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第1章 冒険者になってシロをもふもふに戻したい!
1 宝箱を発見した!!
しおりを挟む交通量はそこそこの県道。
信号機の青ライトが点滅し始めた横断歩道。リードに犬を繋いだ黒髪で大きいパーカーを着た、人混みに紛れたら分からなくなる様な平均的な顔の男が交差点に差し掛かる。
男は自家暮らしで非正規雇用で働いている。特にやりたい事も無いのでただただ日を消化するだけの生活を送っている。
飼い犬と共に信号が変わるギリギリを渡らずに立ち止まる。飼い犬が急に走ってもリードが道路に出ない距離を確保する。石橋は叩き割る位で丁度いいだろう。
「(あー・・・目の前のコンビニが遠く感じるわ。今日出たばっかの期間限定アイスとっとと買って食いて~。まだあると良いんだけどなぁ・・・もう売り切れの店あるってネットに上がってたんだよな~・・・めっちゃSNSに踊らされてる感が否めないっつーな)」
アイスを買いに行くついでに飼い犬の散歩に行こうと家を出て、目の前にあるコンビニを前に飼い犬のシロを構いながら信号が替わるまでの時間を潰す。シロは中型犬の一歳で名前の通り白・・・くはない、見た目は黒である。犬の名前を友達に教えると「お前捻くれてるな」と必ず言われるが気にしない。
俺が捨てられていたのを家に持ち帰って飼い始めたシロは、拾った当初どこで遊んだのか真っ白だったのだ。洗って黒色だと分かったのだが最初の印象が強くてシロと名付けた。
「シロ~ちょっと良いお前のおやつ、そこのコンビニで買ってやっからなー?」
ーーわんっっ!!
「はぁー・・・お前は本当可愛いなぁ~♪弟達とは大違いだよな~俺の言葉理解してんじゃねーの?シロはお利口さんだもんな~今度SNSにシロ上げてみようかな・・・いやいや、あそこは人間の闇も多いからな。悪く言ってくる奴もいるかもしんねーし、お前の事悪く言われたら一日中凹みそうだしな・・・やっぱやめとこ」
ーーわんわんっっっわんわんわんわんわんわんっっっ!!!
「ん?どうしたんだシロ?」
シロの向かって吠えている方向を見ると、目の前にはトラックが迫っていた。トラックの中にはトラックの運転手らしからぬチャラい装いの若い男が乗っているのが目に入る。そしてどこからかパトカーのサイレン音が聴こえる。
考えを整理する間もなく、凄まじい衝撃を体に受けた。
石橋は叩き割っても後ろから背中を押してくる奴がいる事を、死ぬ直前に学んだ。
「う・・・うぅ・・・いてて・・・ん?」
痛む身体を起こしながら起き上がるが、身体の痛みからして死んではいないらしい。先程アスファルトに叩きつけられた気がしたが、身体を起こす際に手を突いたのだがどう見ても石で出来た床である。
「シロ・・・?」
飼い犬の名前を呟き周りを見回す。近くには居ないようなので、もしかしたら俺だけ事故に巻き込まれたのかもしれない。飛ばされてどこか崖下にでも落ちて暗いのかと思っていたが、そこは薄暗い洞窟の様な場所であった。壁に所々石が発光しているので真っ暗ではない事が救いである。
少し先に茶色い木で出来た宝箱が中途半端な位置に置かれている。
「(宝箱とかRPGみたいでテンション上がるな!!誰がこんなところに置いたんだ?もしかしてさっきトラックにはねられて死んだかと思ったけど、はねられた勢いでどっかの謎解いて脱出する系のアトラクションやってる店内にはね飛ばされたのか?俺丈夫過ぎね?これSNSにUPしたら絶対バズるだろ!!かぁ~!!こういう時に携帯電話持って来てねぇわ!すぐ帰るつもりだったからなぁ・・・)」
普段から近場に出かける時は注意散漫になるから携帯電話を持ち歩かない。俺はSNS等携帯を良くみるがネットをそこまで信用してないので支払いは現金である。
ポケットを探るものの小銭とお札が少し入っている財布、ハンカチタオルがあるだけで携帯電話はやはり無い。残念ながら人生初バズりはつゆと消えた様だ。取り敢えず自身から血が出たり骨折したりしていない様なので、ここの係員か救急隊員が来てくれるまで近くにシロが居ないか捜しつつ見て回る事にした。
「(ーーにしてもどの辺り壊して店内まで飛ばされたんだ?もしかしてトラックが壁壊した反動で崩れて塞がってるのか?しかも本物の石材っぽいし、こういうのって期間限定開催だよな?行った事なかったけどここまでリアリティあるなら今度行ってみるか。シロも無事か分かんねーし早く出してくれねーかな?)」
なんとなく茶色い宝箱を開けてみると中にはシロに着けていたリードと首輪が入っていた。
「え゛・・・?」
