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8年前 (6)
しおりを挟む「……んっ…………」
見知らぬ部屋の天井と嗅ぎなれた消毒液の匂い、それがアルフェンが目が覚めて最初に感じたものだった。
寝起きのせいか、ボンヤリとするアルフェンの目に最初に映ったのはヴァルトとリュークの顔だった。
「兄さん、気が付いたのか!?」
「にいさん!!」
「ヴァルト……リューク……ぃっ……!!」
ベッドから上半身を起こした瞬間、ジクリと鋭い痛みが走った。
「っ………」
「大丈夫か?」
「っ……大丈夫。一瞬だけ痛みが走っただけだから。それよりヴァルト、ここは・・・?」
「ネフェルト医師の診療所だよ。ほら、ギルドの隣にある建物の・・・兄さん、ザルツマンに薬品を掛けられたこと覚えてるか?」
「ああ、あの薬が僕の背中にかかって火がついて・・・「兄さん」ん……?」
思い出している途中でポフッという音とともにリュークがアルフェンの腰にしがみついた。
「兄さん、ごめんなさい。ボクのせいで……ごめんなさい……」
ひっく、ひっくと泣きじゃくるリュークの頭を撫でながらアルフェンはその小さな体を抱きしめた。
「リュークが無事でよかったよ。」
その光景を見ていたヴァルトは、ふぅっ…と安堵する。
「ヴァルトも……ごめん。迷惑かけて」
「別に迷惑だ、なんて思ってないよ。心配してたんだよ。兄さんあの後、高熱出して、まる2週間も眠ってたんだよ。」
「2週間も!?そうだったんだ・・・・そういえば、あの人はどうなったの?確かシシイ達に取り押さえられてなかったっけ?」
意識を失う前、シシイやほかの錬金術師たちがザルツマンを取り押さえていたが、あのあとどうなったのだろうか。
「あのひと、たいほされたよ。」
逮捕されたと聞いて、アルフェンはやはりなとすぐに納得した。
続けてヴァルトが呆れた表情で語りはじめた。
「・・・アイツが投げた薬、あの日、商業ギルドに納品する予定の化学薬品だったんだ。本来なら職人が使用する薬品をひとにかけたんだ。で、自警団が来てすぐギルド長の説明を聞いた自警団に逮捕されたんだよ。アイツ、団員に連行されるときに兄さんが悪いだのリュークが悪いだの散々言いやがって……」
「そういえば何でリュークを見てあんな激怒してたんだろう。初対面だろう?」
「あのおにいさんね、兄さんからぼくのにおいがしたからゆるせなかったんだって。」
「はっ?リュークのにおいがしたってなに?」
どういうこと?と目を丸くしたままアルフェンにヴァルトは先ほどよりも深い溜息を吐き、呆れた表情で話してくれた。
「アイツ曰く、兄さんの周りに知らない香りがまとわりついていて、それがリュークの匂いだってわかって許せなかったんだとさ。」
「……あの人は犬か何かなのか?」
「同感!!それと自警団の団員がアイツに何で兄さんに嫌がらせしてきたんだって聞いたみたいなんだけどさ・・・」
なにかを思い出したのか、眉間にしわを寄せながら、は~あっとヴァルトはまた深いため息をつく。
「・・・・どうしたの?」
「いや、何か言うのも馬鹿らしくなってきたから」
「えっ!?何言ったのあの人?」
「実は………」
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