「私に愛まで望むとは、強欲な女め」と罵られたレオノール妃の白い結婚

きぬがやあきら

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デート/クラウディオ視点

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 今回のお忍びに、クラウディオは2つの目的を持っていた。

 一つは純粋に、レオノールの望みを叶えること。

 婚姻の儀式からずっと、レオノールには不本意な生活を強いてきた。

 今回の療養生活こそレオノールを守るためのものだが、それ以外はクラウディオのエゴだった。

 魔獣を退け、アルヴァロを救ってくれた行為は国益そのものだし、讃えられるべきものだ。

 それで充分だとは思わないが、多少の無理をしても速やかに叶えてやりたかった。

 それと時間を共有し、少しでもレオノールを理解したい。

 それがもう一つの願望だった。

「朝露を吸った土の匂い、清々しいですね!」

 マントを靡かせながら傍らでレオノールが歌うように言った。

 うっすらと東の空から漏れる陽光を頼りに馬車道を下っていると、やがて夜がほどける。

 城下に降りるまで、レオノールは馬車を使わず徒歩で行きたがった。

 その辺りも彼女らしさなのだろう。

 藍に蜜柑色を一筋塗ったばかりの空は次第に白み、街道に出る頃には王都が目を覚まし始めた。

 朝露を吸ってしっとり湿った石畳を、最初の車輪がコトリと音を刻んで進む。

 開門の時刻だ。

 色とりどりの花を積んだ荷車、野菜を詰めた木箱の荷馬車が次々と運び込まれる。

 鐘楼が六つの打刻で朝を告げると、街は一段階、音量を上げた。

「……ん~いい匂い。焼きたてのパンだぁ」

 レオノールが鼻をひくつかせる。

 路地の奥の窯場から、焼きたての小麦がふくらむ甘い蒸気が流れてくる。

 裸足の少年が板に並んだブールを抱えて通りすぎ、「朝一番だよ!」と叫ぶ。

 別の並びからは、魚屋の鋭い包丁が骨を断つ乾いた音、薪をくべるパチパチ、搾りたてのミルクを金属缶に注ぐ澄んだ音が立て続けに響く。

「パンなら城の厨房でも焼いているが、さっそく腹ごしらえをするか?」

「嫌だなぁ、市場の匂いって独特じゃないですか。屋根の無いところですぐに焼くからかな? この空気感に浸るのが楽しいんです」

 言葉通り、レオノールは門を潜った瞬間から、空気そのものを味わうように大きく深呼吸していた。

 歩幅はゆったりしているが、両の眼は左右に忙しなく動いている。

 まるで初めて街を見た子どものように、何の品物にも興味津々だ。

「懐かしいか」

「んん、根が庶民なんですかね。朝市ってテンション上がるっていうか。……やっぱり、ちょっとお腹に何か入れません? 先ずはミルクとパンで」

 空気感がどうたらと講釈を述べておきながら、掌を返したレオノールにクラウディオは失笑した。

 衒いのない素直さは心地よい。

「いいだろう。少し待っていろ」

 クラウディオは指示を出すと匂いの発信源であるパン屋の軒先、ミルクの屋台を巡って必要な品を買った。

 袋を2つ持ちつつ颯爽と戻ると、レオノールが興奮気味に飛び跳ねる。

「どうした?」

「クラウディオ様ったら、流石! 王子様みたい。カッコいい」

「何がだ。おかしな台詞を」

 買い物をしただけでキラキラしい目を向けられて、クラウディオは狼狽する。

 王子様みたいって、本物の王子なのだから訳のわからん形容だ。
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