「私に愛まで望むとは、強欲な女め」と罵られたレオノール妃の白い結婚

きぬがやあきら

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クラウディオの決断

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「ならば決まりだ、誓約を交わそう。まずは俺からサインする。紙とペンをこちらへ」

 クラウディオは目的を見失い焦っているのか、一呼吸とおかずにオーグレイルに要求を突きつける。

「いいや、先にレオノールからだ。お前との決闘に手出しをされては困るからな。さあ、レオノール」

 一方でオーグレイルは冷静だ。

 グッと反駁を堪えて黙していたレオノールに対して、新たな誓約書を差し出した。

 レオノールの沈黙を、肯定と捉えている。

 再び提示された誓約書には、ご丁寧にも決闘に関する条項が書き加えられていた。

 サインをすれば、オーグレイルとクラウディオの戦闘に加勢できなくなる。

(……明らかに、間違っている)

 愚かな選択だと確信するほどに、指先が震えた。

 でも、レオノールはペンを取った。

 上空ではクラウディオが冷めた瞳でレオノールを見下ろしている。

 あれほど強く啖呵を切ったのに、感情の揺れなど感じさせない冷たいブルーの相貌。

 その目は言外に語っていた。

 ”いいからサインをしろ”

「……わかりましたよ」

 レオノールは諦めたように呟くともう一度、目を戻して誓約書に向き合う。

 誓約書には今後、レオノールの運命を180度変え、縛り付けるための文言が羅列されている。

 レオノールは決闘に介入できず、クラウディオがオーグレイルとの決闘に敗れた瞬間、レオノールはオーグレイルの妻となる。

 それ以降、レオノールとクラウディオは間接・直接を問わず一切の接触を禁ずる。

 決闘を妨げる全ての行為は無効となる。

 オーグレイルはクラウディオの命を奪ってはならない。

 決着の後オーグレイルはクラウディオとエルグランへ一切干渉しない。

 署名欄は右下の空白だ。

 左側には既にオーグレイルの名が記されていた。

 全身がやめろと訴えるのに、僅かな閃きがもたらす何かを捨てきれない。

 怖い。……怖い。

 こんな形で全てを失ってしまうなんて。

 どうかしてる。

 完全に常軌を逸した行為に薄笑いさえ浮かんできたが、レオノールは直感を信じて名前を書き込んだ。

(ええい、ままよ!)

 書き切って、キッとオーグレイルを睨みつける。

「これで、いいわね?」

「ああ。次は……クラウディオ、貴様の番だ」

 オーグレイルが掌を上に向けて、手招きするように手首を捻ると、レオノールが使ったばかりの紙とペンが巻き上がる。

 檻の中にいるクラウディオの手元まで、紙とペンは運ばれた。

 文章にサッと目を走らせると、クラウディオは何の躊躇いもなく、名前を書き込んだ。 

 オーグレイルとの決闘に勝利した場合、クラウディオは生涯レオノールに会わないことを約束する。

「フハハハハハハッ!! 確かに手に入れたぞ。勇者レオノールと、王太子クラウディオの署名を! これでもう……後戻りはできぬ。さあ、面倒はさっさと終わらせよう」

 クラウディオの署名と同時に、紙片が眩い光を放ち、クラウディオの身体を包み込む。

 紙片は舞うようにオーグレイルの手元に戻り、握り締めると光は塵となって霧散した。

 パキンと硝子の割れるような音が鳴り、クラウディオを捕らえていた檻はみる間に地上に降ろされる。

 錠前の壊れた柵を持ち上げ、クラウディオがようやく檻の外に出た。

「レオノール、剣を」

 ジャリ……と大地を踏みしめ、クラウディオはレオノールのほうを向く。

 レオノールは迷った。剣を渡してもよいものか。

「クラウディオは丸腰だ。剣の貸与は認めよう」

 レオノールが迷っていると、オーグレイルは横柄に腕組みしたまま顎をしゃくった。

 剣の受け渡しは協力に該当しないのか……。

 レオノールは小さく息を吐き、ソードベルトから剣を、鞘ごと外す。

 ……ここからクラウディオは、どう戦おうとしているのか。

「クラウディオ様……。ご武運を」

 差し出されたクラウディオの左手に、鞘入りの剣を手渡す。

 するとその剣を受け取ると思われた瞬間、クラウディオの左手がガシッとレオノールの手首を掴んだ。
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