蜂蜜と銀河のコンサート

桜井 うどん

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蜂蜜と銀河のコンサート

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くまのポストは赤くてまるい。
 僕のおうちは白くて小さい。僕はちいさいくまだから。
 まるいポストを開けたら今日は、素敵な手紙が入ってた。

「おめでとうございます。あなたは銀河のコンサートに招待されました」

 そうして一緒に入ってた、薄桃色のチケットを、僕は宝の箱に入れ、ぱちぱちぱちと手を叩き、シャンパンの香りのアイスティ、ちりんとグラスをかかげます。
 今日は、お祝い。

 銀河のコンサートっていうのはね、たいそう素敵なものなんだ。
 年にたったの一度だけ、広い宇宙で一つだけ、平たい星で開かれる。

 画面の中でしか見られないふわふわ白うさぎのミーちゃんや、つやつや毛並み黒猫のパッチさんや、ダンスが得意なお猿のモンキッチや、可愛いのからかっこいいのから、面白いから感動ものに至るまで、世紀の大スターたちが舞台からこぼれ落ちそうなほど集まって、歌って、踊って、お話をしてくれる。
 舞台はどっさりのリボンや風船やパステルのお花で飾られて、観客席の周りは舞台以外ぐるっと屋台に囲まれていて、七色のぱちぱちするキャンディや、朝焼け色の澄んだ味のゼリーや、みっしりと実の詰まったあまじょっぱい焼きとうもろこしや、とろりと濃厚なアイスクリームや、こだわりお豆のコーヒーが売られていたりする。
 つまりは何もかもの趣味がよくて、幸せで、最高ってことなんだ。

 僕はわくわく準備をして、キャラメル色の革のトランクには、着替えと、タオルと、一生懸命書いたミーちゃんへのファンレターと、大きなお金が少しばかりと、小さなお金がぎっしりの赤いお財布と、小腹が空いた時の金平糖と、忘れちゃいけないチケットと、あとは、お土産を入れるための空間をたっぷり。
 何を持っていこうか考えるだけでも楽しくて、つるつる時間が過ぎていく。
 あっと呟く暇もなく、気づけば僕は鉄道の、プラットフォームに立っていた。

「ステーション銀河から出発の、流れ星8号、平たい星行きにご乗車の方は、3番ホームへお進みください。なお、この電車への乗車には、乗車券のほかに、銀河のコンサートへの招待券が必要となります。招待券は乗車口の係員にご提示ください」

 いそいそと3番ホームに向かうと、まっ白な車体に銀の装飾がぴかぴか光っている汽車が白い煙をあげていて、乗車口に向かう人々や、切符を探して荷物を広げる人、まだ出発もしていないのに、見送りの人たちに窓からハンカチを振ってみる人など、それはそれはもう、大賑わいだった。
 
 乗車口で、緑の制服の駅員さんに切符と招待券を、見せると、お髭のアルパカさんはぱちん、とウインクをして見せ、
「最高に楽しい時間を!」
と笑顔を見せてくれた。
 席を探そう。
 僕の座席はA17。窓際の席で心が弾む。
 いくつになっても、窓の外を流れていく宇宙は、神秘そのものだ。
 それにしても美しい車内。マホガニーを基調とした座席のクッションの部分には、深い赤色の天鵞絨が張られていて、手すりの部分には真鍮飾りがついている。
 トランクを上の荷物棚に載せたあと、僕はひとときの旅を快適にするために、手持ちの『汽車セット』の袋を開く。ぱかんと下ろした小さなテーブルには、お気に入りの詩集と、アイシングクッキー。出窓に置いた小さな魔法瓶には、金木犀の香りのお茶が入っている。
 でも、詩集を開くにはまだ早い。
 旅は始まったばかりなんだから、窓の外を見なくっちゃ。
 ステーション銀河は宇宙との境にあると言われているほど高い場所にあるけれど、そこはまだまだ星の上で、窓の向こうにはピンク色の夕焼けと、灯りがともり始めた街が見える。
 カクテルにして飲んでしまいたくなるような、不思議に透き通ったオレンジや桃色の中に、お家や木々が影を作っていて、その黒い影の中に宝石みたいに灯りがキラキラする、この時間帯が僕は好きだ。あー、生きてるんだなぁって、涙が出そうになる。
 あと、5分で汽車は出発する。ホームを行き交う人々は、多分見送りにきただけの人で、コンサートに行けるわけではないのになんだか楽しそうだった。
 汽車は4時間ほどかけて平たい星に着き、ホテルに一泊してたっぷり睡眠をとった後、翌日は朝から晩までお祭り騒ぎのコンサートだ。ホテルもまた気が利いていて、隅から隅までいい匂いがして、お風呂には金の猫足のついたつるんとしたバスタブがあって、寝室の大きな窓の前には、コンサート会場がよく見えるような向きで籐の長椅子が用意されているんだそうだ。

