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9 ヴィルヘルムの記憶
しおりを挟むエミリヤ・ワイムール子爵令嬢、彼女の印象は私に取ってはあまり良くなかった。
良くも悪くも『貴族の娘』だったからである。
彼女の婚約者になるより前に一度だけすれ違った事がある。
私は父に出資している劇団だからと行かされたが義理で行くだけなので誰も誘わずに行くと、彼女と友人らしき女性達の隣のボックス席であった。
まだ開演前で皆会話を楽しむ中、隣のボックス席からも楽しげに話す声が聞こえてきた。
「マリア様は婚約者様とあったのでしょう?どうでしたの??」
「素敵な殿方でしたわ、将来有望そうですしお互いの親が乗り気ですし問題なく進むと思いますわ。それより、エミリヤ様はどうなんですの?未だに婚約者決めてらっしゃらないのこの中で貴女だけなんですのよ!」
「そうよね、人の心配している場合でなくてよ?エミリヤ様は子爵家でご長男がいらっしゃるのだから、早くしませんと残りますわよ!?どうなさるおつもり?・・・!まさか国外なのですかっっ!?」
「まってライラ、ほらまだいるわ。冷笑の・・・。」
「え・・・えぇそう言えばいらっしゃったわね・・・。冷笑伯爵が・・・。」
「・・・。エミリヤは好きな方いらっしゃいませんの??」
余り広げたくない話題なのか女性が話を変える。
「ねぇ?2人が話してた冷笑伯爵って誰なの?」
「「えぇ!!知りませんのっっっっ!?」」
2人は驚くがイケオジと結婚出来ないなら平民になっても良いなーと、思っている社交界に関心の無いエミリヤは全くこの手の話は記憶に残していない。
「イグリール公爵の嫡男のヴィルヘルム・ゼスター様ですわよ。」
まさかここで自分の名前が出てくるなどとは露にも思っていなかった為、ヴィルヘルムは心臓がドキッとした。
「あぁーー♪イグリール公爵様の。冷笑しか出来ませんの?っていうか顔が思い出せないのよね・・・。見た事無いのかも知れませんね~。でも公爵様なら会ってすぐ覚えられると思いますの!!」
「ヴィルヘルム様の方が覚えやすい気がしますけど?」
「お顔は素敵なのですけどねぇ・・・やっぱりあの方に冷笑されたら自信なくしますわ。」
「へぇーお二人が認めるほど顔が整っているんですねー?でもどんな顔だろうと、お年を召せば公爵様のお顔に近くなるに違いありませんし公爵様のお顔を覚えておけば良いのではないかしら??」
「なんでそうなるのか全く理解できませんわね。もう婚約の事とやかく言うの諦めますわ。」
「えー、諦めちゃうの?私イグリール公爵家の家族になれるのなら、冷笑だろうと冷酷だろうと耐えられますけど?」
「なんて意外な発言!!」
「(所詮は同じ羽の鳥は集まると言ったところか。爵位でしか人を見ない女と見てくれでしか人を見ない友人かーー哀れだな事だ。)」
ヴィルヘルムは不愉快になり、オペラが始まる前に隣に気付かれないようにボックス席から出た。ヴィルヘルムが帰った後も3人の話は続いている。
「意外でもなんでも無いわよ。どうせイグリール公爵と一緒に暮らしたいだけでしょ。」
「バレた?」
「当たり前でしてよ。お茶会に誘っても『その日は平日でしょ?休日に誘って。』『今日は侯爵様はどこにいらっしゃるの?お茶会には挨拶にいらっしゃらないの?いらっしゃらないのでしたら私が挨拶に行かなければ!!』と毎回言ってたら流石にバレない方がおかしいですわよ。」
「そういえば、お茶会で姿消した時はお父様と執事長にエスコートされて戻って来ましたわね。あれには流石に驚かされましたわ~・・・。」
「いやー、2人のお父様素敵ですわよね~毎回眼福です!!マリア様の執事長様にはエミリヤが恋人にして欲しいと言っていたとお伝えください♪」
「伝えるわけないでしょう!あの後、執事長1日機嫌が良かったのは追及致しませんわ・・・。」
「良いですよー、今度会った時に直接伝えますから。
