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後日談
初めてのアイラブユー
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「えっ、これ、全部?」
「うん。どれでも好きなの着ていいよ」
ジョセフによって開かれたクローゼットの中には、所狭しと色とりどりのワンピースがかけられてた。どれから手に取っていいのか分からずに呆然と立ち尽くしていると、そんな私を見てジョセフがふっと笑った。
「やっぱり俺が選んでいい?」
「え?う、うん。いいけど」
すっと私の隣に並び、ジョセフが迷わず一つのワンピースを取り出す。
薄いグリーンの生地の所々に濃いグリーンで刺繍を施されたそれは、まるで春が訪れたばかりの新緑豊かな屋敷の庭園を思い起こさせた。
「ほら、これどう?この生地見た時、エィミに絶対似合うって思ったんだ」
ジョセフが手に持ったそれを私の身体に当てて、「やっぱり似合う」と満足そうに微笑んだ。そのワンピースは私の身体にぴったりで、その事実に胸が高鳴る。
「へへ、そうかな。これ、ジョセフが私のために買ってくれたの?」
「もちろん。他に何があるの」
「いや、誰かのお古とか」
そうではないと知っておきながら、わざとそう言ってみる。思った通りジョセフは不快そうに眉を顰め、はあーと息をついた。
「そんな訳ないでしょ。そもそも何で俺が女性の服を貰うのさ」
「う、まあ。そうなんだけど」
「はい、こっち来て」
鏡台の前に連れていかれると、慣れた手つきでするすると寝間を脱がされ、あっという間に下着一枚にされた。「は、恥ずかしいんですけど」と抵抗の声を上げても、ジョセフは一切聞き入れてくれず、脱がされたかと思えばすかさずワンピースを着せられる。背中のリボンを綺麗に縛り終えると、「はい、終わり」と肩を抱かれ、鏡の方を向かされた。目の前の鏡に写るのは、にこにこと上機嫌に笑うジョセフと、グリーンのワンピースを着た私。
何だかこそばゆくって鏡を直視できなかった。
「じゃあ、次はここに座って。髪の毛整えてあげる」
言われるままに椅子に座れば、ジョセフが櫛で丁寧に私の髪を梳かし始める。私は鏡越しに、その大きな手が壊れ物を扱うかのように櫛を通す光景を、不思議な気持ちで見つめていた。
「そういうこともできるの?」
「やったことないけど、多分。ほら、俺庭師だったし」
「何それ。全然理由になってないよ。しかも見習いじゃん」
思わず吹き出せば、ジョセフも声を上げて笑った。
「ははっ、そうだった」
笑いながら、でも、と思う。
髪を梳かすジョセフの手つきや眼差しはどこか草木を剪定する時のものに似ていて、いつも彼らはこんな風にジョセフに触れられたり見られたりしたのかと思うと、ちょっと嫉妬してしまう。いや、大分嫉妬する。
植物にそんな気持ちを抱くとか、自分でも知らなかっただけで私はかなり嫉妬深くって面倒くさい部類の女だったのでは。そこまで考えて、ふっと昨日の彼女が頭に浮かんだ。
ーー彼女にも、きちんと謝らないといけないな。
彼女の、嫉妬からくる怒りと悲しみがないまぜになった瞳が、頭から離れない。彼女はどんな心境で、私を見つめていたのだろう。どんな気持ちで今日の朝を迎えたのだろう。