 車内アナウンスが流れて、滑るように汽車が動き出した。ぼやけた光のつぶつぶが、窓の外を滑っていく。
 外の景色に目を奪われていたら、ぽふ、と小さな風が流れてきて、今まで空席だったお隣の席に人の気配がした。
「やぁ、よろしくお願いします」
 僕は振り返り、シルクハットを小粋にあげてご挨拶をしようとし、
「ふ、ふわふわ白うさぎのみ……ふぐっ」
 そのふわふわの手に、僕の口は湿った黒い鼻ごとおさえられて、なんとも格好のつかないご挨拶となった。
 僕は夢じゃないかしらと思って、もう一度ぱちくりと目を開け閉めした。
 真っ白な毛並みはふわふわと優美なカーブを描いている。トレードマークの長くほっそりしたお耳は帽子の中に隠れて見えない。いつでも背負っているちぃちゃな薄桃色のリュックを今日は身体の前で抱えていて、ルビーのような瞳が、おどおどとこちら気にしながら、周りを警戒している。
 周りの様子はというとまるで無頓着で、彼女が観客席ではなく舞台に立つスターだということを気付いた様子もない。
 それはそうだろう、本当であれば関係者は、2日も前に緑色の汽車に乗って、平たい星に向かっているのだ。ニュースにもなった。まさかふわふわ白うさぎのみーちゃんが、この汽車に乗っているなんて思わないし、僕が大声で『ふわふわ白うさぎのみーちゃん!』って最後まで叫んだとしても、多分コンサートが楽しみすぎて叫んだ熊が1匹いるとしか思われないと思う。
「こ、これは失礼しました」
 とはいえ、僕が不用意だったことには違いないので。
 どきどきと謝ると、みーちゃんも、いきなりお隣に座っただけの熊の口をおさえたことにはっとしたのか、
「こちらこそすみません」
 と恥ずかしそうに呟いた。
 本音を言えば、話しかけたい。
 でも、僕としては大好きなアイドルが隣に座るなんてまさに夢のような体験で、既にたくさん嬉しいをもらっているけれど、僕からみーちゃんにあげられる嬉しいは今のところなさそうなので、それきり僕は黙って窓の外を見ることに、決めた。
 窓の外だって素晴らしい。
 宇宙って、いったいどこまで続いているんだろう。
 こんなに大きな、ごつごつした星や、不思議な青色をした星や、美しい球の形の星や、輪っかのある星や、そして形もわからない、ただ光だけをこちらに届けてくれるダイヤモンドダストみたいな星々。目に見える範囲だけでもいくつあるか分からないほどたくさんあるのに、目に見えているのは本当に一部で、今でも全然観測しきれてないだなんて、想像もできない。
 いつか宇宙の果てを見てみたいけれど、それは流石に叶わない夢。
 しゃりり。
 口の中に含んでいた金平糖が優しく崩れた。
 みーちゃんがお隣に座っていて、窓の外は宇宙で、車内はふわふわと暖かい。
 夢見たことはないけれど、これは確かに僕の夢。

