「私に愛まで望むとは、強欲な女め」と罵られたレオノール妃の白い結婚

きぬがやあきら

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夫の寝室

 レオノールの寝室とほぼ同じで、家具の位置を反転しただけの間取りだった。

 しかし、月明かりが差し込む窓にかかるカーテンは無地で飾り気はない。

 色味もシックに統一されているせいか、やや厳かな印象を与える。

 机と椅子が一組と、ソファセットがあり、机のほうには厚めの本が3冊重ねられている。

(ここが、クラウディオ様の部屋……何だか良い匂いがする。あの本は、寝しなに読んでいるやつかな)

 男性の部屋に入るのは初めてでもないのに、クラウディオのプライベートな空間だと思うだけで妙な興奮を覚えてしまう。

(くっ、こういうところが淑女らしくないのよね。ダメ、落ち着いて、レオノール)

 机の手前に配置されたソファセットのテーブルには、揃いのグラスと飲み物のボトルが置かれていた。

 ナッツを盛った小皿もある。

 落ち着きなく、しかし挙動不審にならない程度に部屋を見回していると「そこへ」と促された。

 ソファに座れという意味だ。

 言われるがままソファへ腰を下ろす。

「クラウディオ様、これは」

「待て、俺がやる」

 どうするべきだろうと尋ねると、クラウディオは渋面を浮かべながら隣に腰を下ろした。

 距離の近さに、ギョッとしつつも胸が高鳴る。

「皇后陛下から、其方を労えと頂いたものだ。今日は、よくやってくれた」

 そう言いながらクラウディオはグラスに液体を注いでレオノールの前に置いた。

「まあ。するとこれは、乾杯ですか。お疲れさま的な?」

「そう受け取ってくれて構わない」

 戸惑いながらもグラスを手に取ると、クラウディオも軽くグラスを持ち上げた。

 カチン、と小さく音が鳴り、薄暗い室内にガラスの澄んだ音が響く。

 邪な予想が外れて残念な部分もあったが、クラウディオが労ってくれるなんて、まさかのサプライズ! だ。

 皇后陛下は何て粋な計らいをしてくれるんだろう。

「ありがとうございます。とっても嬉しいです」

 唐突に降って湧いたボーナスタイムに、レオノールは満面の笑みを浮かべた。

 眠気も疲れも、一瞬で吹っ飛んでしまった。

「皇后陛下にもお気遣い頂いて、こんなにも素敵なものを頂くなんて……本当に嬉しく思います。クラウディオ様と一緒に過ごせる時間も」

 そういえば謁見の間で、皇后陛下は仰っていた。


 ”努力を惜しまなかった者には相応の報いがあるものですよ”と。


 そのように褒める気持ちと、実際に行動に移してくれることとは別物だ。

 気が進まなくても労いに来てくれたクラウディオと、その両方がありがたくって胸が熱くなる。

 クラウディオは母親に言いつかった経緯が後ろめたいのか「そうか」とだけつぶやいた。

「頂きます」

 感激しながら軽くグラスを上げて、蜂蜜色の液体を傾ける。

 ひと口含むと、甘くて優しい芳香が鼻腔に広がり喉を通った。

 林檎の甘酸っぱい果実感、その後に焼けつくほどに甘ったるい香りと味が追いかけてくるーー

(ん? これ……)

 ごくん。

 異変に気付いた時にはもう、飲み下していた。
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