そのことを考えると、ツキリと心が痛む。
ジョセフは髪を綺麗に梳かし、サイドを簡単に後ろでまとめ、残りはそのまま肩に流した。仕上げに馬の毛のブラシで撫でられれば、髪に光沢が生まれ、久しぶりに私の髪に艶が戻った気がした。
自分の手によってめかし込まれた私を見て、ジョセフは満足気にうっそりと笑う。
「こうやってさ、俺の手でエィミを可愛くしてあげたかったんだ」
可愛いなんて言われる歳じゃない。それに、こんないかにも女の子らしい格好なんて私に似合うはずもない。私と言えばスキニージーンズ、スキニージーンズと言えば私、だったのだ。
そう思うんだけど、ジョセフが本当に嬉しそうに心の底から笑うから。
まあいいか、と諦めにも似た気持ちで「ありがとう」と呟くと、ジョセフはまた嬉しそうに笑った。
◇
「お腹空いたね。何食べる?って言っても、作らなきゃないんだけど」
着替えを済ませ、二人でキッチンへと向かう。
昨日の夜は結局何も食べなかったから(理由は言わなくてもわかると思うので省略!)、二人ともお腹がペコペコだ。ジョセフが貯蔵庫を開けて、その中身を一通り確認する。私も一緒になって覗いてみると、そこにはいくつかの野菜と卵、加工された肉が並んでいた。
「ジョセフは料理作れるの?」
「難しいのはできないけど、簡単なものなら。騎士学校に通ってた時に一通りのことは習ったから。あ、卵とベーコンがあるから、それ焼いて食べる?」
食材を取り出してジョセフが振り返る。窓から差し込む朝日に薄茶色の髪の毛がキラキラと反射して、私は反射で目を細めた。その時無性に、温かいむず痒いこそばゆい感情がぶわわわーとこみ上げてきて、私は思わず、くっと喉を鳴らした。
「……お砂糖とお塩、ある?私、卵焼き作っていい?」
「タマゴヤキ?」
「うん。卵を溶いて、くるくるって巻く、まあオムレツみたいな」
卵焼きって言っても、多分わからないんだろう。ジョセフは軽く首を傾げ、片言でそう繰り返した。
その幼い子供みたいな仕草に私の胸が思いっきり鷲掴みされる。
ちょっ!不意打ち、やめて!本当にきゅん死にしちゃうから!
「なんか美味しそうな響きだね。エィミが作ってくれるの?楽しみだな」
そう言うと今度は、部活帰りで腹ペコ成長期真っ盛り中学生男子のような邪気のない笑顔を浮かべる。
その笑顔に私は呼吸することも忘れて、食い入るように見入ってしまった。
普段はニコニコ穏やかに笑う好青年のくせに、昨日のダークサイドジョセフと言い、情事中の色気ムンムンジョセフに、王子様もとい騎士様のキラキラ正統派イケメンジョセフ、ショタジョセフ、子供から大人への狭間に揺れる黄金時代ジョセフ……
ーーもう!私を殺す気か!
一体いくつの萌え要素、いや、いくつの顔をジョセフは持っているのか。ジョセフの色んな顔が垣間見える度に、私の胸がきゅんきゅん激しくビートが(以下省略)はぁはぁ。
そういえば。
昨日、壁ドンされた後、もしかして顎クイもされたんじゃあ……
う、うわあ!そんな重大事件に今更気が付くなんて!今どき女子の憧れシチュ1・2を争う胸きゅん行為を、今の今まで忘れてるなんて、私はなんてバカ野郎なんだ!