 旅が始まって40分ほど。
 景色もずいぶん堪能したなぁ、そろそろ詩集を開こうかしら、と思っていたら、素晴らしいタイミングでお夕食についての車内アナウンスが入った。
 ちょっぴり残念ながら、食堂車までは用意されていないこの汽車だけれど、
「ただ今から焼きたてのパンケーキをサーブいたします。フルーツとクリームの甘いパンケーキと、シンプルなメイプルバターのパンケーキと、ベーコンと卵のおかずのパンケーキからお選びください」
 燕尾服をきりりと着こなしたアイリッシュ・ウルフハウンドの乗務員さんが、座席の間を回り始めた。
 ふと隣に目をやると、あれあれ一体どうしたことか、うさぎのみーちゃん俯いたまま、ぎゅぅとリュックを握りしめ、リュックのところどころに、少し濃い色の水玉模様がついていた。そしてぽろぽろぽろと、涙は流れて、水玉模様はどんどんどんどん増えていく。
「お好きなパンケーキをお選びください」
 なんとも間の悪いことに、乗務員さんにパンケーキを注文する順番がきてしまった。
 みーちゃんは顔を上げない。そうだよね。顔を上げると、乗務員さんだけじゃなくて周りの乗客にも泣き顔が見えてしまうかもしれない、今をときめくトップアイドルが泣いてるなんて、皆んなに見せたいものじゃないだろう。
 でも背の高いアイリッシュ・ウルフハウンドの乗務員さんからは、みーちゃんの様子はよく分からないようで、「もしもしお客様……?」と困り顔のようだった。
 仕方ない。
「フルーツのパンケーキと、おかずのパンケーキをください」
 視線で、お隣の人の分も合わせて2つね、ということを乗務員さんにも伝えると、乗務員さんホッとした顔で、「かしこまりました」と頷いた。
 10分ほどでパンケーキはサーブされ、甘い方のパンケーキには色とりどりのフルーツと、雲のような生クリームと、ココットに入ったフランボワーズのソースとチョコレートのソースが添えられ、おかずのパンケーキには、じゅわじゅわとまだ音をたてているベーコンと、ふわふわのスクランブルエッグと、たっぷりの温野菜が添えられていた。
 傷ひとつないきつね色のパンケーキの上では、四角いバターが半分溶けている。
 うむ。素晴らしい。
 私はまだしくしくと泣いているお隣のみーちゃんに声をかけた。
「差し出がましいとは思いますが、心細い時や悲しい時は、もしお腹に入るようであれば美味しいものを食べた方がいいと思います」
 みーちゃんはまだ涙に濡れた瞳で、泣き疲れたのか魂が抜けたようにこちらを見た。
「とりあえず甘いのを貴女様の前に置いていただきましたが、おかずのパンケーキが良いようでしたら取り替えましょう」
 そのために2種類別々のをお願いしたのだ。
 みーちゃんはまだこんな風にお節介をやかれている状況についていけないのか、しばらくぼんやりしていたけれど、やがて「このままで大丈夫です」と消えそうな声で呟いた。
「温かい飲み物はダージリンアールグレイでお願いしておきました。ブルーマウンテンもありますけれど、紅茶で、あ、大丈夫なのですね。もしご入用でしたら、金木犀の紅茶も持参していますので、おかわりの時には注いで差し上げましょう。ええ、とても気に入りのフレーバーなんですよ」
 ひとしきり僕が口を出すと、彼女もパンケーキを放置するわけにもいかなくなったようで、静かにナイフとフォークを持った。
 バターの染みたパンケーキを一口分きりとり、上に生クリーム、さらにイチゴとラズベリーを載せたものを頬張った彼女は、もぐもぐもぐとお口を動かし、小さな声で「美味しい……」と呟いた。
 美味しいならよかった。
 美味しいなら、とりあえずは大丈夫。
 冷めないうちに、僕もパンケーキをいただこう。スクランブルエッグには少しばかり入れられたチーズがとろけている。蒸し野菜にかかったドレッシングにはたっぷりすりおろしの玉ねぎが入っていてとても美味しい。パンケーキはほんのり甘く、ベーコンは端がカリッとしていて脂が甘い。
 夢中になって食事に取り組んだ。
 美味しい食事というのは、作るのにはとても手がかかるのに、食べる時にはどんなに大事に味わっても一瞬でも消えてしまう。その儚さは夢のようで美しい。
 お皿に残った最後のバター風味の卵液を、大切に残しておいたパンケーキの最後の一口でぬぐって、僕は食事を終えた。
 隣を見ると彼女のパンケーキはまだ三分の一は残っていて、おまけにティーカップは空だったので、了解を得て金木犀の紅茶を注いだ。
 そして静かに、詩集と車窓を楽しんだ。

