくるはずです」
「他には?」
息つく暇もなく、次を催促される。
チリチリと痛みを伴う位の強い視線に捕らわれ、身動きが取れない。
「医療技術の発展に力を入れるべきかと。せっかく育てた人材が亡くなって仕舞わないよう。産まれた子供が皆すくすくと成長できるよう。国は人で成り立っています。人を第一に考えれば、自ずと国は発展するはずです」
戦争なんてものはもってのほかだ。ただ生きる、ということがどんなに大変か。日本で当たり前だったことが全然当たり前でないこの世界 に来て、ようやく本当の意味で命の大切さを学んだ。
私が言い切ると、伯爵のきつく強ばった表情がフッと緩んだ。
「…っふ、はっはっはっ!なるほどな!お前はなかなかできる人材のようだな。聖女なんかよりもよっぽど使える。もっと詳しく教えろ。レイ、アトムに酒を持ってこさせろ」
急に笑い出すので、ぎょっとした。
今までの張りつめた空気が一気に和らぎ、部屋の室温が何度か上昇したような気がする。私は自分でも知らないうちに握りしめていた手の力をほどき、ふっと肩の力を抜いた。
「では、私はこの後用事があるので失礼します」
「だめだ。もっと話を聞かせろ」
「いえ、でも本当に約束が」
「こちらの方が優先だ」
私の都合を一切気にとめない態度にムッとする。
「あの、これは仕事の一貫ではないですよね?いくら伯爵様からのご要望でも、今はプライベートの時間ですので。どうしても私の話が聞きたいようでしたら、後日時間を作ってからにしてください」
「っはっはっはっは!聞いたかマイルズ!この俺に逆らったぞ!!」
執事長が苦笑いを浮かべ、私に視線を送ってくる。折れてくれと言われているようだが、そんなものは気付かないふりだ。私はこの後ジョセフと会う約束をしているのだ。絶対に折れてたまるか。
伯爵はえらく上機嫌の様で、さっきから肩を震わせて高笑いをしている。なにそれ、怖いんですけど。
「お前、なかなか気に入ったぞ。よし。やはり俺の妻にしてやろう。決定だ」
「!!ちょっ、オルレイン様!それは、あまりに」
レイフォードが慌てて伯爵を止めるが、伯爵は右手でそれを制止する。
「もう決めた。いいな?」
何を言っているんだコイツは。
何故そういう結論に至るのか全くもって理解不能で、はっきり言って不快である。
「嫌です」
私がバッサリと言い切ると、伯爵は切れ長の目を大きく見開いた。
何故驚くのか。私が断るわけがないと思っていたのなら、そっちの方が驚きだ。
伯爵はすぐにニヤリと凶悪な笑みを浮かべ、私に一歩近づいてきた。
「何故だ。お前はこの世界でも上の地位を目指しているのだろう?以前は部下だった聖女と立場が逆転して、内心腸が煮えくり返る思いをしているのではないか?私の妻になれば同等とまではいわないが、近い所まで地位は上がるぞ?今とは比べ物にならない位の生活をさせてやる。それに、お前が望むのであれば領地運営にも携わらせてやろう。どうだ、これでも断るのか?」
「嫌です」
私がまたもやバッサリ切り捨てると、さっきよりもさらに大きく目が見開いた。うわあ、めっちゃ驚いてる。さっきの言い分も、あの口振りも、今の反応も。伯爵の一挙一動が、いちいち私の神経を逆なでする。
「何を勘違いしているのか知りませんが、私は聖女である新川真菜に対して特に何も思ってません。確かに今ではかなり格差がありますが、それは彼女のせいだとは思いませんし、特に恨んでもいません」
もちろん新川を嫉む気持ちも、面白くないと感じることもあった。だけど、今のこの状況は新川のせいじゃない。むしろ、新川だって私と同じ被害者なのだ。恨むとすれば、私と新川の同意なく勝手にこの世界に呼び寄せた奴らーつまり目の前にいらっしゃる伯爵を含めた、国の中枢のお偉い方様達誘拐犯である。
「私は豪華絢爛な暮らしをしたい訳ではありません。私自身の力で、できる限り高みへと昇り詰めたいのです。領地運営はなかなか素敵なお誘いですが、あなたと結婚してまでやりたいとは思いません。むしろ、私はあなたのことが好きではないので、結婚なんて有り得ません。絶対に嫌です」
最後の一言に、特別力が入ってしまった。本音なので仕方ない。
言いたいことを全部言うと、少し後悔の念が湧いてくる。
やば、ちょっと正直に言いすぎたかも。流石に最高権力者に対して、好きではないは言い過ぎだったか。
背中に冷や汗をかいて、反応を伺うと、急にまた伯爵が声を上げて笑い出した。
「ははははっ!本当にいい根性をしている!よし、結婚だ。レイ、いいな。マイルズ、式の準備を」
「っ!!!ちょっと!」
きっぱり断ったのに、何を言ってるんだこの男は!!
全然話を聞かない男に苛立ち、声を荒げ抗議しようと身を乗り出すと、後ろの扉がいきなり勢いよく開いた。
バァーン!と大きな音にビックリして、後ろを振り返る。
そこには、はあはあと息を切らしたジョセフが、アトム少年に腰を押さえられて立っていた。
「ジョセフ様!だめです。今は立ち入りはお控えください」
アトム少年はジョセフの腰に巻き付きながら必死に制止しようと試みるも、ジョセフは構わず部屋の中をズンズンと進み、私を庇うように伯爵と私の間に立った。
「ふざけるなっ!絶対だめだ!!そんなの許さない!」
え?どうしてジョセフがここに?
ジョセフの大きな背中をポカンと見つめながら、一体何が起こっているのか私の頭は大混乱だった。
しかし、ジョセフが来てくれたことに思いの外安堵する自分がいて、知らないうちにかなり緊張していたことに気付く。
ジョセフの肩越しに伯爵の様子を伺うと、それはそれは恐ろしい、子供が見たら泣き出しそうな顔で笑っていた。
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