「私に愛まで望むとは、強欲な女め」と罵られたレオノール妃の白い結婚

きぬがやあきら

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アルヴァロ王子の視線・クラウディオ視点

 夜着で出歩き、自分で狩った獲物を野で調理するような女だ。

 途方もない時間がかかるか、途中で嫌気が差して投げ出すやもしれぬとさえ想像した。

 それが、この短期間であそこまで変貌を遂げるものなのか。

(……違う。これまでが酷かったせいだ。断じて、この俺が)

 あり得ないと、胸中で頭を振る。

 この女に目を奪われるなど、たった一瞬でもあってはならない。

 だが事実、息を呑むほどに魅入った瞬間があった。

 そんな自分が許し難く、また恐ろしくもあった。

 気を許してはいけない。

 ほだされてもいけない。

 この女は、俺が今まで築いてきた全ての根幹を、揺るがそうとしているのだから。

 祝宴の席に現れたレオノールは、趣の異なるドレスを纏っていた。

 夜の雰囲気に合わせたワインカラーのドレスだ。

 銀のレースが豪奢にあしらわれ、光を浴びると深紅が体のラインに沿って柔らかく揺らめく。

 リュシエンナの采配だろうが、服の選定も感性も申し分ない。

 レオノールは強靱な身体にしなやかさを兼ね備え、女性としての自信に満ちている。

 あまり見ていれば、またいつ目が合うか分からない。

 そう考えて視線を落とせば、緩く巻き上げた髪から首元が視界に入る。

 そのまま何とはなしに、うなじに流れる一筋の赤毛を目で追えば、クラウディオの鼓動は否応にも早まった。

(まったく、どうかしている……俺も、あの男も)

 乾杯の音頭とともに酒を一口含み、グラスを置くと、正面へ視線を戻す。

 そこにいるのは、アルヴァロ・イバニェス。

 ノーキエ王国の第二王子だ。

 言葉にし難い違和感を覚え、クラウディオは眉根を寄せた。

 アルヴァロは杯を傾けながら、時折レオノールに視線を送る。

 その視線の意味を理解できないわけがない。

 レオノールがいかに魅力的に変貌したかは、すでに謁見の間で明らかだった。

 アルヴァロの態度はあけすけで、レオノールへの興味を隠そうともしない。

 しかし、それも無理はない。

 南方のノーキエと北方のエルグランは気候も文化も異なり、互いに未知の部分が多く存在する。

 特にノーキエでは女神信仰の影響で女性の地位が高く、時には崇拝の対象にもなる。

 男尊女卑の強いエルグランとは真逆といっていい。

 ノーキエ人は基本的に情熱的で開放的だ。

 そんな彼らが、魔王討伐の英雄にして“赤獅子”の名を持つレオノールに興味を抱かないはずがなかった。

 しかし、アルヴァロの視線はまた、露骨だ。

 一国の王太子妃ーー人妻へ向ける、一般的な熱量ではない。

 しばらくじっとアルヴァロを観察する。

 すると、クラウディオに気づいたアルヴァロはニコリと人好きのする笑みを浮かべ、盃を手に立ち上がった。

「王太子殿下、妃殿下。この度は盛大な宴を催してくださり、ありがとうございます」

 流れるような動作でこちらへと歩み寄って来た。

「宴を設けた主催はエルグラン国王陛下です。礼ならばまず先に、陛下へ申し上げるべきでは?」

「そうですね。ですが、クラウディオ殿下から熱心な視線を感じまして、お先に参りました。仰る通り、陛下がたにご挨拶してからまた戻ります」

 アルヴァロは屈託のない笑みを浮かべ、さっさと国王たちのもとへ行く。

 クラウディオは軽く咳払いをし、姿勢を正した。

「アルヴァロ王子を見ていたのですか?」

 何故アルヴァロを見ていたのか、こちらの意図など知りもしないでレオノールは問いかけてくる。

 その声音からは純粋な疑問しか読み取れず、呑気さに胸がざわつく。

 内心、舌打ちしたい気分だ。
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