なんて、勿体ない。やばい、泣きそう。
……是非またしてほしい。
と、そんな腐った私の思考は置いといて。
二人で狭いキッチンに立ち、朝食の準備をする。
ジョセフが火を起こし、私が卵焼きをつくって。野菜を洗って適当に切ってお皿に盛り、そこに炒めたベーコンを乗せる。小さなダイニングテーブルにクロスを敷き、コップにミルクを注ぎ、温めたパンも置く。そこに作ったものを並べれば、簡単な朝食の出来上がりだ。
向かい合わせで座って、視線を合わせ、「いただきます」と声を揃えた。
「うん、美味しい。それになんか見た目がいいね」
ジョセフが私の作った卵焼きを口に入れ、顔を綻ばせる。その顔を見て、ホッと肩を下ろし、私も卵焼きを頬張った。
上手く巻けず見た目はあまりよくないが、まあ悪くはない。私のよく食べていただし巻き卵とは違って、甘みが強いけど、でも美味しいし、どこか懐かしい。
自然と昔、私がまだ小学生の頃を思い出した。
あの頃はこうやって毎朝お母さんが卵焼きを作ってくれたっけ。それに、炊き立てのご飯と野菜いっぱいのお味噌汁。海苔や納豆をその日の気分でご飯に乗せて食べるのが、佐藤家の定番だった。
ーーどれもこれも、異世界にはない。多分もう二度と、食べることはできないもの。
そう思うとやっぱり寂しさが込み上げてくるけれど、不思議と悲しくはない。
視線を感じ顔を上げると、ジョセフが手を止めて私をじっと見つめていた。その瞳は少し不安げだ。
「どうしたの?」
ジョセフにそう聞かれ「ううん、何でもない」と言ってすぐ、首を横に振ってそれを否定した。余計なことを言って無駄に不安にさせたくない。ずっとそう思ってたけど、こうやって何も言わないことの方が、ジョセフに不安を与えるのかもしれない。もし言ってジョセフが不安に感じるのなら、そしたら大丈夫だよとちゃんと伝えて不安を取り除いてあげればいいだけだ。
「いや、ちょっと昔のこと思い出してた」
「昔?《ニホン》にいた頃の?」
「うん。朝は毎日卵焼き食べてたなーって。お母さんがつくってくれたの」
「そっか」
「これに出汁や醤油を入れると本物に近付くんだけど。出汁ってどうやって取ったっけ」
私の呟きにジョセフが、「ダシ?ショーユ?」と片言で繰り返す。またしてもそれが可愛くって噴き出した。
「今度料理長に聞いてみようかな」
「そしたらまた俺に作って。《ニホン》の味を俺に教えてよ」
「うん。なんか、いいね。こうやって二人で朝ご飯作って、食べて」
新婚夫婦みたい。と思ったけど、言葉には出さなかった。それを口にすることはちょっと、いやかなり照れ臭い。
それでも私が何を言いたかったのかは伝わったのだろう。ジョセフがにこにこと上機嫌な笑みを浮かべた。
「うん。もちろん二人もいいけど、俺はもっとたくさんいても楽しいと思うな」
「え?」
「エィミによく似た女の子とか」
ジョセフの言葉に、じわじわと顔が熱くなる。いや、顔だけじゃない。頭も手も足もお尻も背中も膝小僧も足の裏もこめかみも、どこもかしこも。
身体中全部が熱く感じて、全身が震えた。
「……女の子だったら、名前はジョセフィーヌだね」
自分でも馬鹿な返しをしたと思う。
私の言葉にジョセフはしばしきょとんと目を丸くさせ、そして、くしゃりと笑った。
「……ぷぷっ、何それ。じゃあ、男の子だったら。……エミリオだ」
「ははは、そっちこそ。安直すぎて大きくなったら子供に怒られそう」
ジョセフィーヌとエミリオだなんて。
ヨシオの娘がヨシコで、カズエの息子がカズトシとか、そういうレベルだ。
あれ、でも。そう考えたらそんなに無しじゃないかもしれない。そういう親子よくいたし、なかなかいい。いや、かなりいい。むしろ、これしかないとさえ思えてきた。
「男の子でも、女の子でも、何人でも。多分どんな子だって可愛いに決まってるよ」
