理由なき悪意

keima

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8年前 (7)

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「あの悪魔が目障りだったんだよ!!」

 自警団による聴取で団員の1人に、何故アルフェンを敵視するのかと問われた際にザルツマンはそう証言した。

「目ざわりって・・・お前とアルフェン被害者とはそんな接点無かったはずだが。」

「五月蠅い!!目障りなものは目障りなんだ!!この俺よりも優秀なうえ、お高くとまっているあの悪魔が悪いんだ。そいつを罰して何が悪いんだ!!」

「・・・・何で被害者のことを悪魔って呼んでいるんだ?」

若い団員の1人がずっと気になっていたことをザルツマンにたずねた。 

「悪魔は悪魔だ!!はヒトの姿をした悪魔!!前世、俺が倒しそこねた悪の化身!!あの男の苦しむ姿を見ることが俺の喜び。だからこそあの男はこの俺が罰さなければいけないんだ!!」

 そう叫びながら恍惚の表情を浮かべるザルツマンの姿を見て、その場にいた自警団員の誰もが思った。

 ――――ヤベェよ、コイツ・・・・



「えっ?何それ。それが理由!?」

 ヴァルトから聞いた話の内容にアルフェンの気持ちを一言で表すのならばまさにそれだった。腑に落ちないという表情のアルフェンにヴァルトも、ウンウンと頷く。 

「だよなぁ。俺も最初きいたとき、ハアッ?って思ったよ。教えてくれた団員は間近で見てドン引きしたって言ってたし、アイツ連行されるときもなんか訳の分からないことばかり喚いていたけど、シシイがアイツの脇腹を一発殴って黙らせたら、大人しく自警団に連行されていったよ。」

「……何か、その光景が目に浮かぶなぁ……」

曲がったことが嫌いで姉御肌(生物学上は男性だが、本人の心は女性である。)かつ、東の大陸に伝わる武術の心得のあるシシイならば一瞬でザルツマンをのだろうなと想像できてアルフェンは苦笑いを浮かべた。

「正直言うと少しだけ、ホッとしてるんだ。」

「ホッとしてる?何で?」

「………最初、あの人は僕達がゴーレム普通の人間じゃないことに気づいていて、嫌がらせしているのかなって思っていたんだ。でも、そうじゃないんだってわかって、ホッとしてる自分がいるんだ。」

「兄さん………」

「けれど、安堵半分…結局、あの人が何がしたかったのか分からないからちょっとモヤモヤするかな。」

「………確かに、兄さんに罵声浴びせるわ、ワザとぶつかってきたり、俺達の仕事も握りつぶすわ、部屋を荒らした上に兄さんの下着盗むわ、ギルドの倉庫から薬品を盗んだ上にその薬でリュークを殺そうとしたり、アイツが何考えてんのかまっったくわかんねぇわ!!」

ヴァルトの主張に同感だ。とでも言うようにアルフェンはウンウンと頷いた。

「ねえ、兄さん。」

クイクイとアルフェンの袖をリュークの小さな手が引っぱった。

「シシイちゃんも言ってたけど、あのお兄さんなんかヘンなにおいしたんだよ。」

「ヘンな匂い?」

「………そういえばザルツマンアイツを取り押さえていた他の錬金術師達も言っていたなあ、なんかアイツから腐った匂いがしたって。」

「腐った匂い………」 

「………兄さん?」

急に黙り込み、両腕を組んで何かを考えているアルフェンにヴァルトはたずねた。

「動物並みの嗅覚に、身体から発する腐臭………もしかして……」






    

自警団の詰所の地下にある留置場。 光の当たらない薄暗い空間に不気味な声が蠢いていた。 

「ゅるさない……ゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさない。」

その声の主ーザルツマン・グラーツは虚ろながらも昏い瞳でブツブツと呪詛のようにアルフェンへの恨みの言葉を吐いていた。 


「………悪は裁かなければいけない。悪を罰しなければならない。 悪を断罪しなければ……アレは悪なのに、悪そのものなのに………ゆるさないゆるさないゆるさないぃぃい~!!」

留置場にザルツマン狂った男の叫びが響き渡る。 

「必ずこの俺が断罪してやる。そして…………」

ニタリと口角を上げるザルツマンの表情は醜く歪み、瞳は獲物を狙う獣のように鋭く、アルフェンへの恨みと執着からドロリとした感情を孕んだ深く昏い目をしていた。
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