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愛の証
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(ああもう、せっかく落ち着いたと思ったのに。それにしても、今日のヴァイス、どうしちゃったの)
綺麗だけど、何を考えているのか分からない。
それがヴァイスの一貫した印象だったのに。
今のヴァイスは柔らかな微笑みを浮かべて、シオンを優しく見つめている。
まるで、とてつもなく愛おしい、と態度に示されているようで、落ち着かない。
「飲み物も、お代わりください」
「そんなに気に入ったのか?」
「いや、何だか喉が渇いちゃって。暑いのかな」
照れ隠しに、手で顔をパタパタと扇ぐ。
今の時期のエルデガリアは春のように穏やかな陽気で、日暮後は気温も落ち着いている。
ちょっと無理がある言い訳かな? と案じたが、ヴァイスは疑いもせず頷いた。
「冷えた飲み物がよければ、エールがある」
「エール?」
「甘味が少ないが、アロラ山の雪解け水で冷やして飲むのが流行りの飲み物だ。遠征の打ち上げで騎士たちがよく飲む」
「へえ、美味しそう。じゃあそれを」
ヴァイスが給仕に指示すると、すぐにエールが運ばれてきた。
大ぶりのグラスに琥珀色の液体がなみなみと注がれている。
細かな泡がグラスの底から絶え間なく立ち上り、シュワシュワと音を立てている。
どんな味だろうと口をつけると、こちらはシャキッと目が覚めるような強炭酸だ。
ライムのような爽やかさに、ほんのりとした苦味がある。
飲んだ経験がないが、ビールみたいな物だろうか。
「この間は国境で魔物と戦ったのよね? そういう討伐って、頻繁にあるの?」
「ああ、魔物の出没は国境に限らない。この大陸ではどこにでも現れる。エルデガリアには巨大な結界が張られているが、たまに破られる。先日の夢魔のように」
こくりと、また一口エールを呷り、さりげない疑問を投げかける。
ヴァイスも世間話のように、気軽に答えてくれた。
ああ、あれ……。と、シオンは相槌を打つ。
深く思い出すと、胸が悪くなりそうなので、軽く回想するに留めた。
「聖殿はもっとも神聖力が満ちている場所だから、情報が公になれば国教会の威信にかかわる。実際の被害はほとんどないから、数名が口を噤めば問題ない。陣の構成を一部修正したから、当分は大丈夫だ」
「もう修正案を提出したの。いつの間に」
「午前のうちに済ませて来た。結界が緩んだままでは、兄上たちも落ち着かないだろう」
神出鬼没なヴァイスだから、その気になればいつだってシュニー領と王都を行き来できる。
「またいつ魔物が現れると知れないと、不安だものね。いつも難なくこなしているけれど、皆んなが安心して暮らせるのはヴァイスのお陰ね。ありがとう」
にこっ、とこの時ばかりは素直な微笑みが溢れる。
「あと……、つかぬことを聞くけど、殿下とは会った?」
「会った」
「どんな、様子だった? 何か聞いた? あの後どうなったとか」
シオンは窺うようにヴァイスを上目づかいに見た。なにせ質問の内容は繊細だ。
トラリオたちの目もある。
ヴァイスはシオンのグラスに、またお代わりを注いでから答えた。
綺麗だけど、何を考えているのか分からない。
それがヴァイスの一貫した印象だったのに。
今のヴァイスは柔らかな微笑みを浮かべて、シオンを優しく見つめている。
まるで、とてつもなく愛おしい、と態度に示されているようで、落ち着かない。
「飲み物も、お代わりください」
「そんなに気に入ったのか?」
「いや、何だか喉が渇いちゃって。暑いのかな」
照れ隠しに、手で顔をパタパタと扇ぐ。
今の時期のエルデガリアは春のように穏やかな陽気で、日暮後は気温も落ち着いている。
ちょっと無理がある言い訳かな? と案じたが、ヴァイスは疑いもせず頷いた。
「冷えた飲み物がよければ、エールがある」
「エール?」
「甘味が少ないが、アロラ山の雪解け水で冷やして飲むのが流行りの飲み物だ。遠征の打ち上げで騎士たちがよく飲む」
「へえ、美味しそう。じゃあそれを」
ヴァイスが給仕に指示すると、すぐにエールが運ばれてきた。
大ぶりのグラスに琥珀色の液体がなみなみと注がれている。
細かな泡がグラスの底から絶え間なく立ち上り、シュワシュワと音を立てている。
どんな味だろうと口をつけると、こちらはシャキッと目が覚めるような強炭酸だ。
ライムのような爽やかさに、ほんのりとした苦味がある。
飲んだ経験がないが、ビールみたいな物だろうか。
「この間は国境で魔物と戦ったのよね? そういう討伐って、頻繁にあるの?」
「ああ、魔物の出没は国境に限らない。この大陸ではどこにでも現れる。エルデガリアには巨大な結界が張られているが、たまに破られる。先日の夢魔のように」
こくりと、また一口エールを呷り、さりげない疑問を投げかける。
ヴァイスも世間話のように、気軽に答えてくれた。
ああ、あれ……。と、シオンは相槌を打つ。
深く思い出すと、胸が悪くなりそうなので、軽く回想するに留めた。
「聖殿はもっとも神聖力が満ちている場所だから、情報が公になれば国教会の威信にかかわる。実際の被害はほとんどないから、数名が口を噤めば問題ない。陣の構成を一部修正したから、当分は大丈夫だ」
「もう修正案を提出したの。いつの間に」
「午前のうちに済ませて来た。結界が緩んだままでは、兄上たちも落ち着かないだろう」
神出鬼没なヴァイスだから、その気になればいつだってシュニー領と王都を行き来できる。
「またいつ魔物が現れると知れないと、不安だものね。いつも難なくこなしているけれど、皆んなが安心して暮らせるのはヴァイスのお陰ね。ありがとう」
にこっ、とこの時ばかりは素直な微笑みが溢れる。
「あと……、つかぬことを聞くけど、殿下とは会った?」
「会った」
「どんな、様子だった? 何か聞いた? あの後どうなったとか」
シオンは窺うようにヴァイスを上目づかいに見た。なにせ質問の内容は繊細だ。
トラリオたちの目もある。
ヴァイスはシオンのグラスに、またお代わりを注いでから答えた。
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