何人でも、っていうのは要相談(主に私と)だけど。でも確かに、二人の子供だったらどんな子だって可愛いに決まってる。
「うん。そうだね。私に似て髪の毛が黒かったら、可哀そうかな」
「そんな訳ないよ。大好きなママと同じ髪の色で嬉しいって絶対言う。だって俺の子供なんだから」
「ふふ、そうかな。ジョセフの大好きなアリティアス様と同じだもんね」
「反対。エィミに似てるから好きなの。子供が生まれたら、兄さんにはあんまり会わせたくないな」
口を尖らせて不貞腐れるような顔をするジョセフが超絶可愛い。悶絶ものだ。年下彼氏最高!と頭の中できゃーきゃー言いながら、何でもないフリして会話を進める。
「どうして?」
「あの人、子供とか嫌いそうだし。邪険にされたら可哀そうだ」
「そうかなあ。私は反対に、ものすごく可愛がると思うけど」
私がそう言うと、ジョセフは「ええ?」と嫌そうに顔をしかめた。
予想だけど、多分皆の目がある所では「子供はうるさくてかなわない。邪魔だから外へ連れ出せ」なんて冷たく突き放しておいて、人の見ていない所では「仕方ないから抱っこしてやる。何?腹が減っただと?今料理長に行って甘い物でも作らせるから少し待ちなさい。何?肩車だと?仕方ない、一回だけだぞ。何?お馬さんになれだと!?仕方ない、一回だけ……何?おままごとで俺が赤ちゃん役だと!?仕方ない……」とか何と言って。デロッデロに甘やかす(というか言いなりになる)タイプだと思うんだけどな。
そこまでリアルに想像でき一人で笑う私を、ジョセフが怪訝そうに見つめていた。
「でもさ、私とジョセフの子供なんて。なんだか不思議な感じ」
「俺とだと、不安?」
「ううん。そうじゃなくて。全く別の国の、別の世界で暮らしてきた私たちが、偶然出会って、こうして一緒にいて。それでも二人は、当たり前だけど別々の存在で、どんなに一緒にいても一つになることなんてできなくて。でも子供が出来たら、その子は私とジョセフが混じり合った、ある意味私とジョセフを一つに繋いでくれる存在になるんだな、って。……ごめん、自分で言っててよくわかんなくなってきた」
なんかすごく抽象的なことを言った気がするけど、ジョセフはうんうんと相槌をうって私に同意してくれた。そのことに胸の奥が温かくなる。
「ううん。分かるよ。そうだね、当たり前のように思えるけど、よく考えればそれってすごいことだ。俺とエィミを繋ぐ存在、か。……早く俺たちを繋いでほしいな」
ジョセフが私の隣に移動して、そっと私の下腹部に触れた。ちょうど、それが宿るだろう場所を。
ジョセフが目を細めて優しくそこを撫でる。まだ誰もいないそこに、あたかも愛しいものが存在しているかのように。
ーーいつの日か、ここに。
そう思うと現実味がまだなくて、夢物語のような、信じられない気持ちになる。心の奥がムズムズ疼いて、私は変な顔して笑った。
「昨日、早く来てくれって、実は思ってた」
「そうなの?」
「呆れた?」
「ううん。嬉しい。……ねえ、赤ちゃんに任せてみようか?」
ジョセフが顔を上げ、「え?」と目を瞠った。
「だから、その。……赤ちゃんが来たいって思った時に来れるように、さ」
そこまで言って恥ずかしさで限界になり、ふいっと視線を反らす。でも、ジョセフは私の言いたいことが分かったようで、私をぎゅっと抱きしめてくれた。ハーブの香りが鼻をくすぐり、私の胸が穏やかに締め付けられる。
「エィミ。愛してるよ」
耳元でそう囁かれれば、心臓が大急ぎでばっくんばっくん大きく鼓動し始めた。それは間違いなく、重ねた胸元からジョセフにも伝わっている。それに付け加えて、耳まで赤くなってるのが自分でも分かる。燃えるように顔が熱い。私の気持ちなんて聞かなくても、手に取るようにジョセフは理解してるだろう。
ーーだけど。
ぎゅっと目を瞑って、ジョセフの大きな背中に手を回し、力一杯抱き返す。
「わ、私も。…………あ、あい、してる」
