「私に愛まで望むとは、強欲な女め」と罵られたレオノール妃の白い結婚

きぬがやあきら

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恋の足音

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 どこで、何を間違えた?

 己の呼吸音がうるさくて、嬉しいのか悔しいのかも判断できない。

「スピードだけが勝負の決め手ではない。馬の体力に、リズム、地形も考慮して戦略を立てる」

 レオノールの心中を知ってか、馬の歩法を常歩なみあしまで落として、クラウディオは振り返る。

 レオノールの馬も、それに倣って足を緩める。

 クラウディオは勝敗の決め手を解説してくれているらしい。

 思考がまとまらず、どこかモヤモヤする。

 だが、勝負を挑んだのはレオノールだ。
 潔く負けを認めなければならない。

 賞賛の言葉をかけようと顔を上げる。

 と——

「俺の勝ちだな」

 クラウディオは誇らしげに微笑んだかと思った。

 だが実際には顔をくしゃりと歪めて無邪気に笑っていた。

 目尻が少し下がり、頬が弛んで見える。

 クラウディオの嬉しそうな顔が目に入った瞬間。

 レオノールの全ての思考は吹き飛んだ。

(わらっ、た——?)



 ズキューーン



 本来聞こえるはずのない音が、鼓膜を震わせ、レオノールの胸を貫いた。

 氷の彫像とも呼ばれたクラウディオが、歯を見せて笑っている。

 まさかの敗北は、確かにレオノールに打撃を与えた。

 しかし、それだけでない何かが、レオノールの頭のてっぺんから爪先までをしびれさせた。

 クラウディオを初めて見た時には、何と美しく、完璧な美貌だろうと惚れ惚れした。

 堂々たる振る舞いに、この人が欲しいと思ったあの日よりも遥かに淡い。

 柔らかくて甘やかな感情にレオノールは絡め取られていた。

 心臓よりもっと奥の、秘められた場所を羽毛で撫でられたように、しびれて動けない。

 レオノールはこの日初めて、正真正銘の恋に落ちていた。



 ***



 レオノールは、馬上で呆然としたまま固まっていた。

 頬を撫でる風が止まって見えるほど、鼓動だけが大きく響いている。

(どうしよう……心臓が、痛い)

 敗北のせいじゃない。

 クラウディオが笑った――ただ、それだけで。

 勝負は終わったのに、呼吸が落ち着かない。

 馬から降りようとして、鐙を外す動作すらぎこちなくなっていた。

 いつもなら軽やかに跳ね降りるのに、今は身体が鉛のように重い。

 クラウディオは勝利の余韻に浸ることもなく、手綱を整えながら湖面を見ていた。

 その背にはどこか、晴れやかさが宿っている。

 勝った喜びだけではない。

 彼の中で何かが報われたような、ほっとした息の色が混じっていた。

「クラウディオ様、馬……繋ぎましょうか」

(あれ……どうなっちゃったの、私。身体がいうことを聞かない)

 できるだけ平静を装って声をかけ、背を向けた。
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