鬼は静かに怒っている

keima

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本編

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鬼道衆きどうしゅう―-この日の元の国でこの傭兵集団の名を知らないものがいるだろうか。

混乱続くこの国で、盗賊、落ち武者、悪党などの荒くれ者たちを一掃し、京の都を守ってきた隊員を抱えた傭兵たち
これをまとめ上げるのは鬼道衆の若き総隊長斎藤司狼さいとうしろう二十五歳。 

 
よわい一五で鬼道衆の棟梁となった彼はたぐいまれなる知性とその発言力で九年の間で鬼道衆の隊員たちをまとめあげてきた。

そんな彼には可憐で愛らしい妻が居る。 武家の養女むすめで幼少期を伊勢で過ごし、色素の薄い茶色い髪とクリっと大きな瞳、桜色のプルンとした唇と透き通るような白い肌。
  庇護欲そそる彼女は「小鳥ことり姫」と呼ばれ鬼道衆の隊員たちから愛され、司狼自身も妻を溺愛している。 
  しかし、そんな夫婦に未だ子宝に恵まれていないのが悩みの種だ。










「・・・・・・・・・・・・・だから?」

 腰に手を当てながら、古月孝ふるつきこうは目の前の2人ーー鬼道衆の隊員に呆れた表情で訪ねた。


----ねえ、あいつらっていい?

-----気持ちはわかるけどね羽生はにゅう。もう少しまって。

 鬼道衆にいい感情が無いため今にも殴り掛かりそうな羽生を孝は窘めながら、突然現れた鬼道衆の隊員に再び訪ねた。

「それで?その鬼道衆の隊員様が武蔵国の小さな神社の巫女である私に何の用ですか?」

「フンッ、決まっている!!」

「古月孝!!総隊長の側女そばめとして総隊長の子供を産め!!」

自分達の総隊長である司狼は見目美しい男だ。その男の側室となり、その子供を産むとなれば光栄なことだ。断るわけがないと隊員2人はそうたかをくくっていた。


「はっ?嫌ですけど。」


「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・えっ??」」

 「だから嫌ですけど。何でそんな驚くんですか?」

――そうよ。何で孝が頷くって思ったの?馬鹿なの?

「そっ、総隊長の側女だぞ。」

「光栄なことだと思わないのか?」

「………逆に何でそれが光栄なことだと思うのかまったくわからないんですけど?私、あなた達の総隊長さんと親しいわけでもないし、寧ろ迷惑なんですけど。」

意味分かんないですけど。と言い両手を腰に当てる孝の目は呆れと迷惑そうな色を浮かべていた。

「「めっ、迷惑だと………?」」


「はい、ものすっごく迷惑です。だからさっさとお帰りください。」

にっこりと、しかし笑っていない目で孝がそう言い放つと、隊員二人はガクリと膝をつき、項垂れた。


「「……………か……」」

「?何ですか?」

「アイツかアイツに吹き込まれたのか!?」

足達あだち一樹いつき。アイツが余計なことを吹き込んだんだろう。そうに違いない!!」

項垂れながら何かをブツブツ呟いていた隊員二人がガバッと勢いよく起き上がるとそう叫んだ。



「………………今の話の中に一樹の名前でてきたっけ?」

ーー少ないとも、一樹のいの字も出なかったわよ。

何故ここで叔父の弟弟子おとうとでしで自分の相棒である男の名前があがったのか検討もつかなかったが、あることを思い出しポンと手を叩いた。 

「そういえば鬼道衆の総隊長あの人たちの棟梁と一樹って叔父と甥だったわね。」

ーーええっ、そうなの?

「確か一樹のお母さんの異母弟おとうとさんだったような……でもすっごい仲悪いわよ。」

孝のいうとおり、叔父と甥の関係ではあるが、彼らの仲は決して良いものではない。本人曰く

「本能的に無理。アイツとは馬が合わないし、何よりアイツを崇拝するヤツらは俺のこと気にくわないみたいだし、ほんっとに極力アイツらとは関わりたくない。つーか、関わるな。」