羞恥で頭がパンクしそうになりながらも、なんとかそう言葉にすれば、ジョセフががばっと身体を離し頬を思いっきり包まれた。
「う、え?んんんんーーー!」
そして食べられてしまうんじゃないかと思うくらい深く激しく口づけられる。
貪る様なキスを交わしながら、ジョセフが嬉しい嬉しいって繰り返し叫んでいた。
だから私も、好き好きって想いを込めてその口づけを受け入れた。
いつか遠くない未来、私にとってここが異世界じゃなくなる日が、必ず訪れる。
その時私の隣に、今と変わらず優しく微笑むジョセフと、願わくば二人を繋ぐ小さな絆達が無邪気に笑っていることを、私は望む。
【最後までお読みいただきありがとうか!お礼イラストで本当の本当に完結です^_^】
「うん。どれでも好きなの着ていいよ」
ジョセフによって開かれたクローゼットの中には、所狭しと色とりどりのワンピースがかけられてた。どれから手に取っていいのか分からずに呆然と立ち尽くしていると、そんな私を見てジョセフがふっと笑った。
「やっぱり俺が選んでいい?」
「え?う、うん。いいけど」
すっと私の隣に並び、ジョセフが迷わず一つのワンピースを取り出す。
薄いグリーンの生地の所々に濃いグリーンで刺繍を施されたそれは、まるで春が訪れたばかりの新緑豊かな屋敷の庭園を思い起こさせた。
「ほら、これどう?この生地見た時、エィミに絶対似合うって思ったんだ」
ジョセフが手に持ったそれを私の身体に当てて、「やっぱり似合う」と満足そうに微笑んだ。そのワンピースは私の身体にぴったりで、その事実に胸が高鳴る。
「へへ、そうかな。これ、ジョセフが私のために買ってくれたの?」
「もちろん。他に何があるの」
「いや、誰かのお古とか」
そうではないと知っておきながら、わざとそう言ってみる。思った通りジョセフは不快そうに眉を顰め、はあーと息をついた。
「そんな訳ないでしょ。そもそも何で俺が女性の服を貰うのさ」
「う、まあ。そうなんだけど」
「はい、こっち来て」
鏡台の前に連れていかれると、慣れた手つきでするすると寝間を脱がされ、あっという間に下着一枚にされた。「は、恥ずかしいんですけど」と抵抗の声を上げても、ジョセフは一切聞き入れてくれず、脱がされたかと思えばすかさずワンピースを着せられる。背中のリボンを綺麗に縛り終えると、「はい、終わり」と肩を抱かれ、鏡の方を向かされた。目の前の鏡に写るのは、にこにこと上機嫌に笑うジョセフと、グリーンのワンピースを着た私。
何だかこそばゆくって鏡を直視できなかった。
「じゃあ、次はここに座って。髪の毛整えてあげる」
言われるままに椅子に座れば、ジョセフが櫛で丁寧に私の髪を梳かし始める。私は鏡越しに、その大きな手が壊れ物を扱うかのように櫛を通す光景を、不思議な気持ちで見つめていた。
「そういうこともできるの?」
「やったことないけど、多分。ほら、俺庭師だったし」
「何それ。全然理由になってないよ。しかも見習いじゃん」
思わず吹き出せば、ジョセフも声を上げて笑った。
「ははっ、そうだった」
笑いながら、でも、と思う。
髪を梳かすジョセフの手つきや眼差しはどこか草木を剪定する時のものに似ていて、いつも彼らはこんな風にジョセフに触れられたり見られたりしたのかと思うと、ちょっと嫉妬してしまう。いや、大分嫉妬する。
植物にそんな気持ちを抱くとか、自分でも知らなかっただけで私はかなり嫉妬深くって面倒くさい部類の女だったのでは。そこまで考えて、ふっと昨日の彼女が頭に浮かんだ。
ーー彼女にも、きちんと謝らないといけないな。
彼女の、嫉妬からくる怒りと悲しみがないまぜになった瞳が、頭から離れない。彼女はどんな心境で、私を見つめていたのだろう。どんな気持ちで今日の朝を迎えたのだろう。
そのことを考えると、ツキリと心が痛む。
