放浪戦記

アブナイ羊

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幼少期 盗賊団時代

赤字

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今回の仕事の報酬は、わたしもアルトもが半銀貨1枚だった。アルトは怪我をしたということで、特別手当としてさらに半銀貨1枚を貰っていた。
半銀貨1枚は昨日までのわたしの全財産とほぼ同額だ。そして、仕事に参加した人たちの中でも一番報酬の多いカインさんに次いで多かった。
そしてそんなに報酬が高いのには訳がある。

1つ。運んでいた積み荷にいつもより高級なものが多く、団としても得られたものが多かったこと。

2つ。護衛の冒険者パーティがランク3だったこと。冒険者のランクは1~5で、いつも相手にしているような冒険者たちはランク1か2だ。2と3の間には高い壁があると言われ、その壁を越えたランク3パーティは段違いに強い。
なんでそんなパーティと戦ったかというと、単純に見張り役のミスだ。

3つ。わたしとアルトが戦ったのが、運の悪いことに一番強いリーダーだったこと。
強さ自体はランク3の中でも普通だが、特にリーダーは堅実かつ大胆な戦いかたで冒険者に登録してからたったの一年で壁を越えたことで有名な「隕石」と言うパーティだったらしい。
隕石という名前の由来は、リーダーの斧の振り下ろしが隕石のように高威力だからと言われている。

そんな強敵と戦って生き延びたわたしたちだが、アルトは右肩を斧で粉砕されていた。今はアジトの奥で気絶している。
なんで気絶しているかというと、先輩に運ばれていたアルトはアジトの廃倉庫に着く前に目を覚ました。その時は気丈に振る舞っていたのだが、治療が始まるとその強引さに痛みに悲鳴をあげるはめになった。そしてその荒療治が終わるやいなやバッタリと倒れたのだ。

折れた骨を元通りにするためには折れた骨の面と面をくっつけなければならない。
アルトの場合は骨が飛び出していたため、整復時の痛みも一層だ。

「いだだだだだだだ!!いて、痛い痛い痛い痛い痛い!!!」

そんなアルトの叫びがまだ耳に残っている。そんなに悲鳴をあげているのにまったく手を緩めないで骨を押し込む治療士の先輩に畏怖したのも記憶に新しい。
まぁ、そこで手を緩めたら余計に苦しくなるのは目に見えているのだが。

「…………」

治療室を覗くと、アルトは右肩を包帯に巻かれて眠っていた。傍らには、蹴飛ばされたときに折れたのか、半分になった大剣が置かれていた。
この大剣はアルトが報酬を貯めて半銀貨一枚で買ったものだ。特に思い入れは無いはずだが、報酬がこれでパーだ。
私も無くなった長剣1本と短剣5本は新しく買い直せば総額で半銀貨一枚を超す。今回だけ見れば赤字だった。

判断を誤った見張り役には文句の1つでもくれてやりたいが、そういうのは団では御法度だ。少しくらいのミスは許容しなければならない。あまりミスが続くようであれば、リーダーが直々に処罰を下すのだというのだ。
まぁ、見張り役がみんなに小突かれるくらいのことはあったが。

そしてアルトは見張り役にはもちろんハンナにも文句を言いたいだろう。危険を省みずに格上相手に2回も隙を作ったのだ。それなのにハンナはその行為を無下にし、結果的にだがアルトは大怪我を負った。
治療士の回復魔術と鬼人族の高い回復力によって、1週間もあれば治ると言われている。次に仕事に出るのは念のため次の次の仕事だが。
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