「私に愛まで望むとは、強欲な女め」と罵られたレオノール妃の白い結婚

きぬがやあきら

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アルヴァロ王子の視線・クラウディオ視点

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(まさか……気づいていないのか?)

 そりゃあ、男の目など気にしたことはないだろう。

 以前は野を駆け、怪物と戦う勇者だったのだから。

 苛立ち混じりの吐息がこぼれ落ちる。

「お疲れでないか気になっただけだ。アルヴァロ王子はノーキエから遠路遥々いらしたのだから」

 それだけ言って視線を逸らすと、レオノールは困ったようにやや眉根を寄せて、それでも何事か言いたげにこちらを見ていた。

 多分、俺からの一言を待っている。

 よくやった、とか、見違えたとか、そういった変化に対する言葉を。

 クラウディオもレオノールの変貌には驚かされたし、リュシエンナからの報告も受けていた。

 並ならぬ努力の賜物だと理解はしているのだが、待たれていると思うと……

 視線の矢先をどこに持っていくべきかと悩んでいたら、アルヴァロが杯を片手に、朗らかな笑みを浮かべたまま戻ってきた。

 そのまま当然のように、レオノールとクラウディオの間に腰を下ろそうとする。

「なあそこの君、ここに私の席を用意してくれ。殿下らと語り合いたいんだ」

 アルヴァロが近くの侍従に声をかけると、侍従は戸惑いながらも椅子を運んでくる。

 用意された席を移動するような風習はエルグランにはない。だが、同盟国の王子を無下にできない。

 黙っていると、レオノールが”任せて”といった風に目を輝かせた。

 少しだけ、嫌な予感がする。

「妃殿下。少しお時間を頂いてもよろしいでしょうか。ノーキエに伝わる舞踊のことなど、ぜひお聞かせしたいと――」

「それは奇遇ですね、ちょうどクラウディオ様が、アルヴァロ王子とぜひお話ししたいと仰っていたのです」

 隣で見守っていたクラウディオは、思わず杯を置く手を強ばらせる。

 そんなことは一言も言っていない。

 しかし、場にいた者は皆レオノールの言葉を真に受けたように、自然と二人へ視線を向ける。

(まあ、醜聞の元など断つに限る。悪くない判断だ)

 どのような経緯であれ、レオノールはクラウディオの妻だ。

 他国の王子が必要以上の興味を抱いているとなれば大きな問題だ。

「それは光栄です。私もクラウディオ殿下と友好の盃を交わしたく存じます。ぜひ、一献」

 給仕がワインを注ぎ、盃を合わせる音が高らかに鳴った。

「両国の末長い友好と繁栄を願って」

 クラウディオは平静を装い、アルヴァロと盃を交わす。

 その響きに、周囲の廷臣たちは満足げにうなずいた。

 いよいよその場は和んで、使節団と同席中のエルグラン貴族との間にも、会話が生まれ始めた。

「実に香り高い葡萄酒ですね。エルグランの土壌は寒冷と聞いていましたが、この芳醇さは驚きです」

「ノーキエと比べれば寒冷かもしれませんが、北国ほどではありません。ノーキエではどのような酒が好まれるのですか」

 クラウディオもホストの一員だ。

 模範となるべく舵を取って、客人をもてなす。

「我がノーキエでは、もっと南国らしい強い酒が主流ですね。陽気に歌い踊り、酔いつぶれるまで――などというのが常です。本日の献上品としてお持ちしなかったのが悔やまれますが、後日お送りいたしますよ。我が国自慢の、特別に強い酒を」

 だが、さほど経たぬうちに、アルヴァロが動きを見せた。

 陽気な笑顔の奥で、琥珀色の瞳がきらりと光る。

 さりげなさを装って、レオノールに水を向けた。

「妃殿下はお酒はどうです? 見たところお強そうですが」
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