ジョセフは髪を綺麗に梳かし、サイドを簡単に後ろでまとめ、残りはそのまま肩に流した。仕上げに馬の毛のブラシで撫でられれば、髪に光沢が生まれ、久しぶりに私の髪に艶が戻った気がした。
自分の手によってめかし込まれた私を見て、ジョセフは満足気にうっそりと笑う。
「こうやってさ、俺の手でエィミを可愛くしてあげたかったんだ」
可愛いなんて言われる歳じゃない。それに、こんないかにも女の子らしい格好なんて私に似合うはずもない。私と言えばスキニージーンズ、スキニージーンズと言えば私、だったのだ。
そう思うんだけど、ジョセフが本当に嬉しそうに心の底から笑うから。
まあいいか、と諦めにも似た気持ちで「ありがとう」と呟くと、ジョセフはまた嬉しそうに笑った。
◇
「お腹空いたね。何食べる?って言っても、作らなきゃないんだけど」
着替えを済ませ、二人でキッチンへと向かう。
昨日の夜は結局何も食べなかったから(理由は言わなくてもわかると思うので省略!)、二人ともお腹がペコペコだ。ジョセフが貯蔵庫を開けて、その中身を一通り確認する。私も一緒になって覗いてみると、そこにはいくつかの野菜と卵、加工された肉が並んでいた。
「ジョセフは料理作れるの?」
「難しいのはできないけど、簡単なものなら。騎士学校に通ってた時に一通りのことは習ったから。あ、卵とベーコンがあるから、それ焼いて食べる?」
食材を取り出してジョセフが振り返る。窓から差し込む朝日に薄茶色の髪の毛がキラキラと反射して、私は反射で目を細めた。その時無性に、温かいむず痒いこそばゆい感情がぶわわわーとこみ上げてきて、私は思わず、くっと喉を鳴らした。
「……お砂糖とお塩、ある?私、卵焼き作っていい?」
「タマゴヤキ?」
「うん。卵を溶いて、くるくるって巻く、まあオムレツみたいな」
卵焼きって言っても、多分わからないんだろう。ジョセフは軽く首を傾げ、片言でそう繰り返した。
その幼い子供みたいな仕草に私の胸が思いっきり鷲掴みされる。
ちょっ!不意打ち、やめて!本当にきゅん死にしちゃうから!
「なんか美味しそうな響きだね。エィミが作ってくれるの?楽しみだな」
そう言うと今度は、部活帰りで腹ペコ成長期真っ盛り中学生男子のような邪気のない笑顔を浮かべる。
その笑顔に私は呼吸することも忘れて、食い入るように見入ってしまった。
普段はニコニコ穏やかに笑う好青年のくせに、昨日のダークサイドジョセフと言い、情事中の色気ムンムンジョセフに、王子様もとい騎士様のキラキラ正統派イケメンジョセフ、ショタジョセフ、子供から大人への狭間に揺れる黄金時代ジョセフ……
ーーもう!私を殺す気か!
一体いくつの萌え要素、いや、いくつの顔をジョセフは持っているのか。ジョセフの色んな顔が垣間見える度に、私の胸がきゅんきゅん激しくビートが(以下省略)はぁはぁ。
そういえば。
昨日、壁ドンされた後、もしかして顎クイもされたんじゃあ……
う、うわあ!そんな重大事件に今更気が付くなんて!今どき女子の憧れシチュ1・2を争う胸きゅん行為を、今の今まで忘れてるなんて、私はなんてバカ野郎なんだ!
なんて、勿体ない。やばい、泣きそう。
……是非またしてほしい。
と、そんな腐った私の思考は置いといて。
二人で狭いキッチンに立ち、朝食の準備をする。
ジョセフが火を起こし、私が卵焼きをつくって。野菜を洗って適当に切ってお皿に盛り、そこに炒めたベーコンを乗せる。小さなダイニングテーブルにクロスを敷き、コップにミルクを注ぎ、温めたパンも置く。そこに作ったものを並べれば、簡単な朝食の出来上がりだ。
向かい合わせで座って、視線を合わせ、「いただきます」と声を揃えた。
「うん、美味しい。それになんか見た目がいいね」
ジョセフが私の作った卵焼きを口に入れ、顔を綻ばせる。その顔を見て、ホッと肩を下ろし、私も卵焼きを頬張った。
上手く巻けず見た目はあまりよくないが、まあ悪くはない。私のよく食べていただし巻き卵とは違って、甘みが強いけど、でも美味しいし、どこか懐かしい。