それを取り出し確かめると首輪には俺がシロを拾った時に書いたシロという字があった。一瞬で様々な考えが脳内を駆け巡る。シロは誰かに殺されて宝箱に首輪とリードだけ入れたのか、シロは首輪が外れて脱走し親切な人が宝箱に首輪とリードを入れたか、はたまたこれは夢か実は自身が死んで死後の世界なのかも知れないと考えた。
じっと首輪とリードを見つめていると木の宝箱がカタカタと小刻みに動き出した。
「うわっっっ!!なんだこれっっ!!気持ち悪っっ!!!」
徐々に近づいて来ていた木の宝箱から飛び退いた。すると宝箱は、口をパクパクさせる。
「・・・これミミックってやつか?」
思わず突いてみると小刻みに揺れ口をぱくんぱくんと開閉する。俺にはそれが嬉しそうに見えた。
「懐いてるみたいで可愛いな!宝箱なのに!!」
持ち上げてみるが電気コードは見当たらない。
「お前電池かぁ?こりゃあ相当電池使うだろ・・・点検しょっちゅうしないとならねーだろーに・・・効率悪いんじゃね?」
通路の先から足音が聞こえて来たので宝箱を置いて立ち上がった。
「(やっと救助来たんじゃね?)」
声を出そうとした時暗闇から姿を現したのは長い耳で小柄な腹の出た生き物だった。
「スッゲー!!これゴブリンって奴じゃね!?」
『gyぢけおp→sl;;;s@;!!!』
ゴブリンと思われる生き物はナタ包丁の様な刃物を出して襲いかかってきた。慌てて逃げるとさっきまでいた場所に刃物が振り落とされていた。石が砕けたのが見えた。
「おうぇぁっっっ!?!?ちょっ、ちょっと待て!!普通ゴブリンって武器こん棒じゃねーの!?しかもそれ殺傷能力無くても当たったら死ぬでしょっっっっ!?ここの施設設定狂ってる!!!!許可降りてねーだろォォォォォォ!!!」
走り回り逃げまくる、流石に普段運動している訳でもないので10分程経つと避けるのもギリギリになってくる。足がもつれ石の床に倒れると、ゴブリンらしき生き物が狙いを定め刃物を振り下ろした。
『p;え;:s:*、、qんp@@p@ーーーーーーー!!!!!!』
顔を上げてみるとさっき持ち上げて見た木の宝箱がゴブリンらしき頭を覆い隠す様に噛み付いていた。木の宝箱だが縁は鉄で出来ており頑丈でゴブリンらしき生き物の首を圧迫し息の根を止めんとばかりにがっちりと挟んでいる。その甲斐あって刃物を落とした為、急いで男が拾った。
俺は視覚モニターが付いているであろう頭を胴体から切り離すことにした。宝箱が噛み付いている間に宝箱を外そうとしている手ごと切り落とした。
「ふーーーこれで安心だな。これ壊したけど損害賠償請求される事は無いよな?むしろこっちが訴えても良いかもな、うん!!・・・・・・つか・・・グロい・・・これ斬られるまでがセットのロボットだったのか??でも、これグロ過ぎてSNSで吊し上げられそうなイベントだな・・・年齢制限は20歳位か?」
なんとか落ち着いたのでお助けキャラ的役割だと判断した宝箱を座った脚の上に抱えた。シロが見つかるまで宝箱の中に一旦首輪とリード入れて置こうかと、宝箱の蓋を開ける。
ーーピロリン♪
突如鳴った機械音に訝しむと宝箱の横に文字が浮かび上がっている。
【シロ】犬であったもの
【木の宝箱】レベル2
【技】
・噛み付き
New・捨て身タックル
「・・・・・・。・・・シロ?お前シロなのか!?ここもしかして異世界ってヤツか!?うそだろーーーーーーーーーーーっっっっっっっ!!!??お・・・俺の賢くてもふもふプリティお尻のシロがぁぁぁぁぁっっっっっこんなカチカチ宝箱に・・・悪夢だあぁぁぁぁぁぁっっっっっっっ!!!しかも捨て身タックルってなんだよぉぉぉぉ!!!カチカチ宝箱になった時点でシロが死んでしまってんのにカチカチ宝箱になったシロまで死ねというのかぁぁぁぁーーーーーーーーっっっっっっ!!!クソガァァァッッッッッッッッッ!!!」
誰に向ければ良いのか分からない怒りを発散させる為に叫ぶ。するとその大声でモンスターが1匹引き寄せられた様である。
俺は怒りで我を忘れ、宝箱になってしまったシロと連携して蜥蜴の様なモンスターを倒した。
モンスターを倒してもあの可愛かったシロは帰ってこないと打ちひしがれていると、宝箱がカタカタと小刻みに身体を揺らしながら足元に近寄ってきた。擦り寄って来た宝箱が以前のシロの姿と重なり目から涙が溢れる。
「うぅぅ・・・うわぁぁーーーーーーっっっっ!!!ごめんよシロっっっっっっ!!!お前の見かけが変わったからってシロはシロなのにぃぃーーーっっっっっ!!!ごめんな、ごめんな!!!」
宝箱を胸に抱き号泣した。
ーーそれを影が覗いていた。
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