理由なき悪意

keima

文字の大きさ
10 / 12

8年前 (8)

しおりを挟む
「兄さん、何やってんの。」

 「あっ……」

ヴァルトが病室のドアを開けると、ちょうどアルフェンがベッドから上半身を起こして本を読んでいるところだった。

 「しばらく安静にって言われてただろう。」

少し呆れた顔をしながら、ヴァルトは両手を組みながらベッド横の椅子に腰掛けた。 
ザルツマンによって薬品をかけられた背中の火傷は少しずつ回復しているが、しばらくは安静にするようにと医師から告げられていた。

 「まぁ~……うん。ちょっと気になることがあって調べものしてたんだよ。」

「調べものって?」

 「コレだよ。」

 そう言うと、自分がいま読んでいた本の1ぺージをヴァルトに見せた。 

「……死者再生における法則……屍人形ドクロの錬成法か。」

屍人形 その名のとおり死人の亡骸を錬成させ蘇生された存在である。

「でもこの研究って『死者への冒涜』だって言われて教会とか周りに色々批判されて中止になったんだよね。何で急にこれを?」

「ホラッ、前にリュークが話していただろう。あの人から変な匂いがするって。」

「あ~、あの時か!!」

「屍人形の特徴として、動物並みの鋭い嗅覚を持っているのと同時にその身体から時折、腐ったような匂いを放つことがあるんだ。リュークやシシイ、それに他の錬金術師達が腐った匂いがするって言っていたのは多分、それだと思うよ。それと生前と比べて攻撃的な性格になったりする」

「そういえば副ギルド長、アイツが子供ガキの頃に事故にあってから性格が変わったって言っていたな……兄さんはアイツが屍人形じゃないかって思っているの?」

「……屍人形の特徴とあの人がまったく一致しているし、それに屍人形は特定の人物に対して異常なまでに執着し、酷いときは傷つけることも厭わないこともある。あの人の僕に対する悪意も、もしかしたらそれなのかも知れない。」

「……この前、副ギルド長から聞いたんだけど、アイツ両親と出かけた先で馬車の事故にあったんだって。」

その事故はあまりにも惨く、先代領主は即死、夫人と御者は顔を潰され死んでいた。ザルツマンも重傷を負ったが助かったらしい。

「もし兄さんの仮説が本当ならあの事故でアイツはもう……」

「おそらく…………あの事故ですでに死んでいた。けれど、屍人形となって蘇った。」

「蘇ったって、誰が?何のために?」

分からない。そう言うようにアルフェンは横に振った。

「ただ……屍人形には重大な欠陥があるんだ。」


「欠陥?」

「ココだよ。」

そう言ってアルフェンは自分の左胸を指差した。

「心臓……?」

ヴァルトのつぶやきにコクリと頷くと心臓が動いていないんだよ。と告げた

「本来、人間の心臓は生まれてから死ぬまで片時も休まずに動き続けている。そんな当たり前のようで、膨大なエネルギーと耐久力を持った器官を簡単に作るなんてできやしない。」 

「でも……俺達は……」

「僕達は人間の細胞の中にある遺伝子という情報を基に人間の胎児と同じ行程を得て産み出されている。」

元々、アルフェン達ゴーレムは王族や高位貴族達が怪我や重い病気になったとき臓器や身体のパーツを提供するために産み出されているが、屍人形は違う。死骸を寄せ集めただけに過ぎないため心臓が不完全なのである。

「そのため心臓の代用としてエリクシル剤や大量の血液を摂取しないと生きられないんだけど……」

「摂取しなければどうなるんだ?」

「………体は段々と腐敗していき、やがてもとの骸に戻る。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

義妹がピンク色の髪をしています

ゆーぞー
ファンタジー
彼女を見て思い出した。私には前世の記憶がある。そしてピンク色の髪の少女が妹としてやって来た。ヤバい、うちは男爵。でも貧乏だから王族も通うような学校には行けないよね。

魅了の対価

しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。 彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。 ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。 アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。 淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。

さようなら、たったひとつの

あんど もあ
ファンタジー
メアリは、10年間婚約したディーゴから婚約解消される。 大人しく身を引いたメアリだが、ディーゴは翌日から寝込んでしまい…。

ちゃんと忠告をしましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。  アゼット様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ? ※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

物語は始まりませんでした

王水
ファンタジー
カタカナ名を覚えるのが苦手な女性が異世界転生したら……

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

処理中です...