捨てられた王妃は情熱王子に攫われて

きぬがやあきら

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ヴァルデリア

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「エミリア、戻ろう。次の目的地もある」

「あっ、ありがとうございました。あんた、お見送りしよう」

「これを、持ってってください。帰りに、召し上がって」

 メアリーが小脇に抱えた葡萄を2つ、房ごと持って追って来た。

「嬉しいわ。もっと食べたいと思っていたの。ありがとうございます」

 エミリアは、貴重な贈り物を受け取る。

 野次馬たちにも手を振って、二人は馬車に戻った。

「素晴らしいお土産を頂いたわね。陛下たちもきっとお喜びになるわ」

「エミリアが貰ったんだ。貴女が食べればいい。気に入ったんだろう?」

「こんなに美味しい葡萄ですもの、せっかくだから分かち合いたいの。でも、もう一つだけ、頂こうかしら」

 一粒をちぎって、果肉を齧る。

 先ほどと同じく、じゅわっと果汁が口いっぱいに広がった。

「ん~~」

 この豊潤さが堪らない。

 エミリアは喜びに浸って喉を震わせる。

「エドワード様も、召し上がるでしょう?」

 エドワードがじっとこちらに見入っているのに気付いて、もう一粒を差し出した。

 無言で口を開くので、車内に誰もいないと分かっていてもきょろきょろと周囲を見回す。

 いつまで経っても口を閉じないので、恐る恐る口元へ運んだ。

 吐息が掛かる気がして、エミリアの指先は震えた。

 この葡萄は粒が大きい。上手に食べてくれなければ、指先が唇に触れてしまう。

 指先が、熱い。

 エドワードの唇に、目が釘付けになる。

 身体の距離はそれなりにあるのに、心の距離が近づくような錯覚に陥る。

 薄くて形の良い唇は何故か妙に艶めかしいような……。

 色気まで感じるなんて、自分はおかしいのだろうか。しかし、この胸を締め付けるような衝動はなんだろう……?

 エミリアの瞳が揺れるのと同時に、果実はエドワードの口内に取り込まれた。

「あんまり恥ずかしがると、いけないことをしている気分になる」

「何を、仰るの」

 そっけない呟きにエミリアは慌てて、手を引いた。

 触れてみたかったような……妙な気分に陥った。

 エミリアはぼうっとしながら、胸を押さえた。

 こんな心地になるのはどうしてだろう?

 心が不安定な時に、エドワードと近くにい過ぎて、優しくされ過ぎて、頭が何かを誤解しているのではなかろうか。

(……胸が、苦しい)

 果樹園で食べさせてもらった葡萄は、皮が柔らかく種がなかった。

 でも、今食べたものには種が残っていたのかもしれない。種が、胸に詰まったのかも。

(そうよ、ただ、私が寂しいだけ。こんな気持ちはまやかしよ。もう、過ちはたくさんだわ)

 思い直して、エミリアはエドワードを見つめ返した。
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