あぁ・・・イグリール公爵様にお目にかかりたいわ。イグリール公爵様って見目の良いおじさまって聞いたもの。だからと言って娼館に入れ込んだりって言う話も聞かないし。身持ちの硬い渋くて優しくて仕事も出来る殿方とか滅多にいないじゃ無い。出来ればイグリール公爵の様な真面目な殿方の妾に収まって、爵位を後継に譲ったらさっさと一緒に領地に引っ込んで老後でも何でもお世話したいよー・・・。妾に収まれないなら、せめて領地戻った時には専属侍女として雇ってくれないかしら?」
「真面目な人間が妾を囲うって矛盾しているんじゃ無いのかしら?それに公爵様って優しいなんて話聞いた事無いわ。むしろ悪魔とかは聞いた事ありますけど・・・。エミリヤ様がこんな性格じゃなかったら私たちより早く婚約者いたでしょうにねぇ?」
「本当・・・。あら?そういえば公爵様の奥方様を社交界でお見かけした事ありませんね?儚くなられたとも聞いた事ありませんわね?」
「そこなんですのよね。お父様に聞いた事があるんですけど、公爵様の奥方様の話は教えてくださいませんでしたの。全くなんなんでしょうね!!隠さなければならない様な国家機密でもあるのかしら?」
突飛な発想を膨らませながら3人は楽しい時間を過ごした。
♢♢♢♢♢
ヴィルヘルムは自身の出自に関しては12歳の時に貴族男子の義務であった騎士団施設での訓練期間中、プライドの高い貴族の長男に無理矢理聞かされた。
それまで父親や家令等にいくら母親の事を聞いても「お前にはまだ早い」と躱されていた最も知りたかった事は残酷でその上他人が知っていたのだ。12歳の心は深く傷つき、それから女性と話すと心のどこかで疑い蔑み憎む様になっていた。幼い時に婚約者となった女性はこの頃から急に冷たくなったヴィルヘルムに耐えきれず、両者合意で白紙になった。
エミリヤ達の会話を聞いた後、母親に会ってわだかまりを解消すれば人間関係も改善するかも知れないと自身の母親の行方を手を尽くして調べた結果居場所が判明した。
母親は一年だけの婚姻期間を経て離縁し修道院に入っていた後、4年後脱走しその後は分からなかったが今現在は男の愛人になっている事がわかった。
居るという町に着くと、そこは治安が悪く身元がはっきりしない者達で成り立っている様な町であった。
道は汚れ汚臭が漂い、日中から酒に酔った者が道端で寝ていたりとヴィルヘルムにとって別世界である。
「(こんな所に本当に居るのか?)」
友人にこの町に行くと言った時に用意された薄汚れた外套で身を隠し母親のいる家を探す。
裏路地を通りながら民家の隙間を縫って進んで行く。
ーーパンッッッ!!パンッッッ!!パンッッッ!!
なんの音だろうとその音が聞こえる民家に近付いた。
『オラッッ!!どうだっっ!!淫乱のお前に今日は俺のダチを呼んでんだぜ!!』
ーーパンッッッ!!パンッッッ!!パンッッッ!!
『これが例のお前の性奴隷かよ。随分使い込んでんじゃねーか。まぁいっか、じゃお邪魔しまーすっ♪』
『ひぃんんんんっっっっっ!!!』
『はははっ!馬かよっっ!!草より男のおちんぽ食べるの大好きっ!って感じか?笑える♪』
『こんなんでも、昔はお貴族様だったらしいぜ?』
『マジかよ~こんなガバガバでお嬢様だったとか無いわ~。』
『本人が言うには修道院から逃げ出したらしいんだけどよ、行き倒れてた時に俺の下の世話をするから愛人にしてくれって言われてさー俺優しいから拾ってやったんだよねー。ガバガバなのは最初っからだからな。』
男達の会話の間も生々しい肌を打ち付ける音と卑猥な音が聞こえる。
『絶対貴族って嘘だろ。つか、この町でこの女とやった事無い男居ないんじゃね?』
『身体売って稼ぐ理由が煙草ってよ。煙草がそんなに吸いたいのかよって俺だって思っちまったわ。』
『もっとっっ!!もっと!!なかにちょうだいっっっ!!!』
風で雨戸がうっすら開きヴィルヘルムに中の様子が見えた。自分と同じ髪色の女が男2人と息を荒くしまぐわっている淫猥な光景であった。
ヴィルヘルムは一瞬であったがそれが自身の母親だと直感した。吐き気がし、気持ち悪くなり急いで町を後にした。
それからヴィルヘルムは女性に対しての嫌悪感を隠す事が無くなった。
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