「私に愛まで望むとは、強欲な女め」と罵られたレオノール妃の白い結婚

きぬがやあきら

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人質と引き換えに

 鏡は騎士たちだけを映したまま、アルヴァロの声だけが要求を告げる。

「ただし共は連れず、お前一人で来るのだ。期限は3日後の日没までだ」

「ノンストップで大人が5日かける道のりを3日でって、随分と横暴ね」

 何て言い草なの。それにとうとう呼び捨てにしやがった、この男。

 レオノールは胸中で毒づいた。

「それは交渉に時間をかけすぎた王太子の責任さ。駆けつけても時すでに遅く、衰弱死した後では忍びないだろう」

 アルヴァロの嘲笑めいた声音に、レオノールは強く拳を握りしめた。

「わかったわよ。迎えに行って、アンタもお国の連中もブッ飛ばせばいいんでしょ!」

 レオノールは即答する。

「駄目だ、レオノール! 挑発に乗るな」

「クラウディオ様、悩んでいる時間がないわ。すぐにでも出発しないと」

 咄嗟にクラウディオが遮った。

 アルヴァロだか、アルヴァロだった生き物か何かに、理屈に合わない交渉を持ち掛けられた。

 しかし、彼の存在も目的も、吟味する時間がない。

「……少しでも急ぐことだな。約束の時間に間に合わなければ、彼らの命はない。そなたの到着を心待ちにしているぞ、レオノール」

 再びパチンと指の鳴る音が響くと、フッと映像が掻き消えて鏡面は元に戻った。

 蝋燭の灯りを写すだけの、無機質な反射面に戻る。

 室内は静まり返った。

 窓を叩く音も、床を這う影もない。

 嵐が去ったことを示すように、蝋燭の火が静かに揺れる。

「アイツ、言いたいことだけ言って……!」

「待つんだレオノール。あいつの目的は君だ」

 唸り、踵を返したレオノールの腕をクラウディオが取る。

 確かにアルヴァロの発言に思うところはあった。

 人質をとってレオノールを誘き出そうとするのだから、何がしかの狙いがあるのだろう。

 だが、行かない選択肢はない。

 囚われている騎士たちは憔悴しきっていた。

 負傷している者もいる。

「そうです。だから尚更、私自身が行くしかない」

 レオノールはうなずいた。それで話は終わりだと言うように、掴まれた腕を払って歩き出す。

「レオノール!」

 クラウディオの大きな手が、もう一度、今度は腕を捕まえ損ねて、肩を抱いた。

 その必死さに、足を止める。

「クラウディオ様が、私を庇って交渉してくれていたのは嬉しいです。でも、みんなの命がかかってるんだから止めてください。私をどうするつもりか知りませんけど、私は負けません。みんなを解放してもらったら、あのインチキ男をぶっ飛ばして帰ってきます。ノーキエの連中がとやかく言ったらそいつらも殴ります。クラウディオ様はその後の心配をしておいてください」

 軽く殴っても普通の人間なら粉砕骨折だ。

 魔物を最短で倒す前提で戦いを続けてきたレオノールには、手加減が難しい。

 死人を出すつもりはないが、大怪我を負わせる可能性は高い。

 肩に回された腕をポンポンと叩いて解放を促すが、クラウディオは動かない。

 クラウディオは眉根を寄せ、悲壮な顔をした。

「俺がお前に隠していた情報のせいで、ノーキエへの対応が遅れたことについては謝罪しよう。だが、だからといって一人で行かせるわけにはいかない」
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