とのことのようだ。 

「なんか……一樹が鬼道衆この人らと関わりたくないって気持ちがよ~く分かったわ。」

ーー確かにね……。

孝が冷ややかな瞳でみつめながらも、隊員二人彼らはここにいない相手の罵詈雑言を吐き続ける。 

「おおかたアイツが・・・あの化け物に騙されているんだ。そうに違いない!!」

今まで黙って聞いていた孝だったが、隊員のその発言にピクリを眉を顰めた。
 
 「・・・・・・化け物・・・?」

「そうだ!!人間でありながら鬼の魂を持つアイツ・・・「鬼神きじんの器」など人間の皮をかぶった化け物ではないか!!」

―――鬼神の器。

神世の時代、人間の始祖と言われた聖霊せいりょうと呼ばれる者を鬼と呼び、その鬼の中でも強い神気を持ち、神の末席にあたる天仏の階級に座る者を「鬼神」と呼ばれるようになった。
以降、鬼神は各地の寺社仏閣に祀られる存在となったのだが、数十年前に北と南で覇権争いが勃発した頃、どちらかの派閥の者が言ったのか分からないが

「この国の神はただ一人だけ我が君こそ神の子。他の神などいらない。天照大神以外を祀る寺社仏閣は徹底的に壊せ。」

との名を受け、各地で寺社仏閣の破壊活動が行われ、そこに祀られていた鬼神の魂は子孫である人間の身体に自らの魂を封じ、その魂を宿した者を「鬼神きじんうつわ」と呼び恐れられ、心ない者達からは「化け物」と呼ばれ蔑まされていた。 




「そんなや・・・「黙りなさい」へっ・・・!?」
 
 ヒュンッ・・・と言う音がした瞬間、二人の頬にツー・・・と血が流れた。いつの間にか孝が彼らの至近距離におり、袖に隠していた鉄扇を向けていた。
 
「これ以上私の相棒一樹の悪口を言うようなら・・・・徹底的に潰す。それと‥‥『ワタシ達鬼神を化け物よばわりするなんて。何様のつもりかしら?』

 「「!!??」」
 
 突然、孝の口からどこか艶のある女の声が聴こえ、孝の顔を見ると、彼女の紅褐色べにかっしょくの瞳が左目だけ、藤の花の色に変化していた。

 ――鬼神の特徴である赤い瞳・・・もしやこの娘も鬼神の器なのか・・・・?

―――しかもこの娘の後ろによく似た男が立っているがこの男も鬼・・・

「残念だけど俺は鬼じゃないよ。」

「「ぎゃぁぁ~!!??」」

孝の背後に立っていた男が隊員の心を読んだかのように答えたので、思わず声を上げ叫ぶと、首筋にひやりとした冷たい何かに触れた。

「動くな・・・・次に動いたら、その頸動脈クビを切るぞ。」

いつの間にか背後から孝と同年代の青年が隊員の首に小刀を突き付けていた。

「…………快里あにさんと一樹、いつからいたの?」

「この隊員がフンッて鼻で笑っていた時かな。」

「ほぼ最初からだよね。」

「俺も快里と一緒にいたけど、孝だったら一人でも追っ払えるだろうと思ったから、見てた。」

「見てないで最初から助けてよ一樹。」

孝のすぐ後ろにいる男は孝の父方の叔父天内快里あまないかいり。そして、隊員に小刀を突きつけているこの青年こそ彼らの隊長である斎藤司狼の甥 足達一樹である。 

「快里……快里って・・・・もしかして貴様あの天内快里か?」

「天内快里って・・・あの悪党潰しの悪党と呼ばれた天内兄弟あまないきょうだいの?」

ーー天内兄弟

 かつて坂東を支配していた悪党をたった二人で壊滅させ、その圧倒的な強さで他の武装集団悪党や鬼道衆などの傭兵を潰してきたためいつしか「悪党潰しの悪党」の異名を持つようになり、恐れられていたが数年前に引退して以来行方はわからなくなっていた。

「やだなぁ~、今はただの神社の神主かんぬしだよ。」

「・・・・・自分で言うな。」

「ただの神主は笑顔でそんな殺気を放たないよ。」

「「…………………」」

隊員二人はこの三人のやりとりを真っ青な顔で見つめていた。
目の前には恐ろしいまでの笑顔で殺気を放つ男と鉄扇を突きつける少女。そして背後には自分たちの首筋に小刀を突きつける男……「悪党潰しの悪党」の圧にただただ震えていた。


