9 / 12
8年前 (7)
しおりを挟む「あの悪魔が目障りだったんだよ!!」
自警団による聴取で団員の1人に、何故アルフェンを敵視するのかと問われた際にザルツマンはそう証言した。
「目ざわりって・・・お前とアルフェンとはそんな接点無かったはずだが。」
「五月蠅い!!目障りなものは目障りなんだ!!この俺よりも優秀なうえ、お高くとまっているあの悪魔が悪いんだ。そいつを罰して何が悪いんだ!!」
「・・・・何で被害者のことを悪魔って呼んでいるんだ?」
若い団員の1人がずっと気になっていたことをザルツマンにたずねた。
「悪魔は悪魔だ!!アレはヒトの姿をした悪魔!!前世、俺が倒しそこねた悪の化身!!あの男の苦しむ姿を見ることが俺の喜び。だからこそあの男はこの俺が罰さなければいけないんだ!!」
そう叫びながら恍惚の表情を浮かべるザルツマンの姿を見て、その場にいた自警団員の誰もが思った。
――――ヤベェよ、コイツ・・・・
「えっ?何それ。それが理由!?」
ヴァルトから聞いた話の内容にアルフェンの気持ちを一言で表すのならばまさにそれだった。腑に落ちないという表情の兄にヴァルトも、ウンウンと頷く。
「だよなぁ。俺も最初きいたとき、ハアッ?って思ったよ。教えてくれた団員は間近で見てドン引きしたって言ってたし、アイツ連行されるときもなんか訳の分からないことばかり喚いていたけど、シシイがアイツの脇腹を一発殴って黙らせたら、大人しく自警団に連行されていったよ。」
「……何か、その光景が目に浮かぶなぁ……」
曲がったことが嫌いで姉御肌(生物学上は男性だが、本人の心は女性である。)かつ、東の大陸に伝わる武術の心得のあるシシイならば一瞬でザルツマンを黙らせたのだろうなと想像できてアルフェンは苦笑いを浮かべた。
「正直言うと少しだけ、ホッとしてるんだ。」
「ホッとしてる?何で?」
「………最初、あの人は僕達がゴーレムことに気づいていて、嫌がらせしているのかなって思っていたんだ。でも、そうじゃないんだってわかって、ホッとしてる自分がいるんだ。」
「兄さん………」
「けれど、安堵半分…結局、あの人が何がしたかったのか分からないからちょっとモヤモヤするかな。」
「………確かに、兄さんに罵声浴びせるわ、ワザとぶつかってきたり、俺達の仕事も握りつぶすわ、部屋を荒らした上に兄さんの下着盗むわ、ギルドの倉庫から薬品を盗んだ上にその薬でリュークを殺そうとしたり、アイツが何考えてんのかまっったくわかんねぇわ!!」
ヴァルトの主張に同感だ。とでも言うようにアルフェンはウンウンと頷いた。
「ねえ、兄さん。」
クイクイとアルフェンの袖をリュークの小さな手が引っぱった。
「シシイちゃんも言ってたけど、あのお兄さんなんかヘンなにおいしたんだよ。」
「ヘンな匂い?」
「………そういえばザルツマンを取り押さえていた他の錬金術師達も言っていたなあ、なんかアイツから腐った匂いがしたって。」
「腐った匂い………」
「………兄さん?」
急に黙り込み、両腕を組んで何かを考えているアルフェンにヴァルトはたずねた。
「動物並みの嗅覚に、身体から発する腐臭………もしかして……」
自警団の詰所の地下にある留置場。 光の当たらない薄暗い空間に不気味な声が蠢いていた。
「ゅるさない……ゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさない。」
その声の主ーザルツマン・グラーツは虚ろながらも昏い瞳でブツブツと呪詛のようにアルフェンへの恨みの言葉を吐いていた。
「………悪は裁かなければいけない。悪を罰しなければならない。 悪を断罪しなければ……アレは悪なのに、悪そのものなのに………ゆるさないゆるさないゆるさないぃぃい~!!」
留置場にザルツマンの叫びが響き渡る。
「必ずこの俺が断罪してやる。そして…………」
ニタリと口角を上げるザルツマンの表情は醜く歪み、瞳は獲物を狙う獣のように鋭く、アルフェンへの恨みと執着からドロリとした感情を孕んだ深く昏い目をしていた。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
婚約破棄したら食べられました(物理)
かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。
婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。
そんな日々が日常と化していたある日
リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる
グロは無し
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
私、お母様の言うとおりにお見合いをしただけですわ。
いさき遊雨
恋愛
お母様にお見合いの定石?を教わり、初めてのお見合いに臨んだ私にその方は言いました。
「僕には想い合う相手いる!」
初めてのお見合いのお相手には、真実に愛する人がいるそうです。
小説家になろうさまにも登録しています。
魅了の対価
しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。
彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。
ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。
アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。
淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる