サレカノでしたが、異世界召喚されて愛され妻になります〜子連れ王子はチートな魔術士と契約結婚をお望みです〜

きぬがやあきら

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史上最悪の修羅場

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 鈴森白音スズモリ シオン19歳は、恵まれているとは言えない生立ちながら、勤勉な性格だった。

 父親の浮気が原因で、母親は幼い妹と弟を連れて出て行った。

 ーー白音が高校へ行っている間に。

 つまり、白音は母に捨てられた。

 父は育児放棄まではせず、高校卒業まで一緒の家で生活した。

 ーーただし、浮気相手と一緒に。

 だから、卒業後は就職して、家を出た。

 印刷関連会社の事務員として働き、現在は社会人となって2年目の春を迎える。

 当然、父を恨んだ。多感な時期に継母未満の女性と過ごした2年は白音に深い傷を残した。

 そんな白音だから、男性に対する警戒心は人一倍大きい。

 生活だけで手一杯な点も手伝って、自立してからは仕事と家の往復を常としていた。

 ……が、今は違う。

 チャリン

 白音は黒のビジネスバッグから鍵を取り出しつつ、スチール製の階段を足音を立てて登る。

 安アパートの階段はカンカンと、硬質な音と年季を感じさせる軋みを響かせた。

 駅からやや離れ気味の住宅街なので、アパートの周辺は静かなものだ。

(よかった。予想よりずっと早く上がれたし、これならまだ、会えるかも。稲田さんまだ予定空いてるかな?)

 鍵の向きを持ち変えるついでに、腕時計を確認する。

 アナログ時計の針は14時13分を示していた。

 ”稲田”さん、は付き合って半年になる白音の恋人だ。

 職場に出入りする取引先の男性で、新人の白音を随分と気にかけてくれていた。

 男性不審気味だった白音の心に寄り添うように、いつも温かかく接してくれる。

 次第に心惹かれ、交際するまでに至った。

 今日も急遽、会社の都合で呼び出されてデートをキャンセルしたのに、メールでは優しく労りの言葉を返してくれた。

「やぁよ、こんなとこじゃ……」

 鍵を開けようとして、白音はビクリと身じろいだ。

 鼻に掛かるような甘ったるい女の声が、急に耳に飛び込んだからだ。

 慌てて見渡すが、周囲には誰もいない。

 築40年以上の古い建物だから、壁も薄い。

 どこかの部屋から聞こえたのだろうか?

 と首を傾げながらも、白音は鍵を構え直した。

 差し込もうとしたところで、再び動きを止める。

「いいだろ、萌香が入りたいって言ったんじゃないか。大丈夫だよ、仕事だから。戻るまでまだ充分間がある」

 今度は気のせいでは済まされない声音が、はっきりと聞こえたからだ。

(稲田さんーー!?)

 狼狽えて、鍵を取り落としそうになって、堪えた。

 部屋の中から聞こえたのは、恋人の稲田聡とそっくりな声だった。

 確かに聡は白音の部屋の鍵を持っている。

 けれど、そこにいるはずがない。

 だって、白音は「仕事が入ったから、今日は会えない」と伝えたのだから。

 それに、部屋にいる人の気配は、一人だけではない。

 空耳だろう、と気を取り直すものの、不安が拭えずもう一度耳を傾ける。
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