「あのクズ野郎に伝えろ。今度俺の周りをうろちょろしたり、俺の相棒に危害を加えるようなら・・・・・・・てめえを全力で叩き斬る。」

ギロリと一樹の燃えるような真紅の瞳で睨まれて隊員二人はゾクリと悪寒がした。 

「あと・・・・・・・子供が欲しいんだったら自分達で何とかしろ。嫌がらせのために孝に近づくんじゃねえよこのヘタレが。それでも近づくのなら………………………………………………もぐぞ。」

「「何を!!??」」

「それかーーー(口にするにも過激な発言中のため自主規制)」

一樹の発言に隊員は顔を真っ青にし、腰を抜かすとそのまま腹ばいになって声にならない声をあげ逃げ出してしまった。 

「…………一樹、やりすぎ。」

「えぇ~、そうかぁ……?」

-アイツらにはこれぐらいやってもいいでしょう。

「……お前、相当怒ってんな…………羽生。」

ふわりと、風が吹いた瞬間癖のある黒髪と藤色の瞳の艶やかな、瞳の色と同じ藤色の着物の美女が彼らの前に現れた。 

「あったり前でしょう!!自分達の先祖を化け物だと言うなんて馬鹿としか言いようがないわよ!!」

「………羽生様、ご立腹だね。」

「羽生…あの隊員が化け物って言ったとき、呪殺ヤッたろかって言っていたけどね。」

女性の名は羽生はにゅう。 
孝に憑坐ひょうざする鬼神おにで、時と空間を司る女神である。

「それにしてもあの二人、「鬼神の器うつわ」のことにしろ、何にしても……孝が二代目『悪党潰しの悪党』の片割れだってこと知らなかったのかしら?」

「知らなかったら側女になれあんな馬鹿なこと言わないでしょう。」

呆れた表情かおをしながら羽生の疑問にこたえる孝に同意するように一樹はウンウンと頷く。 

悪党を引退した天内兄弟が弟弟子の一樹と姪の孝に医術や薬学だけでなく、自身の悪党として培った技術や知識、体術などを教え込み、孝が潜入と情報収集を、一樹が襲撃し潰してくるうちにいつしか「二代目悪党潰しの悪党」と呼ばれるようになった。 

「………そういえば、ずっと気になってたんだけど……大門ひろとあにさんは?」

もう一人の叔父である天内あまない大門ひろとの姿が見えないことに気づいた孝はキョロキョロと周りを見回したあと、快里にたずねた。

「あぁ、快里だった…「「あっぎゃあああああ~~~~~~!!!!」」

快里の問いを遮るように、先ほど鬼道衆の隊員二人が逃げていった先で悲鳴に近い叫び声が聞こえてきたのと同時に 

カーーーーーーーーーーーッ!!
!!

と烏の甲高い声が響いた。


「………………………今のってクロの声だよね。」

と、孝はクロの飼い主である一樹のほうを見る。


「あ~、あの馬鹿隊員が郷に入ってすぐ、クロと大門ひろとにちょっと頼んだんだよ。」

「…………何を?」


「ウチのさとの連中が鬼道衆を嫌っているのは孝も知ってるだろう?」

「まあね。」

鬼道衆と佐々王郷ささおうごうに住む民は過去のとある因縁から険悪な関係である。

大門ヒロとクロに、鬼道衆の隊員が侵入しはいってきたって郷のみんなに教えたんだよね。」

「「みんな??」」

一樹のその発言に孝と快里は怪訝そうな表情かおを浮かべる。 

「そう、。」

一樹がフッフッフと不敵な笑みを浮かべた瞬間……

ウオオォォォ~~~~!!

という怒号とギャア~~!!という悲鳴が遠くから聞こえてきた。


「「「………………」」」

やがてその叫び声が聞こえなくなると、

「………一樹、アンタって性格悪いわねぇ。」

と、孝は額に手を当て自分の相棒の悪賢さに呆れ 

鬼神おにのワタシよりも鬼ね。」

と、羽生は両腕を組みながらつぶやき 

「お前本当に良い性格しているよなぁ。」

と、弟弟子の強かさに快里はハァッとため息を吐いた。

「いやぁ~、それほどでも。」

と、照れくさそうに頭を掻く一樹に対し

「「「いや、褒め(とらんわ/てない/てねぇよ)!!!」」」

と三人は突っ込んだ。



その後、隊員二人は佐々王郷の住民や烏に襲われながらも必死に逃げ、心身ボロボロになりながらも鬼道衆本陣へと戻っていった。

              
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