 気がつけば少し、うとうとしていたみたいだ。
「出発直前の汽車から、飛び降りたんです」
 その呟きがちゃんと聞き取れたのは、だから、運が良かったと言うしかない。
 それなのに僕がゆっくり顔を上げて隣を見ると、みーちゃんはまるで僕が聞いているのが当たり前みたいに話を続けた。
「わたしも、緑の汽車に乗って行くはずでした。でも、出発する直前に、この子を忘れてきてしまったことに気がついて」
 そう言って彼女は、ずっと前に抱えていたリュックを少し開けて見せた。
 くたくたになった古いウサギのぬいぐるみがいた。
「わたし、この子がいないと、ステージに立てないんです」
 確かに彼女はステージに立つ時に、いつも可愛らしいリュックサックを背負っていた。彼女のアイコンのようなものだと思っていたけれど、実際は必需品だったらしい。
「マネージャーさんも、もちろん一緒に降りたかったと思うんですけど、わたしがあんまり衝動的に走り出したもので、間に合わなかったんです。わたし、降りてから、なんて恐ろしいことをしたんだろうって震えました。関係者用の乗り物は、それがもう最終でした。社長さんも含めて会社の人はほとんどコンサートの準備でいないし……。事情をお話しして、お客さま用汽車のキャンセルの席を一つ、なんとか確保してもらえました。でも、リハーサルの段取りもおかしくなってしまったし、何よりスタッフの皆さんに会うのが怖くて……」
 みーちゃんはまた瞳を潤ませて、リュックサックをぎゅっと握りしめた。
 なるほど。
 聞けば聞くほど、どうしようもなくみーちゃんが悪かった。
 ないとステージに立てないような大事なものをお家に忘れてくるのもいけないし、失敗に気づいた時にマネージャーさんに相談せずに汽車を飛び出すなんてもう、ダメダメだ。
 でも、そんなことをわざわざみーちゃんに言ったって、何にもならないことだって、分かっている。
 だって、今回の顛末がダメダメなことなんて、もちろんみーちゃんは分かっているだろう。
 だから僕は、こう言うことにした。
「起こってしまったことをどうにかすることは、誰にも出来ないものです。何度ごめんなさいをしても、それで許してもらえるというものではないかもしれません」
 それでも、と言葉を切って、みーちゃんの方を見た。
「それでも、どんなことがあったとしても、ステージの上の貴女様の輝きは小さな一つの豆電球ほども減ることはないですし、ステージを降りていても、貴女様が存在しているということに励まされる人たちがたくさんいます。辛い時は、そういうことを思い出しましょう。あとは、美味しいものを食べたり、綺麗な景色を見たり、涼しい風に吹かれたり、そういうことを大切にして、なんとかやっていきましょう。僕にとっての明日のコンサートが、そういうものの一つであるように」
 みーちゃんはいきなり語り始めた僕をびっくりした顔で見つめていたけれど、やがて小さな声で、
「そうですね」
 と呟いて、そっと目を伏せた。
「窓の外を見てください。天の川がとても美しいですよ。平たい星は、天の川の果てにあるそうですね。織姫と彦星の伝説をご存知ですか? 人間の星の伝説にちなんで、銀河のコンサートは一年に一度、天の川の果てで行われるんだそうです」
 そう言われたみーちゃんは、窓の外を見ようとして身を乗り出した。
 しかしこれが僕にとっては具合が悪い。みーちゃんのふわふわの白い毛が、今にも僕に触れそうで、みーちゃんの身体の温もりが、空気を伝わって僕の方まで届きそうだ。
 僕は茶色い熊だから、お顔に血が上っても、真っ赤な熊になったりはしない。
 でも。
「そ、そうだ、確かこの汽車には、先頭にサロンカーというものがありましてね。窓が大きくて、売店もあって、なかなか楽しいそうですよ。行ってみてはいかがでしょうね?」
「素敵」
 この汽車ではじめて、みーちゃんは僕に笑顔を見せた。
「ありがとうございます」
 そうして帽子を目深にかぶり直すと、小さな歩幅でちょこちょこと、サロンカーに向かって歩き始めた。
 その足取りは、軽かった。
 残った僕は、まだ、どぎまぎしていて、心臓がどうにかなっちゃいそうだ。
 ありがとうございます、だなんて。
 いやいや僕がありがとうございますですよ。あんな笑顔を間近でね。
 アイドルっていうのはすごいものですね。

