サレカノでしたが、異世界召喚されて愛され妻になります〜子連れ王子はチートな魔術士と契約結婚をお望みです〜

きぬがやあきら

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奥様は・・・な魔術師

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「凄いのね。読み切れるかしら。ヴァイスはこれを全部?」

「はい。魔術書は元より、歴史書や哲学書、薬学の専門書などあらゆるジャンルに精通されていらっしゃいます。坊っちゃまは2階の蔵書のほとんどを、10歳になられる前に読破されています」

「じ、10歳で、ここにある本を全部!?」

 ネンゲルやこの邸の使用人たちは、口を揃えてヴァイスを「天才」だと言う。

 それをシオンは今まで言葉上で理解していただけだった。

 思わず、1番手近にあった一冊に手を伸ばして頁を開く。

 そこに記されている夥しい文字の羅列と図版の数々に、シオンは総毛だった。

「坊っちゃまは他の追随を許さない魔術師です。しかし、その秀でた能力故に、この書庫で長らく孤独に過ごされておられました」

「孤独に?」

 シオンは本を閉じ、トラリオを見上げる。

 彼は主を慮って胸を痛めているようだった。

「坊っちゃま幼い頃に、その桁外れの魔力をよく暴走させていました。ですので誰もが坊っちゃまを恐れていたのです。魔術の師でさえも、ロクに近づかない有様でした。ご自身で制御できるようになってからも、坊っちゃまに教えられるような魔術師は存在しないので、ご自身で学ばれるしかなかったのです」

 10歳といえば小学4年生だ。

 目を瞑り、その頃のヴァイスを思い描いてみる。

 今のヴァイスから2回りくらい小さいだろう。

 銀髪にあどけない瞳をした少年が、この塔に閉じ籠り、魔術書と向き合うだけの日々を過ごしていた。

「それは、寂しかったでしょうね」

 シオンの言葉に、トラリオも頷く。

「坊っちゃまはそういったご自身の感情を口に出されません。私が初めてお会いした時にも、自分が怖いなら、無理に近づく必要はないと、仰いました。自分は1人でなんでもできるから心配いらないと。10歳にも満たない幼子がです。坊っちゃまは誰に希望を押し付けることもなさらないのです」

 トラリオの表情は、悲痛だった。

 シオンは何と返せば良いのか。言葉が見つからなかった。

「ですから奥様には感謝しています。坊っちゃまがあのように、ご自身のお気持ちを表現する姿を初めて見ました。坊っちゃまは長い時をお一人で過ごされたため、口下手な方ではありますが、奥様への並ならぬ愛情をひしひしと感じます。どうぞ、これからも末永くよろしくお願いいたします」

 ヴァイスの不可解ぶりの影に、そんな過去が隠されていたとは。

「私……私にできることなら」

 熱いものできらりと目を潤ませるトラリオに、シオンは頷いた。

 正直、ちょっと怯んだ。

 そんな人を支えていけるだろうか。

 だが、複雑な人だろうとは、初めからわかっていた。

「すみません、余計な話でしたね。そのように気負わずとも、奥様はそのままで。お近くにいてくださるだけで充分なのです」

 シオンの緊張を察して、トラリオが話題を切り上げた。

「では、ごゆっくりご覧ください。後ほどお茶をお持ちしますね」

「ええ、ありがとう。トラリオ」

 トラリオは一礼すると、階下に降りていった。

 ヴァイスの過去に関しする情報は少なからずシオンを動揺をもたらしたが、だからと言って今すぐに何かできる問題ではない。
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