自然と昔、私がまだ小学生の頃を思い出した。
あの頃はこうやって毎朝お母さんが卵焼きを作ってくれたっけ。それに、炊き立てのご飯と野菜いっぱいのお味噌汁。海苔や納豆をその日の気分でご飯に乗せて食べるのが、佐藤家の定番だった。
ーーどれもこれも、異世界にはない。多分もう二度と、食べることはできないもの。
そう思うとやっぱり寂しさが込み上げてくるけれど、不思議と悲しくはない。
視線を感じ顔を上げると、ジョセフが手を止めて私をじっと見つめていた。その瞳は少し不安げだ。
「どうしたの?」
ジョセフにそう聞かれ「ううん、何でもない」と言ってすぐ、首を横に振ってそれを否定した。余計なことを言って無駄に不安にさせたくない。ずっとそう思ってたけど、こうやって何も言わないことの方が、ジョセフに不安を与えるのかもしれない。もし言ってジョセフが不安に感じるのなら、そしたら大丈夫だよとちゃんと伝えて不安を取り除いてあげればいいだけだ。
「いや、ちょっと昔のこと思い出してた」
「昔?《ニホン》にいた頃の?」
「うん。朝は毎日卵焼き食べてたなーって。お母さんがつくってくれたの」
「そっか」
「これに出汁や醤油を入れると本物に近付くんだけど。出汁ってどうやって取ったっけ」
私の呟きにジョセフが、「ダシ?ショーユ?」と片言で繰り返す。またしてもそれが可愛くって噴き出した。
「今度料理長に聞いてみようかな」
「そしたらまた俺に作って。《ニホン》の味を俺に教えてよ」
「うん。なんか、いいね。こうやって二人で朝ご飯作って、食べて」
新婚夫婦みたい。と思ったけど、言葉には出さなかった。それを口にすることはちょっと、いやかなり照れ臭い。
それでも私が何を言いたかったのかは伝わったのだろう。ジョセフがにこにこと上機嫌な笑みを浮かべた。
「うん。もちろん二人もいいけど、俺はもっとたくさんいても楽しいと思うな」
「え?」
「エィミによく似た女の子とか」
ジョセフの言葉に、じわじわと顔が熱くなる。いや、顔だけじゃない。頭も手も足もお尻も背中も膝小僧も足の裏もこめかみも、どこもかしこも。
身体中全部が熱く感じて、全身が震えた。
「……女の子だったら、名前はジョセフィーヌだね」
自分でも馬鹿な返しをしたと思う。
私の言葉にジョセフはしばしきょとんと目を丸くさせ、そして、くしゃりと笑った。
「……ぷぷっ、何それ。じゃあ、男の子だったら。……エミリオだ」
「ははは、そっちこそ。安直すぎて大きくなったら子供に怒られそう」
ジョセフィーヌとエミリオだなんて。
ヨシオの娘がヨシコで、カズエの息子がカズトシとか、そういうレベルだ。
あれ、でも。そう考えたらそんなに無しじゃないかもしれない。そういう親子よくいたし、なかなかいい。いや、かなりいい。むしろ、これしかないとさえ思えてきた。
「男の子でも、女の子でも、何人でも。多分どんな子だって可愛いに決まってるよ」
何人でも、っていうのは要相談(主に私と)だけど。でも確かに、二人の子供だったらどんな子だって可愛いに決まってる。
「うん。そうだね。私に似て髪の毛が黒かったら、可哀そうかな」
「そんな訳ないよ。大好きなママと同じ髪の色で嬉しいって絶対言う。だって俺の子供なんだから」
「ふふ、そうかな。ジョセフの大好きなアリティアス様と同じだもんね」
「反対。エィミに似てるから好きなの。子供が生まれたら、兄さんにはあんまり会わせたくないな」
口を尖らせて不貞腐れるような顔をするジョセフが超絶可愛い。悶絶ものだ。年下彼氏最高!と頭の中できゃーきゃー言いながら、何でもないフリして会話を進める。
「どうして?」
「あの人、子供とか嫌いそうだし。邪険にされたら可哀そうだ」
「そうかなあ。私は反対に、ものすごく可愛がると思うけど」
私がそう言うと、ジョセフは「ええ?」と嫌そうに顔をしかめた。
