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デート/クラウディオ視点
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(ぐっ、な……!)
そのせいでクラウディオも一気に耳まで熱くなる。
見ていられなくて、視線を落とした。
突然の熱烈な反応はクラウディオの心臓の動きを著しく乱す。
慌てて誤魔化すように手のひらで口元を覆った。
(自分で言っておいて、何故赤面する!?)
実のところ、先に赤面したタイミングはクラウディオのほうが先だった。
だが、体感は曖昧なものだ。
レオノールのせいで、釣られてこうなったに決まっている。
「……だとしたら嬉しいです。ありがとうございます」
先に落ち着きを取り戻したのはレオノールだ。
この「ありがとう」は何に対しての礼だろう。
この場を、デートの機会を設けたことへ対してか?
そうなると、クラウディオがレオノールをデートに誘ったのも同じになる。
(そうじゃない、デートとは。俺は、そこまで……)
クラウディオは自分に言い聞かせる。
今日、2人で出かけたのは、レオノールの働きを労うためだ。
彼女に護衛は必要ない、けれど立場的に1人では行かせられない。
だからクラウディオが同行すればちょうど良いと考えた。
今までレオノールを避けてきたし、少しでも歩み寄る姿勢を見せられればいい。
それくらいの気持ちだ。
頭の中では言い訳がぐるぐると、いくらでも湧いてくるが、所詮は自分の脳内だ。
白々しく感じられて、堂々と吐き出せない。
しかし、王子たる自分が口ごもるなど見苦しくて、短く「ああ」とだけ返した。
「あっ、美味しい。このパン絶品ですよ。クラウディオ様も食べてみてください」
結局肯定する形になってクラウディオは、ますます落ち着かなくなった。なので、話題の転換はありがたい。
パンの味わいについてレオノールが称賛し、クラウディオに勧めるので話題に便乗を決めた。
ホッとひと息ついてクラウディオはパンに歯を立てる。
「……本当だ」
焼きたてのパンは小麦の旨みがギュッと凝縮されている。
柔らかい生地にはバターを贅沢に使用しており、甘い香りが鼻から抜ける。
外側の焼き目はしっかり固めで、内側との対比が絶妙だ。
「ミルクと相性抜群ですね! いくらでも食べられそう♡」
「そう焦るな。朝市は始まったばかりだ」
ぱくぱくと一心に頬張るレオノールにクラウディオが助言をすると、レオノールはうきうきと口を開いた。
「それもそうですね。じゃあ次は何をしましょうか」
パンを食べ終えたレオノールが、少年のような好奇心に満ちた目で周囲を見回した。
通りには出店がずらりと並び、彩りの布屋根の下で商人たちが声を張り上げている。
香辛料の匂い、焼いた肉の煙、花売りの甘い香りが入り混じる。
「今日は君のしたいことをさせたくてついて来たんだ。……俺に、教えてくれ。君が何を好むのか」
自分の与り知らぬところで、うっかり本音が透けやしないか。
伝わっても差し支えない部分を上手く選り出して、クラウディオは精一杯の想いを口にした。
大丈夫。互いを理解し合いたい気持ちは、先ほどすでに共有している。
違和感はないはずだ。
不思議そうな顔をするレオノールの肌は、朝日を浴びて健康的な輝きを放っている。
長さはなくともくっきりと目元を縁取る赤みを帯びたまつ毛は、微風に揺れてか弱い蝶のように舞った。
クラウディオは釘付けになりそうな目を、意志の力で引き剥がしながら、平常を装う。
……隠したところで意味もないと知りつつ、それでもどうにか秘めておきたい。
「じゃあ、遠慮なく……言っていいのかな。途中でクラウディオ様の気になる場所があったら止めてくださいね」
矛盾を孕んだ心を抱えていると、レオノールは含み笑いをしながら立ち上がった。
そのせいでクラウディオも一気に耳まで熱くなる。
見ていられなくて、視線を落とした。
突然の熱烈な反応はクラウディオの心臓の動きを著しく乱す。
慌てて誤魔化すように手のひらで口元を覆った。
(自分で言っておいて、何故赤面する!?)
実のところ、先に赤面したタイミングはクラウディオのほうが先だった。
だが、体感は曖昧なものだ。
レオノールのせいで、釣られてこうなったに決まっている。
「……だとしたら嬉しいです。ありがとうございます」
先に落ち着きを取り戻したのはレオノールだ。
この「ありがとう」は何に対しての礼だろう。
この場を、デートの機会を設けたことへ対してか?
そうなると、クラウディオがレオノールをデートに誘ったのも同じになる。
(そうじゃない、デートとは。俺は、そこまで……)
クラウディオは自分に言い聞かせる。
今日、2人で出かけたのは、レオノールの働きを労うためだ。
彼女に護衛は必要ない、けれど立場的に1人では行かせられない。
だからクラウディオが同行すればちょうど良いと考えた。
今までレオノールを避けてきたし、少しでも歩み寄る姿勢を見せられればいい。
それくらいの気持ちだ。
頭の中では言い訳がぐるぐると、いくらでも湧いてくるが、所詮は自分の脳内だ。
白々しく感じられて、堂々と吐き出せない。
しかし、王子たる自分が口ごもるなど見苦しくて、短く「ああ」とだけ返した。
「あっ、美味しい。このパン絶品ですよ。クラウディオ様も食べてみてください」
結局肯定する形になってクラウディオは、ますます落ち着かなくなった。なので、話題の転換はありがたい。
パンの味わいについてレオノールが称賛し、クラウディオに勧めるので話題に便乗を決めた。
ホッとひと息ついてクラウディオはパンに歯を立てる。
「……本当だ」
焼きたてのパンは小麦の旨みがギュッと凝縮されている。
柔らかい生地にはバターを贅沢に使用しており、甘い香りが鼻から抜ける。
外側の焼き目はしっかり固めで、内側との対比が絶妙だ。
「ミルクと相性抜群ですね! いくらでも食べられそう♡」
「そう焦るな。朝市は始まったばかりだ」
ぱくぱくと一心に頬張るレオノールにクラウディオが助言をすると、レオノールはうきうきと口を開いた。
「それもそうですね。じゃあ次は何をしましょうか」
パンを食べ終えたレオノールが、少年のような好奇心に満ちた目で周囲を見回した。
通りには出店がずらりと並び、彩りの布屋根の下で商人たちが声を張り上げている。
香辛料の匂い、焼いた肉の煙、花売りの甘い香りが入り混じる。
「今日は君のしたいことをさせたくてついて来たんだ。……俺に、教えてくれ。君が何を好むのか」
自分の与り知らぬところで、うっかり本音が透けやしないか。
伝わっても差し支えない部分を上手く選り出して、クラウディオは精一杯の想いを口にした。
大丈夫。互いを理解し合いたい気持ちは、先ほどすでに共有している。
違和感はないはずだ。
不思議そうな顔をするレオノールの肌は、朝日を浴びて健康的な輝きを放っている。
長さはなくともくっきりと目元を縁取る赤みを帯びたまつ毛は、微風に揺れてか弱い蝶のように舞った。
クラウディオは釘付けになりそうな目を、意志の力で引き剥がしながら、平常を装う。
……隠したところで意味もないと知りつつ、それでもどうにか秘めておきたい。
「じゃあ、遠慮なく……言っていいのかな。途中でクラウディオ様の気になる場所があったら止めてくださいね」
矛盾を孕んだ心を抱えていると、レオノールは含み笑いをしながら立ち上がった。
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