 僕にとって幸か不幸か、みーちゃんは、なかなか帰ってこなかった。
 金木犀の紅茶の残りがなくなるころになってやっとみーちゃんは戻ってきて、そしてその瞬間に、
「まもなく当車両は平たい星に到着します。お降りの際には、お忘れ物のないよう、そして、とびきり素晴らしいコンサートをお楽しみください」
 とアナウンスが入った。
 車掌さんの粋な言葉に一瞬、車内はぴゅうと口笛が鳴って盛り上がり、みーちゃんは少しくすぐったそうな顔をした。
「あの、これ」
 思い出したように彼女は、小さな瓶を取り出した。
 その中にはとろりとした黄金色の液体が入っていて、ところどころがキラキラ輝いている。
「金木犀の紅茶のお礼の、蜂蜜です。お土産コーナーで売っていたので、持っていたらすみません。でもとても、綺麗だったので」
 確かにとても綺麗だった。よく見ると中に入っているキラキラはきちんと星の形をしていて、まるで暖かな午後の日向に浮かぶ、銀の星のようだった。
「これはどうも、ありがとうございます」
「本当は、分かっているんです。作る側のみんなも、このコンサートを楽しみにしていて、前しか向いてなくて、多分、私がこんな大失敗をしてから現場に入っても、責めるよりも先に明日を成功させるために、どうしようかって考えてくれるってこと。平たい星に着いたら、すぐに自動車に飛び乗って会場に行って、眠る時間までずっとリハーサルなんです。めちゃくちゃ迷惑をかけてしまっているし、ことが大き過ぎて怖くなっていたけれど、私だって前を向くしかないんです。今日は、ほとんど眠れないかもしれないですけど、がんばります」
 そして最後に、彼女は恥ずかしそうに笑って言った。
「どうか明日のコンサート、楽しみにしていてください……ありがとうございました」
 そうして汽車は止まり、彼女は文字通り迎えの自動車に飛び乗るべく、でも忘れ物がないようにキョロキョロと周りを見渡して、大慌てで通路を駆けていった。
 僕は彼女と反対に、名残を惜しむように荷物を片付け、いただいた蜂蜜も持ってきていた肌触りの良いタオルで大切に巻いて、トランクの中に入れた。
 そういえば、お手紙、直接渡さなかったな。
 今更になって思い出したけれど、もう一度考えてみると、やっぱり渡さなくて良かったな、と思った。
 僕は、名もなき一ファンであり。
 僕は、名もなき親切な隣の熊であり。
 ただ、それだけで幸福だった。
 それにしても、蜂蜜か。
 紅茶に入れても良いけれど、せっかくのキラキラお星様が見えなくなるから、レモネードでも作ろうかしら。
 レモネードには明るい日差しがよく似合う。そう。少し暑いくらいの日の、プールサイドで飲んだりすると最高だ。
 少し汗をかいたグラスに、淡い黄色のドリンクが氷と一緒にカラカラと音を立て、その中でお星様が輝くことだろう。
 つまりはコンサートの後も、素敵なことは続くってことだ。
 熊の楽しみコンサート。
 明日は素敵なコンサート。
 それでもきっと今日の今。
 僕はきっと世界一。
 幸せな熊と心得て。
 素敵なホテルへ向かいましょう。
 願わくば。
 僕の大好きみーちゃんが。
 明日も世界一輝けますように。
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