予想だけど、多分皆の目がある所では「子供はうるさくてかなわない。邪魔だから外へ連れ出せ」なんて冷たく突き放しておいて、人の見ていない所では「仕方ないから抱っこしてやる。何?腹が減っただと?今料理長に行って甘い物でも作らせるから少し待ちなさい。何?肩車だと?仕方ない、一回だけだぞ。何?お馬さんになれだと!?仕方ない、一回だけ……何?おままごとで俺が赤ちゃん役だと!?仕方ない……」とか何と言って。デロッデロに甘やかす(というか言いなりになる)タイプだと思うんだけどな。
そこまでリアルに想像でき一人で笑う私を、ジョセフが怪訝そうに見つめていた。
「でもさ、私とジョセフの子供なんて。なんだか不思議な感じ」
「俺とだと、不安?」
「ううん。そうじゃなくて。全く別の国の、別の世界で暮らしてきた私たちが、偶然出会って、こうして一緒にいて。それでも二人は、当たり前だけど別々の存在で、どんなに一緒にいても一つになることなんてできなくて。でも子供が出来たら、その子は私とジョセフが混じり合った、ある意味私とジョセフを一つに繋いでくれる存在になるんだな、って。……ごめん、自分で言っててよくわかんなくなってきた」
なんかすごく抽象的なことを言った気がするけど、ジョセフはうんうんと相槌をうって私に同意してくれた。そのことに胸の奥が温かくなる。
「ううん。分かるよ。そうだね、当たり前のように思えるけど、よく考えればそれってすごいことだ。俺とエィミを繋ぐ存在、か。……早く俺たちを繋いでほしいな」
ジョセフが私の隣に移動して、そっと私の下腹部に触れた。ちょうど、それが宿るだろう場所を。
ジョセフが目を細めて優しくそこを撫でる。まだ誰もいないそこに、あたかも愛しいものが存在しているかのように。
ーーいつの日か、ここに。
そう思うと現実味がまだなくて、夢物語のような、信じられない気持ちになる。心の奥がムズムズ疼いて、私は変な顔して笑った。
「昨日、早く来てくれって、実は思ってた」
「そうなの?」
「呆れた?」
「ううん。嬉しい。……ねえ、赤ちゃんに任せてみようか?」
ジョセフが顔を上げ、「え?」と目を瞠った。
「だから、その。……赤ちゃんが来たいって思った時に来れるように、さ」
そこまで言って恥ずかしさで限界になり、ふいっと視線を反らす。でも、ジョセフは私の言いたいことが分かったようで、私をぎゅっと抱きしめてくれた。ハーブの香りが鼻をくすぐり、私の胸が穏やかに締め付けられる。
「エィミ。愛してるよ」
耳元でそう囁かれれば、心臓が大急ぎでばっくんばっくん大きく鼓動し始めた。それは間違いなく、重ねた胸元からジョセフにも伝わっている。それに付け加えて、耳まで赤くなってるのが自分でも分かる。燃えるように顔が熱い。私の気持ちなんて聞かなくても、手に取るようにジョセフは理解してるだろう。
ーーだけど。
ぎゅっと目を瞑って、ジョセフの大きな背中に手を回し、力一杯抱き返す。
「わ、私も。…………あ、あい、してる」
羞恥で頭がパンクしそうになりながらも、なんとかそう言葉にすれば、ジョセフががばっと身体を離し頬を思いっきり包まれた。
「う、え?んんんんーーー!」
そして食べられてしまうんじゃないかと思うくらい深く激しく口づけられる。
貪る様なキスを交わしながら、ジョセフが嬉しい嬉しいって繰り返し叫んでいた。
だから私も、好き好きって想いを込めてその口づけを受け入れた。
いつか遠くない未来、私にとってここが異世界じゃなくなる日が、必ず訪れる。
その時私の隣に、今と変わらず優しく微笑むジョセフと、願わくば二人を繋ぐ小さな絆達が無邪気に笑っていることを、私は望む。
【最後までお読みいただきありがとうか!お礼イラストで本当の本当に完結です^_^】
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