11 / 12
8年前 (9)
しおりを挟む注意:今回、ちょっとグロテスクな描写があります。
もし読んで気分が悪くなったらUターンを。
「うわあぁっ!!」
アルフェンとヴァルトがザルツマンが屍人形ではないかと話し合っていたちょうどその頃、、自警団の詰所の地下にある留置場の中で見張り役をしていた若い団員の悲鳴が響き渡っていた。
その叫び声を聞いた団長と団員数名が駆けつけると、生物か何かが腐ったような匂いが充満した留置場に腰を抜かして動けない団員がいた。
「何だ?どうしたんだ!?」
「あっ……ああ………」
カタカタと震える若い団員の指さす方向を見ると、
ザルツマンが収容していたハズの牢のなかにはザルツマンの姿はなく、木乃伊のように痩せ細り骨と皮だけの小柄な体格の、顔に泥を塗りたくった白髪の男がブツブツと何かをつぶやきながら牢屋の中にいた。
「誰だお前は!?ザルツマンはどこだ?」
団長は白髪の男に向かって叫ぶが男の耳には入ってこない。
「バッしなければ……アレをバッしなければ。」
「?……何を言っているんだ。」
すると俯いていた男が顔を上げ、目をギョロリと動かすとスッと立ち上がりユラユラと体を揺らしながら鉄格子に近づいた。男が歩くたびに顔に塗りたくった泥がボトリ、ボトリと落ちたその泥から思わず顔を顰めてしまうほどの生臭い匂いに誰もが気をとられた時だった。
ガシャンという音を立て男は鉄格子に近づき、牢の外にいる団長達を睨み咆哮した。
「金髪ぅぅ~!!金髪は罪人!!金髪はダンザイしなければならない!!」
「ひぃぃっ!!」
ガンガンと鉄格子を叩きつける男の剣幕に金髪の若い団員は恐怖から腰が引けている。
ガンッ、ガンッと鉄格子を叩きつけていると、やがて鉄格子が勢いよく壊され、男はボタボタと地面に落ちる泥と腥い匂いを放ちながら牢屋の外に出てきた。
「なっ………!?」
「金髪はぁぁ~~バッしなければぁ~~!!」
「ひぃぃっ!!」
「やめろ!!」
男が若い団員に襲いかかろうとした瞬間、団員が手に持っていたランプがフウッと宙を舞い、男の頭の上に落ち、ボウッと白髪から炎があがった。
「あ“あ“あ”あ”ぁ”ぁぁっっ!!!」
火は勢いをましていき、やがて男の全身に燃え広がった。
ー何故だ!?どうして俺がこんな目にあわなければならないんだ。俺は悪くない。
だってあの方達が言っていたんだ。俺は英雄だって。英雄の生まれ変わりなんだって。だからこの町を出て「悪」を断罪してきたのに何で誰もわかってくれないんだ!!
アレが……アルフェンがいなければこんなことにならなかったんだ。
あの日、10年ぶりに町に戻ったとき、幼なじみだった男と話していた蜂蜜色の髪のアレの姿を見つけたとき本能的に感じたんだ。アレは「悪」だと、長年俺が探し求めてきた「悪」の生まれ変わりだと、その証拠にアレの身に纏う香りにベッタリと別の匂いが混じっていたし、アレの隣に黒髪のヴァルトがはりついている。
気にくわないのと同時にあのお高くとまったあの表情を怯えと恐怖で歪ませたらどうなるのだろうと想像してゾクゾクした。
だから事あるごとにアレに近づいて罵詈雑言を吐いたり、時には気にくわないあの匂いを消すためにワザとぶつかったりした。それなのにアレは怯えるどころか、どこか冷めた目をしていて、いつもそばにいる黒髪のガキも俺を睨みつけて「兄さんに近づくな」と生意気に率先してくる。アレから仕事を握りつぶしても、下宿先に押し入ったりと色々してきたのにアレは思い通りに動いてくれずただただ苛々した。
アレを断罪し、あの顔を歪ませる。 そしてあのベッタリとはりついた匂いを一掃して俺の所有物にするはずだったのに……
「あ“つ“い“ぃ“~、だれ“か“ぁ“~」
ザルツマンはその場にいる自警団員らに助けを求めるが、全身を包む炎によって泥のような肉片がボロボロと流れ落ち、骨だけの姿になって咆哮するザルツマンの姿に恐れて、その場にいた誰もが動くことができなかった。
「だれか、たすけ……」
やがて火が完全に燃え尽きると、小さな子供の頭部の骨がカラカラと回っていたが、やがてカランと音を立て静かに止まった。
「ほぉ、ザルツマンは土に還ってしまったか。」
町から離れた王都のとある屋敷の一室でその人物はザルツマンの報告を受けていた。
「せっかく「あの日の約束」に頼みこんで忠実な手駒となるよう蘇らせたのだが……所詮は只の骸………この完璧なわたしに相応しくなったということか。」
その後、ザルツマンの遺骨は、異母兄である領主が引き取りを拒否したため数週間以上放置され、町の外れにある共同墓地に投げ捨てられるように埋葬されたのは、アルフェン達兄弟が町を旅立ってから1ヶ月後のことだった。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
婚約破棄したら食べられました(物理)
かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。
婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。
そんな日々が日常と化していたある日
リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる
グロは無し
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
私、お母様の言うとおりにお見合いをしただけですわ。
いさき遊雨
恋愛
お母様にお見合いの定石?を教わり、初めてのお見合いに臨んだ私にその方は言いました。
「僕には想い合う相手いる!」
初めてのお見合いのお相手には、真実に愛する人がいるそうです。
小説家になろうさまにも登録しています。
魅了の対価
しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。
彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。
ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。
アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。
淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる