107 / 166
人質と引き換えに
4
鏡は騎士たちだけを映したまま、アルヴァロの声だけが要求を告げる。
「ただし共は連れず、お前一人で来るのだ。期限は3日後の日没までだ」
「ノンストップで大人が5日かける道のりを3日でって、随分と横暴ね」
何て言い草なの。それにとうとう呼び捨てにしやがった、この男。
レオノールは胸中で毒づいた。
「それは交渉に時間をかけすぎた王太子の責任さ。駆けつけても時すでに遅く、衰弱死した後では忍びないだろう」
アルヴァロの嘲笑めいた声音に、レオノールは強く拳を握りしめた。
「わかったわよ。迎えに行って、アンタもお国の連中もブッ飛ばせばいいんでしょ!」
レオノールは即答する。
「駄目だ、レオノール! 挑発に乗るな」
「クラウディオ様、悩んでいる時間がないわ。すぐにでも出発しないと」
咄嗟にクラウディオが遮った。
アルヴァロだか、アルヴァロだった生き物か何かに、理屈に合わない交渉を持ち掛けられた。
しかし、彼の存在も目的も、吟味する時間がない。
「……少しでも急ぐことだな。約束の時間に間に合わなければ、彼らの命はない。そなたの到着を心待ちにしているぞ、レオノール」
再びパチンと指の鳴る音が響くと、フッと映像が掻き消えて鏡面は元に戻った。
蝋燭の灯りを写すだけの、無機質な反射面に戻る。
室内は静まり返った。
窓を叩く音も、床を這う影もない。
嵐が去ったことを示すように、蝋燭の火が静かに揺れる。
「アイツ、言いたいことだけ言って……!」
「待つんだレオノール。あいつの目的は君だ」
唸り、踵を返したレオノールの腕をクラウディオが取る。
確かにアルヴァロの発言に思うところはあった。
人質をとってレオノールを誘き出そうとするのだから、何がしかの狙いがあるのだろう。
だが、行かない選択肢はない。
囚われている騎士たちは憔悴しきっていた。
負傷している者もいる。
「そうです。だから尚更、私自身が行くしかない」
レオノールはうなずいた。それで話は終わりだと言うように、掴まれた腕を払って歩き出す。
「レオノール!」
クラウディオの大きな手が、もう一度、今度は腕を捕まえ損ねて、肩を抱いた。
その必死さに、足を止める。
「クラウディオ様が、私を庇って交渉してくれていたのは嬉しいです。でも、みんなの命がかかってるんだから止めてください。私をどうするつもりか知りませんけど、私は負けません。みんなを解放してもらったら、あのインチキ男をぶっ飛ばして帰ってきます。ノーキエの連中がとやかく言ったらそいつらも殴ります。クラウディオ様はその後の心配をしておいてください」
軽く殴っても普通の人間なら粉砕骨折だ。
魔物を最短で倒す前提で戦いを続けてきたレオノールには、手加減が難しい。
死人を出すつもりはないが、大怪我を負わせる可能性は高い。
肩に回された腕をポンポンと叩いて解放を促すが、クラウディオは動かない。
クラウディオは眉根を寄せ、悲壮な顔をした。
「俺がお前に隠していた情報のせいで、ノーキエへの対応が遅れたことについては謝罪しよう。だが、だからといって一人で行かせるわけにはいかない」
「ただし共は連れず、お前一人で来るのだ。期限は3日後の日没までだ」
「ノンストップで大人が5日かける道のりを3日でって、随分と横暴ね」
何て言い草なの。それにとうとう呼び捨てにしやがった、この男。
レオノールは胸中で毒づいた。
「それは交渉に時間をかけすぎた王太子の責任さ。駆けつけても時すでに遅く、衰弱死した後では忍びないだろう」
アルヴァロの嘲笑めいた声音に、レオノールは強く拳を握りしめた。
「わかったわよ。迎えに行って、アンタもお国の連中もブッ飛ばせばいいんでしょ!」
レオノールは即答する。
「駄目だ、レオノール! 挑発に乗るな」
「クラウディオ様、悩んでいる時間がないわ。すぐにでも出発しないと」
咄嗟にクラウディオが遮った。
アルヴァロだか、アルヴァロだった生き物か何かに、理屈に合わない交渉を持ち掛けられた。
しかし、彼の存在も目的も、吟味する時間がない。
「……少しでも急ぐことだな。約束の時間に間に合わなければ、彼らの命はない。そなたの到着を心待ちにしているぞ、レオノール」
再びパチンと指の鳴る音が響くと、フッと映像が掻き消えて鏡面は元に戻った。
蝋燭の灯りを写すだけの、無機質な反射面に戻る。
室内は静まり返った。
窓を叩く音も、床を這う影もない。
嵐が去ったことを示すように、蝋燭の火が静かに揺れる。
「アイツ、言いたいことだけ言って……!」
「待つんだレオノール。あいつの目的は君だ」
唸り、踵を返したレオノールの腕をクラウディオが取る。
確かにアルヴァロの発言に思うところはあった。
人質をとってレオノールを誘き出そうとするのだから、何がしかの狙いがあるのだろう。
だが、行かない選択肢はない。
囚われている騎士たちは憔悴しきっていた。
負傷している者もいる。
「そうです。だから尚更、私自身が行くしかない」
レオノールはうなずいた。それで話は終わりだと言うように、掴まれた腕を払って歩き出す。
「レオノール!」
クラウディオの大きな手が、もう一度、今度は腕を捕まえ損ねて、肩を抱いた。
その必死さに、足を止める。
「クラウディオ様が、私を庇って交渉してくれていたのは嬉しいです。でも、みんなの命がかかってるんだから止めてください。私をどうするつもりか知りませんけど、私は負けません。みんなを解放してもらったら、あのインチキ男をぶっ飛ばして帰ってきます。ノーキエの連中がとやかく言ったらそいつらも殴ります。クラウディオ様はその後の心配をしておいてください」
軽く殴っても普通の人間なら粉砕骨折だ。
魔物を最短で倒す前提で戦いを続けてきたレオノールには、手加減が難しい。
死人を出すつもりはないが、大怪我を負わせる可能性は高い。
肩に回された腕をポンポンと叩いて解放を促すが、クラウディオは動かない。
クラウディオは眉根を寄せ、悲壮な顔をした。
「俺がお前に隠していた情報のせいで、ノーキエへの対応が遅れたことについては謝罪しよう。だが、だからといって一人で行かせるわけにはいかない」
あなたにおすすめの小説
【完結】私を裏切った不倫夫に「どなたですか?」と微笑むまで 〜没落令嬢の復讐劇〜
恋せよ恋
恋愛
「早くあんな女と別れて、可愛い子と一緒になりたいよ」
不倫中の夫が笑う声を聞き、絶望の中で事故に遭うジェシカ。
結婚五年目に授かったお腹の子を失った彼女は、
「記憶を失ったフリ」で夫と地獄の婚家を捨てることを決意。
元男爵令嬢の薄幸ヒロインは、修道院で静かに時を過ごす。
独り身領主の三歳の男の子に懐かれ、なぜか領主まで登場!
無実の罪をなすりつけ、私を使い潰した報いを受けなさい。
記憶喪失を装った没落令嬢による、「ざまぁ」が幕を開ける!
※本作品には、馬車事故による流産の描写が含まれます。
苦手な方はご注意ください。主人公が絶対に幸せになる
物語ですので、安心してお読みいただければ幸いです。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!
婚約者は妹のような幼馴染みを何より大切にしているので、お飾り妻予定な令嬢は幸せになることを諦めた……はずでした。
待鳥園子
恋愛
伯爵令嬢アイリーンの婚約者であるセシルの隣には『妹のような幼馴染み』愛らしい容姿のデイジーが居て、身分差で結婚出来ない二人が結ばれるためのお飾り妻にされてしまうことが耐えられなかった。
そして、二人がふざけて婚姻届を書いている光景を見て、アイリーンは自分の我慢が限界に達そうとしているのを感じていた……のだけど!?
〈完結〉【書籍化&コミカライズ】悪妃は余暇を楽しむ
ごろごろみかん。
恋愛
「こちら、離縁届です。私と、離縁してくださいませ、陛下」
ある日、悪妃と名高いクレメンティーナが夫に渡したのは、離縁届だった。彼女はにっこりと笑って言う。
「先日、あなた方の真実の愛を拝見させていただきまして……有難いことに目が覚めましたわ。ですので、王妃、やめさせていただこうかと」
何せ、あれだけ見せつけてくれたのである。ショックついでに前世の記憶を取り戻して、千年の恋も瞬間冷凍された。
都合のいい女は本日で卒業。
今後は、余暇を楽しむとしましょう。
吹っ切れた悪妃は身辺整理を終えると早々に城を出て行ってしまった。
「離縁状の印が乾く前に、王太子殿下から花束が届きました」〜五年間「置物」と呼ばれた侯爵夫人、夫が青ざめるのは王家との縁が切れてからでした〜
まさき
恋愛
侯爵夫人として過ごした五年間、夫に名前を呼ばれたことが一度もなかった。
愛人を夜会に連れてきた翌朝、私は離縁状を置いて屋敷を出た。
夫は「すぐ戻る」と思っていたらしい。
でも届いたのは、王太子殿下からの白薔薇だった。
「五年、待ちすぎました。今度こそ私の隣に」
幼馴染の殿下は、いつも私を「アメリア」と呼んでくれた。
ただそれだけで、五年分の何かが、ほどけていった。
夫が全てを失うのはこれからの話。
私が本当の笑顔を取り戻すのも、これからの話。
捨てられた王妃は情熱王子に攫われて
きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。
貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?
猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。
疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り――
ざまあ系の物語です。
尽くしてきた婚約者に裏切られたので、婚約を解消しました〜彼が愛に気づいたのは、すべてを失ったあとでした〜
ともどーも
恋愛
「今回で最後だ。誓うよ」
これは二度目の『結婚式キャンセル』の時に言われた言葉。
四年間、愛する婚約者ディートリッヒのため尽くし続けてきたイリス。
だがディートリッヒは、イリスの献身を当然のものとし、やがて初恋の令嬢エレノアを優先するようになる。
裏切り、誤解、そして理不尽な糾弾。
心も身体も限界を迎えた夜、イリスは静かに決意した。
──もう、終わらせよう。
ディートリッヒが「脅しのつもり」で差し出した婚約解消の書類を、イリスは本当に提出してしまう。
すべてを失ってから、ようやく自分の愛に気づいたディートリッヒ。
しかしもう、イリスは振り返らない。
まだ完結まで執筆が終わっていません。
20話以降は不定期更新になります。
設定はゆるいです。
冷酷夫からの離婚宣告を受けたので、次は愛してくれる夫を探そうと思います。
待鳥園子
恋愛
「……それでは、クラウディア。君とはあと、三ヶ月で離縁しようと思う」
一年前に結婚した夫ジャレッドからの言葉に、私はまったく驚かなかった。
彼はずっと半分しか貴族の血を持たぬ私に対し冷たく、いつかは離婚するだろうと思っていたからだ。
それでは、離婚までに新しい夫を見付けねばとやって来た夜会に、夫ジャレッドが居て!?
姉の方を所望していたと言った婚約者に、突然連れ帰られて気づいたら溺愛されています
もちもちほっぺ
恋愛
侯爵家の地下室に住み、姉の食べかけで飢えをしのぎ、婚約者には初対面で「老婆のようだ、姉の方がよかった」と言われた令嬢リリアーナ。
ある日その婚約者に問答無用で公爵邸に連れ帰られた。
庭の恵みを口にするたびに肌が輝き、髪が艶めき、体に力が満ちていく。首に巻いたお守りの秘密、十数年続く国の不作の真実、虐げられ続けた令嬢の出生の謎。
全てが明かされる時、地下室令嬢の逆転劇が始まる。
なお婚約者は今日も庭でグルメリポートを最後まで聞いている。